戦前はとても多く見られた「しらくも」、その後あまり見られなくなりましたので、なんのことかピンとこない方も多いと思います。しかし、ここ10年ほど前から、高校生格闘技選手などの間で団体発生したとの報告もあがっています。簡単に言ってしまうと足の水虫の原因ともなる白癬菌(はくせんきん)が頭皮に付着し炎症を起こすものです。
そう聞くと恐くなってしまうかも知れませんが、治癒できる病気であり、予防率も高いものですから、安心してください。頭部の水虫しらくもについて、感染しないためにはどうしたらよいか、ほかの水虫との関連も併せて詳しく見てみましょう。
しらくもとは
感染する皮膚炎で、頭部白癬(とうぶはくせん)が正式病名です。白癬菌(はくせんきん)が頭の毛に付着して発症する症状のことを指し、通称”しらくも”と呼ばれています。
実は白癬菌には沢山の種類があり、感染部位によって種類も違ったり、共通したりするものもあります。足に感染すると痒い水虫、股間に感染するとインキンタムシなど聞いたことのある病気も、白癬菌のしわざなのです。
さて、では頭部白癬、しらくもはどんな症状でどこからやってくるのでしょうか。
しらくもの主な症状
足の水虫と違い、痒みがあまりないのが特徴でもありますが、他にも次のような自覚症状があげられます。また、年齢に関係なく感染しますので、家族内に感染源があるケースも多いので、特徴を知っておきましょう。
- 頭部にフケが付着する
- 患部の境界線に比較的くっきりとわかりやすい状態の不完全な脱毛部位があらわれる
- 脱毛斑(脱毛した範囲)の中に残っている毛は抜けやすく、折れやすい
- かゆみはない
- 楕円形に髪の毛が抜ける
髪の毛が抜け始めて気づく方も多いようです。その時点ではすでに進行している状態なのですが、痒みがないために、医師でも判断を間違うこともあるほどで、間違った処方箋の適用で症状を悪化させてしまうケースも少なくありません。
間違えられやすい似た病気
かゆみがほとんどないことから、円形脱毛症やフケ症、脂漏性皮膚炎と間違われてしまうことが多いようです。
円形脱毛症との違い
円形脱毛症は知らぬ間に毛が円形に抜けるなどして気が付きますが、初期症状ではしらくもと同じく痒みはあまりないため、医師でも見分けがつきにくいものです。円形脱毛症はストレスなどが原因のことも多いのですが、赤く炎症を起こすこともあります。
もしかしたらと思ったら、しらくもも疑ってみたほうがいいかも知れません。病院へ行って検査をしてみてはいかがでしょうか。
脂漏性皮膚炎・フケ症との違い
フケは死んだ細胞ですから、落ちるのが当然です。けれども、毎日大量に落ちるとなると、これは皮膚組織の新陳代謝に何らかの異常が起きている可能性があります。毛穴から出る皮脂が多すぎたり、これを好む癜風菌(でんぷうきん)と呼ばれる菌(これも真菌、カビです)がついた場合、菌が皮脂を食い散らかし、食べかすが大量のフケとなって散ることもあります。
やはり、しらくもの初期症状との違いは素人では判断がつきにくいので、病院で検査をしてもらうことをお勧めします。
間違えたら大変なことに
上記のしらくもではない病気だと誤診されてしまい、ステロイド剤の外用薬が使われると、症状を悪化させることになりかねません。
おできのようになってしまったり、膿んでしまったりすることもあります。酷い場合には痛みもあり、そのせいで禿げてしまうこともあります。この症状はケルブス禿瘡と呼ばれており、ステロイド外用薬の誤用によってこのケルブス禿瘡になってしまうケースは少なくありません。
急な脱毛、大量のフケなど自覚症状がありましたら、医師に検査をお願いすることをお勧めします。
しらくもの主な原因
子供にも多く、年齢はあまり関係ありません。直接的な原因としては、白癬菌の付着、感染です。白癬菌のある数種が頭部につき、毛穴などにあるたんぱく質を食糧として繁殖し、糸状に根をはることで、毛が抜けてしまう、あるいは毛を生成する毛根が傷めつけられてしまい、結果的に禿げができるという症状につながります。
これら白癬菌はカビと同じで、じめじめして暖かい、いわゆる高温多湿の状態が大好きです。温度が15度以上で湿度が70%以上になると急激に増えると言われています。
しらくもの直接原因になりやすい白癬菌の種類
白癬菌は真菌(カビ)の中の皮膚糸状菌という種類です。この白癬菌はなんと40種類以上もあるのですが、中でも人につくのは10種類程度あり、様々な部位に白癬を発症させます。
白癬菌はケラチンというたんぱく質が栄養源とするのですが、このケラチンが多い場所というのが、皮膚の表面の角層なのです。垢がたまる場所も大好きですし、また毛や爪はそのものが角層が変化したものですから、白癬菌がついて、増殖する条件さえそろえば、一気に増えてしまうのです。頭部白癬の原因となる白癬菌には、主に2種類が強力です。
ミクロスポルム・カーニス(犬小胞子菌)
この菌は、犬や猫などペットにもつきます。ペットから人、または人からペットにうつることもあります。最近話題になった下記に示すトランズランス菌よりはやや感染力は弱いらしいのですが、それでも条件さえそろえば、繁殖します。
トリコフィトン・トランズランス(トランズランス菌)
以前は日本には無かったものなのですが、2000年頃から、格闘技選手の間でこの菌による頭部白癬や体部白癬の集団発生の報告が出るようになりました。
もともとは中南米で見られる菌で、1960年代にはアメリカでも確認され、1990年代にはヨーロッパに広まりました。格闘技を通じて海外から国内にこの真菌が持ち込まれたのではないかという説が有効ですが、いまや格闘技選手だけでなく、家庭内にもこの菌による感染症がみられるようになっています。この菌による足部への感染は報告がありません。
しかし、従来から日本にある菌よりも感染力が強いとされており、肌をこすり合わせただけで感染し、頭髪の毛根部に好んで寄生する性質があるといわれています。顔や体に出来たこの白癬をただの湿疹と思い放置してしまうと、やがて頭髪に感染するケースもあるということです。
足や爪の水虫からはうつらないのか
足に生じる白癬は足白癬(あしはくせん)といい、通称は水虫としてよく知られています。股間に出来るものは股部白癬(こぶはくせん)といい、俗称はインキンタムシと言われています。
足の水虫の原因となる主な菌はトリコフィトン・ルブルムという菌で、身体の他の部分にはよく住みつきますが、頭部白癬患者さんの頭部からはあまり発見されていません。しかし、~重にある角質層、つまり白癬菌の大好物のケラチンは角層にありますので、油断はできないと言えるでしょう。
白癬菌たちが起こすその他の病気
足白癬(あしはくせん)
足に感染したもののことをいいます。通称は水虫と呼ばれ、日本では5人に1人がこの水虫にかかっていると言われています。
白癬菌の中でも主にトリコフィトン・ルブラムが感染し、次に多いのがトリコフィトン・メンタグロフィテスという小さな水泡をつくる菌です。
手白癬(てはくせん)
手に感染したものを言います。こちらも湿疹と間違えてしまい、合わない薬を塗り重症化させてしまうケースが少なくありません。
また家族や周囲の人へ感染しやすい部位でもあります。湿疹の場合は両手に顕れることが多く、手白癬の場合ははじめは片手だけに顕れることも多いこと、かゆみや痛みがあまりないものが多いので、気をつけてみると区別がつくかも知れません。
足白癬と同じで、一番多い原因菌がトリコフィトン・ルブラムで、次にトリコフィトン・メンタグロフィテスと言われています。
爪白癬(つめはくせん)
爪に感染したもので、爪水虫ともいいます。10人に1人は爪白癬を持っているという報告があります。爪の表面が感染した場合には爪が白く変色する程度で済みますが、指先から爪の内側へ入り込んでしまった場合には爪が黄色~茶色っぽく変色する、厚くなるなどして痛みを覚えるようになることもあります。
爪が厚くなることで変形を起こしやすくなり、陥入爪(かんにゅうづめ、巻き爪)になることもあります。これによる痛みはありますが、かゆみはないのが特徴です。
この部位に感染する白癬のほとんどが、手・足の水虫に多いトリコフィトン・ルブラムによるもので、トリコフィトン・メンタグロフィテスによるものはほとんど見られません。
股部白癬(こぶはくせん)、体部白癬(たいぶはくせん)
どちらも生毛部白癬です。産毛が生えている部分を生毛部(せいもうぶ)といい、そこに感染する白癬を生毛部白癬(せいもうぶはくせん)というのですが、そのうちの、股間に感染した白癬を股部白癬と言い、俗称インキンタムシと呼ばれます。
また、股以外の体の生毛部に発症したものを体部白癬と言い、俗称ではゼニタムシと呼ばれています。
このどちらも、辛い痒みを伴うことが多いため、湿疹と間違えてしまいステロイド系の塗り薬を使用して症状を悪化させてしまう場合もあるので要注意です。
原因となる白癬菌で最も多いのがトリコフィトン・ルブラムで、次にトリコフィトン・メンタグロフィテスだと言われています。
顔部白癬(がんぶはくせん)
体部白癬の中でも特に顔に生じたものを区別して言うのですが、症状や関与する菌は体部白癬と同じです。
しらくもの検査方法
頭部だけでなくとも、禿げていなくとも、あやしいなと思ったら自己判断せず、病院(皮膚科専門医)へ行くことをお勧めします。そして、ただ病院へ行くのではなく、白癬菌の検査をお願いしてみましょう。どれも初期症状では違う病気と間違えられやすいため、処方を違えては治るのが遅くなってしまったり、症状が悪化してしまったりするかもしれません。
検査方法は、白癬菌が寄生していると思われる部分、しらくもの場合は頭部のその部位の毛を切り取る、抜くなどして検査溶液(苛性カリ:KOH)につけて菌以外の部分を溶かして顕微鏡で見るKOH直接鏡が行われます。
顕微鏡で直接鏡検したときに毛の中やまわりに菌の胞子があれば確定できますし、白癬菌以外の菌によるものの場合も手や足などの場合にはあり得ますので、ここは信頼できる皮膚科にゆき、事情を話して検査してもらいましょう。
しらくもの治療法
足の水虫と違い、頭皮のしらくもは外用薬だけでは無理なものです。トラコナゾールやテルビナフィンといわれる抗真菌薬を1~2か月間服用(内服)することで、体の中から綺麗にしていきます。
小児の場合は、グリセオフルビンという抗真菌薬を6~8週間服用することがすすめられます。グリセオフルビンという薬は外用薬にもありますが、内服薬としても優れているようです。
フケ症、脂漏性皮膚炎と間違えてしまい、ステロイド外用剤を使用するとかえって悪化し、膿んでしまう、治癒が遅くなるといったこともありますので、一度は病院で検査し、医師と相談の上、治療方法を決めるとよいでしょう。
市販の薬は効かないのか
内服薬は処方箋がなくてはいけませんので、ここでは外用薬の場合ですが、最近は市販の薬でもとてもよく効くものが出ています。しかし、医師で処方してもらう抗真菌薬はその特定した菌に強い抗真菌薬を使いますから、効果は抜群です。とはいっても、毎日忙しい方は薬をもらいに病院へゆくのはなかなか難しいことかも知れません。
医師や病院へはそういうことを相談してもよいのです。薬を取りに来る時間がない事情を話し、市販で購入できるものはないか、成分は何がはいっているものがいいかなど、遠慮せず聞いておくとよいでしょう。また、薬局やドラッグストアでも、薬剤師のいるところに行き、医師から聞いた話と症状を話せば、適切な市販薬を何種類か勧めてくれるでしょう。
治療はあわてずゆっくり
症状が軽かったり、痒みがある白癬の場合は投薬や外用薬の塗布により治ったかのように思えることがあります。しかし、白癬は糸状に皮膚の角層に根を張っています。少しでも残っていたら、また根を張り広がります。そうして、他人や家族にうつす機会も長引き、増えてしまうのです。
ほとんどの白癬菌は根絶には1か月はかかると言われています。家族のいる方は、たとえ症状が軽くなっても、一度は病院へ行き、菌がいないかどうか確認をしたほうがいいかもしれません。
日常で気をつけられること
水虫の原因である白癬菌は皮膚についてから、すぐに感染するわけではありません。皮膚について落とされないままでいると、角層にもぐりこんで、菌糸を張るのです。この時点で「白癬にかかった」と言えます。
けれども、白癬菌がわたしたちの健常な皮膚表面から角層にもぐりこむまでに、実は24時間もかかると言われているのです。つまり、24時間以内に洗い流してしまえば、根を張られずに済む確率が高いと言うわけです。
白癬菌に根を張らせないために
新種ともいわれる、トランズランス菌は感染力が強いことで知られています。格闘技選手の間で広まったのも、この感染力の強さに加え、強い摩擦などで皮膚の角層に菌が入り込みやすい状況、汗などで繁殖しやすい状況が合致したことも原因と思われます。
ですから、日頃の生活で気をつけられることは結構あります。
清潔を保つ
なにより、まずは清潔を保つことが必要です。
- まめに洗髪する(爪は立てないよう)
- 部屋の床などはいつも清潔にし、換気もよくする
- 肌に直に触れる枕カバーやシーツカバーもまめに取り換え、共用を避ける
感染源を断つ
- ペットの犬や猫が白癬菌にかかっていたら治療する
- 家族やスポーツ団体に感染者がいる場合、治療をすすめる
- タオル、帽子、くしの貸し借りをしないようにする
- 家の中では履物を使用し、人と共用はしないで履物も清潔にするよう努める
高温多湿を避ける
- 部屋の湿気の調節、換気をする
- お風呂場や洗い場の足ふきマットやタオルはきちんと乾かす
などです。
洗いすぎは禁物?
もちろん、清潔にしたほうがいいのですが、洗いかたには少し注意が必要です。なぜなら、白癬菌は健常な角層に入るまでには24時間かかりますが、傷ついたり薄くなっている角層からは早く侵入してしまうからなのです。
- 角質のお手入れもほどほどにして薄くなりすぎないように
- 菌の洗い流しは石鹸で充分です
- 洗った石鹸は綺麗に流しましょう
- 頭をあらうときに爪をたてて頭皮を傷つけないように気をつけましょう
- スポーツクラブなど公共のシャワー場などで汗を流したあとは、家でもう一度軽く洗うようにしましょう
まとめ
いかがでしたでしょうか。通常の生活をしていれば、そうそうかかるものではありませんが、外来の白癬菌により若者の間でしらくもが発生しました。部活動などでうつされて気付かずに家へ持ち込んでしまい、家族が感染するケースもないわけではありません。
他の人にうつさない注意、菌にふれても感染までゆかないように適度に清潔を保つなど心がけておきたいものです。