病気を発症したときに、どの病院の、どの診療科に行ったらいいのか迷うことはありませんか。それは、医療の進化にともない、診療科が細分化したためです。
そのような患者の悩みを解消するために、「総合診療科」が誕生しました。この科の医師は、治療よりも診断に力を注ぎます。病気の特定ができたら、専門医に患者を紹介します。
しかし、総合診療科を置いている病院はまだ少ないです。そこで、最短かつ適切な治療を受けるには、患者自身が「科」について知っておかなければなりません。
「診療科とは」の基礎は、「内科と外科の違い」です。
内科と外科の違い
近所の医院のおじいちゃん先生が内科医で、ブラック・ジャックが外科医――これが、最も簡単な内科と外科の違いです。また、手術をするのが外科医で、薬で治そうとするのが内科医という分け方もOKです。医療従事者であれば、内科の先生は性格が穏やかで、外科の先生は派手めといった区別をしているかもしれません。
とりあえずそのように「ざっくり」と区別できたところで、治療内容による内科と外科の違いをみてみましょう。
侵襲(しんしゅう)の大きさによる違い
この記事ではなるべく専門用語を使わないようにしているのですが、この言葉だけは使わせてください。「侵襲(しんしゅう)」です。治療で体を傷つけることを「侵襲がある治療」といいます。
例えば、胃の中の様子を調べるときに、医師が聴診器を当てる検査は「侵襲がない」といいます。胃内視鏡を挿入して胃の中を調べる検査は、患者に、1メートル以上もある太くて硬い管を飲み込ませるわけですから、「侵襲が大きい検査」と表現します。
がんの再発検査でも、血液中の腫瘍マーカーを測る検査は、細い注射針を刺して採血するだけなので、「小さい侵襲の検査」です。一方、CTでがんを見つけようとすれば、放射線被ばくや、造影剤によるショックのリスクがあるので、「採血検査より侵襲が大きい」となります。
医療の原則は、侵襲が少ない治療から始めて、それで治らなかったら、次により侵襲が大きい治療を行います。この原則が必要な理由は、侵襲が大きくなればなるほど、患者に負担がかかるからです。
治療による侵襲の大きさが、病気による健康被害より大きくなると、治療の意義が薄れるか、最悪、「治療しない方がましだった」となります。
この「侵襲の観点」からすると、内科の治療は侵襲が小さく、外科の治療は侵襲が大きいという違いがあります。
手術の規模による違い
かつては、メスを持つ医師が外科医でした。つまり、人の体表を切り体の中に手を突っ込み、直接、臓器に接触して治すのが外科医の仕事でした。いまでも外科医のメインの治療手段は、メスを使った手術です。それは変わりありません。
しかし、内科医が患者の体の中に「手」を入れないかというと、そうではなくなってきたのです。それは、カテーテルと内視鏡という特殊な医療機器が登場したためです。カテーテルと内視鏡は、いわば内科医の「手」なのです。
カテーテルも内視鏡も「管」という点で共通しています。カテーテルは直径数ミリで、内視鏡は1センチ前後という違いはあります。
カテーテルが最も活躍するのは、心臓の血管が詰まったときの治療です。カテーテルの先端を、足の付け根にある太い血管に刺し込み、血管の中を心臓に向かって進めていきます。カテーテルの先端が、詰まった部分に到着すると、医師はカテーテルの先端で「風船」を膨らませます。風船が膨らむことで、血管の詰まりが解消するのです。
医師が、血管の中を進むカテーテルを1ミリの狂いもなく、詰まった部分に到着させることができるのは、治療中ずっとレントゲンを当てているからです。レントゲンが映し出す血管の様子は「ライブ映像」で見ることができます。カテーテルによる心臓の血管の詰まりの「手術」は、内科医が行うのです。
カテーテルも、血管の中を映し出す特殊なレントゲン装置もなかった時代は、心臓の血管の詰まりは外科の分野でした。つまり医療機器の進化が、外科医の仕事を内科医の仕事にしてしまったのです。
これは先に解説した「侵襲の大きさ」に関係した話と重なります。つまり、外科医が行う心臓の血管の詰まりの手術は、侵襲が大きく、内科医が行うカテーテルによる心臓の血管の詰まりの手術は、侵襲がより小さいといえるのです。
そこで、「侵襲の小さい治療から大きな治療へ」という原則通りに、カテーテルによる治療は、外科医による手術より先に行われることになります。
消化器内科と消化器外科の違い
消化器内科医も消化器外科医も、両方とも頭に「消化器」が付くので、治療対象となる臓器は一緒です。消化器とは、喉から肛門までの臓器と、肝臓や膵臓などをいいます。消化器の大きな病気は、なんといっても、がんでしょう。
内科医と外科医の違いを、より具体的にイメージできるように、消化器内科医と消化器外科医の仕事の違いを詳しくみてみましょう。
消化器内科の治療
胃がんや大腸がんは、日本人に多いがんです。がんの治療の原則は、がんを取り除くことですので、数十年前までは、「がんの発見」=「開腹手術」でした。ということはつまり、「潰瘍からがんに進行」=「内科医から外科医にバトンタッチ」でした。
しかしいまは、簡単にはバトンタッチしません。現代の消化器内科医は、がんが発見されたからといって、すぐに外科医に患者を任せることはありません。なぜなら、消化器内科医は強力な武器を手にしたからです。
それは内視鏡です。「胃内視鏡」や「大腸内視鏡」と呼ばれています。かつては「胃カメラ」「大腸カメラ」と呼ばれていましたが、厳密には「内視鏡」と「カメラ」は違うものです。ただ、「管を口から入れて胃の中を見る」「管を肛門から入れて大腸の中を見る」という治療方法は、「胃・大腸内視鏡」も「胃・大腸カメラ」も同じです。
胃カメラは日本で発明されたものではないのですが、胃カメラを治療現場で使えるまでに発展させ、さらに内視鏡にまで進化させたのは、日本メーカーです。このことは、ドキュメント風小説「光る壁」(吉村昭著)で詳しく描かれています。
内視鏡の機能向上はすさまじく、いまでは内視鏡の先から「さまざまな器具」を突き出すことで、「つかむ」「切る」「焼く」「空気を出す」などができます。かつては消化器外科医しかできなかった行為が、患者の体の外にある「内視鏡本体」を操作するだけでできるようになったのです。
内視鏡の進化は、がん患者に大きなメリットをもたらしました。
全身麻酔をしなくてよい
お腹を切り裂かなくてもいい
これだけでもメリットですが、それよりも大事なことは、早期発見がしやすくなったこと、早期発見で治療をすれば完治する確率が高くなったことです。
内視鏡が映し出す画像がより鮮明になったことで、それまで見逃していた小さながんを容易に見つけられるようになったのです。そして、内視鏡の管の先からカッターナイフを出して、小さながんを切り取って治療は終了します。
その後、抗がん剤治療を行わないことも珍しくありません。それから5年間、再発や転移がなければ、よほど慎重な消化器内科医でなければ、「がんは治りましたよ」と伝えてくれることでしょう。
胃がんと大腸がんは、「死ぬのがもったいないがん」と言われています。それは内視鏡の進化のおかげです。そして内視鏡が進化したのは、消化器内科医と内視鏡メーカーの連携が奏功した結果に違いないのです。
消化器外科医の治療
それまで「消化器外科医」の領域だった多くの治療が、内視鏡の進化によって、「消化器内科」の領域へと移りました。そのため、現代の消化器外科の治療は、最早、消化器外科医にしかできない内容となっています。
例えば、内視鏡で取り除けない胃がんや大腸がんは「かなりやっかい」ながんということになります。消化器外科医が行う手術は、難治症例が多くなっているのです。
がんの難治症例だと、手術後に抗がん剤治療を始めることが多いでしょう。日本には抗がん剤治療を専門にする「腫瘍内科」が少ないことから、消化器外科医が手術をした患者の抗がん剤治療を担当することが多いのです。
これにはメリットとデメリットの両方があります。デメリットは、医師の負担が大きくなることです。抗がん剤は、あらゆる製薬メーカーが開発に乗り出し、次々新しい薬品が出ています。消化器外科医は手術という重労働の傍ら、新しい抗がん剤の勉強をしなければならないのです。
一方でメリットとしては、一貫して患者を診られるということです。手術を行った医師は、がんを肉眼で確認しています。その医師が抗がん剤治療を担当すれば、がんの変化がより鮮明にイメージできるでしょう。その過程で、患者と医師の信頼関係も築かれます。
内科医と外科医は仲が悪い?
「内科医と外科医は仲が悪い」とか「外科医は内科医を下に見ている」といった話しをよく聞きます。それは半分本当で、半分嘘といえるでしょう。
半分本当?
半分本当とは、「どの業界でも、隣り合った部署がいがみ合うことはよくあること」ということです。
レストランであれば料理人は「接客が悪いから客が来ない」と言いますし、フロア担当者は「客が来ないのは料理がまずいからだ」と言います。
メーカーであれば、設計者は「せっかく新製品を作っても、営業が弱いから売れない」と言いますし、営業担当者は「売れないのは、設計者が自己満足な製品しか作らないからだ」と言います。
医者の世界も同じで、内科医は「外科医はすぐに侵襲の大きい治療をしたがる」と言いますし、外科医は「内科医がもっと早く外科に患者を回してくれていたら、簡単な手術で治ったのに」と言います。
患者は「内科→外科」と移ることが多いので、その場合、内科医が外科医に「依頼する」ことになります。それで、依頼される側の外科医の方が、依頼する側の内科医より「偉そうに見える」場合があるかもしれません。
患者のために連携
でも、実際の治療現場では、そんな争いは滅多に起きません。ほとんどの場合、内科医と外科医は絶妙な連携プレイを見せています。
消化器内科と消化器外科がある病院では、必ず「カンファレンス」が開かれます。カンファレンスとは、会議のことです。消化器内科医も消化器外科医も出席して、患者ひとりひとりの治療方針を決めるのです。
カンファレンスでは、消化器内科医は、消化器外科医に「内視鏡で取り切れなかったら、後は頼みます」と依頼します。消化器外科医は、消化器内科医に「その方が患者の利益が大きいですね」と答えます。
医師はいつでも、患者の健康を第一に動いています。
まとめ
大学の工学部の場合、建築科と土木科に分かれて学びます。ところが大学の医学部では、内科や外科に分かれて勉強することはありません。医学部生は全員、内科も外科も眼科も耳鼻科も学ぶのです。内科医になるか、外科医になるかは、卒業後に研修などを通じて決めます。
つまり、現在、内科医を標榜している医師も、外科の勉強をしていますし、外科医も内科の知識を有しています。
人の健康には内科と外科の区別はない、ということですね。
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