「年をとってからハイヒールが履けなくなった」という声を耳にします。かくいう私自身もその一人です。若いころは9cmのピンヒールを履いて闊歩していたのに、なぜ履けなくなったのでしょう?
「体重が増えたから高いヒールは痛くて履けない」「外反母趾になったから、きつい靴は無理」そんな声を耳にします。その言葉の裏には、「年をとったからしかたがない」という気持ちが感じられます。では、若い人は足が痛くならないのでしょうか?足が痛くならないからと、毎日細い靴やハイヒールを履く生活は、あとで問題が起きてこないのでしょうか?
モートン病の主な症状
どこかにぶつけたり、怪我をしたわけでもないのに、足の先、指の付け根あたりが痛い、歩いていて急に足の裏や足首に激痛が走るなどしたら、モートン病かもしれません。モートン病は年齢に関係なく、最近では若い人にも増えている足の病なのです。
モートン病の患部で一番多いのは中指と人差し指の間、指の間ではなく、2本の指の先から付け根に引いた線が交差するあたりです。また、この場所だけとは限らず、人差し指と中指の間の付け根だったり、薬指と小指の間の付け根だったりすることもあり、まれには足首からひざのあたりまで痛みが出ることもあります。
自覚症状としては、痺れる、するどい痛みがある、焼けつくような痛みがあるなど個人によって様々で、痛みを感じる部位も指先から足裏、足首からひざあたりまでこちらもさまざまです。ひどい場合には、歩行困難になる人もいます。
モートン病の発症は大きく分けて2通り、瘤が出来る場合と出来ない場合があります。
症状の特徴
足の裏が痛くなる、足指が痺れる症状だけでは、他の足の病気の可能性もあります。モートン病の特徴といえるものに、走っているときに突然痛みが発生する、靴を脱ぐと痛みが引く、といったことがあげられます。
また、ピリピリした神経の痛み以外に、指の感覚が鈍くなったように感じる感覚障害が怒ることがあります。
瘤(神経腫)ができたために痛む場合
モートン病は、神経症状です。足の裏に走っている神経が何らかの刺激を受けることによって神経腫と呼ばれる瘤(腫瘍)ができてしまうことがあります。この瘤が圧迫されたりすると、瘤は神経のそばにあるため、まわりの神経にさわり、痛みを感じます。
この瘤は多くの場合、ゆっくりと大きくなり、長い間あまり大きさがかわらないものです。瘤を押したときだけに瘤(ふくらんだ部分)が圧迫されて痛む場合と、瘤を押したときにそばにある神経にそって電気が走るような痛みを感じる場合があります。
瘤がなくても痛む場合
神経腫が出来ていなくても、幅が狭すぎる靴やかかとの高すぎる靴を日常的に履き続けることで足の裏の彎曲して足の裏の”アーチ”が圧迫されて形がくずれてしまうことがあります。すると、中足骨の幅が狭まり、足裏のクッション役を果たしている滑液包という部分が刺激されて炎症を起こして痛みが発生します。
また、横のアーチの筋力が弱まり形が歪むことで骨が神経を圧迫するようになり、痛みが発生することもあります。この病気には特に横のアーチと、内側の縦アーチが関連しています。
その昔日本が戦争をしたころ、偏平足(へんぺいそく)の人は歩行困難として兵役免除となったことをご存知でしょうか。偏平足とは、一般的に土踏まずと呼ばれる普通ある足のうらの凹んだ部分(内側縦アーチ)がなく、平らになっている状態です。
また、外反母趾などで足幅が広くなり、土踏まずの凹みが減り平べったくなる開帳足というのも最近増えてきています。これも、足裏の横アーチが関係しています。
偏平足とは
偏平足は足の裏の土踏まず(内側縦アーチ部分)がない状態です。本来は8歳くらいから土踏まずが形成されるのですが、遺伝的な要因から、土踏まずが形成されずに成長してしまう場合があります。これを、先天性偏平足と言います。
足を骨折したりした場合に骨が歪み、大人になってから偏平足になってしまうこともあります。激しく足を使うスポーツをする選手などにも見られます。
偏平足だからといって必ず痛くなるわけではないのですが、衝撃を吸収しづらくなってしまうため飛んだり走ったりという動きが苦手になることがあります。また、踵の骨とまわりの足の骨格とのバランスが悪くなっている外反偏平足の場合には、歩行障害を伴います。うまく走ることができない場合が多いのです。
開帳足とは
モートン病と同じく、足裏のアーチ、特に横アーチが崩れて起こる神経の障害です。ただの幅広な足ではなく、横のアーチが崩れてしまい、足の甲の部分が平らに広がってしまった状態です。外反母趾の人はほとんどが開帳足だと言われており、開帳足は外反母趾の危険のサインでもあります。これには筋力が主に関係しており、体重がかかった状態で大きく横に広がる足の甲が、座って体重がかからなくなると細くなる、と言った場合はモートン病ではなく開帳足の可能性が高いです。
開帳足になると、どんな靴を履いても痛みを感じたり、たこや魚の目が治らないという自覚症状があります。早めに発見すれば、治療することができますし、開帳足はモートン病の原因のひとつと考えられているので、このサインは見逃したくないものです。
これほど、土踏まずや、それを形成する縦(内側)と横のアーチは大切なものなのです。
モートン病の原因
実は、なぜモートン病が発症するかは、はっきりとした原因がわかっていないのが現状です。ただ、神経が刺激されて痛みを覚えていることはわかっています。
発症の原因はわかっていませんが、痛みをひきおこす原因を細かく見てみましょう。
足裏の横アーチが重要
ハイヒールを履いた状態を想い浮かべてみてください。足の指が曲がって、背伸びやつま先立ちしたときのような形になっていますね。
いくらヒールがあるとはいっても、つま先立ちになったところに自分の体重がかかっています。この状態は、足指の付け根の神経を圧迫している状態になってしまっているのです。
ハイヒールを常時履いたり中腰の姿勢を長時間続けると
足裏の横のアーチが歪んだ状態を強制的に続けたことになるのです。靴のヒールが細ければ細いほど、踵のささえは不安定になります。そのことがさらに、足指の付け根の圧迫を複雑なものにし、血流も悪くし、神経を痺れさせるのです。
足裏の横のアーチはつま先立ちしたときに地面に接地している踵よりの部分です。ここは、靭帯が筋肉に覆われていますが、この筋力が弱くなったり、靭帯が伸びすぎてしまったりしたときに、横アーチは崩れます。そして、このままの状態がつづくと開帳足となったり、モートン病となるのです。
このほか、硬い地面でのスポーツを継続した場合に、足指の神経が刺激され、それが繰り返されることで発症することもあります。
幅の狭い靴を履き続けた
幅の狭い靴をはくと、足が横にぎゅっと狭められますよね。足の指はくっついてしまい、ひどいときは小指と薬指が重なってしまったりすることもあります。こういったとき、指の付け根の、特に中指と薬指の間にある指神経が筋肉や骨に圧迫されて痛みが生じることもあります。
縦のアーチも重要
足の縦のアーチは2つあります。小指と薬指の間から踵へのアーチ(外側縦アーチ)と、人差し指と中指の間から踵へのアーチ(内側縦アーチ)です。遠足などで歩き過ぎたときに、土ふまずの内側が痛くなった経験はありませんか?アーチは靭帯であり、筋肉で支えられています。足の裏の靭帯は筋肉と一緒に伸びたり縮んだりすることで歩いたり走ったりするときのバネになっているのです。この2本の縦アーチのうち、内側の縦アーチがモートン病と深くかかわっています。
内側縦アーチ(土踏まず)の能力が低下すると、横アーチの力が低下し、それがモートン病を引き起こすというのが海外の足病医学の常識となっています。
土踏まず(内側縦アーチ)が弱るのはどんな時?
踵の骨が内側へ異常に倒れ込んでしまう足部の過回内(かかいない)という状態が、土踏まずの能力を低下させます。踵が内側へ倒れ込むことで、足の前の部分も内側へ倒れ込みます。その内側へ倒れようとする足の力を、親指は抑えようとします。親指は内側へのねじれに抵抗し足の外側へ向かい、足は内側へ向かいますから、足の横をわたる靭帯と腱が引っ張られてしまい、横アーチ力を保つ筋力が低下してしまいます。
また、普段歩く時でも、回内(かいない)動作をあまり使わず、ぺたぺたとペンギンのような歩き方をしていると、内側縦アーチの筋力が低下しひいては横アーチの力も衰えてしまうことがあります。
過回内(かかいない)とは
普段、歩いたり走ったりするときに、わたしたちの足は、足首が内側へ旋回しようする力が働いています。この働きは自然なもので、回内(かいない)と呼ばれます。
回内という動きは、踵が地面に接地した時点で始まり、内側縦アーチ(土踏まず)を低下させることで足部の構造に緩みをくわえ、踵からつま先までの距離を長くするために起きます。こうすることで、地面についた時の衝撃を和らげ、足への負担を軽くするためで、これは人として正常な動きなのです。しかし、何らかの理由で緩すぎになったり、硬くなってしまったりというような過剰な回内の動きとなることを、過回内(過剰回内)といいます。過回内自体は病気ではないのですが、土踏まずを低下や、外反母趾、足趾の変形などを引き起こし、モートン病をも引き起こす一因にもなりかねないのです。
過回内が起きるのは
ランニング中にも起きやすいのですが、基本的には歩き方の問題です。靴底の減り方をみたとき、全体の減り方よりも内側ばかり減っている場合、過回内を起こす歩き方をしている可能性があります。
モートン病の治療法
段階によっていくつかの治療法があります。順に追ってみましょう。
まず、サインを見逃さない
モートン病は、早く気付けば治療が可能なため、早期発見が重要です。そのサインを上げてみましょう。
サイン1:開帳足初期の症状
開帳足は、モートン病の原因の1つとも言われています。また、外反母趾の人は100%開帳足です。開帳足の初期の症状に気づくことも、モートン病の早期発見につながります。開帳足の初期症状チェックポイントは、以下の通りです。
- 足の甲が広くなった
- 立っている時(足先に体重がかかっている時)と、椅子に座っているとき(足先に体重がかかっていないとき)の、甲幅の差が激しい
- 足がだるく疲れやすくなった
- 足裏の凹み(アーチ)が少なくなった
- たこや魚の目が出来るようになり、なかなか治らない
- 一日中立ち仕事だが運動量は少ない
- 足の形が変わった気がする、今まで合っていたはずの靴が合わなくなった
などです。
サイン2:歩き方と靴底
歩き方はどうでしょう。ペタペタとペンギンのような歩き方をしていませんか?靴底を見てみたとき、靴全体の減り方より内側が減っているような場合、歩き方で過剰回内を引き起こしている場合もあります。
健康のためにウォーキングやランニングを始めた方も、過回内になってしまうと、足の健康を損ねかねないのです。
サイン3:自覚症状
- ヒールのある靴を履くと痛む
- 足の前のほうに体重をかけると痛む
- 靴を履くと足先が痺れる
- 開帳足の初期症状がある
などです。
保存的療法
安静療法
痛い部分を安静にする療法です。ヒール靴を履くのをやめ、足にあった靴をはくことで、安静を図ります。テーピングをすることもあります。注意してほしいのは、幅広靴で楽になるからといって安直に幅広靴にしてしまうと開帳足の場合、悪化する恐れがあります。まずは整形外科など医師に相談することをお勧めします。
幅の狭い、あるいは小さな靴はモートン病には禁忌ですが、広すぎるのもダメな場合があるということです。足に合った靴を探すのは大変ですが、シューフィッターなどに相談するのもひとつの手です。
服薬
痛みがひどい場合は、病院へいって相談すると、薬を処方してくれます。一時的に痛みを止めるためのものですので、治療は別に行います。薬で治るものではありません。
足底挿板療法(矯正用インソール)
低下した横アーチを支えてくれるインソールを使用する療法です。矯正用インソールを個人の状態に合わせて作ってもらい、装着することで症状をやわらげます。
運動療法
ある程度症状が改善し、痛みがなくなったら、いわゆる足指の横アーチと縦アーチの力の低下をもとにもどすための筋トレ(ストレッチに近い)のようなことをします。循環をよくし、低下を防ぎます。
手術
保存的療法で様子をみても改善が見られない場合には、手術をする場合もあります。レントゲンやMRIなどで状態を把握してから、腫瘍がある場合はその腫瘍の摘出手術や、神経を剥離させる手術などがあります。いずれも、整形外科医に相談して決めることとなります。
日頃から気をつけられること
日常生活で気をつけられることも沢山あります。いくつかあげておきますね。でも、前述した症状がひとつでも思い当たる場合は、自己判断で済まさずに整形外科へ相談することをお勧めします。
正しい歩き方を知りましょう
ぺたぺた歩きはやめましょう。足指を地面に接地してけり上げる動きをしないと、足指の付け根の筋肉が弱り、足裏の横アーチの靭帯を守れなくなってしまいます。また、きちんとした動作(回内)が行われないと、足そのものを傷めることにもなりかねません。
足趾(そくし、足の指)、前足部、踵の3点が接地するのが正しい歩き方です。若い人でも多いのは、足指が浮いてしまって、前足部と踵だけの2点しか接地していない歩き方です。前足部ばかりにタコが出来やすい人は歩き方を見直してみるとよいでしょう。
また、間違った歩き方が癖づいてしまっていて、疾患まではいかないものの3点接地での正しい歩き方が難しい場合は、テーピングするなどして足裏のバランスを整えて踏ん張れる状態にしてから、正しい歩き方を身につけるとよいでしょう。足裏の状態の相談は、整形外科やスポーツ診療科などで乗ってもらえます。また、3本指歩行用のテーピング靴下なども市販されていますので、使ってみるのもよいでしょう。
足にあった靴を履きましょう
開帳足の初期など、足が横に広がってくると、ついつい幅の広い靴を選びたくなりますね。でも、これでは開帳足を悪化させてしまう恐れがあります。靴はアンクルベルトがあるものや、深く履けるものなど、足をしっかり包みこみ、固定できるものを選ぶとよいでしょう。
ハイヒールを履きたいときに履けるように、普段は足に優しい靴を選びたいですね。
一日の終わりには
足裏をマッサージし、緊張した靭帯やアーチをほぐして柔らかくしてあげることも大切です。お風呂で優しくマッサージするなど、足裏ケアをしましょう。
まとめ
わたしはある時から、ヒールのある靴をはいていると足指の付け根が痺れて靴を履いていられなくなりました。ローヒールに変えてみてもだめでした。でも、救ってくれたものがあります!コンフォートシューズです。最近のコンフォートシューズには踵の高さが5cmあるものも多く、ファッション性をそこなわないお洒落な物もでていますし、また、足裏のアーチをサポートするためのインソールも沢山販売されていますので、モートン病になる前の状態であれば、日頃からそういったケアを心がけることも大切だと思います。
- 足先の細い靴は履かない
- 足にあった靴を履く
- 1日の終わりに足裏マッサージをする
踵の角質ケアはしていても、案外気づかれない足先の病は、毎日の習慣を見直すことで予防出来るものが多くあります。
将来、靴を履くのが辛い、歩くのが辛いという状態にならないためにも、そして、既に痛いけれど年齢のせいだとあきらめて我慢している方も、美しく健康な足元を諦めないためにも参考になさってくださいね。