自分の赤ちゃんや自分の体に一見、シミの様に見える茶色い色の「あざ」を見たことがありませんか?しかも、それが1個ではなく、数個以上見られることがあります。
その茶あざはカフェオレ斑の可能性があります。「シミ」ではなく、「あざ」であり、病気の一種です。カフェオレ斑の見られる病気によっては難病指定疾患に含まれるものもあるため、気になる方は早急に病院を受診しましょう。
カフェオレ斑の症状と診断
この数個の茶アザが発症する病気は、神経線維腫症Ⅰ型(NFⅠ:neurofibromatosisⅠ)という神経系の変性疾患の1つで、難病疾患に含まれます。別名、レックリングハウゼン病(Recklinghausen病)とも言います。レックリングハウゼン病の由来は、1882年に初めて、ドイツの病理学者であるレックリングハウゼン氏によって報告されたことにあります。
症状は、皮膚病変と神経性の病変に分けられます。色素性病変や神経線維腫症に関しては、患者の約半数が容姿上の深い悩みとなっています。
遺伝性の有無と、各症状について簡単に説明していきます。
遺伝性なのか?
レックリングハウゼン病は、常染色体優性遺伝疾患です。原因遺伝子は、第17番目の染色体です。第17番遺伝子のタンパク成分はニューロフィブロミンと言います。
この遺伝子の作用は、細胞の増殖を抑制します。よって、この遺伝子に突然変異が生じると、細胞増殖のシグナルが活性化され、以下に述べる様な病変を生じると考えられています。
発症する確率
人種別での差や男女差はなく、同確率で発症します。両親のどちらかがレックリングハウゼン病である場合、その両親の子供は1/2の確率で発症します。統計上では、約1/3000人の割合に発症すると言われており、遺伝性疾患の中ではとても多く見られる病気です。
遺伝性の可能性がほぼ100%とされていますが、家族がレックリングハウゼン病を有していないにも関わらず発症しているという患者が半数以上となっています。このように、遺伝子が突然変異して、両親とは異質の遺伝子をもつようになって発症するもの(遺伝子の突然変異)では、約1/10000人の確立で発.症します。
診断基準
以下に述べる症状が当てはまっている場合に、レックリングハウゼン病と診断されます。なお、遺伝子診断を行いたいという人もいますが、現在の日本では行うことができず、精査も困難です。診断方法は未だ研究段階にあります。
各専門医師が、以下の様な症状を問診と視診、触診を行って診断していきます。骨病変や眼病変などに対しては、発症している可能性がある場合と、経過観察する上でCT検査やMRI検査が行われます。
色素性病変(カフェオレ斑)
ミルクコーヒー色の様な色素斑である茶あざがシミの様に広がったものです。色味は、薄い褐色~濃い褐色(茶色)と様々です。色素斑内の色の濃淡はなく、色が明瞭です。
・出現する時期
先天性で生まれつき出現している場合と、生まれて少し経過した小児の頃から出現しだすことがあります。
・茶アザの形状
あざの高さは皮膚と同じで、膨らみなどの形状の異常はありません。円形~長円形の輪郭をしており、輪郭は、なめらかです。
・茶あざの大きさ
サイズは平均的には約5mmです。小さいものでは1.5mmの斑もあります。成人の場合は、約15mmにまでなる茶あざもあります。成長するにつれて徐々に、濃く、広がる場合があります。
・茶あざの数
統計上では、全身から茶あざの数が6個以上出現しているとレックリングハウゼン病の疑いがあります。1~2個の茶あざでは問題はないとされています。
・茶あざが出現する箇所
先天性で、生まれつき体幹部などに出現します。
皮膚病変
発症する殆どの人が、皮膚症状のみとなります。
茶あざ以外の皮膚病変として、有毛性褐青斑や雀斑(ソバカス)の様な点状の集合性素斑である雀卵斑様色素斑といった小さな色素斑を生じます。稀に、大きな色素斑が出現することがあます。これは、脇や足の付け根小さな色素斑が出現すると、この症状が疑われます。
カフェオレ斑とこれらの皮膚病変が伴うとレックリングハウゼン病である可能性が高くなります。
神経線維腫
神経線維腫が2個以上と先天性のカフェオレ斑6個以上が揃って出現している場合に、レックリングハウゼン病と診断されます。
神経線維腫は皮膚や皮下組織に出現する末梢神経の良性腫瘍に分類されます。神経線維腫症Ⅰ型の原因遺伝子NF1があり、半数以上がこの遺伝子の突然変異によって神経線維腫を発症します。優生遺伝疾患になります。
・皮膚の神経線維腫
約20%に合併します。生下時には出現しておらず、思春期以降に出現します。身体のあらゆる箇所に様々な大きさの線維腫が多発した場合、神経線維腫が疑われます。
この線維腫は、柔らかい瘤状(りゅうじょう)の腫瘤です。このようなふくらみ、瘤(こぶ)が出現したら要注意です。神経線維腫の数・大きさはカフェオレ斑と同様、個人差があり、同じ家族でもそれは異なります。痛みや苦しさといった生活に支障が出るような症状は伴いません。
・神経性の神経線維腫
皮膚の深層部や、身体の内部奥にある大きな神経に生じる神経線維腫です。そのため、痛みを伴うことが多いです。
・びまん性神経線維腫
これは、約10%に合併します。先天性で、生まれつき大きな色素斑の下に出現する神経線維腫です。徐々に大きくなっていき、腫瘍が垂れさがっていくことが多いです。
その他、軽い外傷などの刺激によるものや何らかの原因によって急に腫瘍が大きくなった場合は、腫瘍内に出血を生じている可能性や、悪性化している可能性があります。早急に病院へ行きましょう。また、そうならないためにも定期的に受診するようにしましょう。
・悪性末梢神経鞘腫瘍
その名の通り、神経線維腫が悪性化した悪性腫瘍です。皮膚病変の神経線維腫から生じることは稀です。びまん性神経線維腫や神経性の神経線維腫から生じることが多いです。
腫瘍が急に大きくなる、急に固いシコリが生じる場合、悪性末梢神経鞘腫瘍である可能性が高いです。予後にも述べていますが、頻度は稀です。しかし、健常者と比較すると悪性腫瘍の合併率は高いです。
骨病変
稀に、頭蓋骨や顔面骨の骨欠損、四肢骨の変形や骨折、脊柱や胸郭の変形(側弯症など)を引き起こします。難治性となります。先天性に骨欠損しているケースもあります。
眼病変
稀に、虹彩小結節(眼の虹彩に出現する小さな良性腫瘍)、視神経膠腫(眼球の奥の視神経に出現する良性腫瘍)を生じます。
脳脊髄腫瘍
稀に、脳神経や脊髄神経の神経繊維腫、髄膜腫、脳腫瘍、血液腫瘍、視神経膠腫や脳波異常などを引き起こします。
知的障害、学習障害、注意欠陥・他動性障害
軽度の発達障害を伴うことがあります。レックリングハウゼン病の人に多い特徴として、軽度の学習障害、軽度の言語障害、頭の大きさが大きいといったものが挙げられます。個人差がありますが、学習障害以外に、知的障害や注意欠陥・多動性障害を伴う人もいます。
これに加え、レックリングハウゼン病は、生まれながらに発症しており、神経線維腫に関しては学童期に出現し始めます。学校に毎日通う子供にとっては、外観に悩み、病気に理解のない年の、他の子供に嫌がられる可能性があるなど精神的な苦痛がでてきます。
学校を通して、病気の状態や特徴、対応の仕方を伝え、他の子供たちに病気を理解してもらい、病気をもっている子供が毎日学校に通いやすい環境を作っていくことが大切です。
その他の症状
褐色細胞腫、Unidentified bright object(UBO)などがあります。
他の疾患との鑑別診断が必要
視診だけではそれぞれの茶あざがどの疾患のものかの区別が難しいです。それぞれの茶あざが見られる疾患について簡単に説明をします。
ちなみに、茶あざがカフェオレ斑と判断された場合はレックリングハウゼン病のもので、扁平母斑の症状とは異なるものになります。扁平母斑はレックリングハウゼン病とは異なり、悪性化しないため不安にならなくても良い病気です。
・扁平母斑(先天性と遅発性)
扁平母斑は、身体の様々な箇所に扁平上に茶あざができる病気です。「茶あざ」と言うと、一般的なものは先天性(生まれつき)の扁平母斑を指します。
先天性なので、親の遺伝子に左右される遺伝性のものになります。遅発性扁平母斑もあり、これは思春期から発症します。これらの茶あざの原因はメラニン色素が皮膚の浅層で増加することによって起きます。
・ベッカー母斑
強い紫外線を吸収した後に生じます
。吸収した紫外線によって、色素細胞であるメラノサイトが変質して茶あざが出現します。主に、肩や腰周囲に出現し、その茶あざには濃い発毛を伴います。
・神経線維腫症Ⅱ型
原因遺伝子(FN2: neurofibroma Ⅱ))がⅠ型とは全く異なる病気です。Ⅰ型とⅡ型では、Ⅰ型の方が発症率は高いです。神経線維腫症Ⅱ型では、Ⅰ型と同様にカフェオレ斑が見られます。
その他に見られる症状は全く異なります。Ⅱ型では聴神経腫といった、耳の奥に神経系の腫瘍が生じやすくなることが特徴です。これにより、耳の聞こえがとても悪くなります。
カフェオレ斑の治療法
レックリングハウゼン病(神経線維腫症Ⅰ型)で見られるカフェオレ斑は、神経性の腫瘍が骨や眼、脳といった器官にも影響するため、腫瘍を除去する対症療法が必要不可欠となります。患者と応相談し、決めていきます。
薬剤などでは根本的な治療は困難であり、再発リスクは高いです。類似疾患であるアルブライト症候群も同様です。
受診する病院
美容的観点で診ることもあり、美容形成外科での施術も可能とされていますが、難病である可能性もあります。皮膚形成外科など皮膚科医のいる病院へ行くことをオススメします。
また、先天性で小児に発症するため、小児科医に診てもらうことも可能です。学習障害や知的障害、注意・欠陥多動性障害の対応の仕方に関しては、小児科の医師やリハビリテーションが専門知識をもっているため、そこに頼ると良いでしょう。
早期発見、早期治療のため、まずは小児科に定期的に受診するようにしましょう。検査をしっかり行える設備の整った、臨床経験豊富な医師のいる病院を選ぶと良いでしょう。
経過観察
カフェオレ斑は悪性ではないため、特に急きょ取り除く必要はなく、最初は経過観察となることが多いです。しかし、神経線維腫症が悪性化している場合は別です。
また、カフェオレ斑の色が濃くなってきた場合や、大きい場合には皮膚科でのレーザー治療を検討します。定期的な経過観察が必要です。
外科的手術
優先される方法は、外科的手術です。皮膚病変では、美容的な観点より、美容形成外科にて施行される場合がありますが、皮膚科も施術します。
手術でメスを用いて神経線維腫を切除し、縫合する方法や、メスで皮膚の表面を削るといった削皮術があります。局所麻酔をして切除します。
茶あざの数が少なければ局所麻酔で良いですが、数が多い場合には全身麻酔を行う場合もあります。
術後は、棒線状のメスを入れた後の瘢痕が残ります。確実に切除できる方法ではありますが、傷跡を残したくないという場合は、レーザー治療を選ぶと良いでしょう。
側弯症などの骨病変の場合は、確実に整形外科での外科手術を受けることになります。整形外科にて定期的に診察をして必要であれば行います。手術による術後の麻痺(痺れ)や感覚障害などの合併症や後遺症が生じる可能性は数%と言われますが、必ずないとは言い切れません。状態によっては、手術後にリハビリテーションも行います。
レーザー治療
幾つかある治療法の中でも、短パルスレーザーというレーザー治療が最も有効的とされています。特に効果が発揮されるのは、おおよそ5人に1人と言われています。また、成人よりも乳幼児への反応が良いとされています。
機械は、JMEQ社のQスイッチ・ルビーレーザーThe RubyZ-1を取り入れている施設であれば、保険治療として治療を受けることができます。保険が適用され、全て自費ではないため、治療費用を抑えることができます。
このレーザーを1度照射すると色が綺麗に消えます。しかし、再発が多く、レーザー照射部の大部分の色が消えた後、毛穴に黒色の斑点や、照射後に色が濃くなるといった色素沈着や色素脱失が見られる可能性があります。治療が成功し、外観が良くなれば精神的ストレスも緩和されます。
皮膚表面を冷やす
ドライアイスや液体窒素スプレーを利用して皮膚の表面を凍らせて除去する方法があります。局所麻酔は使用しないため、痛みを多少伴います。
効果はありますが、瘢痕(はんこん)が残るといった副作用があります。
日常生活上での注意点
皮膚のみの患者は、再発する可能性は低いですが、風邪を引くと再発するという患者もいます。風邪を引かないように常に注意し、予防を心掛けましょう。風邪を引いたら皮膚の状態も診てもらうようにし、状態によっては風邪治療と同時に皮膚の治療も行います。
また、長時間、寒い場所で立っている状況になると再発する可能性があります。そういったことにならないように気を付けましょう。秋・冬などの寒い時期には常に使い捨てカイロを持ち歩くといった考慮も必要です。
患者への指導
年齢によって合併症や発症頻度が異なります。そのため、医療機関と患者や家族に注意が必要な症状について情報を共有することが必要となります。
なお、食事や栄養面での注意点はないと言われています。
その他の治療
死亡例はごくわずかです。医学の進歩はなされていますが、神経線維腫を抑制するような薬物療法や遺伝子治療は未だ有効な治療法は見つかっていません。
顔面の茶あざに対しては、カバーファンデーションといった化粧品も有用です。
予後
生命予後は比較的良好です。悪性末梢神経鞘腫瘍への合併率は数%と、可能性は低いですが、必ずしもかからないとは限らないので、用心が必要です。つまり、良性腫瘍である神経線維腫が悪性化する可能性は低いということです。
また、骨病変や眼病変、脳病変、脳脊髄病変などの症状が出現するケースも少ないです。思春期以降に出現する可能性がある神経線維腫の症状にも、痛みや痒み、痺れといった知覚障害、レックリングハウゼン病によって身体がとても辛くなるなど、生活を制限するような症状は出現しません。よって、殆どのレックリングハウゼン病患者は健常者と変わらないような生活をすることができています。
医療費公費補助
レックリングハウゼン病は、日本国では難病指定に含んでいます。
2015年1月より、指定難病の新制度が更新されています。現在、レックリングハウゼン病ではstage4以上が適応であったものが、stage3以上の重症者に医療費公費の補助がでるように認定されています。stage1~2の軽症者には補助は出ません。
また、美容目的にて美容形成外科で治療を行う場合、保険が適応されない可能性があります。指定難病の詳細に関しては何度も見直しされ、時が経過すると変更されます。厚生労働省の難病情報センターのホームページにて確認できます。
まとめ
身体に茶色いあざを見つけた際は、シミの可能性もありますが、実はレックリングハウゼン病のカフェオレ斑という症状で病気である可能性があります。
良性ではありますが、経過によっては悪性化する可能性もあります。身体に褐色のシミをみつけた場合には、一度皮膚科で確認してもらい、経過観察してもらえるようにすると良いでしょう。
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