昔から家に一つは置いてあった正露丸。お腹が痛くなったときの安心アイテムです。その歴史も古く、「征露丸」という名称で1904年、日露戦争時に日本軍で製造され、陸海軍に配布されたのが始まりです。
しかし、主成分である、木クレオソートの歴史はさらに古く、なんと紀元前3000年頃から、古代エジプトで木クレオソートの原料を、ミイラを保存するために使用していたと言われています。
独特な香りが苦手な人も多いですが、「良薬口に苦し」とはよく言ったもので、下痢止めにおけるその効果は抜群です。ここでは、このように馴染み深い正露丸が、どのような薬なのか、そしてどんな効果があるのかを改めてご紹介します。
正露丸にはどんな成分が含まれている?
一見、真っ黒な粒に見える正露丸ですが、よく見ると濃い焦げ茶色をしています。香り同様、どちらにせよ、少し取っ付きにくいそのルックスは、いろいろな生薬によるものです。
正露丸に含まれる合計5種類の成分について、早速見ていきましょう!
主成分「木クレオソート」
正露丸独特のあの香りの正体が、この「木クレオソート」です。ブナやマツなどの原木を炭化する際に出る煙を冷やし、液化すると「木タール」という木クレオソートの原料ができます。これを何度も蒸留精製したものが木クレオソートです。
殺菌作用もあることから、お腹の良い菌まで殺してしまうのでは?という声もありますが、正露丸の製造元である大幸薬品はその説を否定し、新たな研究結果を発表しました。
その結果、正露丸の下痢止め作用は、殺菌作用によるものではなく、腸内の水分バランスを崩す、水分分泌亢進や腸管運動の亢進を抑制する働きによるものだということが明らかになりました。
また、防腐剤として使用される「石炭クレオソート」と同じものだと誤解されることもあるようですが、これとは全く別物だということも、正式に発表しています。
アセンヤク末
これは、アカネ科のガンビールの葉や枝から得た乾燥水製エキスです。東南アジアでの諸民族の間では、これに石炭を混ぜて水で練り、ビンロウの種と一緒にキンマという葉で包んで、ガムのように噛む習慣もあるそうです。
味は、とても渋くて苦いと言われていますが、下痢止め薬や整腸薬、または、口腔清涼剤の原料として多く使われています。
オウバク末
ミカン科のキハダまたはシナキハダの周皮を取り除いた樹皮の部分にあたります。黄色ブドウ球菌や赤痢菌、コレラ菌などに対する抗菌作用や、抗炎症作用、血圧降下作用、中枢神経抑制作用など、多くの作用があります。
下痢止め薬以外にも、胃腸薬として処方されたり、打ち身や捻挫をしたときの外用薬としても使用されています。
カンゾウ末
これは、マメ科のカンゾウの根の部分です。甘味があるのが特徴で、その甘さは蔗糖の150倍とも言われています。鎮痛鎮痙、解毒薬などとして古くから使わており、現在でも処方される漢方薬の70%以上に配合されています。
また、漢方処方では、本来の薬効以外にも、他の薬の効果を高め、毒性を抑えるために、なつめや生姜とともに配合されています。
陳皮末
ミカン科のウンシュウミカン、または橘の成熟した果皮で、精油を含み、芳香性の胃腸薬として、多くの胃腸薬に配合されています。苦味と、独特な香りを持つのが特徴です。
効能としては、胃液分泌促進やリパーゼ亢進作用があり、胃の消化を助ける薬や、咳止め・痰止め薬として、さらには入浴剤にも用いられることがあります。
正露丸が下痢によく効く理由
下痢には、【腸の過剰な蠕動(ぜんどう)運動によって、十分に水分が腸に吸収されないこと】が原因となるものや、【腸から体内に向けての水分吸収が不十分で、口から摂取した水分と腸の水分が溜まること】によって起こるもの、そして、【腸から過剰に水分が分泌されること】が原因となるものがあります。
正露丸に含まれる木クレオソートを中心とした生薬が、このようなさまざまな原因を持つ下痢にアプローチしているようです。生薬がどのようなアプローチをしているのか、見ていきましょう。
生薬が素早く吸収される
正露丸の主成分である木クレオソートは、服用後すぐに血中に吸収され、大腸の過剰な運動を抑制し、結果として腸管での水分吸収を促進して下痢をとめます。
つまり、直接大腸へ働きかけているのではなく、血液を通して効果を発揮しているのです。その素早さと、吸収率の高さも正露丸が下痢によく聞く理由の一つです。
腸の蠕動運動を正常に戻す
消化管には、4種類のセロトニン受容体が存在しています。正露丸に含まれる生薬が、大腸のセロトニン受容体に作用し、蠕動運動を正常に戻します。
小腸ではなく、大腸のみに作用することで、蠕動運動を過剰に抑制しすぎるのを防ぐことができるのです。
腸内の水分を調節する
有効成分が、腸管上皮細胞にある「塩素イオンチャンネル」というところに作用することによって、腸の過剰な水分分泌を抑え、さらに水分吸収を促進することで、腸管内の水分を調整し、正常な状態へ戻します。
いろいろなタイプの下痢に効果がある
そもそも下痢は、腸内の水分が過剰になることが原因です。上でお伝えしたように、正露丸は、「腸の動きを止める」ことによって、下痢という症状にアプローチをかけるわけではなく、腸の蠕動運動や水分バランスを正常に保つという作用の結果、下痢が止まるという働きをします。よって、以下に挙げた多くのタイプの下痢に効果を発揮することができます。
ストレス性の下痢
会社や学校へ行く電車の中、あるいは大切な試験や商談の前など、大事なときに限って必ず下痢をしてしまうという人がいます。これはストレスが原因となって、腸の蠕動運動が過剰になり、引き起こされる下痢です。
緊張すると、腸の働きをコントロールする自律神経が過敏になるので、このようなことが起こってしまうのです。
冷えが原因となって起こる下痢
冷たい飲み物や、アイスクリームなどの冷たい食べ物をついつい食べてしまう夏場には、お腹のトラブルも多いようです。また、食べ物だけではなく、冷房のかけすぎや、朝晩の気温の変化によっても下痢をすることがあります。
身体が冷えると、自律神経が過敏になり、腸が活発に動きすぎて下痢を引き起こします。
食べ過ぎや、脂っこい食事などが原因の下痢
脂肪分・糖分の多い食べ物や、カレーに含まれる香辛料など刺激の強い食べ物を食べると、体調によっては消化不良をおこし、消化しきれなかったものが腸内に残ります。そしてそこに水分が移行し、さらに腸を刺激してしまうので、軟便や下痢になってしまうのです。
また、牛乳を飲むと、便が緩くなったり、下痢をする場合もこれと同じで、牛乳に含まれる「乳糖」を分解する酵素がない人、あるいはその働きが悪い人は、乳糖を分解しきれず、お腹の不調と化すのです。
食あたり
「食あたりのときは、薬を飲まずに、全部外へ出したほうが良い」と聞いてきた人も多いのではないでしょうか?確かに、食あたりの場合、腸の動きを止めてしまう下痢止めは、原因となる細菌やウイルスを腸内に留めておくことになるので症状が悪化する場合があります。
しかし、正露丸は腸の動きを止めません。すなわち、下痢の原因となる細菌やウイルスを腸内に溜め込まないということです。
しかし、高熱や血便をと伴うなどの症状がひどい場合は、医療機関で受診してください。
水あたり
カルシウムやマグネシウム、ミネラルなどを多く含む硬水を飲んだり、海外旅行をしたときなどに不衛生な水を飲み、細菌やウイルスを体内に入れたことが原因で起こる下痢です。
硬度の高い水を飲むと、マグネシウムイオンが腸内に残ることで、体内から腸へ水分が分泌され、腸管内の水分量が多くなり、下痢につながります。
日本では、ほとんど軟水なので安心ですが、海外へ行くと硬水が多いので要注意です。また、海外は、水道水が病原菌に汚染されているところもありますので、生水を飲むのは極力控えたほうが良いでしょう。
お腹の風邪
鼻風邪、喉風邪と同じように「お腹の風邪」になると、下痢をします。風邪は粘膜の炎症によって起こる咳や鼻水、発熱などの症状がよく見られるのですが、胃腸などの消化器官の粘膜に感染することもあります。
飲みすぎ
ついつい楽しくて飲みすぎた翌日、お腹がゴロゴロした経験がある人もいるのではないでしょうか?過度のアルコール摂取は、腸を刺激します。刺激を受けた腸が蠕動運動を活発にします。
さらにそこに、いつも以上の大量の水分が流れ込むことによって、便の水分量が増え、下痢につながるのです。
虫歯
正露丸は虫歯になったときにも使用できます。正露丸の主成分である、木クレオソートは、歯の鎮痛鎮静や根管の消毒用としても使われています。この場合は、丸剤を適度な大きさに切って、虫歯の穴に詰めます。
しかし、これは一時的な痛みを取るもので、治療効果があるわけではありません。歯科医師の診察を受けるまでの応急処置として使用し、早めに医師の治療を受けましょう。また、痛みが和らいだら、必ず、歯に詰めた正露丸は取るように気をつけてください。
痙攣性の便秘
便秘には効果がないと思う人も多いかもしれませんが、便秘と下痢を繰り返すタイプの痙攣性便秘には、非常に効果的です。
活発になりすぎて下痢を起こした場合は、蠕動運動を抑え、停滞した場合は、活発にさせる作用が働くことによって、痙攣性便秘の状態にある腸を落ち着かせ、症状を良くすることができるのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?昔から私たちのお腹のトラブルを解決してくれる正露丸の効果を改めて見ると、古くから愛用されていた理由がわかるような気がします。
頼もしい存在ではありますが、できるならば、まず、下痢にならないような心がけをしたいものです。身体を冷やさないようにしたり、温かい飲み物を摂るようにする、健康的な食事や、ストレス改善など、普段の生活を見直してみるのも良いかもしれません。
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