小さいお子さんがいるご家庭では、必ず知っておきたい病気のひとつ。急性腎炎ともよばれる「急性糸球体腎炎(きゅうせいしきゅうたいじんえん)」をご存じですか?3歳から小学校低学年の子供に多くみられる病で、年間10万人あたり2~3人程度が発症していると言われています。
発症すると、血尿や浮腫みなどの症状を起こし、慌ててしまう親御さんも少なくありません。万が一の時に備えて、原因や詳しい症状、治療方法まで、知識をつけておくことをおすすめします。
この記事の目次
急性糸球体腎炎とはどんな病気?
急性糸球体腎炎を知るには、まずは腎臓の仕組みを学ぶことが大切です。
腎臓は、糸球体と尿細管の働きを軸として、臓器の機能を果たしています。糸球体は、腎臓の毛細血管が集まってできており、流れ着いた血液をろ過する役割を担っています。ろ過した原尿が尿細管に入り、必要エネルギーのみ体内に吸収させて、不要なものは尿として排出。この一連の流れを通して、血液を正常に保っているのです。
このように、腎臓において重要な役割を担っている糸球体が、菌や感染症が原因で炎症を起こしている状態が急性糸球体腎炎です。糸球体は、ふるいのようなものです。糸球体が炎症を起こせば、血液のろ過はできなくなり、尿の再生と排出も困難になります。急性糸球体腎炎を発症すると、腎臓の働きが成されない、いわゆる腎不全の状態に陥るということです。
急性糸球体腎炎の主な症状
では、腎臓が機能しない腎不全に陥った場合、具体的にどのような症状が出るのでしょうか?突然の発症でも慌てないよう、詳しい症状を知っておきましょう。
血尿が出る
発症してまずはじめに症状が出ることが多いのが、尿の量の減少です。発症後、2~3日で減少すると言われています。そして、通常であれば尿に流れ出ないはずのタンパクが出て、蛋白尿を引き起こします。これは、急性糸球体患者の約80%がなると言われています。
また、ほぼ100%の患者に起こるといわれるのが血尿です。これは、赤血球・白血球が尿に流れ出てしまうために起こると言われています。
浮腫みが強く出る
蛋白尿、血尿が起こると、次は浮腫みです。起床時など、気が付いたら顔や手足がパンパンに浮腫んでしまっている……という症状が起こります。これは、必要なタンパク質が尿と一緒に排出されてしまい、血液中のタンパク質が減少することが原因です。
浮腫みが強くなり重症になると、肺に水が溜まる肺水腫を引き起こすこともあります。その場合、呼吸困難に陥り非常に危険です。強い浮腫みを察知したら、様子を見ずに、医師の診察を受けるなど即座に対処する必要があります。
高血圧になる
尿の生産、排出ができない状態が続くと、体内に塩分や水分が溜まって高血圧になります。血圧の数値が高血圧に達しなくても、普段の血圧よりも上昇していることが多いでしょう。高血圧によって、頭痛や吐き気、ひどい場合は全身の痙攣を引き起こすこともあります。
浮腫みが現われて1週間~10日前後は、腎臓機能の低下によって高血圧になりやすいと言われており、危険な状態に陥りかねません。発症後、最も注意が必要な時期です。気を付けましょう。
急性糸球体腎炎の合併症
重度な高血圧など、急性糸球体腎炎が重症化した場合、稀に合併症を引き起こすことがあります。急性糸球体腎炎から発症する可能性がある病気は3つ。いずれも、すぐに対処する必要のある病なので知っておきましょう。
急性心不全
心臓喘息とも言われる急性心不全を発症すると、呼吸困難の状態に陥ります。
心臓の働きが低下することで、肺から血液を吸い上げて全身に送ることができず、血液の流れや酸素交換が急速に滞ってしまいます。このように急性心不全を発症すると、激しい呼吸困難に陥ると同時に、唇や皮膚が紫色になる「チアノーゼ」を起こすことが特徴です。
高カリウム血症
電解質代謝異常の一種で、血液内のカリウムの濃度が極めて高い状態で、嘔吐やしびれ、不整脈などの症状を起こします。
一般成人の正常な血中カリウム濃度は3.5~5.0mEqlです。5.5mEql以上になると高カリウム血症と診断されます。嘔吐やしびれだけでなく、体内の細胞の活動が低下して全身に様々な症状が現われると言われており、そのひとつとして、カリウム値が急上昇して一定値を超えた場合、強い不整脈から心停止に陥る可能性があるとも言われています。
高血圧性脳症
脳には数えきれないほどの血管が存在します。その、脳内の血管は、血圧の上昇や下降によって血管への負担をかけないように、脳の血流を一定に保とうとします。しかし、血圧がある一定値を超えて上昇すると、血流は激しくなり、毛細血管の損傷により脳にむくみを起こすなどの異常が起こります。これを、高血圧性脳症といいます。
発症すると、嘔吐や頭痛をはじめ、重症化すると意識障害や脳出血、心不全などにより命を落とす危険もあります。
急性糸球体腎炎の原因とは?
子供に発症する可能性が高いと言われている急性糸球体腎炎ですが、そもそも病気にかかる原因は何なのでしょうか?
急性糸球体腎炎は、溶連菌といわれる「溶血性連鎖球菌」の感染後に発症するケースが多く、患者の90%を占めています。感染する溶連菌の多くは、「咽頭炎(いんとうえん)」や「扁桃炎(へんとうえん)」で、これらに感染した一部の患者が2週間程度で急性糸球体腎炎を発症すると言われています。しかし、咽頭炎や扁桃炎に感染するケースは少なくありませんが、急性糸球体腎炎を合併する患者は極わずかと言われています。
発症するまでに、体内では次のようなことが起こっています。まず、咽頭炎などの溶連菌に感染すると、菌を察知したと同時に免疫反応が起こり、溶連菌に打ち勝つための抗体を作ろうとします。その抗体と菌が合わさった複合物が血液にのって腎臓に運ばれ、糸球体のふるいにかけられたときに網目にかかることで炎症を引き起こします。ここに、別の免疫成分が加わり、さらに炎症を起こし、糸球体が破損することで急性糸球体腎炎を発症してしまうのです。
咽頭炎や扁桃炎などの溶連菌の初感染は、3歳~小学生など子供に多いと言われています。現代は溶連菌感染の抗生剤が早期に投与されるため、軽症化に成功している病気とも言われています。しかし、油断は禁物です。親が自己判断せずに、必ず医師の診断を受けるようにしましょう。
急性糸球体腎炎を発症したら、するべきこと
日常生活において馴染みのない病気です。しかし、体調の変化により必ずサインはあります。そのサインを見逃さないためにも、発症の際の特徴や、対処法を知っておく必要があります。
まず、溶連菌の感染があった場合は、10日~2週間程度の潜伏期間の後に、血尿が出現することがあります。また、溶連菌の感染の有無に関わらず主な自覚症状として、血圧の急な上昇や顔や足がパンパンになるくらいの浮腫み、尿量の異常減少や血尿が挙げられます。これらの症状は、急性糸球体腎炎に関わらず、他の重症腎炎や、腫瘍性の疾患などを抱えている可能性もあります。
一刻も早い処置が必要な場合もあるので、経過を見ずに、小児科や内科を受診するようにしましょう。
急性糸球体腎炎の治療法
では、治療はどのように行っていくのでしょうか?治療後の経過例とともに、みていきましょう。
検査方法と詳しい治療法
まず、現状現われている症状を患者に確認をして、血尿の有無やタンパクが流れ出ているかを確認するため尿の採取を行い、腎機能の検査を行います。同時に、溶連菌の感染の有無や血中の免疫物質の測定を行います。
検査の結果、急性糸球体腎炎だった場合、実は特別な治療法はありません。対処療法という症状の軽減や急性腎炎による合併症の予防、腎臓に負担をかけないような食事を摂るための管理をします。また、血圧の高低や尿量によって、血圧を安定させるための薬や利尿薬を使用し、治療をします。溶連菌からの発症だった場合は、抗生物質の投与も行います。
浮腫みがひどかったり尿タンパクが認められた時、また血圧の上昇がみられた時は、入院での治療を要することもあります。入院治療においては、食事療法が主です。まずは、摂取量より排泄量が多くなるようバランスをとるため、1日の水分量を尿量の+800ml以下に設定します。
さらに、塩分の摂取制限を行います。園児などの小児の場合は1日に3gまでとして、それでも浮腫みが強く出ている場合は、利尿薬を使用して治療を行います。症状改善の経過にもよりますが、通常の塩分制限は7~10日前後と言われています。高カリウム血症を併発している場合は、水分と塩分の摂取量調整に加えて、タンパク質の摂取量も制限します。
治療後の経過例
急性糸球体腎炎は、重症化しない限り治りやすいと言われています。しっかり治療を続ければ、10日~2週間程度で高血圧や浮腫みなどの症状はなくなるでしょう。しかし、急性糸球体腎炎が完全に治癒しても、尿のタンパクの値が完全に無くなるまでは数日かかります。
発症時に血尿があった場合、治療後1週間以内でおさまります。しかし、目では確認できなくても顕微鏡では血尿が確認でき、完全に治癒していません。数カ月~1年程度は成分が流れ出ている状態が続くこともあります。この場合は、定期的な医師の診察が要されるでしょう。
急性糸球体腎炎は、子供が発症するケースが非常に多い病気ですが、小児がかかった場合は回復の経過が良く、ほぼ治癒すると言われています。しかし、小学生の高学年以上の子供や成人がかかった場合、治療が長引いたり腎機能への障害が残る可能性もあります。また、女性が発症してしまった際は、治癒した後も1年間は妊娠を避けたほうが良いと言われています。
まとめ
治療はそう難しくない病と言われていますが、重症化するケースもあるため早めの治療が肝心です。子供に多く発症する病気と言われていますが、万が一お子さんが発症した場合は、尿のタンパクが確認されている間は運動は控えるようにしましょう。
まず大切なのは、医師の診断と指示に従うことです。異常を感じた場合は、経過を見ずにすぐに病院に行きましょう。