「七転八倒の痛み」と表現される尿路結石。腎臓と尿道の間の「おしっこの管(くだ)」に「石」ができるのですから、その表現は大げさではありません。長らく、なぜ石ができるのか分かっていませんでしたが、次第に原因が分かってきました。
原因が特定できたことで、効果的な予防法も確立してきました。患者の体に負担をかけない治療法の開発が進み、軽度であれば、1泊2日の入院で治療できるようになりました。
結石は、成長するのがやっかいなのです。石が2センチ以上に成長すると、かなりつらい治療を選択しなければならなくなります。さらに、腎臓に甚大な障害をもたらすこともあります。成長させる前に、除去しましょう。
尿路結石の原因
まずは、尿路結石の原因について紹介します。
結石ができる場所
尿路は、腎臓、尿管、膀胱、尿道の4つのパーツに分かれます。それぞれの臓器に石ができるので、腎臓結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石と呼ばれます。
結石ができるまで
正常な尿は無色透明ですが、単なる水ではありません。尿の中にはさまざまな成分や老廃物が含まれています。石は、尿に含まれるいくつかの成分に異変が起き、それが固まってできます。その段階はこうです。
異変を起こした成分は、最初は小さな結晶を作ります。結晶の状態では、痛みも違和感もありません。ところがこの結晶が1度できてしまうと、尿内の成分がその結晶にくっついていきます。これを「凝集」といいます。凝集が進むと「石」として確認できるようになります。この過程を「結石化」というのです。
結石の成分
結石の80%を占めるのが、リン酸カルシウムとシュウ酸カルシウムの2つの物質です。「カルシウム」はよく耳にする成分だと思います。では、リン酸とシュウ酸とはなんでしょうか。
リン酸は食品添加物として使われています。豆腐の製造で使う「凝固剤」や、麺を作るときに投入される「かんすい」、ハムやソーセージに含まれる「結着剤」にも、リン酸が含まれています。
シュウ酸はホウレンソウに含まれています。また、肉類を多く摂ると、シュウ酸が体内に溜まりやすくなります。
リン酸もシュウ酸も、カルシウムと結合しやすい性質を持ち、体内で「リン酸カルシウム」と「シュウ酸カルシウム」を作ります。リン酸カルシウムとシュウ酸カルシウムは、大量にできると、結石の元となる「結晶」を作ってしまうのです。
というわけで、リン酸とシュウ酸の大量摂取が、尿路結石の原因といえます。食品添加物は、食品のおいしさや保存方法の改良により、多く使われてきました。また肉類は食の欧米化により日本人も多く摂取するようになりました。
つまり、「現代の食」に関わる問題といえそうです。
クエン酸
肉を多く食べると、シュウ酸を体内にたまりやすくするだけではなく、クエン酸を減らすことも知られています。クエン酸は、石の形成を妨げる作用があるので、クエン酸が減ると、石ができやすい環境ができてしまいます。
カルシウム
リン酸カルシウムとシュウ酸カルシウムの共通点は、もちろんカルシウムです。そこでかつては、カルシウムを摂り過ぎると結石ができると考えられていました。つまり、「カルシウム悪者説」です。
ところが、この説は現在、完全に否定されています。否定どころか、カルシウムを摂取することは、結石の予防に良いこととされているのです。つまり、「カルシウム善人説」です。
「悪者」が「普通の人」になることを飛び越して、「善人」になってしまったのです。現代医療でどうしてこんなことが起きたのでしょうか。
「シュウ酸がカルシウムと結合して石を作る」ことは間違いではありません。なので、カルシウムを摂らなければ石は減る、と考えてしまうことは、ある意味、やむえないことだったかもしれません。
しかし、カルシウムの摂取量が減ると、体内ではまず、「腸内のカルシウム」が減ることが分かりました。そうなると「腸内のシュウ酸」は、結合相手である「腸内のカルシウム」を失うことになります。行き場を失った「腸内のシュウ酸」は、「尿」に移動して、「尿内のカルシウム」と結合してしまうのです。これが尿路結石の「元」になってしまうのです。
シュウ酸が「腸内のカルシウム」と結合すれば、固まったとしても、便と一緒に体外に排出することができます。「腸という管(くだ)」は「尿路」よりはるかに太いので、シュウ酸カルシウムのかたまりが、腸を詰まらせることはありません。
しかし、シュウ酸が「尿内のカルシウム」と結合して固まると、尿路を詰まらせてしまうのです。
ですので、結石の治療や予防では、カルシウムを多く摂り、シュウ酸を腸内で結合させてしまった方がよいのです。
尿路結石の症状
尿路結石の最悪の症状は、腎臓が働かなくなる腎不全です。腎不全は、すぐに治療をしないと死に至る病気です。そのほか、細菌が全身に巡る菌血症も、命に危険を及ぼす病気です。
腎不全や菌血症ほどではない結石の症状は、石ができる場所で異なります。
腎臓結石
悪化すると、血尿が出ます。痛みはないことが多いのですが、石が移動することがあり、そのとき激痛が走ることがあります。
上部尿路結石
石によって物理的に尿がせき止められるので、尿が出にくくなります。また、石の大きさによっては激痛や吐き気が起きます。しかし、しばらくすると痛みが治まります。また、石が1センチ以下の場合、尿とともに体外に排出されることもあります。それで、放置してしまう人もいます。
腎臓結石と尿管結石を合わせて「上部尿路結石」といい、尿路結石の95%を占めます。
下部尿路結石
膀胱と尿道を合わせて、下部尿路といいます。膀胱は、ガスタンクのような「空間」になっていますので、ここに石ができても痛まないことが多いです。ただ、膀胱炎を発症することがあり、放置は危険です。
また、結石が大きくなると、おしっこをしたときに痛みが起きたり、血尿になります。さらに、石が尿道に到達すると、痛みが激しくなります。
尿路結石の治療
では、尿路結石の治療方法について紹介します。
体外衝撃波結石破砕装置
この治療機器が開発されたことで、尿路結石の治療が、格段に楽になりました。後述しますが、かつては、
①治療器具を尿路に入れ
②石をつかみ
③砕(くだ)いて
④取り除く
しかありませんでした。
ところが体外衝撃波結石破砕装置は、患者にとって苦痛が大きい①と②を省略できるのです。麻酔も使いません。機械の上に横になるだけで、治療時間も30分と短くて済みます。
日帰り可能な医療機関も増えていますが、1泊2日の入院が標準です。
この治療機器の仕組みを簡単に説明すると、体の外から「衝撃波」を当てて、結石を砕きます。衝撃波は、硬い物質を砕くのですが、軟らかいものは壊しません。砕いた石は、尿と一緒に体外に出てきます。
「経尿道的」尿路結石除去術
全身麻酔をして、尿道に内視鏡を挿入して、結石にレーザーを当てて砕きます。「全身麻酔」と「尿道に内視鏡を挿入する」という、患者の体への負担が大きい治療ですが、物理的に石を取り除けるので、体外衝撃波結石破砕装置より、きれいに石を取り除けます。
「経尿道的」とは、「尿道」を「経由して」という意味です。
「経皮的」尿路結石除去術
体外衝撃波結石破砕装置や経尿道的尿路結石除去術は、2センチ以下の石に対して行われます。石が2センチ以上になると、この2つの治療では完全に取り切れません。
その場合、全身麻酔をして、背中を切開する手術を行います。切開したところから腎臓の中に向かって内視鏡を入れ、石をレーザーで破壊します。
「経尿道的」は尿道から内視鏡を入れますが、こちらの「経皮的」は「皮膚の上」から内視鏡を入れます。
薬による治療
結石が1センチ以下の場合、自然排出を目指します。自然排泄を待つ場合の、石の大きさ以外の条件は、腎機能が低下していないことと、感染がないことです。これらの条件が揃っている場合、痛みを鎮痛剤でコントロールしながら、石が尿道から出るのを待ちます。
2、3週間経っても石が出てこない場合、体外衝撃波結石破砕装置などの積極治療に移行します。
尿路結石の予防
尿路結石は、1度取り除いても、再発することが多い病気です。そこで、治療に着手すると同時に、食生活の改善に取り組んでください。
控えるもの
動物性たんぱく質を控えてください。添加物を使った食べ物も、極力避けましょう。これらが合わさった、ハムやソーセージはしばらく食べない方がいいでしょう。
シュウ酸が多いホウレンソウも食べ過ぎないでください。ただし、ゆでるとシュウ酸が除去されるので、お浸しにして食べるのであればOKです。
ビタミンCも、実はシュウ酸を体に溜める作用があります。「健康になるために絶対に必要」というイメージがあるビタミンCですが、もし、尿路結石を起こしている人が、習慣的にビタミンCサプリメントを引用していたら、一時休む方がいいかもしれません。
増やすもの
カルシウムを多く摂りましょう。大豆、牛乳、ピーマン、ニンジン、カボチャが良いとされています。
運動
運動によって結石が砕けたり、砕けた石が体外に出ることがありますので、運動は結石の予防には重要です。
医師がすすめる運動は「体を上下に動かす」ことです。縄跳び、ジョギング、ウォーキングがそれに当たります。
まとめ
「石が体内にできる」と言われると、「異物が混入した」というイメージを抱くかもしれません。しかし結石は、自らが作り出しているのです。「結石ができやすい体質」はありますが、それでも、食生活の改善や、運動不足の解消に取り組むことで、予防ができたり、作りにくくすることが期待できます。
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