尿膜管遺残症はご存知ですか?フィギュアスケートの羽生結弦選手が、2014年12月30日の暮れの押し詰まった時期に、緊急入院した病気です。
かなり羽生選手は我慢していたようで、やっと12月30日に入院しましたが、世界選手権が危ぶまれていました。その後アクシデントを乗り越えて、世界選手権では銀メダルを獲得しました。
素晴らしい強靭の持ち主ですね。1ヶ月近く痛みと戦いながら、スケートの試合に出場していて、好成績を上げられることは、誰でもできる事ではありません。
この尿膜管遺残症は一体どのような病気なのでしょうか?
尿膜管遺残症とは
尿膜管遺残症とはどの様な病気なのでしょうか?
私たちが胎児でお腹の中にいたときに、胎児の体の構造を知ることで、この尿膜管遺残症の事が理解できます。
尿膜管遺残症の尿膜管とは
尿膜管遺残症(にょうまくかんいざんしょう)の尿膜管は、胎児と母体を繋いでるパイプです。このパイプから胎児は母体からの酸素や栄養を貰い、老廃物の排出などを行っています。
胎児の身体はこのような構造になっているので、膀胱から腹部の正中を通っておへそに管が繋がっていて、この尿膜管は出生と共に、自然閉鎖されるのです。
尿膜管は出生すると「正中臍じん帯」という線維組織になります。
尿膜管遺残症について
この尿膜管が出生時に自然閉鎖されずに、残ったままになった状態、もしくはスペースの空いた状態に、管の中に細菌が侵入して炎症を起こすと、尿膜管遺残症を発症します。
割合
尿膜管が残った状態の割合は、出生直前の50%の胎児は、尿管が残ったままです。成人の2%が、この尿膜管が残ったままで、尿膜管遺残症になっています。
また稀に尿膜癌が0.17~0.34%の割合で、発症しています。
尿膜管遺残症に似た病気
尿膜管遺残症に似た病気で、臍肉芽腫があります。臍の緒が取れたときに、臍の肉が盛り上がる病気です。尿膜管遺残症と思って、病院で検査して、臍肉芽腫だということが分かった方が多くおられます。
尿膜管遺残症と臍肉芽腫は違うように思われますが、多くの方が病院で検査の結果、分かったとブログなどで書いておられます。
尿膜管遺残症の形態
尿膜管嚢腫
尿膜管嚢腫は膀胱頂部に連続し、尿膜管の頭側8cmに渡り肥厚して、造影効果を伴って炎症しています。
経路の中間に臍直下から尿管にそって開存していて、通り道の無いものを尿膜管嚢腫といい、内容物が固形の場合を嚢腫、液体の物を嚢胞といいます。尿膜管遺残症の36%が尿膜管嚢腫です。
感染路としては、へそからの感染、膀胱からの上行性感染で、いずれも交通の無いものは、血行性感染や、術後感染などが考えられ、好発年齢は20歳代が多く発症しています。
尿膜管のう胞はおへそと膀胱の途中で、尿膜管を残したり、スペースを明けていたりするもので、症状は臍部から排膿、腹部腫瘤、腹痛、発熱などの症状が出ます。感染が悪化すると、腹膜炎になります。
尿膜管瘻
全長に渡り、開存しているものです。尿膜管遺残症の膀胱とおへそが開通しています。この状態は、おへそから水を入れると、膀胱まで流れる事を指します。尿膜管遺残症全体の15%です。
尿膜管憩室
開存部が膀胱と繋がっているものを言います。お臍とは繋がっていませんが、尿膜管が膀胱の方に残っています。
尿膜管洞
尿膜管遺残症の49%が尿膜管洞です。臍の方に開存したものを、尿膜管洞と言います。膀胱と繋がっていませんがおへその方に、尿膜管の残りが存在します。
尿膜管遺残症の原因
尿膜管遺残症は尿膜管が残ったままの状態で発症したり、また自然に閉塞した尿管が、感染や膀胱内圧上昇で、再び開くことがあります。
尿膜管が残ったままか、あるいはスペースとして残ってしまって、ここに細菌が感染して、おへそから膿を出したりします。
また尿膜管遺残症は尿膜管に、尿膜管膿瘍、尿膜管のう胞、また上皮の癌性変化のものもあります。
尿膜管遺残症になった羽生選手
羽生結弦選手は尿膜管遺残症になる前に、どの様な状態だったか、その時の経過を辿って見てみました。
中国選手との激突
羽生結弦選手は男子フィギュアスケートの日本のエースです。羽生選手がこの尿膜管遺残症になった時の経過をたどると、情報では2014年の11月8日に、中国上海で行われたグランプリーシリーズ第3弾男子フリーの直前の練習で、中国の選手と激突しました。
この時は頭や下あごから血を流す大けがを負って、直後に頭や顔にテーピングをして出場し、転びながらも銀メダルを獲得しました。
日本帰国で病院の先生に自分の体調を相談
この頃から日本に帰って総合病院の先生に相談し、検査などを受けていたようです。最初は中国選手とのアクシデントから始まり、尿膜管遺残症になって、この年は彼にとって最悪の年だったかもしれません。
腹痛について医師に相談をしていたようです。相談を受けた医師は、日本選手権が終わったら、精密検査を受けるように言われたとのことで、先生は多分「尿膜管遺残症+炎症(膿瘍形成)」という病名を考えられていたのでしょう?
NHK杯
11月28日のNHK杯では、体調が思わしくなくて、出場も危ぶまれましたが、なんとか出場して4位を獲得し、総合6位と最下位でしたが、出場できグランプリファイナルへ進出しました。
バルセロナ
日本時間の12月12日にはバルセロナで、開催されたグランプリファイナルで、自己ベストを更新して、大会2連覇を達成して、12月26日28日には全日本選手権大会で優勝しました。
この12月27日のフリー演技の時に、汗をたらし息が荒く、体調の悪い状況でした。グランプリファイナルから腹痛を繰り返していました。28日29日に複数の医師に診察を受けてから、30日緊急入院となりました。手術日は12月30日でした。
入院
医者はGPファイナルや、全日本選手権を棄権してまでも、緊急に手術をするまでもないと判断し、これ以上炎症が悪くならない様、抗生剤の様な薬を処方していたのでは無いでしょうか?
この時羽生さんは2週間の入院治療と、1か月の安静が必要とのことで、尿膜管遺残症の入院期間としては長く、色々治療の方法が考えられます。入院先は順天堂大学病院のようでした。
結局4cmほどおへそに沿って切る、開腹手術が羽生さんの場合は行われました。この年の世界選手権大会には、惜しくも2位に終わりましたが、まだまだ将来のある身で、しかも1月にはねん挫というアクシデントに見舞われ、体調が万全でない中、2位に付けられる体力を付けられたことは、立派としか言えませんね。
ダイエットマスク
羽生選手は林先生も驚く、マスクでダイエットをしていました。このマスクは完全オーダーメード性で、大気汚染対策で話題になったマスクです。
尿膜管遺残症の症状
症状は尿膜管がどれだけ開いているかで、症状が変わります。症状としては個人差がありますが、無症状の事が多いです。
しかし中には臍からの尿が漏出して、おへそがジュクジュクしたり、臍周囲の炎症の臍炎を起こしたり、腹痛など伴うことがあります。腹痛はへその周囲や、下腹部に出る事が多いです。
新生児期から小児期だけでなく、思春期から成人期に初めて発症する方もおられます。閉塞した尿管が感染して悪化して化膿すると、腹膜炎になる可能性があります。
症状としては個人差で色々ですが、患部から血の混じった膿が出たり、膿がとても臭かったり、衣類などが擦れると非常に痛かったり、体がだるく熱っぽく38℃を超える事もあります。
尿膜管遺残症の検査及び診断
尿膜管遺残症の検査は、磁力を使ったMRIや、放射線を使用したCT、腹部エコー(腹部超音波検査)などで画像診断をします。検査や診断のやり方は、病院によってまちまちです。
また尿検査や炎症が著しい場合は、血液検査や細菌検査なども行われ、より詳しい情報をみて判断し診断が下されます。
検査方法の一例
まず尿膜管遺残症の検査は、膀胱に癌がないか膀胱鏡検査が行われます。それから下半身麻酔で尿膜管に生じた膿の除去に1時間半の手術時間です。これが1回目の手術で、2回目は外科から泌尿器科に回されます。
1回目の手術をして2週間ほどで2回目の切除手術をします。全身麻酔で3時間ぐらいかけて、尿管摘出手術のを行います。
この検査や治療方法は、個人や症状によって様々ですが、大体入院するとこのような形で検査治療が行われます。
仕事を持っている人などは、長期入院しないといけない事もあり、生活の変化を余儀なくさせられることもあります。
尿膜管遺残症の治療
治療方法にはどの様な治療があるのでしょうか?薬でも対応できますが、再発しないためには、根本的な治療として尿膜管の切除が必要となります。
尿膜管遺残症の治療には、抗菌薬で治療することがありますが、放置していると膿瘍、のう胞、悪性腫瘍が発生することがあり、根治を目指すなら、尿膜管の摘出手術が必要です。
また尿膜管のサイズが大きかったり、症状が伴ったり、腫瘍を伴うと疑う場合は、外科的手術をすることが多いです。
抗菌薬の治療
尿膜管遺残症は必ずしも手術をしなくても、抗菌薬などで、炎症治療をすることが多いです。
感染症予防の目的で、術前後に抗生剤の点滴投与を行いますが、術後創感染、腹腔内感染、尿路感染などが起きることがあります。こうなりますと抗生剤の投与や、入院の延長が必要となります。
尿膜管膿瘍摘出の場合は、すでに尿膜に細菌が感染しているため、傷口にばい菌が付着して、感染を起こす創感染を発症した時は、創洗浄、再縫合などの治療処置を行います。
尿膜管遺残症の手術
開腹手術
尿膜管遺残症の治療は、外科手術を行います。全身麻酔をして、尿膜管を摘出します。麻酔手術でお臍からの下の腹部を切り開きます。
病気の症状によっては、膀胱の上まで開腹することもあり、形成外科では、尿膜管を摘出するときに、おへその再形成手術も行われますので、見た目的に異常を感じる事はありません。
これは病院によってやり方が違いますので、手術をして気になるときは、手術前に聞かれる方がよいです。患者さんは20歳前後の若い方が多いので、傷が精神的ストレスになる事があります。
またお臍の周囲に感染を認めるときは、炎症が鎮静化してから、手術を行いますが、その時の鎮静化には、抗生物質の投与が行われます。
また症状によって必要な時は、臍の皮膚を切開し膿を出してから、改めて手術を行うことがあります。
開腹手術だと1週間ほど歩くこともできません。おへその下から10cmほど切り開くので、傷跡も残りますが、現在は腹腔鏡手術が行われています。
腹腔鏡手術
腹腔鏡下尿管摘出手術のやり方としては、お腹の壁に3~4か所の1cmぐらいの小さな穴を明けて、その穴から手術器具の筒状の器具のトロカーを侵入します。
手術のスペースを作る為炭酸ガスを注入して、お腹を膨らませます。トロカーよりカメラ、鉗子などを侵入させます。
臍の部分で尿膜管を切断し専用の袋に入れて摘出しますが、へそを合併切除する場合は、臍と一緒に尿膜管を摘出することになります。
膀胱が一部開放されている症状の時は、腹腔鏡下で縫合閉鎖し、ドレーン、尿道カテーテルを留置して手術終了となります。おへそから膿が出ている場合は、ドレーンを挿入し、体の中の膿や液体を体外にだします。
この方法は2014年4月に保険適用になったばかりの手術方法です。この腹腔鏡下尿管摘出手術は、傷も小さくて回復も早くて済みます。
その為にも腹腔鏡手術が近年では、症状にもよりますが、腹腔鏡手術を受けられる方が多くなってきています。
手術における合併症
合併症としては出血や臓器損傷並びに止血、損傷修復のための開腹処置により、腹腔鏡下手術と、開腹手術では合併症は変わりません。
但し尿膜管と癒着している場合には、剥離作用が必要となり、重篤な問題が生じた場合は開腹手術に移行します。
手術の合併症
発熱・感染症
発熱や感染症の予防の前に、術前に抗生剤の点滴投与を行いますが、それでも術後創感染、腹腔内感染、尿路感染などが起こる事があり、尿膜管膿瘍摘出の場合尿膜管の管内に、既に感染があるので、リスクは高くなります。創感染を発症した場合は、創洗浄、再縫合の施されます。
出血
余り多く見られませんがもし、多量の出血をした場合、輸血を行うこともあります。
肺静脈血栓症
全身麻酔を欠けられた手術の時は、どの手術でもそうですが、同じ姿勢を摂り続けないといけないので、下肢の静脈に血栓が溜まりやすくなります。
その血栓が剥がれて肺に行って詰まる事があります。その為の予防として、術中~術後に強力な弾性ストッキングを着用します。
できるだけ早い段階の離床を行っていますが、転倒を防ぐためにこれは医師の指示で行われています。また血栓後に静脈血栓症の血栓予防の注射を行います。それでも肺静脈血栓症が起きた場合は、専門医の科と対応し、治療されます。
膀胱からの尿流出、縫合不全
症例により膀胱を一部開放し、尿膜管を摘出することがありますが、この場合開放された膀胱は縫合閉鎖して、術後尿道カテーテルを1週間ほど留置することがあります。
ごく稀に術後縫合部位から尿が漏れる場合、尿道カテーテルを3日~1週間ほど、留置期間を延ばすことで、殆ど治癒しますが、治癒しない時は再手術が行われます。
術後腸閉塞
手術や麻酔の影響で一時的に腸閉塞を起こすことがあります。この場合は食事を一時中止して経過を見ますが、改善されない場合は、鼻から胃や腸に細い管を入れて、処置をしますが殆どの場合は、保存的治療で回復しています。
腹腔鏡手術の特有の合併症
皮下気腫
腹腔鏡手術において、手術のスペースを設けるため、炭酸ガスCO2を注入しますが、この時に皮下に炭酸ガスが漏れることがあります。
術後皮下に漏れた炭酸ガスが、皮膚に皮下気腫を発生することがありますが、自然治癒しますし、体に害はありません。
肩への放散痛
これも腹腔内に注入した炭酸ガスが原因で、腹腔内に残留した炭酸ガスの刺激により、2~3日目に肩に抜けるような痛みが出ます。
空気塞栓
少ないガスで起こるはありませんが、血管内に炭酸ガスが入り、塞栓を起こすことがありますが、術中はガスの圧を見ながら手術を行います、
高炭酸ガス血症
血液内に炭酸ガスが溶け出して、血液の炭酸ガス濃度が増加するのですが、術中薬の管理で改善しますが、改善しない場合は開腹手術に切り替わります。
ポートサイトヘルニア
術後、カメラや機械を入れていた創に腸が入り込んで、腸閉塞を起こすことがあります。保存的に改善しない場合は、再手術を行うことがあります。
手術のメリットデメリット
手術には危険がつきものです。メリットは尿膜管遺残症がなくなり、解放されることですが、デメリットは、上に掲げた合併症が起こる事です。
手術には注意を払ってやっていますが、時には危険な時もありますので、主治医の先生と良くご相談の上、治療の選択を選ばれるほうが良いでしょう。
まとめ
如何でしたでしょうか?あの有名な羽生選手がなった病気として、一躍有名になりました尿膜管遺残症の患者さんは結構いらっしゃいますね。
良く主治医の先生とご相談して、行ってください。
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