人が健康でハツラツと生きるバロメーターの一つとして「美味しく食事を摂る」ことがあると思います。
食事が美味しいと感じる理由には、味付けや嗜好品もありますが、まずは身体が健康であることが第一です。特に、食べ物の栄養分を吸収し、消化する胃の健康状態は食欲との関係性が強いものです。
胃は病変などの異常があるときだけでなく、ストレスや過労などの影響を受けやすい臓器でもあります。ストレス社会の近年、胃に異常を感じて検査をしてみると「萎縮性胃炎」と診断される方も多くあるようです。
萎縮性胃炎とはどのような病気なのでしょうか?ここでは、「萎縮性胃炎」の原因や症状、検査方法、治療方法などをご紹介します。
また萎縮性胃炎が発生してしまった場合の食事法などについても紹介しますので合わせて参考にしてみてください。
健康な胃の状態
健康な状態の胃はきれいなピンク色で粘膜の表面はなめらかです。大きさは拳2個分ほどの袋状でその形はアルファベットの「J」の形に似ています。位置的には肝臓と重なるようにみぞおち付近に存在し、異常が発生した場合には上腹部から胸にかけて違和感を発生させます。
胃に食物が入っていないときは、袋はぺっちゃんこですが、伸縮性があるため食べ物が口から胃に入ると2L程度まで拡がります。
胃に食べ物が入ると、一旦、食べ物をそこに留め、栄養分を吸収します。栄養素を吸収された食べ物は身体には不要なものとなるので、細かく刻まれ消化されていきます。
健康な胃の働き
胃は、ゴムのように自由に伸び縮みできる性質を上手く使い蠕動運動(押し出すようなうねりのある動き)や攪拌運動(かき混ぜるような動き)をするこにより、栄養分を吸収され不要になった食べ物を、小さくし胃液を分泌し、消化していくのです。
健康な胃であれば一日に2~3Lの胃液を分泌するそうです。
胃液の成分であるペプシン(消化酵素)と塩酸でタンパク質を分解し、小腸での更なる消化をスムーズにできるようにします。
また、胃液に含まれる塩酸で、細菌が増殖しないように胃の中を酸性に保ちます。
胃が健康な状態でないと食事が美味しくないのは、胃は食べ物の栄養を吸収し、消化を助ける働きをしているため、これらのことがうまく行われていないと、食欲がなくなったり、食事が美味しくなくなったりするのです。
縮性胃炎とはどんな病気?
胃の不調を感じ、病院に検査に行くと「慢性胃炎」や「萎縮性胃炎」と診断される方もいらっしゃると思います。萎縮性胃炎とは、疾患名だけ聞くと胃が小さく縮むイメージですが、どのような病気で、身体にどのような影響がある病気なのでしょうか?
慢性胃炎と萎縮性胃炎の違いを比較してみましょう。
慢性胃炎とはどんな病気?
慢性胃炎とは、常に胃に鈍い痛みや違和感がある状態が続く病気です。
その原因は主に加齢や過剰な喫煙・飲酒によるものだと言われていましたが、最近になってピロリ菌の長期感染状態が続くことが大きな原因であると判明しました。
慢性的に胃の粘膜が炎症を起こしていることによって、胃の粘膜は常に刺激が加わった状態になるため、徐々に粘膜の状態が悪化していきます。
その悪化の進行具合によって、表層性胃炎(粘膜の表面の炎症が軽い状態)→びらん性胃炎(粘膜の表面がえぐれている状態)→萎縮性胃炎(粘膜が凸凹になり、血管が透けるほど薄くなっている状態)、肥厚性胃炎(萎縮性胃炎が進行し粘膜の凸凹がひどくなり粘膜表面が分厚くなっている状態)に分けられます。
萎縮性胃炎とはどんな病気?
先に述べたように、萎縮性胃炎とは、進行した慢性胃炎の事を指します。
長期にわたり、胃が炎症している状態が続いたため、胃の粘膜が萎縮し、健康であればきれいなピンク色で表面もなめらかな胃の粘膜も、血管が透けるほど色あせ、粘膜の表面も小腸の粘膜のように凸凹になります。
このことを「腸上皮化生」といい、この状態が進行すると胃がんになるリスクが高まると見られています。
萎縮性胃炎の症状と原因
上記のことからわかるように、萎縮性胃炎とは、慢性胃炎を長期にわたり患った結果とも言えます。
胃の粘膜が萎縮すると将来的にガンを発症するリスクが高まると言われています。
そのようなリスクを軽減するためにも、慢性胃炎の早期発見、治療やケアは大切になります。さらに詳しく萎縮性胃炎の症状や原因について見ていきましょう。
「萎縮性胃炎」の症状
- 胃の不快感が常にある。
- 胸焼け・吐き気・胃の膨満感がある。
- 胃酸の刺激により空腹時に胃の痛みがある。
- 食欲がなくなる。
- 胃酸が逆流しやすくなる。
などが挙げられます。
基本的な症状に関しては慢性胃炎や急性胃炎の症状と変わりませんが、不快感や食欲不振の症状が強くなります。更に胃が異常に収縮してしまうことで、胃の中の内容物への圧力が高くなり、胃の内容物が逆流しやすくなり、逆流性食道炎などの症状も発生させやすくなります。
逆流性食道炎の症状まで慢性化させてしまうと、酸の影響を食道が受けてしまい、食道がんや食道に潰瘍が出来てしまう問題に繋がることもあります。
特に食後に横になった場合に逆流の症状が起きやすくなり、吐き気を伴います。
「萎縮性胃炎」になる原因
これまでは、ストレスや過剰な喫煙、飲酒、加齢により胃の粘膜の状態が徐々に悪くなり、長期にわたり胃の粘膜の炎症が続いた結果だと見られていました。
確かに上記のようことが原因で胃の粘膜がダメージを受け、慢性胃炎が進行し「萎縮性胃炎」となる方や、自己免疫疾患により、自らの抗体が自分の胃の細胞を破壊してしまい「萎縮性胃炎」となるケースもあります。
しかし、一番の原因はピロリ菌の感染ということがわかっています。
通常、胃壁は粘膜で保護されていて、食べ物を溶かし消化する力のある胃酸からも胃の内部を保護してくれています。
しかし、ピロリ菌は胃を保護する粘膜を破壊してしまうのです。このため、ピロリ菌に感染すると胃の粘膜が破壊され、表面はなめらかさを失い、萎縮性胃炎となるのです。
ピロリ菌ってどんなもの?
萎縮性胃炎を引き起こす大きな原因の一つのピロリ菌。
胃の内部は強い酸性に保たれることで、細菌の繁殖を防いでいるはずですが、なぜピロリ菌は胃の中で活動し、胃の粘膜の破壊するのでしょう。
ピロリ菌は胃酸の影響は受けないの?
ピロリ菌は胃の粘膜の中に入り込み活動するので、直接的に胃酸の影響を受けにくいこともありますが、一番の理由は、ピロリ菌が自ら出している「ウレアーゼ」という酵素にあります。
ウレアーゼは胃の中の尿素を分解して、アンモニアに変える働きがあります。アンモニアはアルカリ性なので、ウレアーゼを分泌することによってピロリ菌の周りは強い酸性をアルカリ性よりへと中和させるのです。
また、ピロリ菌には数本の鞭毛が生えていて、この鞭毛でより酸性の薄いところを探して、少しでも活動しやすいところを見つけているのではないかと言われています。
ピロリ菌にはどうして感染するの?
ピロリ菌の感染経路は現時点でははっきりと分かっていません。
しかし、ピロリ菌の発見者が自らピロリ菌を経口摂取したことにより、口から胃に入りこむことが原因であることはわかっています。
飲み物の回し飲みやキスなど比較的軽い粘膜同士の接触では、ピロリ菌感染しないと言われています。
この菌への感染は5歳以下の幼児の時点で感染することがほとんどで、親が小さく噛み砕いた食べ物や、口移しで食べ物を与えることは控えるように言われています。
ピロリ菌感染検査方法
ピロリ菌の検査はいくつかあって、内視鏡を使う検査と使わない検査の二つに分けられます。
- 尿素呼気試験法 最も精度が高く、検査を受ける方の負担も少ない方法です。尿素の入ったカプセルを服用する前と後で呼気に含まれる成分の濃度を調べる検査方法になります。
- 抗体測定法 血中や尿中の抗体から感染の検査をする方法です。採血や採尿をします。しかし、採血の場合には輸血の経歴が存在すると、正確に検査できないことが多々ある為、輸血の経歴がある場合には他の検査方法のほうがより正確な検査内容が見込めます。
- 糞便中抗原測定法 糞便中にピロリ菌の抗原がないかを調べる方法です。検便を必要とします。この検査はピロリ菌の除去治療の後の検査として行われる場合が多いでしょう。
- 培養法 内視鏡により消化器の粘膜を採取して、採取した粘膜を培養し感染の検査をする方法です。胃内視鏡検査と同時に行ってより検査の制度を高めます。
- 迅速ウレアーゼ試験 これも内視鏡検査を使い粘膜を採取し、ピロリ菌のもつ酵素の有無を調べ検査する方法です。
- 組織鏡検査 内視鏡(胃カメラ)により粘膜を採取し、粘膜に特殊な染色をし顕微鏡で診断する方法です。
これらの検査は消化器内科で行うことが出来ます。他にも専門家としては、胃腸科、消化器外科もしくは内科でも受けられる場合もあります。その病院のサイトや看板にピロリ菌検査が出来るかどうかの記載があれば検査は受けることが出来ます。
出来れば、胃腸科、消化器内科での検査、治療が望ましいでしょう。
ピロリ菌に感染したらどうすればいいの?
ピロリ菌が原因で胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの病気を引き起こします。これに対しては、健康保険の対象となっていました。しかし、2013年より慢性胃炎の治療も健康保険の対象となり、治療を受けやすくなりました。
ピロリ菌に感染していることがわかったら、内服により除菌する治療法が一般的です。
内服を正しく行うことにより約90%の確率で除菌に成功すると言われています。
しかし、体質などにより一度で除菌できない場合もあります。このような場合、再度、同じように内服による除菌を行います。再除菌により一度目の除菌で成功しなかった患者さんの8割は除菌に成功すると言われていますが、これでも全て除菌できなかった場合は専門医に相談しましょう。
萎縮性胃炎の治療法
慢性的な胃炎を長期にわたり治療せずにいると、常に胃の粘膜が炎症状態が続き胃粘膜にダメージが大きく、徐々に粘膜の状態が悪化し、萎縮性胃炎へと進行していきます。
萎縮性胃炎を引き起こす原因のピロリ菌は一度感染したら、除去しない限り胃の中に存在し続けます。
感染は幼少期が多く、感染に気づかないまま過ごし、時間をかけて状態が悪化していきます。驚くことに50歳以上の日本人の8割以上がピロリ菌に感染していると言われています。
ピロリ菌の感染者が必ずしも萎縮性胃炎を発症するわけではなく、ストレスや暴飲暴食などの生活習慣も発症の原因となっています。
萎縮性胃炎と診断されたら
内服による治療がおもになります。
ダメージを受けた胃の粘膜を保護するために、胃酸の分泌を抑える胃酸分泌抑制薬や胃酸を中和する酸中和薬、胃粘膜を保護する胃粘膜保護薬、胃の活動を活発にする薬などの服用が中心になります。
これらのお薬を飲むことは、あくまで対症療法であり、萎縮性胃炎を元から治す治療法ではありません。
胃粘膜の状態を健康な状態に近づけるよう治療しつつ、ピロリ菌の除去をし、生活習慣の見直しをすることが大切になります。
また、定期的な胃の検査をすることも忘れないようにしましょう。
萎縮性胃腸炎にかかったときの食事方法
胃炎の症状であると考えられる場合や、実際に胃炎ですと診断された場合に食事はどう行えばいいのでしょうか。しっかり栄養をとらないと病気は治りませんが、食事をすることで逆に悪化させてしまわないか不安に思うでしょう。
急性胃炎や萎縮性胃炎にかかってしまった場合の食事方法について実際に胃炎の経験のある人達の体験談をまとめて、効果的な食事方法について紹介していきたいと思います。
食事を摂る上で抑えておきたいポイント
まず胃の構造についてですが、胃の細胞は粘膜・粘膜筋板・粘膜下層・筋層・漿膜下層・漿膜の順番で構成されています。
この粘膜に炎症が発生している症状が胃炎の症状になります。なので、胃炎の場合の食事では以下の事を意識して行う必要があります。
- 胃酸を過剰に分泌させないような食事内容と食事方法
- 胃酸で更に胃粘膜を炎症させないために胃酸を必要としない食事を意識する
この二点を抑えて食事内容や方法を工夫していくことが食事療法に重要な考え方になります。
消化に負担のかかる食事を避ける
まずは、胃炎の症状が発生した場合に避けて起きたい、胃に負担のかかる食材を避けることが重要でしょう。
脂肪分の多い肉類は間違いなく避けたほうがいい食材ですが、魚も意外と避けたほうがいい食材に含まれます。その他はパンなども消化に負担が大きい食材になります。またサラダなどの生野菜も長時間胃の中に滞在してしまう事や食物繊維が多いことで、負担が大きい食材にになります。
特に生魚は胃の負担というよりも、免疫力が落ちている時期に食べると食あたりなどを起こす可能性が高まります。これらの食材は出来るだけ少なめに抑えて食事を行っていきましょう。
後は調理法としては、出来るだけ温かいものを摂るようにして生物や内臓を冷やす食事は避けること、脂っこい揚げ物などは避ける、唐辛子などの胃への刺激が強いものは避けるなどを気をつけましょう。
胃に優しい食材・レシピ
胃炎になっている場合には胃に優しい食事を摂取していく必要があります。適している料理を紹介します。
- うどん
- スープ
- おかゆ
- ゼリー
- ヨーグルト
- にんにく
- 味噌汁
- 発酵食品(チーズ・納豆)
- 煮物
などの食事が適しています。
特に野菜から栄養を摂取したい場合にスープ料理は適しています。全般的に味付けは薄め・優しめにしてしっかり煮込んで柔らかくして摂るようにすると胃の負担は少なくなって症状が治りやすくなるでしょう。
フルーツでのビタミン補給がおすすめ
フルールには多くのビタミンが含くまれています。
1回の食事量がどうしても少なくなってしまう胃炎時の食事ではどうしても、もの足りない、栄養不足で偏ってしまうなどの場合に、フルーツを食べることで栄養を十分に補い、更に胃液の分泌も抑えることが出来ます。
おすすめのフルーツとしては
- りんご
- オレンジ
- さくらんぼ
- いちじく
- あんず
- もも
- プルーン
- ぶどう
などのフルーツが体を冷やさないのでおすすめになります。
まとめ
ここまででわかるようにピロリ菌に感染し、慢性的な胃粘膜の炎症が続き萎縮性胃炎と診断されたら、胃粘膜の状態を健康な色、表面にすることはできません。
退色し、表面が凸凹となった胃粘膜を胃酸の刺激から保護するための治療をします。
感染から発症まで時間がかかり、慢性的に炎症を繰り返していても胸焼けや胃もたれなどとか軽く考えてしまい、市販薬や、食事の仕方を工夫するなどしてやり過ごしてしまいがちです。
早めの診断で、少しでも胃粘膜のダメージを小さく止められることが望ましいので、胃の不調を感じやすい方は、是非一度、病院で検査してみましょう。
また、ストレコントロールや生活習慣の見直しも胃の状態を健康に保つ鍵になりますので、今一度、日頃の生活習慣を見直してみましょう。
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