潰瘍性大腸炎という病気をご存知でしょうか?あまり聞き慣れないかもしれませんが、これは難病指定にされている病気です。下痢や腹痛だけでなく、血便も伴うこの病気は、症状自体を緩和せることができても、完治するのは非常に難しいと言われています。
20代~30代といった若い人に多く発症し、良くなったように思っても、数ヶ月あるいは数年後に再発しているという場合もあるようです。
ここでは、潰瘍性大腸炎がどのような病気なのかに加え、患者さんにとって、気をつけなければならない食事管理についても、合わせてご紹介いたします。
潰瘍性大腸炎について
国内の潰瘍性大腸炎の患者数は、年々増加する傾向にあり、現在では約166,060人にも昇ると言われ(厚生労働省平成25年度衛生行政報告例)、なんと世界第二位の患者数になっています。
長く患っていると、癌に病変しやすく、また、癌になったとしても、潰瘍や炎症が治った跡と見分けがつきにくいので発見しづらいという、大変厄介な病気です。今苦しんでいる人たちへの理解を深めるためにも、この病気について、詳しく見ていきましょう。
どんな病気?
潰瘍性大腸炎は、別名UC(Ulcerative Colitis)とも呼ばれており、炎症性腸疾患に含まれる病気です。大腸の最も内側の層にあたる粘膜で炎症を起こし、びらん(ただれ)や潰瘍ができます。
性別による発症差はありませんが、発症時期においては、男性では20~24歳、女性の場合は25~29歳の間に最も多く発症するという調査結果が出ています。また、この病気は、良くなったり悪くなったりを繰り返します(次の項目参照)。
肛門に近い直腸から炎症が始まり、その後、徐々に炎症が広がります。その炎症の広がりの範囲から、【直腸炎型】、【遠位大腸炎型】、【左側(さそく)大腸炎型】、【全大腸炎型】の4タイプに分けられます。
直腸炎型は、直腸のみに炎症が起きている、比較的範囲の狭いタイプです。そこから、上にあげた順に範囲が広がり、腸全体に炎症が広がると、全大腸炎型に分類されます。
活動期と緩解期
<活動期>
大腸内視鏡検査をすると、粘膜に出血が見られます。また、びらんや潰瘍があるので腸管壁の血管の様子が見えなくなっている状態です。さらに、血便といった症状もあります。
<緩解期>
大腸内視鏡検査をすると、びらんや潰瘍の消滅が確認できます。そのため、腸管壁の血管が透けて見える状態で、血便などの症状は見られなくなります。
潰瘍性大腸炎は、このような活動期と緩解期を繰り返しながら、10~30年という長い期間、病気と向き合う必要があるのです。
このような活動(あるいは再燃)期と緩解期を行き来する「再燃緩解型」のほかにも、ずっとだらだらと症状が続く「慢性持続型」などの種類があります。
症状
最初は軽い下痢や、しぶり腹(便が出そうで出ない)から始まることが多いようです。そこから徐々に血が混ざった粘血便になります。
症状が重くなるにつれて、ドロッとしたゼリー状の粘液や膿が付着した便が出るようになり、多い時では、10回以上もトイレに駆け込む人もいるようです。さらに、発熱や体重減少なども併発します。
また、このような大腸の症状以外にも、皮膚が病変したり、関節炎、心筋退行変性などが現れることもあります。
原因
この病気は、まだ明確な原因がわかっていないのが現状です。
関係している可能性があると考えられているものは、ストレスや遺伝、食生活の欧米化、腸内細菌の関与、さらには自己免疫異常(本来自分を守るために働くはずの免疫機能が、何らかの誤作動によって自分を攻撃する)などがあげられてはいますが、明らかではありません。
治療法
<内科治療>
絶食や食事療法で、まず大腸を安静な状態にすることを優先させます。そこから、粘膜に負担をかける活性酸素を減らし、炎症を悪化させるサイトカインを抑制すると言われる5ASA製剤という薬や、ステロイド剤を中心に炎症を抑えながら、緩解期を待つ治療を基本とします。
軽症であれば、どこの病院でも治療できますが、ひどくなると入院が必要です。
<外科治療>
潰瘍性大腸炎の場合、大腸の一部だけを手術で取り除いても、残っているところにまた潰瘍が発生するため、大腸を全て取り除く手術が必要になります。全て摘出した後、人工肛門をつくったり、直腸の代わりに小腸でサポートする「Jポーチ」と呼ばれるものをつくります。
詳しくは、潰瘍性大腸炎は完治するの?原因や治療方法を紹介!を参考にしてください。
潰瘍性大腸炎の食事管理について
潰瘍性大腸炎になると、活動期はもちろんのこと、緩解期にも、できるだけ腸への負担や刺激が少ない食事(低残渣食と呼ばれる)を心がける必要があります。しかし、人によっては、緩解期は、あまり神経質に制限することを止め、「ポテトチップスも、半袋以内なら食べても良い」など、ある程度のルールを決め、緩めな管理でストレスを溜めないようにしている人もいるようです。
人によって、刺激となる食べ物も異なってくるでしょうから、「自分にとってどの食材が危険なのか?」といった傾向を把握しておくことが大切なのかもしれません。
ここでは、一般的に言われている、潰瘍性大腸炎の人が食べても良いもの、そして、食べない方が良いものをご紹介いたします。
食べても良いもの
<主食>
お粥や柔らかめに炊いた白米、うどん、もち、食パン、柔らかいフランスパンなど。
また、動物性のバターよりも、植物性のマーガリンを塗る方が安心です。パンには、マーガリンだけでなく、リンゴジャムなどを合わせるのもおすすめです。お粥やうどんの、味を変えたり、いろいろなジャムを選びながら楽しむのが良いでしょう。
<おかず(タンパク質)>
肉類は、脂身の少ない部分(豚ひれ肉、鶏ささみ、鶏むね肉など)を食べる習慣をつけると良いでしょう。魚の脂は控える必要はありません。しかし、小骨の多い魚や、フライなどの揚げ物より、刺身を選ぶことをおすすめします。
刺身は栄養も豊富なので積極的に取りたいタンパク質です。ただ、タコなどの固いものや、貝類などの繊維質の多いものは避けるように気をつけましょう。
<野菜>
あまり荒くない繊維のものを選ぶようにします。例えば青菜の葉先や、ブロッコリーの花の部分など、噛んでいてもすぐに口の中で細かくなるようなものが良いです。硬い野菜ならば、柔らかく茹でたり、ミキサーにかけて細かくすればOKです。
野菜はビタミンの宝庫ですので、いろいろ工夫しながらも、積極的に摂りたいものです。
<デザート>
バナナや桃、リンゴなど、水溶性食物繊維の果物は食べられます。果皮は必ず剥いて食べるようにしましょう。ゼリーや羊羹もおすすめです。羊羹などのあんこは、粒あんよりも、こしあんの方が消化されやすいので安心です。
また、ヨーグルトも良いでしょう。乳製品なのに大丈夫?と思うかもしれません。確かに、牛乳には、潰瘍性大腸炎の人にとっては分解するのが困難な「乳糖」が含まれています。
しかし、ヨーグルトに多く含まれる乳酸菌は、乳糖を分解してくれるだけでなく、腸内環境を整えてくれるのです。デザートが食べたいな、と思うときには、すりおろしたリンゴをヨーグルトにかけて食べるのも良いかもしれませんね。
食べない方が良いもの
<脂分の多いもの>
動物性の脂肪分はあまり良くありません。油を使うときは植物性のエゴマ油(しそ油)や亜麻仁油などを選ぶのも一つの方法でしょう。「食べても良いもの」でお伝えしたように、魚の脂質は大丈夫です。
<辛いもの>
スパイスや、辛みの強いものは、健康な人でもお腹を壊すことがあるくらいです。腸への刺激が大変大きいので避けましょう。
<繊維が多いもの(不溶性の食物繊維)>
ゴボウやタケノコ、山菜類など、あまり繊維の荒い食物繊維は、腸に負担をかけてしまうので、できるだけ避けましょう。また、皮のある野菜は皮を取った方が安心です。
しかし、繊維の荒すぎない食物繊維による、適度な腸壁の刺激は、代謝を良くするという論文も出ているようです。良く茹でるなどの工夫をしたり、野菜ジュースを摂るなどして、腸の具合を観察しながら食べられる野菜を少しずつ見つけるのも良いかもしれません。
<消化しにくいもの>
ピーナッツなどの豆類や海藻、キノコ類は避けた方が良いでしょう。パイナップルやドライフルーツなども消化しにくいので注意が必要です。
<シュウ酸を多く含む食品>
潰瘍性大腸炎の人は、結石ができやすい傾向にあります。ですので、ほうれん草やチョコレート、ココア、紅茶などのシュウ酸を多く含む食品は避けた方が良いでしょう。シュウ酸は、結石をできやすくするのです。
<炭酸飲料・冷たい飲み物>
冷たい飲み物や炭酸飲料は、ダイレクトに腸へ刺激を与えるので避けましょう。しかし、アルコールに関しては「絶対摂取してはならない」という医師は、意外にも少ないのです。空腹時の飲酒や、深酒さえしなければ、たしなむ程度の飲酒はさほど問題ないようです。
低残渣食を取り入れよう
食事にこれだけ制限がかかるのは、誰だってストレスを感じることでしょう。食事は楽しく、美味しく食べるからこそ意味があります。最近は、胃腸に優しく、消化の良い「低残渣食」についてのレシピ本や、インターネットサイトもたくさん出ているようです。
自分で作ったり、家族や恋人などの助けを借りて、「美味しい」と感じられるような食事を作る心がけをしてみても良いかもしれません。
「また、食事の時間か…」ではなく、「今日はどんな工夫をしようかな?」と話し合いながら取り組めば、気持ちも前向きになれるのではないでしょうか?
まとめ
いかがでしたでしょうか?潰瘍性大腸炎を患った人は、つらい症状を抱えているにも関わらず、周囲から「ただの下痢でしょ?」と心無い言葉を掛けられ、苦しい思いをしている人もたくさんいるようです。
周囲の人の協力によって、前向きな気持ちでいることができれば、つらい活動期も何とか乗り越えられるのではないでしょうか?そういった明るい気持ちは、免疫力も高めてくれると言われています。
「どうすればいいのかな?」という思考で、諦めず治療に取り組むことが大切なのかもしれません。
関連記事として、
これらの記事も合わせてお読みください!