サーモンパッチという病気をご存知でしょうか?お子さんを育てた経験のある方や、今まさに子育て中という方は、ご存知かもしれませんね。
実は、サーモンパッチは生後間もない赤ちゃんの顔に現れる赤いシミのような痣(あざ)のことです。生後間もない時期に現れる症状ですので、どうしても心配してしまうお父さんやお母さんも多いと思います。
そこで、今回はサーモンパッチについての概要とその治療方法について、まとめてみましたので、参考にしていただければ幸いです。
サーモンパッチとは?
そもそもサーモンパッチとは、どのような病気のことを言うのでしょうか?
サーモンパッチとは?
サーモンパッチは、生後間もない新生児の額・眉間・上まぶたなど顔の前面に現れる赤い痣(あざ)のことです。この痣は、皮膚の盛り上がりを見せず、境界が不鮮明な淡い紅斑として現れます。
サーモンパッチという呼び名は、その痣の色がサーモン(鮭)に似ていることに由来しています。そして、サーモンパッチは正中部母斑の一類型でもあります。
正中部母斑
医学用語としての正中は、身体の左右の真ん中という意味です。また、医学用語としての母斑は、遺伝的要因あるいは胎生的要因で異常発生した皮膚の奇形のことを意味します。
したがって、正中部母斑は、生後間もない新生児の身体の中央あたりに現れる、遺伝的要因または胎生的要因で生じた皮膚の奇形のことを言います。
ちなみに、正中部母斑は、中部母斑・正中母斑・新生児中心性紅斑とも呼ばれることがあり、新生児の3割弱に現れるとされています。そして、正中部母斑は、サーモンパッチとウンナ母斑に分類することができます。
ウンナ母斑
ウンナ母斑は、生後間もない新生児の後頭部からうなじなど頭部の後ろ側に現れる赤い痣のことです。
サーモンパッチと同様に、ウンナ母斑も皮膚の盛り上がりが無く、境界線が不鮮明な淡い紅斑として現れます。
サーモンパッチの症状
では、サーモンパッチには、どのような症状が現れるのでしょうか?
サーモンパッチの症状
サーモンパッチの症状には、次のような特徴があります。
- 生後間もない赤ちゃんの額・眉間・上まぶたなど顔の前面に現れる
- 正常な皮膚との境界線が不鮮明な淡い紅斑や赤い痣
- 血流が多くなると赤みが濃くなることがある
- かゆみや痛みは無い
- あざの部分の皮膚は、盛り上がりが無い
- あざ自体は、生後1才半程度までに自然に消滅することが多い
生後間もない赤ちゃんの額・眉間・上まぶたなど顔の前面に現れる
サーモンパッチは、生後間もない赤ちゃんに現れる赤い痣のようなものです。そして、サーモンパッチは正中部母斑であるので、顔の中心部である部位に現れます。
具体的には、まぶたの上側、眉間、額に現れることが多いとされています。まぶたに現れる時は、左右両方同時に紅斑が出現することが多いのですが、稀に左右いずれか片側に現れることもあります。眉間と額に現れる時は、眉間を頂点にしてV字状に紅斑が現れることが多いとされています。
また場合によっては、鼻の頭、鼻の横側(鼻翼部)、鼻の下(口唇上部)にも現れることがあります。そして、鼻の周辺に紅斑が現れる時は、消えにくい傾向があります。
正常な皮膚との境界線が不鮮明な淡い紅斑・赤い痣
現れる赤あざの赤みについては、薄い淡紅色から少し濃いめの紅斑まで、その濃淡に個人差があります。
また、赤あざと正常な皮膚との間の境界線は、不鮮明でハッキリとしていません。
血流が多くなると赤みが濃くなることがある
赤あざは、赤ちゃんの血流が多くなると赤みが濃くなることがあります。例えば、赤ちゃんが泣いている時、入浴している時などは、赤ちゃんの血流が良くなるために一時的に赤みが増します。そして、血流が落ち着くと元の赤みの色に戻っていきます。
逆に、サーモンパッチによって赤みを帯びている場所を指で圧迫すると、一時的に赤みが消失します。そして圧迫を止めると、元の赤みに戻っていきます。
かゆみや痛みは無い
サーモンパッチでは、痛みや痒みが伴うことは無いとされています。
あざの部分の皮膚は、盛り上がりが無い
痣の部分は、皮膚の盛り上がりが無く、正常な皮膚と比較しても平らになっていると言えます。つまり、あざの部分は赤みがあるだけで、腫れや窪みなどは生じません。
あざ自体は、生後1才半程度までに自然に消滅することが多い
あざ自体は、生後1才半程度までに自然と消滅してしまうことが多いとされています。1才半まで赤あざが消えなくても、遅くとも3才頃には消えることがほとんどです。
ただし、稀に3才を超えても赤みが消えないことがあります。
サーモンパッチの原因
このようなサーモンパッチは、どのような原因によって生じるのでしょうか?
サーモンパッチの発症メカニズム
サーモンパッチの赤みが生じるのは、赤ちゃんの皮膚の表面に近いところに、何らかの原因で毛細血管が通常より多く形成され、しかも毛細血管が拡張するからです。この毛細血管の異常形成と機能的拡張によって、毛細血管の赤色・赤黒い色が皮膚表面に透けて見えるのです。ですから、血流が良くなると赤みが濃くなるといった症状が生じるのです。
このような発症メカニズムでサーモンパッチが現れますので、決して外傷による打撲(打ち身)ではありません。
ちなみに、毛細血管の異常形成と機能的拡張によってできる赤い痣を血管腫と言うことがあります。
血管腫について
血管腫は、毛細血管が異常形成・異常増殖したり、機能的拡張をすることによってできる皮膚のあざのような状態のことです。
血管腫という字面からは、血管の腫瘍かと勘違いしてしまいますが、血管腫の疾患としての分類上は血管奇形とされますので、血管の腫瘍でも皮膚の腫瘍でもありません。
ただし、見た目は皮膚があざのように見えるので、皮膚の異常として母斑の一類型としても扱われます。
このことから、サーモンパッチやウンナ母斑の属する正中部母斑も血管腫(単純性血管腫)の一種に含めることもあります。
サーモンパッチの原因
このような発症メカニズムのサーモンパッチですが、毛細血管の異常形成や機能的拡張が生じる原因については、未だ明確に解明されていません。
親からの遺伝によって発症するという見解もあれば、毛細血管の異常形成に神経機能の発達が追いつかないために発症するという見解もあります。
サーモンパッチの治療方法
では、サーモンパッチが現れた場合、治療をしたほうが良いのでしょうか?また、治療をするならば、どのような治療法があるのでしょうか?
基本的に治療の必要は無い
サーモンパッチの症状の項で述べましたが、あざ自体は、生後1才半程度までに自然と消滅することが多く、1才半まで赤あざが消えなくても、遅くとも3才頃には消えることがほとんどとされています。
統計的には、生後1才半までにサーモンパッチが消えるのは発症者全体の約80%、3才頃までに消えるのが発症者全体の約90%とされています。
したがって、基本的に3才を過ぎる頃までは、治療の必要は無いと考えられています。
自然消滅しない時は?
このようにサーモンパッチが現れても、発症した子供の約90%で、3才頃までには自然とサーモンパッチが消えています。
しかしながら、残りの約10%の子供には、3才を超えても赤みが残る可能性があります。その場合は、皮膚科や形成外科などの病院を受診し、医師と相談して治療の検討を開始します。
レーザー治療
サーモンパッチの具体的な治療方法は、レーザーの照射による治療が一般的です。
レーザーは、特定の波長だけを増幅して発生させた光のことを言います。また、極めて短い時間だけ流れる電波や信号のことをパルスと呼びます。そして、極めて短い時間だけ出力されるパルス幅のレーザーを照射することで、正常な皮膚組織を損傷させることなく、あざなどの異常組織だけを治療する方法が、レーザー治療です。
そして、血管腫の治療に適しているとされるのが、パルス色素レーザーです。パルス色素レーザー治療を可能にしたのが、米国のキャンデラ社製のVビーム(Vビームレーザー)という製品で日本の多くの医療機関にも導入されています。
ただし、レーザー治療は効果が高い治療方法ではあるものの、万能ではありません。レーザー治療に当たっては、次のようなことを認識しておく必要があります。
痛みを生じる
パルス幅のレーザーを照射すると、一瞬だけ光が当たり、輪ゴムではじかれるような痛みが感じられます。大人なら耐えられない痛みではありませんが、子供の場合は麻酔を使用することが多いようです。
目に当たると危険
レーザー光線を直視すると、出力の低いレーザーであっても失明をする危険があります。このようにレーザー光線は目に当たると危険なので、治療中は専用眼鏡などで目を保護する必要があります。
子供の場合、痛みで動いたり、ときには暴れることがあるので、その際にレーザーが目に当たるリスクを回避するために、全身麻酔を行うこともあります。
一度の照射では治らない
サーモンパッチは、パルス色素レーザーの照射を1回するだけで治るわけではありません。通常は、複数回の通院治療が必要になります。焦らずに、根気よく通院治療していくことが重要です。
完全に消えないこともある
皮膚科や形成外科によっては、導入しているレーザー機器の種類が異なります。レーザーの波長のちょっとした違いで、期待される治療効果が現れないこともあります。
また、血管腫に効果が高いと言われるパルス色素レーザー(Vビーム)であっても、万能では無いのでサーモンパッチを完全に消失させられないケースがあります。
サーモンパッチと区別が必要な赤痣
サーモンパッチの他にも、新生児や乳児には赤い痣が現れることがあります。そこで、サーモンパッチ以外の赤い痣について、ご紹介したいと思います。
単純性血管腫(ポートワイン母斑・火炎母斑)
単純性血管腫は、先天性の生まれつき赤い痣のことで、皮膚の盛り上がりもありません。サーモンパッチやウンナ母斑の属する正中部母斑との違いは、正常な皮膚との境界性が明瞭であること、また、自然消失しないことです。
単純性血管腫のあざの色は、ピンク色から濃い紫色まで個人差があり、炎のように赤い症例から火炎母斑と呼ばれたり、赤ブドウ酒のように濃い紫色の症例からポートワイン母斑とも呼ばれます。
単純性血管腫の好発部位は、顔面や頸部(首)とされていますが、その他に手足などにも現れます。
単純性血管腫の治療方法
単純性血管腫のあざ治療についても、サーモンパッチと同様にパルス色素レーザーによる治療が有効とされています。ただし、サーモンパッチとは違い自然治癒しませんので、できるだけ早く治療を開始するほうが望ましいとされています。
イチゴ状血管腫(苺状血管腫)
イチゴ状血管腫は、生後数日から生後1ヶ月程度の赤ちゃんに現れる赤い痣で、皮膚の盛り上がりがある状態です。症状の現われる当初は、小さな赤い点が内出血のように複数出てきます。そして、赤痣が時間の経過とともに皮膚の盛り上がりを見せて、いちごの表面のようにブツブツを形成しながら大きくなります。
イチゴ状血管腫は、発生後は生後3~7ヶ月程度の時期をピークにして、成長とともに徐々に症状が自然消失していきます。5才頃には発症者全体の50%、7才頃までには発症者全体の75%が自然治癒します。
イチゴ状血管腫は特に顔に発生しやすいとされていますが、身体の表面にならば、どこにでも発生する可能性があります。
イチゴ状血管腫の治療方法
イチゴ状血管腫は、サーモンパッチと同様に自然治癒しますので、基本的には治療はせずに経過観察をします。ただし、顔に現れたものや大型のものについては、レーザー治療などで治療を行います。
ウンナ母斑
ウンナ母斑は、前述のようにサーモンパッチと同様に正中部母斑に属するので、サーモンパッチとは発生場所が異なるだけの疾患です。ですから、症状、原因、治療方法は、サーモンパッチと同様です。
ただし、サーモンパッチほど自然消失はせず、約50%近くは成人になっても痣が残ります。とはいえ、後頭部やうなじに発生するため、髪の毛に隠れることから、治療せずに放置しても特段悪影響はありません。
赤ちゃんに現れる他の色のあざ
赤ちゃんには、赤色のあざ以外に他の色のあざが現れることがあります。そこで参考までに、他の色のあざについて簡単にご紹介したいと思います。
青色のあざ
青色のあざについては、基本的にメラノサイトと呼ばれる色素細胞が、本来存在しないところに残存することで生じます。残存したメラノサイトが、メラニン色素を生成することで、その色が皮膚に透けて見えるのです。
青色のあざが現れる病気としては、次のようなものが挙げられます。
- 蒙古斑
- 太田母斑
- 異所性蒙古斑
蒙古斑
蒙古斑は、赤ちゃんのお尻や背中に現れる先天性の青い痣で、表面は平坦で、正常な皮膚との境界は不鮮明です。日本人の赤ちゃんには、ほぼ蒙古斑が現れるとされています。10才前後までに自然消失するのが通常です。
太田母斑
太田母斑は、生後半年以内に現れる青い痣で、場合によっては茶色や黒色として現れることがあります。蒙古斑と違い、自然消失することはありません。好発部位は、おでこ、頬、鼻、首筋などとされています。
詳しくは、太田母斑の症状とは?原因・治療法を知ろう!レーザー治療が有効な理由はなぜ?を参考にしてください。
異所性蒙古斑
異所性蒙古斑は先天性の青い痣で、簡単に言いますとお尻や背中以外に発生する蒙古斑です。腕、腹、顔など全身に現れる可能性があります。
その他の色のあざ
赤色、青色以外の色のあざも現れることがあり、代表的なあざは次の通りです。
- 扁平母斑
- カフェオレ斑
- 脂腺母斑
- 色素性母斑
扁平母斑
扁平母斑は、先天性の薄茶色のあざで、自然消失はしないとされています。
正常な皮膚との境界性は明確で、皮膚の盛り上がりなどはありません。そして、全身に現れる可能性があります。
カフェオレ斑
カフェオレ斑も、基本的に先天性の薄茶色のあざですが、生後に発症することもあります。扁平母斑との見た目に差がないため、日本ではレックリングハウゼン病の有無で扁平母斑との区別を行います。
そして、1.5㎝以上のミルク入りコーヒーのような薄茶色のあざが6個以上ある場合は、カフェオレ斑、レックリングハウゼン病の可能性がありますので、病院で診断を仰ぎましょう。ちなみに、レックリングハウゼン病は難病とされています。
レックリングハウゼン病については、レックリングハウゼン病とは?症状や原因、治療方法を紹介!を読んでおきましょう。
脂腺母斑
脂腺母斑は、顔や頭部に現れる黄色い先天性のあざです。脂腺母斑のある部分には、髪の毛が生えないという特徴があります。脂腺母斑は自然消失することがなく、思春期以降に皮膚がんになるリスクが高いとされています。
色素性母斑
色素性母斑は、いわゆる「ほくろ」のことです。黒色や黒褐色で、表面が平坦なものもあれば、皮膚の盛り上がりがあるものもあります。
色素性母斑の中でも、巨大なものは高い確率で皮膚がん(悪性黒色腫)になるリスクが高いとされています。
まとめ
いかがでしたか?サーモンパッチについての概要をご理解いただけたでしょうか?
たしかに、サーモンパッチのような赤い痣が、生後間もない我が子に現れたら、どうしても心配してしまいますよね。
しかしながら、サーモンパッチは赤ちゃんの成長とともに自然消失するものですから、過剰に心配しないようにしてくださいね。仮に自然消失しなくとも、レーザー治療によっても消失を目指すことができます。
心配なときは、医師に相談してサーモンパッチであることを確認すると良いでしょう。
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