医学が発達して長寿社会になっても、癌になる人が増えて珍しくなくなっても、やはり癌と名の付くものは怖いイメージがあります。
早期発見には、いつも自分の身体の状態をチェックして知っておくということが大切ですね。
今日は、癌の中でも珍しいといわれている腺様嚢胞癌(せんようのうほうがん)について、お伝えいたします。
腺様嚢胞癌(せんようのうほうがん)とは
腺様嚢胞癌(せんようのうほうがん)は、極めて稀な悪性腫瘍の一つになっています。
そして涙腺・唾液腺・乳腺など、筋上皮細胞という構造になっており、分泌物を能動的に作り出す作用のある外分泌腺から発生すると考えられています。
極まれには、正常なら筋上皮細胞がないはずの子宮という器官等に発生することがあり、化生した細胞または多能性の上皮性幹細胞由来ではないかと考えられています。しかし原則的には、悪性度が低い癌なので、早期発見することが出来れば、根治も可能になる癌なのです。
頭頸部領域に発生することが多いとされています。(頭頸部領域においては、1~2%程度の頻度で起こるといわれています)
そのため耳下腺や顎下腺などの大唾液腺や口腔内や鼻腔に発生しやすいようです。
年齢で言うと、平均が40歳~60歳代と言われており、全体的に50歳前後の女性に好発するようです。
男女比でいうと全体的には同等か、やや女性の方が多いようです。また、腺様嚢胞癌については、肺、骨、皮膚に対して血液による転移も報告されています。そういうことも含めると、腺様嚢胞癌(腺様嚢胞癌)は増殖するスピードが遅いとはいえ、浸潤性があるので転移や再発に関しては、慎重に見ていく必要がありますね。
それでは、どのような症状があるのか見ていきますね。
腺様嚢胞癌の症状
腺様嚢胞癌は、特有の症状は出てこないようですが、癌が発生した部位に関係した症状が出てきます。
具体例を挙げてみましょう。
大唾液腺
耳下腺や顎下腺に発生した場合には、腫瘤(しこり)の自覚が出てきます。
腺様嚢胞としては、唾液腺に発生する「癌に似ている組織型を持ち、気管に発生する腫瘍」と言われてます。
顎下腺と耳下腺
耳下腺や顎下腺、舌下腺といった大唾液腺と呼ばれる大きなものから、咽喉や口の中にたくさんある小唾液腺という小さなものまであります。
唾液腺癌の場合には、耳下腺に発症するものが多いので、手術が可能であれば外科的切除が第1選択ということになります。
再発率
唾液腺に発生する腫瘍は、進行性唾液腺癌とも言われていて、再発の頻度が高く、細胞異型は高くないのですが浸潤傾向が強くて、転移率も高いのが現状です。
鼻腔
鼻腔に発生してした場合には、鼻閉、鼻出血が起こってきます。
口腔と咽頭
口腔や咽頭に発生した場合には、違和感や嚥下障害(えんげしょうがい)、構音障害(こうおんしょうがい)が起こってきます。
構音障害とは、話しにくかったり、食べにくい状態になることですが、こんな症状が出てしまうと、生活に支障が出てしまいます。
肺
肺がんの場合には、非常に珍しいといわれており1%あるかどうかの割合だそうです。そのぶん診断も難しくなり、治療には時間と手間がかかるという側面を持っています。
腺様嚢胞癌で、細心の注意が必要になるのは、「気管支喘息と間違えられてしまう」ことなのですが、喘息と同じように喘鳴の症状が現れるために、耳鼻咽喉科での診察や検査では、癌の有無を判断することができないので誤った診断で腺様嚢胞癌を進行させてしまうことも多いのです。
肺と気管支には密接な関わりがありますので、急に喘息のような症状が現れた場合などは、注意しながら早めに病院に行きましょう。
顔面神経痛
線様嚢胞癌になると、神経症状が出ることが多いので、顔面神経麻痺を伴うことがあります。
耳下腺の中には、目を開け閉めする働きや、口唇を動かす働き、笑ったりするときに必要な頬を動かすといったように、顔の筋肉に深く関係している顔面神経という神経が走っているのです。
とくに腺様嚢胞癌の場合には、癌細胞が顔面神経に沿って広がっていくので、顔面神経麻痺が発症していなくても、そこに癌が癒着している場合については、顔面神経の切除が必要となることもあるのです。
手術の術式は、がんの広がりや浸潤の程度によって決まりますが、顔面神経の切除後に、可能だと判断出来たら顔面神経の移植手術を施すことになります。
では、これらの症状を検査するにはどのようにしていくのか見ていきますね。
腺様嚢胞癌の検査と診断
触診や視診をして、CTなどの画像検査により、腫瘍が発生している病変の範囲を把握することが重要なので検査で状態を明らかにしていきます。
また、腫瘍が発生している部位から、腫瘍の組織を採取して、病理学的に診断を行います。組織学的に見ると、導管上皮様細胞と腫瘍性筋上皮細胞が異なる大きさの充実性胞巣を形成していて増殖と浸潤をしていると分かります。
胞巣内に大きさの異なる大小の腔がみられる篩状の胞巣も特徴的な形として観察されるようです。
CT検査
エックス線によって身体の断面が撮影できることで、詳細に調べることが出来る検査です。ドーナツのような部分に身体を通過させていきながら撮影するので、検査時間はだいたい20分ぐらいです。
X線が 360°から照射されたときに身体の中を通過すれば、どれぐらいX線が減ったかということを測定し、身体の断面を画像化します。
レントゲンよりも身体の中は鮮明に撮影することができるので、小さな病変も見つけることが出来る上に、CT検査による痛みなどもないのです。
身体の全てを撮影できるので、いろんな身体の異常や病気の診断に使われる検査ですが特に、心臓や、どう若、肺、気管支などの胸部に使われることが多いようです。
癌においては、脳や腹部の癌を調べることが多いのです。
40代の女性のケース
初期症状では、涙がでたり、鼻根部痛や目にも異常が見られたようです。検査をしてみると、腫瘍は鼻涙管や涙袋に充満しており、下鼻道にまで達していたうえに眼窩内側骨壁は吸収されていました。
しかも、すでに腫瘍の一部は眼窩内に浸潤しており、眼球に接していました。
眼球を保存したとしても、内直筋の合併切除は避けられないので複視は免れないということになり、確実に根治を目指すには眼球を摘出する方が良いという判断になりました。
下まぶたの皮膚の浸潤を切除するために顔面の皮膚を一部切除することになりました。
この女性は、QOLを優先するという生き方を選んだので、サイバーナイフを選択しました。長期にわたり、再発が認められずに維持が出来ていたのですが、残念なことに遠隔転移のために亡くなってしまいました。
遠隔転移とは、離れた部位に転移することですが多くは血液によって運ばれた癌細胞が、たどりついた部位で増殖を始めてしまうことです。
20歳の女性のケース
上記と同じように、上顎に出来た腫瘍を発症してしまい、頑張ったのですが、多発遠隔転移のために20歳という若さで、この世を去りました。
とても悔しかったと思いますし、やりたいこともたくさんあったと思うのです。
ですから、発症する年齢の平均が50歳くらいと言っても、若くして亡くなる人がいることを考えると、若いからといっても安心できるわけではないのです。どんな癌でも早期発見、早期治療に勝るものはないのです。
では、治療についてご説明いたしますね。
腺様嚢胞癌の治療と予後について
腺様嚢胞癌は、他の癌と比べてみても悪性度は低いといわれていて、通常は手術での治療が行われます。腺様嚢胞癌は、もともと気管支の内部に癌細胞が発生してしまい、増殖していくもので、放置しておくと結節状に広がっていきます。
拡散よりも、局所浸潤しながら増殖する傾向が強いという特徴を併せ持っていますが、早期発見できれば他の癌に見られるような辛い闘病生活を送る必要はない癌だといえます。
特徴をまとめてみると
- 腫瘍が増えたり、大きくなるスピードは遅い
- 周囲組織への浸潤傾向は、強い
- 遠隔転移の頻度は、他の癌と比べてみても高い
これらに関しては、化学療法と放射線療法が有効であるとの報告があるようですが、安定した治療法はまだ未定のようで、現在の治療の中心は手術のようです。
しかし、女性にとっての命である顔面や頸部という限られた範囲ということもあり、手術については後遺症や患者の気持ちを考慮して術式が決められるようです。
重粒子線治療については、有効との意見もあれば、不確実な部分もあるので、合併症などを考えると一般的な治療とはなっていないようです。
予後について
治療後は、先述した女性のように長期の経過を過ごせた後に再発してしまうケースもあるので、長期間の通院による定期チェックが必要となります。
精神的にも、本人はもちろん周囲の人の心労も大変なものであると想像しますが、経過が良好な場合でも油断は禁物です。
手術不能となる腺様嚢胞癌の場合には、今のところ有効な化学療法はありませんが、一般的な切除不能になった場合の頭頸部扁平上皮がんに準じたような化学放射線治療が用いられます。
早期発見に努めるためには、正しい判断による確定診断が最大のポイントとなってくるようですので、珍しいとはいえ、このような癌があるのだと知っておくのは大事なことだと思います。
まとめ
では、今日のまとめです。
- 腺様嚢胞癌は、早期発見で根治を目指せる癌である
- 症状は、発症した部位に応じた症状が出る
- 肺に発症した場合には、喘息と間違われやすいので正しい診断が必要となる
- 腺様嚢胞癌は、増殖のスピードは遅いが、浸潤があることが多い
- 繰り返す再発や、転移をしやすい
後頸部に発症するために、女性にとっては顔に後遺症が残ることになり、たとえ命が助かったとしても心に深い傷を負うことになります。
大切な笑顔をなくさないように、自分や家族の身体の異変には早く気付いてあげられると良いですね。