リウマチに代表される「膠原病(こうげんびょう)」は、原因が特定されていない難病のひとつです。全身に痛みが走るとてもつらい病気ですが、患者は痛み以外にも「いつまで続くのか」という苦しみを抱えます。
少し前までは「膠原病は遺伝しない」という説もありましたが、最近は遺伝との関係を示す研究結果が出始めています。最新の資料をまとめるとともに、膠原病の基本情報をみてみましょう。
膠原病と遺伝
「生命予後の向上が期待できる」
京都大学附属病院、免疫・膠原病内科の三森経世教授は、膠原病の治療の今後について次のように述べています。患者には力強く感じるのではないでしょうか。
- ①膠原病の治療法の確立に向けたヒトゲノムの解読は既に終了している
- ②今後は病気の発症や治療法との相性に関わる遺伝子が解明される可能性がある
- ③1人ひとりの患者に合わせた医療が実現する可能性がある
- ④膠原病を根治できる治療法が確立されれば、膠原病の生命予後と生活の質(QOL)はさらに向上することが期待できる
「ゲノム」とは、遺伝子と染色体のことで、人のすべての遺伝情報のことです。つまり、膠原病の治療には遺伝子レベルでのアプローチが必要であり、将来的にこの病気で苦しむ人が少なくなるだろうと言っているのです。
筑波大学でも
筑波大学医学医療系・分子遺伝疫学研究室も、膠原病と遺伝子について研究しています。この研究室では、膠原病を発症させる遺伝子を探しています。現在のところ、「発生させる遺伝子」を特定できているわけではありませんが、「発生させやすいと考えられる遺伝子の候補」はいくつか挙がっています。
つまり「犯人は特定できていないが容疑者リストはできつつある」といった感じです。
膠原病のひとつである「全身性エリテマトーデス」という病気には「IRF5」という「遺伝子に結合するタンパク質」が関与していることまで分かってきました。
また別の膠原病「全身性強皮症」は「STAT4」というタンパク質が関与していることも分かりました。
遺伝子と治療
遺伝子は、その人しか持っていないものです。ある遺伝子が、ある人のある病気を起こしていることが分かれば、その遺伝子を正常に戻すことでその病気は治ります。その人しか持っていないものを治すので、確実に治ることが期待できるのです。
膠原病が遺伝子によって引き起こされていることが解明され、その遺伝子を正常に戻す治療が開発されれば、膠原病は「治る病気」になるのです。それが三森教授や筑波大学が取り組んでいる研究なのです。
まだ研究段階
ただ遺伝子治療による膠原病治療はまだ研究段階です。残念ながら「未来の医療」です。
膠原病とは
膠原病は、いくつかの病気を総称した名前です。プリウス、マーチ、フェラーリを総称して「クルマ」と呼ぶのと同じです。ある医学部教授は、医師たちに対し「簡単に膠原病と診断するな」と警告しています。その教授は「膠原病はクズカゴ的診断名だ」と厳しいです。つまり「なんだかよく分からないけど膠原病には間違いない」といった使い方をする医師が多いということです。
それくらい膠原病は難しい病気なのです。膠原病を理解するには、膠原病のひとつひとつについて知る必要があるのです。
難病を多く含む
膠原病や膠原病の仲間の病気は、30以上もあります。そのうち厚生労働省が指定する難病は11あり、それは次の通りです。
- 悪性関節リウマチ
- 全身性エリテマトーデス
- 全身性強皮症
- 多発性筋炎
- 高安動脈炎
- サルコイドーシス
- 結節性多発動脈炎
- 混合性結合組織病
- ウェゲナー肉芽腫症
- ベーチェット病
- ビュルガー病
膠原病の共通点
30以上ある膠原病には共通点があります。共通点のひとつめは、原因が不明であることです。発熱や体重減少、倦怠感など全身がやられる症状も共通した症状です。さらに、多くの臓器が一気に障害されます。皮膚、関節、腎臓、肺、心臓、血液といった生命に関わる重要臓器が支障をきたすようになります。
さらに、良くなったり悪くなったりを繰り返すことも同じです。そしていずれも、「自己免疫疾患」であるということです。
自己免疫疾患
自己免疫疾患は、「自己免疫」という言葉と「疾患」が組み合わさった病名です。実はこの2つの言葉は矛盾します。というのも「自己免疫」とは本来、「疾患=病気」から体を守る機能のことだからです。体を守る機能が暴走してしまい、その結果病気になる、これが自己免疫疾患です。
具体的には、血液中に「特殊なリンパ球」が見付かります。「通常のリンパ球」は外敵をやっつけますが、この「特殊なリンパ球」は患者の体を攻撃してしまうのです。正式名称は「自己反応性リンパ球」といいます。
膠原病の代表病気
それでは次に、膠原病のうち、代表的な悪性関節リウマチと全身性エリテマトーデスと全身性強皮症の3つを見てみましょう。
悪性関節リウマチ
関節リウマチは、全身の関節に異常が起きます。痛みや腫れが起きたり、悪化すると骨が変形してしまいます。国内の患者数は約50万人で、30代から50代の女性に多い病気です。
「関節リウマチ」は難病指定されていません。難病指定されているのは「悪性関節リウマチ」で、関節の悪化に加えて、肺や腎臓や全身の血管が壊れた状態です。
全身性エリテマトーデス
全身性エリテマトーデスの症状の特徴は、発熱、関節の痛み、顔や手の湿疹です。この病気も女性がかかりやすいです。発症しやすい年齢は、リウマチの患者より若く、20代から30代です。
全身性エリテマトーデスも、悪化すると腎臓や肺がやられます。リウマチとは異なり、神経が悪化することもあります。
全身性強皮症
全身性強皮症の初期症状は手の指先に現れます。病名の通り、指先の皮膚が硬くなってくるのです。進行すると腕全体の皮膚が硬くなってしまいます。その症状はさらに首や顔の皮膚にまで広がります。
顔面の皮膚が硬くなるので、口が開けにくくなったり、口の中に入れた食物が飲み込みにくくなったりします。
皮膚が硬くなるだけでなく、心臓や血管といった循環器系がおかされると、手足が真っ白になります。これはいわゆる「血が通わない」状態になっているからです。
膠原病の治療
ステロイド
劇薬の代名詞として使われることもあるステロイドは、正式名称を「副腎皮質ステロイドホルモン」といいます。ステロイドは劇的な効果が期待できる反面、副作用が強い薬です。だからといって、ステロイドを少量ずつこわごわと使っていては、効果が得られないことがあります。膠原病におけるステロイド治療は、経験豊富な専門医が行う必要があります。
ステロイドの副作用
ステロイドの副作用は、不眠、便秘、ニキビといった、生活の質を落とす症状から現れます。顔が丸くなる症状も特徴的です。さらに、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病も発症します。骨粗鬆症を引き起こすことも知られています。
膠原病は、こうした副作用を我慢してでもステロイドに頼らなければならない病気なのです。
リウマチ専用の薬
膠原病の中でも関節リウマチは薬の開発が進んでいます。専用の抗リウマチ薬が処方されるでしょう。
免疫抑制剤や漢方
膠原病は、免疫が暴走している状態です。ですので、免疫の働きを抑える免疫抑制剤を使う医師もいます。また副作用が小さい漢方も注目されています。
外科手術
これも関節リウマチの治療ですが、関節の骨の変形が著しいとき、整形外科医による手術も選択されます。手術後はリハビリをして元の動きに近づけていきます。
まとめ
膠原病が疑われたら、すぐにお近くの専門医を探してください。インターネットで探すのがよいでしょう。医者自身のブログや病院のホームページで、膠原病について詳しい解説を掲載していたり、治療方針が明確に示されている場合、信頼度が増します。
膠原病のある専門医は自身のブログで「完全に治った患者さんは1人だけです」とおっしゃっていました。専門医ですので、多くの膠原病患者を診ているのでしょう。とても悲しい気持ちになりました。