ストロフルス・・・聞き慣れない言葉ですね。小さいお子さんのいる家庭では、耳にすることがあるかもしれません。
ストロフルスとは、5歳以下の幼児に発症する急性痒疹(きゅうせいようしん)のことです。痒疹とは、強い痒みのある皮膚の炎症です。大豆くらいの大きさの塊(かたまり 丘疹)ができます。水疱瘡(みずぼうそう)の初期や蕁麻疹(じんましん)の発疹に似ているようです。だるくなったり、お腹の調子が悪くなったりすることもあります。2日~10日程度症状が続きますが、たいていの子供が1ヶ月前後で回復します。
ストロフルスは、虫に刺されたアレルギー反応ともいいます。アレルギー体質の子供にストロフルスができやすいようです。
ストロフルスの原因と症状、治療法、予防法などについて、お伝えしますね。
ストロフルスとはどんな病気?
ストロフルスは「小児ストロフルス」というくらい、5歳以下の子供が発症しやすい病気です。特に、生後5ヶ月から2歳児くらいまでの発症が多いようです。
ストロフルスは急性痒疹の1種です。痒疹(ようしん)というのは、強い痒みのある丘疹や結節が次々にできる皮膚炎症反応です。1ヶ月以内に治る場合は、急性痒疹といいます。痒疹が数ヶ月以上続く場合は、慢性痒疹といいます。
痒疹は大人にも発症しますが、ストロフルスとは呼ばないようです。痒疹性丘疹ができると、固定蕁麻疹(じんましん)」といいます。慢性化することが多く、数年間も症状が続きます。
幸いなことに、ストロフルスの発症は、近年、減少傾向にあります。生活の向上や虫の減少、ステロイド外用薬の進歩などのおかげのようです。
[ストロフルスの原因]
ストロフルスは蚊やブヨ、ダニ、ノミなどの虫に刺された後に発症します。ストロフルスを発症した子供は、昆虫アレルゲンに対する皮膚内反応陽性率が高いので、虫に刺されたことに対するアレルギー反応と考えられます。乳幼児は免疫機能が未成熟なので、虫の毒素や唾液に対し、過敏反応しやすいのです。
ストロフルスは虫刺されによって発症するので、夏に多い疾患です。でも、虫に刺された子供が全員ストロフルスを発症するわけではありません。
ストロフルスの発症には、子供の体質が関係しているようです。アレルギー体質やアトピー体質の子供が発症しやすいといいます。そのため、「食物アレルギー反応の1部分ではないか」という説もあります。一般的には「虫刺されに対するアレルギー反応」と言われています。
アレルギー体質
ヒトの身体は体外から侵入した異物および体内で発生した異物を排除する「免疫機能」を持っています。免疫機能は、通常、ヒトの身体を健康に保つ砦(とりで)で、武器ですが、時には、特定の物質に対して過剰に反応してしまいます。免疫機能が過敏反応を起こしてマイナスに働くことをアレルギー反応といいます。アレルギー反応を起こす物質をアレルゲンといいます。
ヒトは外から侵入する異物に対して抗体を作って迎え撃ちます。アレルギー体質のヒトは抗体ができやすいので、過敏反応を起こしてしまうのです。
アトピー体質
アトピー体質は、ダニやハウスダスト、スギ花粉、牛乳や卵白などに対する抗体を作りやすく、免疫機能が過剰に働いてしまいます。気管支喘息・アレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎・アトピー性皮膚炎を起こしやすくなります。このような体質をアトピー素因といいます。
アトピー素因は遺伝しますが、実際に発症する場合は、生活環境などが大きく関係します
また、極めてまれですが、糖尿病や胃腸障害、血液疾患や肝臓疾患が原因でストロフルスを発症することがあります。
[成人の痒疹]
成人にも痒疹が発症します。成人の場合は、慢性痒疹になります。固定蕁麻疹(結節性痒疹)や多形慢性痒疹などです。
成人の場合も、虫刺されによって慢性痒疹が発症します。痒疹性丘疹という赤い少し盛り上がったような発疹ができます。とても痒いので、つい、かいて皮膚を傷つけてしまいます。傷ついた皮膚が増殖してイボのような固い結節になり、大豆程度の大きさになります。時には数cm大になることもあります。これを固定蕁麻疹または結節性痒疹といいます。
発疹がくっついて現れると、多形慢性痒疹といいます。
いずれも、症状が数ヶ月から数年間続きます。治っても、色素沈着や色素脱出を起こして、茶褐色の痕が残ります。治ったと思っても、しばしば再発します。やはり、アレルギー体質が関係しているためでしょう。
成人の痒疹の原因は、虫刺されだけではありません。糖尿病・胃腸障害・血液疾患・肝臓疾患が原因となります。これらの原因となる疾患をきちんと治療しないと、慢性痒疹も治りにくく、再発をくり返します。
特殊な痒疹には、へブラ痒疹・妊娠性痒疹・色素性痒疹・尿毒症性痒疹・夏季痒疹があります。
ストロフルスの症状
ストロフルスの典型的な症状は、倦怠感(けんたいかん=身体がだるい感じ)とブツブツした発疹です。痒みが強いので、そのために不機嫌になったり、よく眠れなくなったりします。胃腸障害を起こすことも、かきむしった傷から細菌感染を起こすこともあります。
[ストロフルスの症状]
虫に刺された後、急に身体がだるくなります。幼児ですから、うまく表現できません。元気がなくなり、動作が鈍くなります。不機嫌になることもあります。
手足や身体の虫に刺された部分に、強い痒みのある、ブツブツした発疹ができます。米粒大から小豆大の蕁麻疹(じんましん)に似ている赤い発疹です。蕁麻疹なら、数時間で消えますが、ストロフルスの場合は、数日間、発疹が続きます。この蕁麻疹に似た発疹を膨疹(ぼうしん)といいます。
膨疹の次に、漿液性丘疹(しょうえきせいきゅうしん)ができます。中心部に水ぶくれのある、赤く、盛り上がった発疹です。痒みが強いので、つい、ひっかいてしまいます。かきむしって傷つけると、ジュクジュクした感じになります。
結節という瘤(こぶ)のような盛り上がりができることも、水疱や膿疱ができることもあります。
2日から10日くらい症状が続きますが、だんだん、小さな茶褐色のしこりになり、やがて茶褐色の痕(色素沈着)を残して治ります。茶褐色の痕は、時間とともに薄くなり、目立たなくなります。ほとんどが、数週間程度で治ります。
ストロフルスは「虫に刺されて起こるアレルギー反応」なので、しばしば再発します。
[強い痒みによって生じる症状]
ストロフルスは強い痒みがありますから、乳幼児はがまんすることができません。痒みのために不機嫌になり、泣いてぐずったりします。親は、乳幼児がかきむしって傷をつけないようにするので、よけい機嫌が悪くなります。
痒みのために、よく眠れなくなります。睡眠不足で、よけい不機嫌になります。
また、痒みのために食欲がなくなります。
睡眠不足と食欲不振で、乳幼児の体力が落ちます。
胃腸障害
痒みが原因で起きるわけではありませんが、ストロフルスは離乳時の幼児に起きやすいので、胃腸障害を起こすことがあります。せっかくうまくいきかけた離乳が後退することもあります。
伝染性膿痂疹とリンパ節炎
ストロフルスはとても痒いので、乳幼児は、がまんできずにかきむしります。かきむしった傷口から細菌が入り、感染症を起こします。
(伝染性膿痂疹)
伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)とは、小児の皮膚に生じる細菌感染症の1種です。火事の飛び火のように全身に広がっていくので、俗に「トビヒ」と呼ばれています。
汗疹(あせも)や虫刺されをかきむしって皮膚を傷つけると、傷口から細菌が侵入して感染します。ストロフルスの場合も、がまんできないほど痒いので、乳幼児はかきむしって、傷をつけてしまいます。傷口から、黄色ブドウ球菌や化膿連鎖(かのうれんさ)球菌が侵入して感染します。黄色ブドウ球菌も化膿連鎖球菌も、健康な人の皮膚表面や鼻孔中の常在菌です。
黄色ブドウ球菌に感染すると、水疱ができて、膿を持つようになります。水疱が破れると、皮膚がめくれて、ただれたようになります。伝染性膿痂疹も強い痒みがあるので、小児はひっかいてしまいます。膿が手指について、身体の他の部分へ広がっていきます。
化膿連鎖球菌に感染すると、膿疱(膿を持つ水ぶくれ)ができて、厚いカサブタに覆われます。炎症が強いので、リンパ節が腫れたり、発熱したり、喉に痛みが生じたりします。膿疱をかくと、手指に細菌がつき、全身に広がります。
(リンパ節炎)
ストロフルスをかきむしって皮膚を傷つけると、傷口から細菌が侵入して感染します。リンパ節は、細菌感染が全身に広がらないように食い止める役割をしているので、リンパ管を通じて侵入した細菌と戦います。そのため、リンパ節に炎症が起きます。これがリンパ節炎です。
リンパ節炎が起きると、リンパ節が腫れて痛みます。発熱することもあります。
ストロフルスの治療と予防
ストロフルスの治療は、虫刺されの治療のためにステロイド外用薬を用いると同時に、痒みを抑えるために抗ヒスタミン剤を服用します。
ストロフルスは虫刺されで引き起こされることが多いので、虫に刺されないようにすることが、一番の予防策になります。また、アレルギー体質やアトピー体質が関係しているようなので、体質改善も予防策になります。
[ストロフルスの治療]
ストロフルスの治療は、虫刺されの痒みや炎症を抑えるためにステロイド外用薬を用います。伝染性膿痂疹やリンパ節炎などの二次感染を抑えるために、抗菌薬入りのステロイド外用薬を用います。
伝染性膿痂疹やリンパ節炎を起こした場合は、抗菌薬を内服することもあります。強い痒みを抑えるためには、抗ヒスタミン剤を服用します。
ストロフルスをかきむしって、皮膚に傷をつけないように手指の爪を短く切り、手指と患部を常に清潔に保つようにします。
[ストロフルスの予防]
ストロフルスの予防は、虫に刺されないように注意することです。虫除けスプレーを使用し、手足の肌を露出しないように、長袖や長ズボンを着用します。蚊取り線香など除虫剤を使うのも効果的ですね。
特に、夏季のアウトドアは要注意です。戸外でのお昼寝には蚊帳や虫除けを必ず用意してくださいね。野山の草むらにはダニやブヨなどが沢山います。
アレルギー体質やアトピー体質の乳幼児は、特に注意することをオススメします。
[体質改善]
虫に刺された乳幼児が、みんなストロフルスを発症することはありません。ストロフルスの発症には、アレルギー体質やアトピー体質が、大きく関わっているようです。ストロフルスの発症や再発を防ぐために、体質改善が必要です。
アレルギー体質もアトピー体質も遺伝的要素が強いので、体質改善は容易なことではありませんが、アレルギー反応を多少抑えることはできます。
室内を常に清潔に保ち、ハウスダストやダニなどのアレルゲンを除去するようにします。こまめに掃除したり、空気清浄機を使用したりすると、アレルギー症状が改善することもあります。
夜更かしや偏った食事をしないように注意し、ストレスを溜めないようにします。乳幼児の生活は大人にコントロールされていますから、規則正しい生活をすることは、成人より簡単です。ストロフルス発症の時期は離乳時期と重なることがあるので、バランスのいい離乳食を与えることが大事です。「乳幼児にストレスなどあるはずがない」と思われがちですが、空腹や痒みや痛み、身体の不調、睡眠不足、濡れて不快なオシメなどは、乳幼児のストレスになるのです。
まとめ ストロフルスは虫刺されに対するアレルギー反応
ストロフルスは、虫刺されに対するアレルギー反応の1種と考えられます。生後5ヶ月から2歳児くらいまでが発症のピークで、5歳を過ぎると、ほとんど発症しなくなります。
ストロフルスは急性痒疹の1種ですから、たいていは1ヶ月ぐらいで回復します。成人の場合は、慢性痒疹となることが多く、症状が数ヶ月から数年続きます。ストロフルスも慢性痒疹も再発することが多いようです。
ストロフルスは、がまんできないほど強い痒みを伴います。初めは、蕁麻疹のような赤いブツブツができますが、痒くてひっかいているうちに、少し盛り上がって固くなります。かきむしって皮膚を傷つけると、細菌が侵入して二次感染を起こし、全身に広がることもあります。
強い痒みのために、眠れなくなったり、不機嫌になったり、食欲不振に陥ったりします。胃腸障害を伴うこともあり、乳幼児の体力が落ちます。
ストロフルスは虫刺されが原因となることが多いのですが、アレルギー体質やアトピー体質が大きく関わっているようです。遺伝的要素が強いので、家族にアレルギー症やアトピー性皮膚炎などがあったり、幼い頃にストロフルスを発症したりする者がいたら、要注意です。
虫に刺されないようにすることが、ストロフルスの一番の予防です。また、体質改善をすることが、予防や再発防止に効果があります。
虫に刺された後、急に赤いブツブツができたら、すぐに小児科医の診療を受けてください。