タバコが有害であるということは、今や世界中で共有される常識となっています。このような世界的な嫌煙意識の高まりによって、公共の場所や飲食店などでも禁煙スペースが増加し、非喫煙者や子供にとっては以前より快適な環境となりつつあります。
しかしながら、タバコや喫煙者が周囲に少なくなると、タバコの有害性について考える機会も少なくなってきているのも事実です。もちろんタバコの有害性について考える必要がないくらい禁煙が進むことは良いことだと言えますが、タバコの何が有害であるのかという基礎的な事柄まで考えられることが無くなると、それはそれで問題と言えるでしょう。
実際に、タバコのもたらす害悪について尋ねると、多くの人が「肺がん」くらいしか回答できないのですね。
そこで今回は、タバコの有害性について改めて認識していただきたく、タバコのもたらす様々な害悪をご紹介したいと思います。
タバコに関する基礎知識
タバコが有害であって身体に良くないということは、今や世界中で共有される常識です。とはいえ、タバコがもたらす具体的な害悪を深く理解している人は、あまり多くはありません。
そこで、まずはタバコの有害性を理解する前提として、タバコに関する基礎知識をおさらいしたおきたいと思います。
タバコとは?
タバコ(たばこ・煙草)は、タバコの葉(たばこ葉)を乾燥や発酵させたものを加工した嗜好品のことで、一般的には紙巻タバコのことを言います。そして、紙巻タバコに火をつけ燃焼する過程で発生するガスと煙を吸引する行為が喫煙です。
タバコの燃焼過程で発生する煙の主成分は、タール・ニコチン・一酸化炭素とされています。そして、タバコの燃焼過程で発生する煙には約4000種類の化学物質が含有され、うち約200種類の化学物質が人体に有害であり、有害物質のうち約60種類が発がん性物質であることが、多くの研究によって判明しています。
ちなみに、近年になって加熱式タバコの「アイコス」という商品が発売され、一部の喫煙者の間では非常に人気が出ています。アイコスは、タバコの葉をペースト状に加工して、そのペーストを専用器具で加熱することで発生した蒸気を吸入するものです。
タールについて
タールとは、もともとタバコの葉に含まれている有機物質が、加熱によって分解されることで発生した油状で黒褐色の液体です。このタールには、多くの発がん物質(ベンゾピレン・アミン類など)が含まれています。
ただし、タールが液体とは言っても、加熱分解後にタールは極めて小さな粒子となって、タバコの煙に含まれる形で周囲に拡散します。そのため目にすることは難しいのですが、タールが油状の性質を有することからタバコのフィルター・歯・部屋の壁紙など付着しやすく、それらに付着すると茶褐色に変色することによってタールが含有されていることが確認されます。
ニコチンについて
ニコチンとは、もともとタバコの葉に含まれている有毒物質のことで、油状で無色の液体です。このニコチンは、加熱されることで揮発しやすい性質を持っています。
ニコチンは、タールのように発がん物質を含んでいませんが、人体の神経系に対する強力な毒性を有しています。そして、この神経毒性を有するニコチンには、中枢神経の興奮作用・血管収縮作用・心拍数増加作用などがあり、中毒性物質・依存性物質でもあることからニコチン依存症を引き起こすことが分かっています。
ですから、様々な禁煙方法を実践しても、禁煙者が禁煙に失敗して、たばこ依存から容易に抜け出せない理由はニコチンにあるのです。
一酸化炭素について
一酸化炭素とは、炭素が酸化した物質の一つで、無色かつ無臭の気体です。一酸化炭素は、人体の中に取り込まれると血液中の赤血球と結合しやすく、特に赤血球の中のヘモグロビンと結合する性質があります。
ヘモグロビンは身体の各組織に酸素を供給する役割を担っていますから、ヘモグロビンと一酸化炭素が結合してしまうと酸素供給を阻害し、身体は酸欠状態に陥ります。この酸欠症状のことを、一酸化炭素中毒と言います。
タバコがもたらす様々な病気
このようにタバコの煙には、タール・ニコチン・一酸化炭素をはじめとして非常に多くの有害物質が含まれています。それでは、このような有害物質を含むタバコの煙を吸入すると、どのような影響があり、どのような害悪がもたらされるのでしょうか?
そこで、タバコの煙がもたらす様々な病気について、ご紹介したいと思います。
悪性腫瘍・癌(がん・ガン)
前述のように、タバコの煙に含まれるタールには多くの発がん性物質が含有されています。そして、この発がん性物質が体内に吸入されることによって、悪性腫瘍・癌を発生させるリスクが急激に高まります。つまり、タバコを吸う喫煙という行為は、癌の原因となる可能性が非常に大きいのです。
もちろん、タールに含まれる発がん性物質に直接さらされる肺は、最も大きな影響をうけやすいと言えます。しかしながら、発がん性物質によって引き起こされる癌は、なにも肺がんだけではありません。発がん性物質は、食道がん・胃がん・大腸がん・子宮頸がんなど、あらゆる部位の癌を発生させる危険性があるのです。
呼吸器疾患
喫煙習慣によって長い期間にわたって有害物質を吸入していると、有害物質が原因となって肺や気管支が炎症を生じます。この肺炎や気管支炎が慢性化していくと、酸素と二酸化炭素のガス交換機能を担う肺胞が破壊され肺気腫となります。そして、慢性気管支炎と肺気腫をまとめて慢性閉塞性肺疾患(COPD)と呼びます。
慢性閉塞性肺疾患では、初期には息切れ・咳(せき)・痰(たん)といった症状が現れますが、重症化すると呼吸困難・呼吸不全となり死に至る場合もあります。
ちなみに、統計データ上では慢性閉塞性肺疾患の原因の約9割がタバコの煙とされています。また、慢性閉塞性肺疾患となった場合に、非喫煙者と喫煙者では平均余命に大きな差が生じることも明らかとなっています。
動脈硬化と生活習慣病
前述したようにタバコの煙には、ニコチンが含まれています。そして、ニコチンの血管収縮作用によって、血流が低下して末梢血管まで血液が届かなくなるので、身体は末梢血管まで血液を送ろうと血圧を上昇させます。つまり、タバコは生活習慣病の一つである高血圧症の原因となるのです。
また、タバコの煙に含まれる化学物質に、中性脂肪の合成促進作用と悪玉コレステロール増加作用があることも判明しています。
そして、高血圧症と血液中の脂質増加が相まって、血管内膜の損傷や血管内に血栓を生じさせることにより、動脈血管の弾力性やしなやかさが失われて血流が停滞する動脈硬化に至ります。
さらには、タバコの煙に含まれる化学物質の影響で、血糖値をコントロールするインスリンの効き目が弱くなり、糖尿病の発症リスクも高まります。
虚血性脳血管障害
虚血性脳血管障害とは、脳血管が血栓によって狭くなったり、詰まったりすることで血流が滞り、脳に酸素と栄養が供給されないことで脳障害を引き起こす病気のことです。虚血性脳血管障害の原因は動脈硬化ですから、タバコの煙の吸入とも十分な関連性を有すると言えるでしょう。
虚血性脳血管障害には、血栓ができて脳血管を閉塞させてしまう脳血栓症や、脳血栓症が進んで周囲の脳細胞に酸素と栄養が供給されずに壊死させてしまう脳梗塞があります。そして、脳梗塞によって壊死する脳細胞の部位によっては、その部位の脳細胞が担当している様々な機能が障害され、認知障害・運動障害・感情障害などが現れる可能性があります。
虚血性心疾患
虚血性心疾患とは、心臓を動かす心筋に酸素と栄養を供給する冠動脈が血栓によって狭くなったり、詰まったりすることで血流が滞り、心臓に障害が発生する病気のことです。虚血性心疾患の原因も、虚血性脳血管障害と同様に動脈硬化ですから、タバコの煙の吸入が大きく関係していると言えます。
虚血性心疾患には、冠動脈が血栓などで狭くなり血流不足によって胸に痛みが発生する狭心症や、冠動脈が血栓などで閉塞して血流が無くなることによって心臓が止まる心筋梗塞があります。心臓は血液を身体中に循環させる働きをしますから、当然ですが虚血性心疾患の発症は死の危険性があるといえるでしょう。
消化器疾患
タバコの煙の吸入は、一見すると無関係に思える消化器系にも影響を及ぼします。ニコチンの血管収縮作用によって胃腸の血流が低下すると、胃壁を保護する胃粘膜の分泌が減少する一方で、タバコの煙に含まれる化学物質の影響で胃酸の分泌量は増えます。その結果として、胃酸過多状態となって胃壁が損傷し、胃潰瘍が発生します。
また、タバコの煙に含まれる化学物質の影響で、胃から十二指腸への出口となる幽門の開閉を担う筋肉が緩んでしまい、正常時より多くの胃酸が十二指腸に送りこまれ、十二指腸の腸壁が損傷して十二指腸潰瘍が発生します。
タバコがもたらす老化現象
このようにタバコの煙を吸入することによって、様々かつ重篤な病気が引き起こされる可能性が高まります。それに加えて、タバコの煙の吸入を続けていると、身体の各組織を老化させてしまう可能性すらあるのです。
そこで、タバコの煙がもたらす老化現象について、ご紹介したいと思います。
肌の新陳代謝の低下
タバコの煙を吸入すると、体内では有害物質から各細胞を守ろうとして、多くの活性酸素が生み出されます。
適量の活性酸素は、細菌・ウイルス・有害物質などから身体を守る上で必要不可欠な存在であり、免疫システムの一部を担います。しかしながら、その防衛力の強さ故に、活性酸素が体内に増えすぎると、活性酸素が正常な細胞まで損傷させてしまうのです。その結果として、細胞が酸化させられて細胞の老化が生じます。
このような形で、常習喫煙者は非喫煙者に比べて実年齢以上に老けやすく、常習喫煙者の顔はスモーカーズフェイスと呼ばれます。つまり、肌のハリの喪失・シワ・シミなどが早期に現れてくる可能性があるのです。
ですから、特に美容に関心のある女性喫煙者の方は、早い段階で禁煙されたほうが良いでしょう。
白髪の増加
ニコチンの血管収縮作用による血流の低下、活性酸素の発生による細胞の老化、一酸化炭素とヘモグロビンの結合による酸素不足などが重なると、髪の毛にも影響が及びます。というのも、髪の毛を生み出す毛母細胞の働きも低下するからです。
毛母細胞には髪の毛の黒さを生み出すメラノサイトが存在しますが、当然メラノサイトの働きも低下します。ですから、タバコの煙を吸入すると髪の毛の黒さが失われて、いわゆる白髪が増えてくるのです。
歯の着色・口臭・歯周病
前述したようにタールは油状の性質を有することから、歯に付着しやすく茶褐色に変色させます。また、タールが歯に付着することによって、口臭の原因にもなります。
一方で、ニコチンの血管収縮作用による血流不足は、歯周組織の修復・再生を遅れさせるばかりか、歯周病菌の定着と増殖を促す可能性が指摘されています。
歯周病は年齢を重ねるに連れて有病者が増える傾向にありますが、喫煙開始が早期であれば歯周病罹患の時期も当然早まります。ですから、タバコの煙の吸入は、口周りの老化も早めることになるのです。
受動喫煙の危険性
このようにタバコの煙の吸入には様々な悪影響があるのですが、それを認識した上で喫煙をするならば、それは自己決定権の問題であって他人がとやかく言うものではありません。
しかしながら、自己決定権によって喫煙が全て正当化されるかと言えば、決してそうではありません。タバコの煙は周囲にも拡散されますので、いわゆる受動喫煙の危険性が存在するからです。そこで、受動喫煙の危険性について、ご紹介したいと思います。
受動喫煙とは?
タバコの煙は、主流煙と副流煙に分類することができます。主流煙は、喫煙者がタバコを吸って直接吸入する煙のことです。一方で、副流煙とは、タバコに火をつけた際にタバコの先から生じる煙のことです。
喫煙者と同じ空間にいると、必然的に周囲の人は副流煙を吸入することになります。この喫煙者の周囲にいる人が、自分の意思によらず副流煙を吸入してしまうことを、受動喫煙と言います。
受動喫煙の危険性
実は副流煙には、主流煙よりも多くの有害物質が含まれていることが分かっています。具体的には、タールは主流煙の3倍以上、ニコチンは2.5倍以上、一酸化炭素に至っては4.5倍以上の量が副流煙に含まれています。
そして、このような副流煙を吸入する受動喫煙では、当然ここまでご紹介してきたような健康上・美容上の被害が発生します。つまり、癌・呼吸器疾患・動脈硬化・虚血性脳血管障害・虚血性心疾患・消化器疾患・老化現象の危険性に、自分の意思によらずに晒されることになるのです。
受動喫煙による死亡者数
受動喫煙が原因となって死亡する人の数は、世界中で1年間に60万人に及ぶとされています。と言っても、日本では喫煙室を設けたり、喫煙場所を区切るなど分煙が広まっていることから、受動喫煙による死亡者数は多くないのではと考える人もいるかもしれません。
しかしながら、受動喫煙による肺がんと心筋梗塞に限っても、日本では年間1万人弱の人が亡くなっていますから、実際の受動喫煙を原因とする死亡者数・死亡率はより多くなることが容易に推定されます。
日本の男性喫煙者数は約1500万人で、男性人口に占める喫煙率・喫煙者率は約3割です。一方で、日本の喫煙者数は約500万人で、女性人口に占める喫煙率・喫煙者率は約1割となっています。日本の全人口の約2割弱の人が喫煙しているわけですから、いくら分煙が進んだと言っても、受動喫煙の危険性は維持されると言えるでしょう。
まとめ
いかがでしたか?タバコの煙がもたらす害悪・有害性について、ご理解いただけたでしょうか?
たしかに、タバコの有害性については、今や世界中で共有される常識となっています。しかしながら、タバコの何が有害であるのかと尋ねると、多くの人がタバコの有害性について深く理解しているわけではありません。
ですから、是非とも本記事をきっかけにして、改めてタバコの有害性について認識いただければと思います。タバコの煙は、まさに百害あって一利なしと言え、癌・呼吸器疾患・動脈硬化・虚血性脳血管障害・虚血性心疾患・消化器疾患・老化現象といった害悪をもたらすのです。
最後に、少しでも禁煙しようと思った喫煙者の方は、確実に禁煙するためにも禁煙外来といった専門家である医師や医療従事者の助けを借りることをオススメします。
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