肝臓がんはいつの間にか進行し、気づいたときにはすでに末期になっていることが多い、恐ろしい病気です。
肝臓がんは早期の発見が何よりも大事とされ、年に1回定期的な検査を受けて、肝臓がんの疑いがないかを確認することが重要です。
ここでは、末期の肝臓がんに見られる症状と、肝臓がんの進行の目安、末期と診断された場合の治療法などをご紹介します。
末期の肝臓がんとは
肝臓は「沈黙の臓器」と言われます。肝臓は病気など何らかの異変が起こっても自覚症状が現れにくいことから、こう呼ばれています。
肝臓がんも、初期症状はほとんどありません。また、肝臓がんの症状がかなり進んでいても、全く自覚症状が現れないことさえあります。しかし、がんはゆっくりと確実に進行しているため、肝臓の自己修復機能が限界を迎えると、肝機能が著しく低下し、いきなり症状が現れてきます。
そのため、症状が自覚できるようになった時には、肝臓がんがすでに末期になっていることが多いのです。
肝臓がんの症状
肝臓がんの症状には、次のようなものが現れます。
- お腹の右上辺りの痛みや重圧感
- 背中の痛みや重圧感
- 全身がだるくなる
- 体重の減少
- 微熱が続く
- 食欲がなくなる
- 貧血
- むくみ
- 下痢
- 黄疸(おうだん)(眼球・皮膚・体液などが黄色く染まる)
肝臓がんがさらに進行すると、次のような症状も現れてきます。
- 呼吸困難
- お腹の右上のしこり
- 肝臓が腫れる
- 出血しやすくなる
- 腹水(ふくすい)(お腹の中に液体が異常に多く溜まる)
- 黄疸がひどくなる
- 意識障害(こん睡など)
- 認知症のような症状
貧血や腹痛が急に現れた時には、肝臓がんがかなり進行してしまっている状態だと考えられます。また、肝臓がんが本当の末期になると、がんがリンパ節や他の臓器に転移するようになります。がんが転移してしまった場合、転移した先によって様々な症状が体に現れてきます。
肝臓がんの進行の目安
肝臓がんの進行具合は、普通のがんとは違い、がんそのものの程度だけではなく肝機能の状態も関係しています。
そのため、肝臓がんには「ステージ分類」と「臨床病期」という2つの進行目安があります。それぞれを次に詳しくご紹介します。
ステージ分類
ステージ分類とは、がんそのものの進行程度を表すものです。I期〜IV期に分類されていて、数字が大きくなるほど、がんが進行しているということになります。
ステージ分類の3条件
- がんが1つだけである
- がんの直径が2cm以下である
- がんが血管の中に入り込んでいない
ステージ分類
- I期・・・3条件のすべてが当てはまる場合。(がんは1つだけで、2cm以下の大きさで、血管の中には入り込んでいない)
- II期・・・3条件のうち2つが当てはまる場合。(がんは1つだけで、直径2cm以下だが、血管の中に入り込んでいる/がんは直径2cm以下で、血管の中に入り込んでいないが、がんが1つではない/がんが1つだけで、血管の中には入り込んでいないが、直径が2cm以上)
- III期・・・3条件のうち1つが当てはまる場合。(直径2cm以上のがんが血管の中に入り込んでいるが、がんは1つ/がんが複数で血管の中に入り込んでいるが、それぞれのがん細胞の大きさは直径2cm以下/がんが複数で直径は2cm以上だが、血管の中には入り込んでいない)
- ・IV期・・・3条件のすべてが当てはまらない場合。(がんが1つではなく、がんの直径が2cm以上で、血管の中に入り込んでいる)または、リンパ節や肝臓以外の臓器にがんの転移が見られる場合。
臨床病期
臨床病期とは、肝機能の状態を表すものです。1期〜3期に分類され、数字が大きくなるほど、肝機能の状態が悪いということになります。
- 1期(A)・・・肝臓障害の自覚症状がまったくない場合。
- 2期(B)・・・症状の自覚がたまにある場合。
- 3期(C)・・・症状の自覚が常にある場合。
これらを合わせた合計12の分類で、総合的に肝臓がんの進行度合いを判断します。
肝臓がんの生存率
早期に発見し、適切な治療を受けることができれば、肝臓がんの約90%は治すことができると言われています。早期に発見し、がんを切除できた場合の5年生存率は約70%という報告もあります。肝臓がんの治療には様々な方法があり、進行段階によっても異なりますが、平均生存率は、1年生存率が約80%、3年生存率は約50%、5年生存率が約30%と言われています。
一方、がんが切除できなかった場合の平均生存期間は約3〜4か月、5年生存率は約4%程度しかないとも言われています。
肝臓がんが末期になってしまった場合でも、適切な治療をすることが重要なのは他の病気と変わりありません。しかし、患者への負担が軽く、体がある程度自由に動かせることを重視するか、それとも余命の長さを重視するかによって、治療方法が変わってきますので、主治医とよく相談して、最も合った方法を選ぶことが大切です。
肝臓がんの治療方法
肝臓がんの治療には、次のようなものがあります。がんの数や大きさ、肝機能の状態などによって治療方法が選ばれます。
部分肝切除
肝臓の中のがんになっている部分を、手術によって切り取る方法です。
肝硬変などが進んでしまっていて肝機能の状態が悪い場合には、手術に耐えられなかったり、術後に残った肝臓がうまく機能せず、肝不全になってしまう危険性があるため、切除手術が行えないこともあります。
肝移植
機能不全になってしまった肝臓自体を入れ替える移植手術です。肝移植には、生体移植と死体移植の2つの方法があります。
生きているドナーから肝臓の提供を受けることを生体肝移植といい、死亡したドナーから提供を受けることを死体肝移植といいます。死体肝移植には、ドナーの心停止後に肝臓を摘出する心臓死移植と、脳死と判定されたドナーから肝臓を摘出する脳死移植の2つがあります。
しかし、どの方法にも、適合するドナーを見つけるまでに時間がかかったり、実際に移植をした後に患者の体に本当に適合するかどうか、さらに保険適用外のため多額の費用がかかる、など多くの問題があります。
肝動脈塞栓療法
肝動脈からの血流を止めることで肝臓がんへの栄養供給を絶ち、がん細胞だけを壊死させるのが、肝動脈塞栓療法(かんどうみゃくそくせんりょうほう)です。
肝臓は、門脈と肝動脈という異なる2種類の血管から血液の供給を受けています。肝臓そのものの血液供給は、肝動脈からが20〜30%で門脈からが70〜80%ですが、肝臓がんの血液供給は肝動脈からが100%で、門脈からの供給はありません。
そのため、冠動脈からの血液供給を止めることで、がん細胞への栄養供給を絶つことができるのです。この治療では、肝臓そのものも少しダメージを受けてしまいますが、門脈からの血液供給があるので、肝臓そのものが壊死することはありません。
方法は、冠動脈にカテーテルという細いチューブを入れ、抗がん剤を流し込み、冠動脈を塞ぎます。
エタノール注入療法
がん細胞がある部分にエタノールを注入し、がん細胞を壊死させる治療方法です。エタノールは細胞を構成するたんぱく質を凝固する作用を持っています。
エタノールの注入には、まず局部麻酔をし、超音波やCTで肝臓がんの位置を確認しながら、腹部または胸部の皮膚の上から細い針を刺して行います。
この療法を行うには、
- がんの直径が3cm以下でがんが3個以内であること
- がん全体を超音波の画像でとらえられること
- コントロール不能の腹水や出血の傾向がないこと
以上の3つが基準となっています。
繰り返し行うことができ、外科手術でがんを切除するのと同等の効果がある治療法とされています。
ラジオ波焼灼療法
ラジオ波焼灼療法(らじおはしょうしゃくりょうほう)とは、腫瘍の中に極細の電極針を挿し、ラジオ波(周波数約450キロヘルツの高周波)電流を流すことで、電極周辺に熱を発生させ、発生した熱によってがん細胞を固める方法です。
固まったがん細胞は、細胞としての機能が失われているので、間もなく壊死してしまいます。日本でも2004年4月から保険適用手術となり、肝臓がんに対する標準的な治療と位置づけられるようになりました。
この療法を行うには、
- がんが1個だけなら直径5cm以内であること
- がんが複数の場合には3個以内かつ直径3cm以下であること
- がんが血管の中に入り込んでいないこと
- 他の臓器へのがんの転移が見られないこと
上記の4つが基準となっています。
また、明らかな出血傾向があったり、コントロール不能の腹水があって出血のリスクが高かったり、腎機能障害や造影剤のアレルギーなどでCT等ができないため治療結果の判定ができなかったりする場合には、この治療を行うことができません。
抗がん剤
抗がん剤とは、悪性腫瘍の増殖過程に働きかけることで、細胞の増殖を妨害し壊死に追いやる薬剤です。しかし、抗がん剤は正常な細胞にも作用することがあります。
抗がん剤の種類や個人差などによって異なりますが、この治療によって、吐き気、脱毛、白血球の減少、などの副作用が現れることがあります。そのため、患者への負担が大きい治療法と言えるでしょう。
放射線療法
放射線療法とは、がん細胞に放射線をあてて壊死させる方法です。
手術の難しい部分にも治療をすることができ、手術に比べて患者への負担が少ないとされる方法ですが、放射線はがん細胞だけではなく正常な細胞にも作用してしまうことがあります。その場合、正常な細胞まで壊死してしまうことになります。
この治療法も、患者への負担が大きいと言えるでしょう。
陽子線療法
陽子線は放射線の一種で、陽子線療法は放射線療法のうちの1つとなります。
放射線治療では一般的にX線を使いますが、陽子線はX線よりも体内の深くまで届き、ピンポイントでがん細胞を狙うことができます。そのため、X線を使う放射線治療に比べて、正常な細胞を壊死させてしまうリスクが低くなります。
しかし、この治療法は先進医療として許可されているもので、保険適用外となっているため、治療にかかる費用は全額自己負担となります。
まとめ
肝臓は沈黙の臓器と言われ、病気があっても症状が現れにくい臓器です。肝臓がんも、症状を自覚できるようになって医療機関を受診すると、すでに末期と診断されることもあります。年に1回の定期検査を受け、早期に肝臓がんを発見し、適切に治療することが最も大切です。
それでも、末期の肝臓がんと診断されても、治療法がまったくなく、すぐに死に至るわけではありません。
適切な治療を受けることで、余命を延ばすことができます。治療には少なからず患者への負担がありますので、延命を重視するのか、負担の軽さを重視するのかによって、治療法が変わってきます。医師と相談して最も合った治療法を選ぶことが大切です。
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