適度なお酒は、ストレス解消や円滑なコミュニケーションをもたらしますよね。それゆえに、一年を通じてお酒を飲む機会は沢山存在します。お花見・年末年始・春や秋の人事異動に伴う歓送迎会・夏場はビアガーデンといった行事にもお酒はつきものです。
しかしながら、飲酒量が多くても平気な顔をしている人もいれば、お酒を一口飲んだだけでも顔が真っ赤になったりする人もいます。つまり、アルコールに強い体質の人もいれば、アルコールに弱い体質の人もいるわけです。
それでは、このようなアルコールに対する体質の差は、どこからもたらされるのでしょうか?そこで今回は、体内でのアルコール分解の仕組みなどについて、ご紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
お酒で酔っぱらう仕組み
そもそもお酒を飲むと、どうして酔っぱらってしまうのでしょうか?まずは、お酒を飲むと酔っぱらってしまう仕組みについて、簡単にご説明したいと思います。
お酒で酔っぱらう仕組み
お酒・アルコールを飲んで体内に摂取すると、食事で食物を摂取した場合と同様に胃腸へと運ばれます。そして、アルコールは胃で約2割が吸収されて血液に、残りの約8割が小腸で吸収されて血液に混じり肝臓へと運ばれます。
他の食べ物や飲み物は消化液によって消化されてから胃腸で吸収されるのが通常ですが、アルコールは消化を経ずに直接胃腸で吸収されてしまうという違いも特徴的です。
肝臓に運ばれたアルコールは分解が開始されますが、全てのアルコールを一気に分解することはできません。そのため、水に良く溶ける水溶性というアルコールの性質も手伝い、分解されなかったアルコールが肝臓を素通りして血液を通じて全身に拡散されます。
このように全身に拡散されたアルコールが特に脳に達すると、アルコールの影響で脳の働きが低下することにより、酔っぱらう状態となるのです。
アルコール吸収の速さ
アルコールの胃腸での吸収は他の食べ物に比べると速く、飲酒してから約1~2時間程度で吸収されてしまいます。また、胃の吸収スピードよりも、小腸での吸収スピードのほうが速いとされています。
ですから、空腹時に飲酒するとアルコールが胃に滞留する時間が短くなり、小腸で一気に吸収されることになります。逆に、おつまみや食事と一緒に飲酒すると、アルコールが胃に滞留する時間が長くなり、その分アルコールの吸収スピードも遅くなります。
実は、アルコールを口にしてからアルコールの成分が脳に達するまでには約30~60分程度かかりますので、飲酒後すぐには酔っぱらいません。そのため、飲酒開始後の30~60分の間に酔っぱらっていないからと調子に乗って大量に飲酒すると、30~60分後に酔いが一気にやってくるのですね。
酔いの状態の変化
飲酒を続けていると肝臓でのアルコール分解が追い付かず、アルコールが肝臓を素通りしてしまいます。すると、血液中に含まれるアルコールの量が増えて、いわゆる血中アルコール濃度が上昇します。酔いの状態は、血中アルコール濃度によって判断します。
一般的な酔いの状態の変化は、次の通りです。
・血中アルコール濃度が0.04%まで:陽気になります。
- 0.05%~0.1%:理性が徐々に低下して、本能や感情が現れ出します。
- 0.1%~0.15%:酩酊の初期段階に入ります。
- 0.16%~0.3%:完全な酩酊状態になり、自分の身体のコントロールが出来なくなります。
- 0.31%~0.4%:泥酔状態となり、記憶がなくなります。
- 0.41%~:昏睡状態となり、脳全体が麻痺状態となるので生命維持が危うくなります。
お酒の種類による酔いの程度の変化
このように酔いの状態は、血中アルコール濃度によって判断しますが、お酒にも日本酒やビールなど様々な種類があり、それぞれアルコール度数が異なります。
ですから、お酒の種類によっても酔いの程度は変化すると言えるでしょう。正確なアルコール摂取量は、アルコール度数と飲酒量から計算して求めることができます。
アルコール分解の仕組み
このようにアルコールは胃腸で吸収され、血液を通じて脳にアルコール成分が到達することで酔っぱらいの状態となります。
それでは、体内に入って肝臓に運ばれたアルコールは、どのようにして分解されるのでしょうか?アルコール分解の仕組みについて、ご紹介したいと思います。
肝臓によるアルコール分解(代謝)の第一段階
体内に入ったアルコールのほとんどは、肝臓で酸化されることで分解(代謝)され、尿や便を通じて直接体外に排泄されるアルコール成分は僅かです。
胃腸で吸収されたアルコールは、まず肝臓に運ばれて肝臓によってアルコールが分解・代謝されます。肝臓でアルコール分解に最初に関与するのが、アルコール脱水素酵素(ADH)とミクロソームエタノール酸化系(MEOS)という酵素です。
ちなみに、代謝とは身体の中での化学変化全般のことを言いますので、栄養素の合成・分解も代謝であり、アルコールの分解も代謝となります。
アルコール脱水素酵素(ADH)
肝臓に運ばれたアルコールの大半は、肝臓に存在するアルコール脱水素酵素(ADH)によって酸化されて、アセトアルデヒドという有毒物質に化学変化させられます。
アルコール脱水素酵素(ADH)は、アルコール(エタノール)を酸化してアセトアルデヒドに化学変化させる触媒として機能する酵素のことで、アルコールデヒドロゲナーゼとも呼ばれます。
ミクロソームエタノール酸化系(MEOS)
ミクロソームエタノール酸化系(MEOS)は、アルコールを酸化する酵素の一種です。
肝臓に運ばれたアルコールの9割前後は、アルコール脱水素酵素(ADH)によって分解されますが、一部はミクロソームエタノール酸化系によっても酸化されてアセトアルデヒドに化学変化させられます。
ミクロソームエタノール酸化系は、アルコールを飲み続けると作用が強くなります。そのため、お酒を飲めなかった人が少しずつ飲み続けていると飲めるようになる現象が生じるのは、ミクロソームエタノール酸化系の働きによるものと考えられています。
アセトアルデヒドとは?
アセトアルデヒドは、自然界にも存在しますが、人体においては肝臓でアルコール(エタノール)を酸化することによって産生されます。
アセトアルデヒドは、人体に有害な物質で毒性があるとされています。飲酒すると顔が赤く変化したり、動悸・吐き気・頭痛をもたらしたり、悪酔い・二日酔いの原因となるのもアセトアルデヒドです。また、アセトアルデヒドには発がん性もあるとされています。
肝臓によるアルコール分解(代謝)の第二段階
アルコール脱水素酵素(ADH)とミクロソームエタノール酸化系(MEOS)によって、アルコールが酸化されて生成されたアセトアルデヒドは、さらに肝臓においてアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸(さくさん)に分解(代謝)されます。
アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)
アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)は、有害物質であるアセトアルデヒドを人体に無害な酢酸に化学変化させる触媒として機能する酵素のことで、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼとも呼ばれます。
肝臓で生成されたアセトアルデヒドは、同じく肝臓においてアセトアルデヒド脱水素酵素によって、人体に無害となる酢酸に化学変化させられるのです。
アセトアルデヒド脱水素酵素には、アセトアルデヒド濃度が低くても働く2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)とアセトアルデヒド濃度が高くならないと働かない1型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH1)の2種類が存在します。言い換えると、アセトアルデヒドの分解にあたっては、2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)が主要な働きをして、1型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH1)は補助的に働くという関係にあります。
ただし、2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)については、遺伝子レベルでいくつかのタイプ・型が存在するため、アセトアルデヒド脱水素酵素の働きに個人差が生じる原因となり、ひいてはアルコール分解能力の個人差の原因となっています。
肝臓以外での分解・代謝
このようにアルコールは肝臓において二段階の分解・代謝が行われ、人体に無害の酢酸に化学変化させられます。
肝臓で生成された酢酸は、血液を通じて全身の臓器や筋肉を巡る中で熱エネルギーとして利用・代謝されることで、最終的に炭酸ガス(二酸化炭素)と水に分解されます。そして、炭酸ガスは肺で呼吸により体外へと排出され、水は余剰となれば尿や汗として体外に排出されます。
アルコール分解能力の個人差
このようにアルコールは肝臓において分解されるのですが、2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)のタイプによって、アルコール分解能力・代謝能力には個人差が生じます。
そこで、アルコール分解能力・代謝能力の個人差が生じる要因について、詳しくご紹介したいと思います。
2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の遺伝子多型
2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)は、500個以上のアミノ酸によって構成されたタンパク質であるとされています。そして、数あるアミノ酸のうちの一つの遺伝子配列が異なることで、3種類の遺伝子多型に分類されます。
- GGタイプ:遺伝子配列がグアニン2つで構成される基本となるタイプ
- AGタイプ:グアニンの1つがアデニンに変化したタイプ
- AAタイプ:グアニンが2つともアデニンに変化したタイプ
GGタイプ(NN型遺伝子)
GGタイプは、遺伝子配列がグアニン2つで構成される基本となるタイプ・型なので、英語でNormalとNormalを略してNN型遺伝子・NN型と呼ばれることもあります。
この遺伝子型を持つ2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)は、アセトアルデヒドの分解において安定的に正常な活性を有するため、活性型のALDH2と呼ばれます。
活性型ALDH2を有していれば、飲酒をして肝臓で生成されたアセトアルデヒドを速やかに分解・代謝して酢酸に変換することができます。そのため、アセトアルデヒドによる悪酔い・二日酔い・飲酒中の頭痛や顔の紅潮などは、ほとんどないとされます。
ただし、アセトアルデヒドの分解能力が強力であっても、肝臓が一気にアルコールを分解できるわけではなく、血中アルコール濃度が高くなり酔っぱらっている状態であることには変わりありません。つまり、アセトアルデヒドの分解能力と血中アルコール濃度が高くなることで脳機能が低下する酔いの状態との間には関係がないのです。
活性タイプのALDH2を有しているとお酒に強い人と言えますが、むしろ悪酔いしないことでアルコールを多く摂取する傾向にあり、習慣性飲酒を経てアルコール依存症になりやすいとされています。
AGタイプ(ND型遺伝子)
AGタイプは、遺伝子配列がグアニンとアデニンで構成されるタイプ・型なので、英語でNormalとDeficientを略してND型遺伝子・ND型と呼ばれることもあります。
この遺伝子型を持つ2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)は、アセトアルデヒドの分解においてGGタイプ・NN型に比較して1/16の活性しかないので、低活性型のALDH2と呼ばれます。
低活性型ALDH2を有していると、飲酒をしても肝臓で生成されたアセトアルデヒドを速やかに分解・代謝することができず、全てを酢酸に変換するのに時間がかかります。そのため、多くのアルコールを摂取するとアセトアルデヒドの影響で頭痛や顔の紅潮が見られたり、悪酔い・二日酔いをする可能性もあります。つまり、低活性型ALDH2を有している人たちは、ほどほどに飲める人・お酒に弱い人と言われる遺伝的タイプと言えます。
また、アセトアルデヒドは発がん性があることから、アセトアルデヒドの毒性に晒される時間が長くなることで、飲酒習慣がある場合には食道がん・大腸がんなどの発症リスクが高くなると言われています。
AAタイプ(DD型遺伝子)
AAタイプは、遺伝子配列がアデニンとアデニンで構成されるタイプ・型なので、英語でDeficientとDeficientを略してDD型遺伝子・DD型と呼ばれることもあります。
この遺伝子型を持つ2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)は、アセトアルデヒドの分解において活性が完全に消失しているので、不活性型のALDH2と呼ばれます。
不活性型ALDH2を有していると、飲酒をしても肝臓で生成されたアセトアルデヒドを分解・代謝することがほとんどできません。つまり、不活性型ALDH2を有している人は「下戸(げこ)」と呼ばれるタイプと言えます。
このタイプの人が飲酒すると、アセトアルデヒドが非常に長時間にわたって大量に体内に滞留することになるため、飲酒は厳禁とされます。当然ですが、飲酒してしまうとAGタイプ・ND型の人よりも発癌リスクが高くなります。
遺伝子多型の人種別の出現率
このような2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の遺伝子多型によってアルコール分解能力の個人差が生じるわけですが、そもそも人種によって遺伝子多型の出現率が大きく異なっていることが専門家の研究によって判明しています。
人類は黒人・白人・黄色人種の3種類に分類されますが、黒人と白人は遺伝的にほぼ100%の割合でGGタイプ・NN型となります。
一方でモンゴロイドやモンゴル系人種とも呼ばれる黄色人種では、進化の過程で突然変異で2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の活性が低下あるいは活性を失った人が出現したことで、次のような出現率となっています。
- GGタイプ(NN型):約50%
- AGタイプ(ND型):約45%
- AAタイプ(DD型):約5%
遺伝子多型の日本人における出現率
遺伝子多型の日本人における出現率は、日本人も黄色人種ですので、概ね前述のような出現率となっています。
そして、筑波大学で教鞭をとられた原田先生の研究によると、近畿地方や中国地方ではGGタイプが少なく、北海道・東北・南九州地方でGGタイプが多いということが判明しています。
これは、もともと日本列島に土着していた縄文人がGGタイプでお酒に強い遺伝子をもっていたところに、縄文末期から近畿・中国地方に大陸から渡来した弥生人によってAGタイプ・AAタイプのお酒に弱い遺伝子がもたらされたと考えられています。
お酒と上手く付き合うには?
このようにアルコールの分解能力には、遺伝子による個人差が生じます。二日酔い予防などからお酒と上手く付き合っていくためにも、自分がどのタイプなのかを知る必要性があります。そこで自分がどのタイプなのかを知る方法を、ご紹介したいと思います。
自分のタイプ・体質を知る方法
自分がお酒に強いのか弱いのかを知ることは、お酒と上手く付き合う上で重要な事柄です。そこで自分の体質を知る方法を、いくつかご紹介したいと思います。
両親のお酒に対する体質
まずは、アルコールの分解能力が遺伝によって決まる以上、両親がお酒に弱い体質であれば、子供がお酒に強くなることはありません。ですから、両親にお酒に強い体質なのか、弱い体質なのかを聞いてみる方法が最も簡単な方法と言えるでしょう。
エタノール・パッチテスト
エタノール・パッチテストによっても、ある程度のお酒に対する強さを確かめることができます。
消毒用アルコールをガーゼに染みこませて、そのガーゼを上腕に7分間貼ります。そして剥がした10分後に、ガーゼを貼っていた場所の皮膚の色の変化を確認し、赤くなっていればお酒に弱く、変化がなければお酒に強い体質だと言えます。
フラッシング反応
大人になると誰しも一度は興味本位から、お酒を口にしてみると思います。その際に、前述したようにアセトアルデヒドの効果で顔が紅潮する症状が現れることをフラッシング反応と言います。
フラッシング反応は、2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の活性度合いとほぼ反比例しますので、お酒を飲んで顔が赤くなる人は活性度合いが低くてお酒に弱い体質と言えるでしょう。
遺伝子検査キット
この他、どうしても正確にチェックしたい人はアルコールの感受性を調べる遺伝子検査キットも発売されていますので、こちらを利用してみるのも良いでしょう。
性別・体格などによるアルコール分解能力の違い
そもそも男性と女性では、女性のほうがアルコール分解能力が低い傾向があります。これは、体格の差・ホルモンなどが関係していると考えられています。
また、体格が大きければ体格の小さい人に比べて体内の血液量も多くなります。とすれば、同じ量の飲酒をしても血中アルコール濃度の上昇率は、体格の大きい人のほうが小さくなります。つまり、体格の小さい人は酔いやすくなるのです。
さらに、年齢によってもアルコール分解能力は異なります。未成年者は一般的に前述したアルコール分解酵素が働きにくく、そのために法律によって未成年者の飲酒が禁止となっているのです。高齢になると同様にアルコール分解酵素が働きにくくなり、アルコール分解能力は低下します。
ただし、これらは遺伝子多型の補助的要素にすぎませんから、その点を留意しておく必要があります。
まとめ
いかがでしたか?体内でのアルコール分解の仕組みなどについて、ご理解いただけたでしょうか?
たしかに、飲酒量が多くても平気な顔のお酒に強い体質の人もいれば、お酒を一口飲んだだけでも顔が真っ赤になるお酒に弱い体質の人もいます。実は、このようなアルコールに対する体質の差は、遺伝子によるものだったのです。
ですから、お酒に対する強さが遺伝に決定される以上、無理して飲酒の訓練をしても身体的には悪影響しかないのです。自分の体質を理解して、上手にお酒と付き合うようにしてくださいね。
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