最近のトレーニングにおける最新トレンドは『背中』です。背中美人とは後姿の素敵な女性を指す言葉ですが、背中でモノを語れる男然りで何かを訴えられる背中ってとても魅力的に見えるのかもしれません。
そういった感情的な面だけでなく人の動作では背中がしっかり機能しないとまともに日常生活も送れなくなるのです。
加齢による影響は非常に深刻ですが若年層であっても背中の筋肉の衰えによる姿勢の問題、さらには集中力の継続が難しく様々な弊害も生まれます。
そこで本稿では背中を鍛えることの意義について検証し、どういった効果があるのか、さらにその鍛え方についても紹介していきます。
当稿を読めば背中についての仕組みやメカニズムがわかり魅力的な背中が織りなす溌剌とした健康美を手に入れることも可能かもしれません。
背中の衰えが招く様々な症状
身体の衰えの多くは背中を観ればわかるという程、背中の変化は他人にその衰えが見つかりやすい部位といっていいでしょう。
背中が衰えると人にはどういった症状が出現するのでしょうか。
姿勢の変化
背中の疲労や筋力低下等、機能の衰えは姿勢に影響を及ぼします。猫背といった背中や腰がまるまったり縮まる原因は元より、ストレートネックという首の骨である頸椎(けいつい)の配列構造が変わる要因ともなります。
背中の筋肉が弱くなってくると大抵は縮む能力が低下します。筋肉が縮まなくなるということはビヨ~ンと伸びてしまうことを意味して、背中で言えば肩にある僧帽筋、腰周りの筋肉、背筋・臀筋群等が縮みにくいため全体として前屈みの姿勢である円背(えんぱい)の症状を呈します。
骨格においては骨盤周りの筋肉の弛緩により、骨盤が後傾(後方に傾くの意)し脊柱の生理的カーブが失われ、背筋群の緩みによって肩甲骨は脊柱から極端に離れます。
背中側の筋肉がだらしなく伸びてしまうと身体前面にある大胸筋・小胸筋等は必要もなく縮み、さらに今度は伸びる能力を失い凝りや張りを生じ最終的には硬くなります。こうなると非常に疲れ切ったような見栄えの良くない姿勢に変わってしまうのです。
腰痛肩こり等、関節の痛み
背中の筋肉が衰えると様々な部位に痛みや違和感が生じます。その症状は背中や肩の重だるさから始まり全身の倦怠感や自律神経にまで影響を及ぼし内臓機能の低下を招くといったケースもあるのです。
筋肉がしっかりと働いていれば関節に余計な負担はかかりません。体重支持を受け持つ関節(頸椎・胸椎・腰椎間等、股関節、骨盤)には、重力の圧力に対抗しうる椎間板や関節(繊維)軟骨等の独自緩衝装置が付いていますが、日常動作やスポーツ活動では周りにある筋肉がしっかりとその機能をサポートする必要があるのです。
筋肉のサポート機能が低下すると骨自体、あるいは関節の働きだけで重力に抗い日常生活をこなさなければなりません。これは筋肉の絶対的な力を必要とする人間にとっては著しく困難な動作を強いられることになり、結果として腰痛等主要な部位の関節に痛みを伴う変化が生じることになるというわけです。
代謝作用の低下
外から摂取した食物は体内でエネルギーや栄養素に変化し細胞活性化のために使われることを代謝といいます。代謝は大きく分けると栄養素として身体を合成する方法(同化作用:Anabolism)とエネルギーとして使われる方法(異化作用:Catabolism)の2つがあります。
人の身体には約60兆個の細胞があり1日に5000億という細胞の生まれ変わりで成り立っています。この細胞の活性化を一般に新陳代謝と呼びますが、新陳代謝は身体を合成する同化作用のひとつです。
一方、体脂肪も栄養素として身体の一部になることから同化作用に含まれます。背中の筋力低下は姿勢変化と共にこうした代謝作用にも悪影響を与えます。
背中には僧帽筋・広背筋・起立筋・大臀筋・ハムストリングといった大きな筋肉が多く存在するため、それらの筋肉の衰えは体脂肪の合成作用に直接繋がってしまうのです。特に肩甲骨周辺には褐色脂肪細胞(かっしょくしぼうさいぼう:Brown Adipocyte)があり熱生産効率が高く脂肪の燃焼を高めてくれます。
こうしてみると背中の筋力低下は代謝作用の低下を招き、身体に余分な脂肪の蓄積が増えることで更なる体調悪化に繋がりかねない可能性を含んでいるといえるでしょう。
重力の影響と姿勢の関係
我々人類が地球に生息する限り重力との付き合いは切っても切り離せません。
人の身体はこの重力という圧力に抗いながら生きているので、如何に筋力を重力に適応させるかが背中の筋肉を維持するポイントとなるでしょう。普段はまったく感じたことのないこの重力について筋肉との関係をみていきましょう。
抗重力筋とは
地球には常に中心に向かって押し付ける圧力(重力:Gravity)が働いているため、身体を真っ直ぐに維持しようとすれば当然筋肉の力で骨格を支えていなくてはなりません。
この重力に耐えようとして身体の状態を維持する筋肉が抗重力筋です。この姿勢支持機能は多くの場合大筋群で身体の表面に付く筋肉がその役割を担っています。
脊柱起立筋は抗重力筋の中で最も姿勢保持機能が強い筋肉と言われます。抗重力筋は体幹と脚に存在します。前述した脊柱起立筋に加え、腹直筋・大臀筋・大腿四頭筋の4つがあります。
因みに当稿では鍛えると刺激するという言葉を併用しています。「鍛える」だとより強い強度で『大変』という意味もありますが、「刺激する」はより簡単・手軽にできるという意を現しておりその違いでトレーニング強度を現しています。
姿勢は気を付けるべき?
日常生活で気を付ければ姿勢は改善できるとの考え方もありますが、残念ながら日常生活を気を付けたからといって姿勢は改善できません。
姿勢が崩れる原因は様々です。原因をひとつひとつ探りそれを一個一個改善していかない限り姿勢を良い方向へ変えることは不可能といっていいでしょう。
ただ筋肉の能力に関する再教育や骨格の修正可能な配列の改善はじっくりと取り組むことで姿勢を変えていくことは可能です。
まずは機能の低下した筋肉の伸びる・縮む能力を改善します。筋力トレーニングというよりはどちらかと言えばリハビリに近い方法が最適でしょう。同時に骨盤の角度に変化を持たせます。
こうすることで骨盤周りの今までその角度で落ち着いていた筋肉の伸び縮みを少しずつ変えていきます。よりわかりやすい言葉でいうならストレッチですが、腕や脚といった今まで伸ばし方とはちょっと違い骨盤周辺やお腹周りを伸ばす方法です。
こうした毎日の積み重ねが身体の伸びる縮む動作の活性化に繋がりあなた自身の伸びる縮む感覚と一致することで姿勢を徐々に改善していくことは可能です。
背中の筋肉劣化の対策のポイント
背中は見た目にも、そして地球上であなた(の身体)を支えてくれる機能としても大変重要なボディバーツというのが理解していただけたと思います。
ここからは背中を鍛える(刺激する)ポイントについて知ってみましょう。きっとあなたに合った最適のトレーニングプランが見つかるはずです。
自重筋トレ
背中を鍛えるためには道具が必要でしょうか?
道具がなくてもあなたの身体さえあれば筋トレメニューは簡単に作れます。さしあたり筋トレ器具がない、あるいは筋トレ初心者にはまず自重トレーニングをお勧めします。
自重トレーニングは自分の体重を重りの変わりとする筋トレ法です。自重トレーニングなら自宅で行う自宅筋トレとしても最適ですし、何より自重を扱うため初心者にとってはとても安全でやり方次第でとても効果のある方法なのです。
自重トレーニングのポイントはゆっくりと行うことです。特に腕や脚の動作をゆっくりにすることで動きの勢いが低下するため、確実に目的とする部位に効かせやすい筋力トレーニングといえるでしょう。
必要ならパーソナルトレーナーや関連する専門家に自重筋トレメニューを作成してもらうことも検討してみましょう。身体の動かし方やポイント等を適切に指導してもらえるため効果は最大限高まるはずです。
道具を使う筋トレ
トレーニングに興味がある、あるいは経験者であればバーベルやダンベルを使った本格的なウエイトトレーニングがより筋トレ効果を出しやすいかもしれません。
筋トレ種目としてBIG3と言われるベンチプレス・スクワット・デッドリフトが背筋トレーニングとしてとても有効です。ベンチプレスは大胸筋という身体前面にある胸の筋肉を刺激する方法ですが、適切なフォームで行うことで上背部にも十分効かせることも可能です。
また重量をプレート等で変えられることから筋肉への適度な刺激はもちろん、筋肉を大きく太くする筋肥大といった用途別に重量増減できるところも大きな魅力です。
ジム等ではこの他にマシンを使ったトレーニングもでき、インストラクターから適切な筋トレ種目の作成や興味ある情報も得やすいため自宅での運動とは違った利点も存在します。例えばチニングという懸垂系トレーニングであれば背筋だけでなく大円筋といった肩周りや腕への刺激としても最適です。
背中のトレーニング方法
引き締まったメリハリのある背中は見た目の魅力的と同時に高い機能を有し身体を動かすための原動力となる重要なポイントです。
背中を効果的に鍛えるためにはどうすればいいのでしょうか。その方法やテクニックを紹介していきます。
抗重力筋作用を利用する
姿勢を維持するための筋肉へ直接働きかける方法です。立って行うことができ壁があればさらに効果が高まります。
抗重力筋である脊柱起立筋・腹直筋・大臀筋・大腿四頭筋を使うことが可能です。壁に背を向けて立ちます。その際後頭部・上背部・お尻が壁に付くようにします。両足の踵は壁から5cm程離して立ってください。
腰の部分は掌(手のひら)が1枚、できれば2枚入る程度に壁から離れていることが理想です。掌2枚とはちょうど腰を最大限に伸ばすような状態です。こうすることで骨盤が真横から観て前側に(人によりまちまちですが)約30度程傾きます。
こうした骨盤の前傾により脊柱の生理的彎曲(せいりてきわんきょく:S字カーブ)がしっかりと整います。おそらくほとんどの日本人は普段の生活で脊椎の生理的彎曲を感じることはないでしょう。それ程理想的な解剖学的姿勢からはかけ離れた状態といえるでしょう。
トレーニング効果を確認
いかがでしょうか?なんとなく「身長が高くなった」、「目線の位置が高くなった」と感じたあなたは理想的な姿勢がとれて背中の特に抗重力筋である起立筋がしっかり働いている証拠です。
次にその目線や高く感じる身長の状態を維持しながら壁から2~3歩前に出てみましょう。壁と背中の間に隙間ができたはずです。こんどは掌が前を向くように胸の前あたりに置いてそのまま身体自体を捻じってみましょう。
壁との隙間があるため身体を捻じれるはずです。外側に向けた両掌全面で壁をしっかりとタッチして元に戻ります。体幹の捻れによってお腹周りがつりそうな感じになれば非常によい運動効果がでているといっていいでしょう。
捻じる際、壁に背を向けることで作った骨盤を前傾させる姿勢が崩れやすくなります。また普段の癖がでて目線も足元を向きやすくなってしまうかもしれません。
運動する際はこの骨盤前傾姿勢が崩れないこと、そして目線が足元ではなく遠く斜め上を観るようにするとトレーニング効果が最大限高まります。
大筋群を刺激する
1.背中で「☓(ばってん)」うつ伏せ編
脊柱起立筋を刺激する最も簡単な方法はうつ伏せ姿勢で腕と脚を片方ずつ互い違いに床から離すことです。例えば右腕と左脚を5秒程床からわずかに離す、次は左腕と右脚を5秒というように交互にしていくとちょうど背中で「X」を作る感覚です。
なぜ「腕(脚)を上げる」ではなく「床から離す」なのでしょう?
それは「上げる」にすると【勢い】で腕や脚を上げてしまうからです。【勢い】を付けると腕や脚はかなり「上がり」ますが、背中への刺激が減ってしまいます。ポイントはゆっくりと、そしてわずかに床から2~3cm程離すことです。
2.背中で「☓(ばってん)」四つん這い編
今度は少々難しい「鍛える」を実践しましょう。まずは四つん這いになります。両手・両膝がしっかりと床に付いていることを確認してください。
その姿勢から右腕と左脚、左腕と右脚と交互に四肢を上げていきます。床から離すのではなくしっかりと上げるというイメージで、互い違いの腕と脚を同時に胴体と同じ高さまで上げてみましょう。
ポイントは胴体と同じ高さまで腕と脚をあげることです。つまり水平にするのですが、それ以上、つまり身体を反らせるようにはあげないようにしましょう。
インナーマッスルを刺激する
身体には表面に付き比較的大きな筋肉達をアウターマッスル、深い部分、または背骨に直接付着する筋肉をインナーマッスルと称する呼び方があります。
中でも「体幹トレーニング(Core Exercise)」は体幹(たいかん)と言われる胴体部分の奥にあるインナーマッスル(深部筋群)を刺激する方法として有効なトレーニング方法です。
深部筋群を刺激するポイントはゆっくり実施することです。人はゆっくりした動作になればどうしてもバランスを崩しやすくなり崩れそうになるバランスを保とうとします。その際、背骨に直接つながる深部筋群が初めてしっかりと使われるようになります。
従って前述した『背中で ☓(ばってん)うつ伏せ編』や『同 四つん這い編』をゆっくり行えばインナーマッスルに効果的なトレーニング法となるのです。
ポイントは5秒以上をかけてゆっくりと床から離していき(あるいはその高さを維持し)同じ時間をかけてゆっくりとおろします。
まとめ:背中を鍛える
人の身体は地球上で生きている限り常に重力という空から地面に向かって働く圧力に対抗して生きています。
背中の筋力が弱まるとこの重力に逆らえず骨格の配列に即した形で身体の機能や見た目が変化します。その結果猫背や円背等、前屈みの姿勢になりやすく、重力の影響をモロに受ける関節の痛みや違和感、さらに代謝低下による体型変化等が懸念されます。
こうした体調の悪化に直接関わる背中のコンディションを良くするため各種の運動方法が確立されており、背中の筋肉を刺激して姿勢改善につなげるための対策として有効に利用されています。
背中の構造や筋肉の動く仕組みを知っていれば運動の効果もそれだけ高くなります。どの筋肉がどんな風に使われるかを理解すると動きのひとつひとつを身体で感じることができるからです。
背中はその人の心の中を映すいわば鏡といってもいいでしょう。美しく躍動感ある背中には大いなるあなた自身の魅力も宿るはずです。今日からあなたも背中美人を目指しましょう!
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