癲癇(てんかん)と聞くと、「泡をふいてバタンと倒れる」というイメージを持つ人が多いようです。ですが、これは沢山あるてんかん発作のなかの1つなのです。てんかんという病気にはいくつかの種類と実に多種多様な症状があり、それらの原因や発作の実態は、現代医学ではほとんど解明していない病気のひとつなのです。
今回はいくつかある「てんかん」のうちの、「症候性てんかん」に焦点をあててとりあげます。てんかんとは本当は何なのか、ぜひこの機会に理解を深めていただき、またご家族やご友人にてんかんを持つ人がいる方には、案外知られていない正しい対処法を知っていただければと思います。
この記事の目次
てんかんとは
てんかんには一応の定義があります。
世界保健機構WHOでは、
「てんかんとは、種々の成因によってもたらされる慢性の脳疾患であって、大脳ニューロンの過剰な発射に由来する反復性の発作(てんかん発作)を特徴とし、それにさまざまな臨床症状及び検査所見がともなう。」とされています。
何だか難しいですね。これをすこし乱暴ですがざっくり箇条書きにしますと、
- てんかんは慢性の脳の病気である
- 原因は沢山あってわからない
- 条件1として、大脳ニューロン(大脳の神経細胞)が刺激されることが発作の起因であること
- 条件2として、3.の発作は反復性があること
- 3と4の条件下の発作を「てんかん発作」と呼び、この発作を起こす病気を「てんかん症候群」あるいは「てんかん」と呼ぶ
- しかし、上記条件をクリアしても、それが本当にてんかんであるかないかは、上記症状だけでなく、たくさんの検査と実験をしたうえで、医師の所見による
つまるところ、「てんかん」は太古の昔からあるわりには良く分かっていない病気なのです。似たような発作があっても、それが大脳神経への刺激によるものでない場合はてんかんではありませんし、1度発作を起こしただけでは、てんかんとは言えない、と定義されています。
なぜ、てんかんのことは、これほどまでに解明していないのでしょうか。それは、てんかんが脳内の神経の病気だからです。脳内のことが解明されてきたのは、医学の歴史ではつい近年のことです。それまでは、神がかりなものだと思われていたり、日本では狐つきだと言われていた時代もあります。現代でも未だに、てんかんと聞くだけで差別する人もいると聞きますが、てんかんは、れっきとした脳の病気なのです。
てんかん発作のしくみ
てんかんの発作はどうして起こるのでしょうか。てんかん発作にはわたしたちの脳の中の多くを占める大脳の神経細胞(ニューロン)が深く関わっていることが判明しています。
わたしたちの脳は、わたしたちの体を動かす司令塔であり、高性能な情報処理装置なのです。この処理装置はとても複雑にできており、その仕組みは進んだ現代医学でも解明されていないことが多くあります。
大脳の一部、あるいは大脳の広範囲が何らかの衝撃や刺激を受けたとき、神経細胞ニューロンが過剰に反応することで発作が起きるといわれていますが、しかし、てんかん発作もてんかんの症状も、その刺激をうける部位によって様々なのです。後述するてんかんの症状を正しく理解するためにも、まずは、脳の働きを少しだけ、知っておきましょう。
脳の構造と働き
脳は大きくわけて、大脳(終脳ともいう)、間脳、小脳、脳幹の4つに分かれ、脊髄で体につながっています。脳幹は脊髄から脳へとつながる大事な部分で、中脳、橋、延髄から出来ています。
大脳の表面は大脳皮質と呼ばれ、皺がある状態です。この皺で分けられた位置によって、前頭葉(脳の額側)、頭頂葉(脳のあたまのてっぺんのあたり)、側頭葉(脳の左右)、後頭葉(脳の後下の部分)の4つに分けられます。それぞれが、別の働きを持っています。それぞれは常にすばやく判断や理解をし、他の部分との連携プレーを正確に行うことで、わたしたちを動かしてくれているのです。
脳の中には数えきれないほどの神経細胞があり、この神経細胞同士の結びつきによって、情報を伝達したり、記憶として残したりするのです。この神経細胞を、ニューロンと呼びます。
神経細胞ニューロンと脳波
現代では医学の進歩により、脳のこともMRIやCTスキャンなどで鮮明な写真をとり、断層画像まで見ることが出来るようになりました。この進歩のお陰で腫瘍や細胞の異変なども見つけられやすくなりました。
しかし、MRIやCTスキャンで診断できるのは、あくまで形状や形態です。てんかんの原因の一因とされるニューロンの刻々と情報処理を行う動きは、確認できないのです。
脳内の働きを見ることはできないのか
脳内の神経細胞の働きを目で見ることは出来ません。しかし、脳は、司令塔からの命令を体に伝えるために、神経伝達物質をつくりだし、シナプスの仕組みを使って「伝達事項」を電気信号にして発信することで伝達しています。
この、わずかな電気信号を、頭に電極をとりつけて波形に置き換えて表記する方法で、ある程度の脳の神経伝達の動きをみることができます。それが、脳波(脳波検査)です。この検査で、てんかん発作の原因が脳のどこにあるか、だいたいの予想をつけることができます。
脳波検査
頭に電極をとりつけ、脳の神経伝達の動きを数値化して波形であらわし、判断する検査です。現代ではデジタル脳波計が普及しています。てんかん患者の発作を起こす部分がどこであるか、あるいはてんかんかどうかの診断の目安になるものが、脳波検査なのです。
てんかんの種類
さて、てんかんの種類は、大きく2種類、特発性てんかんと症候性てんかんに分けられます。それぞれに、部分てんかんと全般てんかんがあります。
部分てんかんと全般てんかん
てんかんは大脳のさまざまな部分で起こりますが、症状が大脳のどこか一部分だけに症状が出るものを部分てんかんと言い、左右の大脳両側にまたがって広範囲に症状があるものを、全般てんかんと言います。全般てんかんは、年齢とのかかわりも深いようです。
特発性てんかん
特発性部分てんかん(特発性局在関連てんかん)
小児てんかんに多いもので、年齢とともに症状が良くなるものが多いです。
- 中心部・側頭部に異常な波が見られる良性小児てんかん(ローランドてんかん)
- 良性後頭葉てんかん
などです。
特発性全般てんかん
25歳以上の発症は非常に少なく、小児から若年期に発病するのが特徴です。他の神経症状はまずみられず発作は意識を失うことが多く、他の神経症状はまずみられず、手足のまひや脳の障害もみられないのが普通です。脳の左右に、同時期に同じ脳波異常が現れるという特徴もあります。
- 良性新生児家族性けいれん
- 良性新生児けいれん
- 乳児良性ミオクロニーてんかん
- 小児欠伸(けっしん)てんかん(ピクノレプシー)
- 若年性欠伸(けっしん)てんかん
- 若年性ミオクロニーてんかん
- 覚醒時大発作てんかん
などがあります。
症候性てんかん
てんかんには沢山の種類があることは分かっていただけたと思います。その中でも今回とりあげる症候性てんかんは、原因として、脳に明らかな病変が認められる場合のものをいいます。脳の明らかな病変とは、病気に限らず、事故によるものなどもあります。
症候性部分てんかん(症候性局在関連てんかん)
脳の一部に障害や傷があることで起こるてんかんの中で、一部分が原因となるものです。側頭葉てんかんなどは、高齢者に多いのも特徴です。
- 側頭葉てんかん
- 前頭葉てんかん
- 頭頂葉てんかん
- 後頭葉てんかん
などです。
症候性全般てんかん
特発性よりも早い時期に発症することが多く、発作回数が多いのが特徴です。発病する前から、精神遅滞や、神経症状がみられるようです。
- ウエスト症候群(店頭てんかん)
- ミオクロニー失立発作てんかん
- 早期ミオクロニー脳症
- レノックス・ガストー症候群
- ミオクロニー欠伸(けっしん)てんかん
などがあります。
てんかんの発作
発作は大きくわけて、全般発作と部分発作に分けられています。
全般発作は、発作のはじめから意識が無くなるもので、脳全体が異常電磁派に包まれてしまうような状態です。部分発作は、脳のある部分から始まる発作というふうに分けられています。
全般発作
強直間代発作
大発作。意識を失うともに、全身が硬直し(強直発作)、すぐに全身がガクガクと痙攣する(間代発作)が起きるものです。まえぶれなく突然起こることも多いものです。発作はおおよそ次のような順で変化します。
- 全身が硬直し、細かなけいれんが左右対称に10秒から20秒続きます。(強直期)
- 手足が突っ張り、体はのけぞり気味になることが多いです。
- そののち、細かなけいれんから徐々にリズミカルな動きになり、30秒から1分間続きます(間代期)。ガク、ガク、ガクと体の曲げ伸ばしをつづけることが多いです。
- 意識が戻ってきます。
強直期には呼吸は停止します。この時間が長引く場合には救急車を呼ぶ必要があります。間代期にはいると浅い呼吸がはじまり、徐々に呼吸が深くなってゆきます。このとき、止まっていた呼吸が開始されることで、口の中にたまった唾液を吹き出すようになります。これが、いわゆる「泡を吹いた」状態とよばれるものです。また、尿や便を漏らしてしまうこともあります。
意識が戻ると、そのまま眠ってしまうことも多いのですが、もうろうとした状態が続くこともあります。
単純欠伸(けっしん)発作
意識を失いますが、数秒から数十秒ですばやく意識が戻ります。それまで普通に動いていたのに、突然動きが止まり、うつむくようにして表情がうつろになったり、目を開いたまま上の方をじっと見つめたり、手から物を落としてしまったりすることが見られた場合、欠伸発作かも知れません。
発作が軽い場合は、それまでの動作をゆっくり続けることができたり、質問すると返事が返ってくる場合があります。緊張している時よりも、平静時やくつろいだりしている時に起きやすい発作です。
複雑欠伸(けっしん)発作
意識障害に加えて、自動症やミオクロニー発作など他の症状を伴うものをいいます。発作のはじまりは動作が止まります。意識が曇ってぼんやりとします。だんだんと意識の曇りが深くなり、いろいろな自動症が現れることがあります。
自動症そのものは、通常は2分~3分程度しか持続しませんが、自動症が終わったあと、もうろうとした状態が30分以上、長時間にわたる場合もあります。発作中の記憶はないか、あったとしても一部分だけで、発作回復後に発作中のことを思い出せないのが普通です。思い出せても、ほんの一部分だけです。
自動症の例
- 舌を鳴らす、舌舐めずりをする、唇をなめる、噛む、舌を突き出す、口をモグモグさせるなど
- 落ち着かない様子で体を常に動かしている
- 顔をなでまわしたり、手をもんだり、腕を振り上げたりする
- 服の端をつまむ、ボタンをはめたりはずしたりを繰り返す
- 扉を開けたりたたいたりする
- 近くのものや人に関心をしめす仕草をする
- 人を威嚇するようなしぐさをする
- 慣れた作業(洗濯物をたたんだり)をする
- 家の中や外を歩き回る、家から飛び出す
- ポケットの内側をつまんで出す
などの症例が見られます。
ミオクロニー発作
体の一部がピクっと動く発作です。手や足がごく短い時間に、同時にピクっとするケースが多いようです。この発作が非常に多いと、足払いをされたかのように転倒してしまうこともあります。物を持っている時などに上肢にこの発作が起こると、持っていたものを飛ばしてしまうこともあります。
子供の場合は特に、光や音の刺激によって発作が誘発されることもあります。手を使ってなにかしようとする時、ゲームをする時、驚いた時に起きやすい人もおり、この患者さんはどのような刺激によって発作を起こしやすいかを知っておいたほうがいいかも知れません。
発作は軽い場合、少しピクっとするだけなら、経過観察だけで充分なのですが、万が一倒れる場合に備えて、このような発作を持つ環境の人は、生活する場の整理整頓や、危険のないようにすることも大事です。
点頭発作
全身の筋肉の緊張が高まることで、頭を前に倒す、両手を振りあげる、両脚を曲げるなどの形をとるのが特徴です。
脱力発作
全身の力がいきなりぬけ、崩れるように倒れます。
部分発作
単純部分発作
意識はたもたれたままなのですが、はっきりせず、ぼうっとしたりします。一般的なイメージのてんかん発作とは違い、意識を失うことなく、倒れることも少ないので、あとから思い出すことが出来るのも特徴です。発作が軽いのはいいことかもしれませんが、発作が起きていると周りも気づきにくいため、場合によっては周囲の人が、ふざけている、なまけていると発作を起こした人を責めてしまい、本人の精神を傷つけてしまうこともあります。
顔や手足がごく軽くけいれんしたり、五感で異常な感覚を覚えることがあります。また、精神状態に異常が現れる場合もあります。
- 何か見える
- まぶしく、目がチカチカする
- 嫌な味がする、腐臭を感じる、変な音が聞こえる
- 手足がしびれた感じがする
- 皮膚がちくちくする
- 胃が気持ち悪い
- 急に鳥肌がたつ
- 昔の記憶のある場面が急に思い浮かぶ
- 急にしゃべれなくなる
- 原因のわからない恐怖感に襲われる
- 無性に不安になる
これらは、意識の曇りを伴う複雑部分発作に移行する場合もあるので、注意が必要です。医療的には特別な処置は必要ないケースがほとんどですが、本人はとても不安になります。周囲の人の理解がないと、そのまま精神の病を発症する一因にならないとも限りません。
複雑部分発作
完全に意識を失うわけではなく、意識はあるのですが、はっきりしない状態です。意識が曇った状態とも言います。その間にいろいろな行動をとっているのですが、発作後には本人はそれを覚えていないことが多いのです。
それまで行っていた行動が止まり、人からみると、仕事を一休みするうような仕草に見えることが多いです。顔の表情や姿勢がかわらないままになります。この発作が進むと、意識の曇りが深まりますが、数十秒から数分で終わることの多い発作です。
発作が終わった直後の行動はちぐはぐだったり、緩慢だったりし、的確な行動がとれないことが多いです。完全に発作から回復したときに、本人は発作を起こしたことに気づかない場合も多くあります。まれに「何かあったかも知れない」と自覚するケースもありますが、前者の場合、発作を起こしている数十分から数分の間の行動を記憶していないことが多いです。
二次性全般化発作
最初は部分発作から始まり、後に全身のけいれんが起こります。
てんかんの発作の危険性
てんかんの発作の危険性は、発作の種類にもよりますが一番注意しなければならないのが、二次災害です。もちろん、てんかんの発作の間呼吸がとまり、酸素が脳にゆかなくなり酷い発作だと脳細胞が死滅し、その死滅した部分が重要な働きをする脳細胞だった場合、その箇所によっては別の障害をかかえることになりかねません。
通常はてんかん発作が起きたからといってすぐに病院へ運びこむ必要はないのですが、危険な場合もあります。
発作が長引く場合の危険性(重積状態)
通常の発作は長くても、数分内におさまるのが普通です。しかし、長引く場合もあります。けいれんを伴う発作(大発作)だけでなく、けいれんを伴わない発作でも、長く続いたり、何度も繰り返す状態を、発作の重積(あるいは重延)状態といい、全般発作でも、部分発作でも起こりうるものです。以下の場合は、急性疾患ととらえて、救急車を呼ぶか、すぐに病院へつれてゆく必要があります。
- けいれん発作、強直間代発作が5分以上続く場合
- けいれんがない場合でも、1回目の発作が終わったあと、意識が戻らないうちに次の発作が起きた場合
- 意識喪失や意識がぼうっとする発作が10分以上長引いている場合
これらは、そばにいる人が分かっておかないと、意識がもどったから安心だと片付けられない問題なのです。
発作による二次災害の危険性
発作の種類にもよりますが、発作を起こしたときに怪我をする確率は低くありません。特に倒れる発作の場合には、生活環境から危険物を取り除く努力や、発作回復後にも注意が必要です。
- 倒れたことで頭部を強く打った場合
- 倒れるときに体のどこかに裂傷を負った場合
- 倒れたあと、けいれんによって何度も同じ箇所をぶつける等怪我をする場合
- 入浴中の場合、溺死する危険性
倒れる発作は強直間代発作、脱力発作、ミオクロニー発作などがありますし、いきなり倒れる場合、倒れた直後に自分で立ち上がれる場合、倒れた後から強直発作が起きる場合、または意識を失ってゆく場合などさまざまです。しかし、その人その人の発作での倒れ方はたいていいつも一緒のため、怪我をする場所もほぼ一定になります。
倒れて頭部を打つ(発作が起きた時には頭部を打つことが多い)人は、つねに帽子をかぶるなど防護措置も必要です。また、年頃の娘さんは鍵をかけて入浴することもあるかと思いますが、てんかんを持つ患者さんには命取りですから、注意が必要です。
症候性てんかんの予防と治療法
予防策
発作を1回起こすと脳細胞が二万個死滅すると言われています。一度死んだ脳細胞は二度と復活しないとも言われています。現代になって、脳細胞は新たに作られる可能性もあるのではないかと論説が飛び交っていますが、正直なところ、何もわかっていません。
てんかんには、有効な予防の手立てはありません。しかし、発作の予防や、発作による二次災害の予防のためにできることは沢山あります。
てんかんの場合、発作をなるべく起こさないようにすることが、最も大切なことと言えます。
服薬はきちんとする、自身の発作についてよく知る、さらには身の回りの人にも説明し、理解と協力を得るなども必要かもしれません。
てんかん患者の社会生活での課題
てんかんの患者さんを持つ家族の方や周囲の方は、その人のてんかんの発作がどういうものかを理解してあげてください。てんかんの患者さんはその実際の症状からではなく、社会的には「てんかん」というだけで症状が軽くとも就職を断られるなどの差別とも言える待遇を受けているのも事実です。
このため、自分がてんかんであることを言えないでいる人も多いようです。また、てんかんの発作には不安発作も伴うことが多く、発作前後にとてつもない不安に襲われる人もいます。また、薬を飲み続けることでの薬に対する不安、自分という人間への不信など持っている人も少なくありません。
ごく身近な人はどうぞ、てんかん発作が起きた時の処置をきちんと把握し、できれば通院の際には一緒に行き、医師の意見を聴くくらい慎重に構えてほしいものです。なぜなら、発作が長引き救急車を呼んだ際、呼んだ人がうまく症状を説明できず、救急隊が前述した大声をかけるなどしてしまい、発作を長引かせてしまうこともあるからです。
病気事態が未解明の病気ですから、いたしかたないことかもしれませんが、てんかんだけでなく、周囲の人は大事な人の病気やその処置について理解していてくれれば、てんかんの発作そのものは直接死に至るものではありませんし、二次災害の不安からも解消されることでしょう。」
てんかん発作をもつ患者さんが気をつけるべきこと
ほんとうに、様々な原因と症状をもつてんかんですから、ひとことでこれに気をつけましょうとは言えません。がしかし、絶対にこれだけは気をつけてほしいということがあります。
運転免許取得や更新は慎重に
自分の発作の種類を良く知り、飲んでいる薬の効果、副作用をもよく知っておくことが重要です。日本では、発作があるてんかんの患者さんは免許を取る資格がありません。法的に禁止されているのです。
てんかんは、発作が2年間まったくないことで、「一応の治癒を認める」とされています。そのため、道路交通法では、下記の条件で免許取得や更新を認めています。
- 2年間、運転に支障が生じるおそれのある発作がないこと。
- 運転に支障が生じるおそれのない単純部分発作などの場合でも、さらに1年以上の経過観察をしたのち、症状悪化のおそれがないと明確であること。
- 睡眠中に限られる発作の場合は、2年間発作がない場合でさらに、2年以上の経過観察ののち、今後症状悪化のおそれがないことが明確である場合。
- 大型免許と第2種免許は、5年以上服薬せずとも発作が抑制されている場合に限る
これは、あくまで基準です。てんかんは、症状は抑えられても、ある日突然発作が再発することもあるのです。
2012年4月に京都で起きた悲惨な事故は記憶に新しいところです。事故を起こした運転手は、脳挫傷の後遺症としててんかん発作が起きるようになりました。しかし、病状を申告せずに免許更新をしていたことが、この事故につながりました。この事件以降、てんかん患者の免許取得や更新、また虚偽報告での免許取得や更新に対する罰則が新たに設けられ、また基準も厳しくなりました。
なにより、未だ誤解されることの多いてんかん患者の社会的立場と印象を悪くし、世間からの理解が遠のいたのも事実だと言えます。てんかんは本当に発作の種類が多いですから、てんかんの患者さんは症状や服薬をきちんと把握し、しっかりとした自覚をもつことが重要となってくるでしょう。
発作を起こしている人をみかけたら
意識を失わない発作、けいれんを伴わない発作の場合、声をかけることで発作が治まることがあります。単純発作やミオクロニー発作などの場合です。けれども、けいれんを起こしたり倒れたりする発作の場合は、注意が必要です。
発作をまのあたりにすると、大抵の人は驚き、慌ててしまいます。けれども、てんかんの発作のけいれんそのものが死に直結することはありませんから、そのことを頭にいれ、冷静に判断できると患者さんの助けになります。
声をかけるのはちょっと待って!
てんかんの大発作でなければ、声をかけ、意識を確認するのは救命法では大事な初歩です。しかし、てんかん発作の場合、これがアダとなることもあります。
発作中に声をかけられることで、(音、聴覚)発作が長引くこともあるのです。ほほを叩いて意識確認をする(触感)体に触れてゆするのも、やめたほうがよいでしょう。
仰向けになっていたら横向きに(気道確保)
大発作の場合などで倒れた向きが仰向けだった場合、呼吸がもどったときに唾液が喉につまったり、あるいは嘔吐を伴った場合に吐物がつまって窒息する危険性もあります。
発作時には体に触れるなと言いましたが、この場合は別です。顔を横に向けてあげ、気道確保につとめます。また、間代発作の時に何度も頭を打ち付けることもありますので、頭の下にタオルなどやわらかいものを敷くことが必要です。
衣服がきついようでしたら、ゆるめてあげてください。倒れた人のまわりに危険物があれば取り除くなどしてください。可能であれば、危険の無い場所に移動させることも必要です。
舌を噛まないようにと指や硬い物を噛ませるのは
やめましょう。てんかん発作時の硬直する力は、普通の人の力ではありません。もちろん、舌を噛んでいる場合にはむりやりでも口をこじあける必要がありますが、てんかんの発作で舌を噛むことはめったにありません。むしろ、生半可な知識で硬い物をかませた場合に、簡単に噛みくだいてしまいその破片が口腔内や喉を傷つけることになりかねません。
てんかんの治療法
外傷が原因で脳に損傷があることが原因とはっきりわかっていて、その部分が手術で切除しても問題ない部分であると明確な場合は、外科手術をすることもあります。しかし、てんかんのための脳の外科手術は、近年やっと実例がではじめたばかりです。5年前までは「治らない病気」とされていました。
てんかんは治らないけれど克服できる病気
てんかんは、厳密に言うと治らない病気です。治らない病気ではないから頑張ってという人も見かけますが、治るのではなく、発作がなくなるだけです。しかし、服薬により発作を抑えることができれば、日常生活にほとんど支障はなく、普通に暮らせるのです。
主に抗けいれん剤と呼ばれるけいれん発作を抑えるための薬や、筋肉の硬直を防ぐための筋弛緩剤や、興奮状態を鎮める効果のある薬が使われます。これらの薬には眠気が出る、注意力が低下するという副作用のあるものもあります。また、フェノバルビタールのような薬は、急にやめることで酷い重積発作を起こす可能性もありますから、自主判断での断薬や飲み忘れのないよう、医師の指示をきっちり守ってください。
まとめ
てんかんは、原因がはっきりしない、症状がいろいろであることなどから一般での病気への理解が浸透しないためか、社会の受け入れ態勢も整っていない現状もあります。また、最近になり特徴の顕著なものをてんかんの中でも別名をつけるなど、細分化もされはじめましたが、まだまだ、あまりにも多くの症状が「てんかん」としてひとくくりにされてしまっていることも、社会へのこの病気の理解が進まない原因の一つかも知れません。
私自身、高校生のときにウィルス性の脳髄膜炎らしい病気から(ウィルスが発見されなかったので、想定でしかない)奇跡的に死を免れ、後遺症としててんかんが残り、現在も服薬しています。いまだ、倒れることがあります。初期治療で2年発作が起こらないところまでゆき、医師の診断で2種類飲んでいたうちの、1種類を断薬したのです。その結果、リバウンド発作を起こし、いまだに突然倒れる身体になってしまいました。けれども、発作さえ起こさなければ、まわりの人とおなじくらいに元気です。けれども、長距離自転車に乗ることは医師に止められていますし、通勤中でも体調がわるいときは途中下車して様子を見ます。おおさわぎにしないためです。
今後、医学の進歩がすすみ、てんかんも細分化され研究され、症状が抑えられるようになることを切に望みます。