皆さんチェーン・ストークス呼吸という症状をご存じでしょうか?実は、これは呼吸の異常の一つです。呼吸の異常というと眠っているときに呼吸が数秒間停止する睡眠時無呼吸症候群が有名ですね。
チェーン・ストークス呼吸は、その時に生じることもある呼吸異常の一種でもあるんです。(寝ている間に限らず起きている間にも観察されます。)
そしてチェーン・ストークス呼吸の症状が出るのは睡眠時無呼吸症候群の時だけではありません。今回は異常な呼吸パターンの一つチェーン・ストークス呼吸について紹介していきます。
この記事の目次
チェーン・ストークス呼吸とは
チェーン・ストークス呼吸は呼吸リズムの異常の1つで周期的な異常です。症状の発見者であるイギリス人医師ジョン・チェーンとアイルランド人医師スウィリアム・トークにちなんでチェーン・ストーク呼吸と名前が付けられました。
正常な呼吸パターン、類似するといわれる異常呼吸パターンのビオー呼吸などと比較しつつ、チェーン・ストークス呼吸について説明していきます。
チェーン・ストークス呼吸の症状
チェーン・ストークス呼吸とは周期的な呼吸リズムの異常です。この呼吸では一時的な呼吸停止の後、浅く小さな呼吸が始まり、しだいに一回換気量が増加し深く大きな呼吸になり、再びゆっくりと一回換気量が減少し、一時的な呼吸停止に戻るという規則的な周期が繰り返されます。
そのため交代性無呼吸とも呼ばれます。通常チェーン・ストークス呼吸の1周期は45秒から2分程度と言われています。一回換気量という用語は呼吸の深さを表すめやすで、患者が正常な呼吸パターンの安静呼吸をしているときに1度の呼吸により出入りする空気量のことを言います。では正常な呼吸パターンとはどんなものなのでしょうか。
正常な呼吸パターン
正式な呼吸パターンは呼吸の速さが1分間に12回から20回程度で、換気の70パーセントは横隔膜によります。胸郭の運動に左右差はなく、胸部と上腹部の動きは連動します。
吸気は横隔膜と肋間筋の収縮であり、呼気時は筋収縮を伴いません。吸気と呼気の割合は呼気の方がやや多く1対1.5(または2)です。また吸気の終末には小休止が入ります。
チェーン・ストークス呼吸と類似する呼吸
チェーン・ストークス呼吸に関連してよく比較されるのがビオー呼吸とクスマウル呼吸です。それぞれの共通点・相違点をみていきましょう。
チェーン・ストークス呼吸とビオー呼吸
ビオー呼吸は不規則で休止期のある呼吸状態をいいます。すなわち呼吸が一定量での繰り返しではなく、深かったり浅かったり、また止まったりし、呼吸が休止する時間も10秒から30秒とまばらです。
共通点
ビオー呼吸はチェーン・ストークス呼吸同様に呼吸リズムの異常になります。中枢性疾患によりビオー呼吸の症状が見られますが、これはチェーン・ストークス呼吸でも同じで中枢性疾患が原因でチェーン・ストークス呼吸が見られることがあります。さらに2つの呼吸では、呼吸が停止する無呼吸がみられます。
ちなみに発見者が名前の由来であることもチェーン・ストークス呼吸と同様です。ビオー呼吸はチェーン・ストーク呼吸で説明ができない呼吸パターンとしてフランス人医師カミーユ・ビオーにより報告されました。
相違点
ビオー呼吸は不規則的な異常に分類されます。ビオー呼吸は換気状態から無換気状態へシフトする際の呼吸のリズム・回数・深さ全てが不規則になります。すなわちビオー呼吸ではチェーン・ストークス呼吸のような呼吸のリズムの周期的変化はありません。
ビオー呼吸では重度の場合は患者に意識させないと呼吸が止まってしまう場合もあります。基本的にビオー呼吸の症状は一過性のものになります。
チェーン・ストークス呼吸の症状が現れるのは、中枢性疾患だけではなくその他中毒、各種疾患の末期、うっ血性心不全、慢性腎不全(尿毒症)などが考えられます。
チェーン・ストークス呼吸とクスマウル呼吸
クスマウル呼吸は呼吸リズムと回数の異常です。この状態では呼吸の頻度が減少しますが1回の呼吸が異常に深くなります。
呼吸は規則的ですが、吐く息に比べ吸う息が長く、呼吸の際に雑音を伴うといわれます。クスマウルの大呼吸とも呼ばれます。
共通点
まずチェーン・ストークス呼吸とクスマウル呼吸は呼吸リズムの異常という点が同じです。次に2つの呼吸には周期的・規則的があります。また2つの呼吸の症状は、慢性腎不全(尿毒症)時に現れる可能性があります。
ちなみに発見者が名前の由来であることもチェーン・ストークス呼吸と同様です。クスマウル呼吸はドイツ人の医師アドルフ・クスマウルにより報告されました。
相違点
クスマウル呼吸は尿毒症のほか糖尿病性昏睡時、代謝性疾患(代謝性アシドーシス)などで症状が観察されます。チェーン・ストークス呼吸においては尿毒症のほか中枢性疾患、中毒、各種疾患の末期、うっ血性心不全などが認められます。
チェーン・ストークス呼吸の原因は?
チェーン・ストークス呼吸の症状が現れるのは、中枢神経疾患、アルコール中毒、モルヒネ中毒などの中毒、動脈血循環の不良、低酸素血症、脳血管障害、うっ血性心不全、慢性心不全、慢性腎不全(尿毒症)、各種疾患の末期などの場合です。
疾患の末期の例としては重度の肝臓疾患や腎臓疾患などが挙げられます。欠乏、失神、瀕死時などに症状が出ることもあります。また乳幼児・高齢者の睡眠中や健康な人でも高度な山地で低酸素状態になった時等にチェーン・ストークス呼吸が観察されることもあります。
睡眠時無呼吸症候群でのチェーン・ストークス呼吸
睡眠時に無呼吸の状態を繰り返すのが睡眠時無呼吸症候群です。睡眠時無呼吸症候群は閉塞性と中枢性の大きく2タイプに分けられ、チェーン・ストークス呼吸はその中枢性無呼吸パターンでよく観察されます。またその他の睡眠呼吸障害では混合性睡眠や肥満低換気症候群などがあります。
閉塞性と中枢性
閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、眠っているときに上気道(鼻・口)が何らかの原因で塞がってしまい気流が停止してしまう、すなわち呼吸ができない状態が起きます。一般的によく知られる睡眠障害は閉塞型睡眠障害で患者は男性の割合が多くいびきをかくことが特徴的です。
一方中枢性睡眠時無呼吸症候群では、上気道の異常ではなく呼吸コントロールを司る中枢に問題が生じ、眠っているときに脳から呼吸筋への指令が一時的になくなり、呼吸運動そのものが停止してしまう状態になります。脳の呼吸中枢は、正常では血液中の炭酸ガス分圧によって呼吸がコントロールされます。
慢性心不全患者に多くこの症状がみられ、血ガス(血液中に溶け込んでいる気体)の検査により次のようなことが分かります。中枢性睡眠時無呼吸症候群が観察された場合、患者は覚醒時でも炭酸ガス分圧に対する脳の感受性が高く、過換気の状態になります。
しかし睡眠中はこの感受性が少し回復するため、睡眠中は無呼吸が起き、炭酸ガスを溜めなければ呼吸が始まらない呼吸異常(チェーン・ストーク呼吸)が生じます。中枢型睡眠障害では基本的にはいびきは生じません。
原因
閉塞性睡眠時無呼吸症候群を引き起こす原因として考えられる要素は主に体型や遺伝です。通常肥満の人はこの症状になりやすく、首周りの脂肪・舌周りの脂肪により舌根が沈下し気道を閉塞しやすくなっています。特に睡眠時仰向けの状態で症状がでます。
また、顎が小さく、生まれつき気道が狭い人が多いとされる東アジアの人(日本を含む)に症状が出やすいと考えられています。よって肥満に限らずもともと気道自体が狭い場合にも閉塞性睡眠時無呼吸症候群になりやすいと言えます。
そして中枢性睡眠時無呼吸症候群は呼吸をコントロールする脳の機能異常によって引き起こされると考えられます。この症状が起こる仕組みは明白でない部分が多いのが現状となります。一般的に心不全(心機能低下)や脳卒中などの心血管系の疾患の結果として症状が現れると考えられています。
特徴
睡眠時無呼吸症候群に深く関連しているのが循環器の疾患です。睡眠時無呼吸症候群の症状を持つ患者は循環器病を合併しやすく、2つの症状が合併することで死亡の危険性も高まります。循環障害は高血圧症、心不全、脳卒中、不整脈、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)などが挙げられます。
睡眠時無呼吸症候群では呼吸不全になった時のように体は酸素の吸入を求めます。心機能は十分な酸素を供給するために活動量を上げます。そうすると当然血圧も上がることになります。こうして心臓への負担が蓄積していくことになります。
また睡眠中交感神経の緊張状態が続くため体が休まらず循環器系疾患を併発しやすいのです。睡眠構築が浅くなり日中の事故などにもつながりやすくなります。睡眠構築とは睡眠用語で一夜の睡眠の総合的な特徴をいいます。
そのなかでも心不全患者にチェーン・ストークス呼吸が多くみられます。睡眠時だけでなく起きている時にもチェーン・ストークス呼吸がみられます。この異常呼吸パターンが多く観察されるほど慢性心不全の予後は悪くなることが知られています。予後とは医学上の見込みや見通しのことを言います。
治療法
まず閉塞性睡眠時無呼吸症候群の場合には生活習慣を見直すことが第一となります。症状が軽度の場合にはこれだけで症状の改善が見込めます。つまり個人差はありますが生活習慣病の一つのようなイメージでも捉えることができます。
具体的には減量や禁酒、睡眠薬の禁止、寝る姿勢を横向きにする等が挙げられます。それでも改善がみられない場合にはマウスピース治療や気道の空気に圧をかけるCPAP治療、耳鼻科的手術が必要となります。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の場合には、原因とされる心不全(心機能低下)や脳卒中などの心血管系の疾患の治療を行うことで症状の改善をしていきます。そして睡眠時の呼吸状態や低酸素血症を改善する目的として酸素療法(酸素吸入療法)やCPAP治療などを行います。
睡眠時無呼吸症候群で現れるチェーン・ストークス呼吸の治療は以上のとおりです。これから全体的にチェーン・ストークス呼吸の症状があらわれたときに提案される治療方法を見ていきたいと思います。睡眠時無呼吸症候群で用いられる方法もありますが、その他のものも含め、もう少し詳しく方法を紹介します。
チェーン・ストークス呼吸の治療方法は?
これまでにチェーン・ストークス呼吸は中毒や心不全などの各疾患がある場合に症状がでると説明してきました。すなわち第一に根本原因であるそれらの治療を行うのが優先されます。
しかしそれらを十分に行っても症状が観察される場合にはCPAP療法、BIPAP療法、酸素の投与、薬剤の服用などの治療を行うことが考えられます。
CPAP療法
CPAPはシーパップと呼ばれ日本語にすると持続陽圧呼吸治療法となります。専用の機械で空気に圧をかけ、それを鼻から送り込むことで気道を広げます。これは非侵襲的陽圧換気という方式になります。すなわち気管の切開や気管に直接管の挿入をすることなく、マスクを使用して気管を補助する方式です。
陽圧とは周りより高い圧力状態のことを指し、反対に陰圧は周りとより低い圧力状態を表します。鼻に装着したマスクから一定の陽圧を加えた空気を送り込むため、鼻マスク法とも呼ばれることがあります。
難治性心不全患者でチェーン・ストークス呼吸の症状が出ている場合に呼吸そのものの治療を行うことができる利点があります。難治性は発症事例が少なく原因が定かではないという意味です。しかし、マイナス点としてCPAP療法は心房細動を併発した患者に用いられた場合に心拍出量が減少することが挙げられます。
BIPAP療法
BIPAPはバイパップと呼ばれCPAP同様マスクを用いた非侵襲的陽圧換気方式の治療です。CPAPとの違いはCPAPは陽圧のみでしたがBIPAPは呼吸の自発呼吸に同調させて陽圧と陰圧の2種類の空気を送ることが可能です。
陽圧(高めの空気圧)を出して肺を広げやすくすし、息を吸うことを補助し、陰圧(低めの空気圧)を出して肺が収縮しやすくし息を吐くことを補助します。
BIPAP療法はCPAP療法と比較して認容性が高いと言われています。しかし一方で血行動態や予後に与える影響差はないともされています。
酸素の投与
酸素の投与により低酸素血症で乱された交感神経活動の亢進(緊張状態)を緩和させ、同時に周期性呼吸の改善を促します。
薬剤
テオフィリンの内服が有効であるとされています。テオフィリンは気管支の緊張を緩和する物質の発生増加を促すことで気管支空内を広げる(気管支拡張)作用を示し、呼吸器系疾患の治療に用いられます。
しかし問題点として不整脈の頻度の増すという副作用があり、ときには吐き気などの過剰反応がでることがあるので注意が必要であるとされています。
原因疾患により患者への薬剤治療は様々です。そのため薬物治療が行われた際には、副作用のチェックのために末梢血液、肝機能、腎機能の検査や薬物血中濃度などの検査を行われます。
チェーン・ストークス呼吸は何科で診察を受けるか?
チェーン・ストークス呼吸はそれ単体ではなく様々な疾患に伴う異常呼吸の症状です。そのため原因となる疾患を突き止めることで治療が進んでいきます。ここではチェーン・ストークス呼吸を伴う代表的な疾患を取り上げます。
多くの疾患の初期症状はめまい、頭痛、高熱などとなりますので「一般内科」で診察を受けた後、そのほかの病院や他の科へ移ることももちろん可能です。問題の早期発見のため躊躇せず医療機関を訪ねましょう。
心不全
「循環器内科」、「心臓血管内科」などを受診することになります。心不全は循環器である心臓の障害です。
脳卒中・脳梗塞
「脳神経外科」、「脳卒中科」、「脳神経内科」などを受診します。
中枢性睡眠時無呼吸症候群
睡眠障害が明白な場合には「呼吸器内科」「精神科」「精神神経科」「心療内科」などにかかるのが良いでしょう。しかし、中枢性睡眠時無呼吸症候群には閉塞性睡眠時無呼吸症候群にみられるようなイビキや肥満等の特徴は基本的にありません。
そのため症状に気付きにくい傾向があります。不眠症や睡眠不足による日中の眠気や倦怠感が続くようならば上の科で診察を受けることをおすすめします。最近では専門の睡眠クリニックもあります。呼吸停止により循環器に負担がかかりその後合併症にかかる可能性を早期の発見で防ぐことができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。チェーン・ストークス呼吸は単独ではなく病気・疾患の症状があるとき、低酸素状態や瀕死時に、またチェーン・ストークス呼吸を伴う中枢性睡眠時無呼吸症候群として出るのが分かりましたね。
実験動物症状観察用語集によるとチェーン・ストークス呼吸は人だけでなく動脈血循環の不良や低酸素症、または死亡の直前にマウスや犬、兎などにも症状が観察できるようです。いずれにせよ、異常事態による呼吸パターンです。この機にぜひ肥満や不眠症がある人は生活習慣を見直しましょう。改善しない場合には、なにか別の原因があるのかもしれません。
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