最近は空調設備も整い、キッチンでも快適に過ごせる環境で調理している人も多いと思いますが、それは別の角度から見てみると衛生管理によっては「いつでも食中毒にかかってしまう危険にさらされている」ということになるのではないでしょうか?
今日は、鳥刺し(鶏肉、生など)の食中毒になってしまう場合の症状や検査法などを通して、これから注意していくことをお話させて頂きますね。
鳥刺しの食中毒で起こる症状
鳥肉での食中毒の場合には主に、鳥肉を食べて2日~5日ほどして、発熱、下痢、頭痛、腹痛などの症状が出ますが、その多くは鳥刺しなどを生の状態で食べてしまい、お腹をこわしてしまうというケースです。
他にも、悪心、嘔気、嘔吐、悪寒、倦怠感などがあり、鳥刺しでの食中毒ともなると、やはり数日間は大変に辛い思いをしてしまうことになります。そのことから見ても特に、高齢者や子ども、疲れの溜まっている等の抵抗力の低い人は生で食べない方がより安心です。
本来、生の鳥肉はカンピロバクター食中毒が非常に発生しやすいために、「生肉としては、食べないように」と法令で定められているものですね。生で食べるというのは、素材の味や鮮度の良さ等、良いことがたくさんある一方で、生だからこそ「鮮度と時間」をしっかりと考えたうえでの「取り扱い」が重要になります。
大切な家族につらい思いはさせたくないと願うのは、みんな同じだと思いますので、万が一のために食品衛生法にも少し触れておきますね。
鳥刺しと食品衛生法
もし、お店で飲食をした生の鶏肉が原因で体調を崩したと思われる場合には、速やかに病院に行って検査をして頂きましょう。
感染源を突き止めて、衛生処理をすることは被害の拡大を防ぐ方法でもあるとともに、「正しい治療をする判断材料」にもなるからです。
もし、鳥刺しでの食中毒が原因となれば、早急に治療をすることは大切ですが、その他にも病院側には、食品衛生法によって「食中毒と診断した医師は24時間以内に最寄りの保健所長への届け出をする」義務が生じます。
鳥刺しの食中毒について、もし医師が届け出を怠ってしまうと6カ月以下の懲役もしくは、3万円以下の罰金などの罰則も設けられているのです。では、このような食中毒とは、どのくらい発生しているのかを見ていきますね。
鳥肉での食中毒の発生数
厚生労働省のホームページを見てみると、鳥刺しの食中毒の代表とも言えるカンピロバクター食中毒について下記のように記載がありました。
「わが国で発生している細菌性食中毒の中で、近年、発生件数が最も多く、年間300件、患者数2,000人程度で推移しています。最近では、屋外で飲食店が食肉を調理し提供するイベントで加熱不十分な鶏肉を『新鮮だからこそ』と提供して、500名を超える患者が発生した事案がありました。この事案からも鶏肉を取り扱う事業者は、中心部までの加熱が必要なことを十分に認識する必要があります」
平成27年 事件数 318件 患者数 2089人
ただの腹痛と間違っていた等、届け出がされていないケースを考えると、かなりの数に及ぶことが分かりますね。
これらを防ぐためには飲食店だけでなく、家庭でも食品に対する衛生面での調理方法等を見直していく必要がありそうです。
では、カンピロバクター食中毒とは、どんなものなのか次にお伝えいたしますね。
カンピロバクタ―食中毒菌とは
カンピロバクタ―とは、家畜の流産、胃腸炎、肝炎等の原因菌になるとして獣医学分野で注目されていた菌なのですが、鶏、牛等の家畜をはじめとして、人間と身近にいるペットや野生の小動物など多くの生き物が保菌していることが分かっています。
1970年代にカンピロバクタ―菌が検出され、人に対する下痢を起こさせる原因菌であることが証明されましたが、1978年に米国では多数の感染した事例が発生してしまったことがきっかけとなり、世界的に注目される菌になりました。
カンピロバクター・ジェジュニと、カンピロバクター・コリが食中毒患者から分離される菌種の多くを占めることが分かっています。
そうすると、鳥刺しの食中毒を防ぐためには、カンピロバクターの特性を知ると良いのではないでしょうか。カンピロバクターとは、どんな特性があるのか少し見ていきますね。
カンピロバクタ―の特性
カンピロバクタ―は、鳥の腸管内にいる常駐菌で、食中毒の原因として最もポピュラーな原因菌です。カンピロバクターは、人や動物の腸管内でしか増殖せず、乾燥に弱く、通常の加熱調理で死滅する等の特性を持っています。
カンピロバクターは、鳥の筋肉ではなく、鳥の内臓にたくさん存在しているのです。そのような理由から、鳥刺しを調理するため「鳥を解体する時に内臓から汚染されてしまう」ということが原因となります。
鳥を解体処理するのに、内臓に全く触れないまま調理をすることは不可能に近いと思います。
そのため、仮に新鮮な鳥でも解体処理中に、たくさんのカンピロバクター菌が付着してしまうと食中毒を起こしてしまう発生原因となってしまいます。もしも少量だとしても保管中には、時間と共にカンピロバクター菌が増殖することになってしまいます。
では、カンピロバクターの予防方法は、どうしたら良いのかを続いて見ていきますね。
カンピロバクター食中毒を防ぐ
では、カンピロバクター食中毒の予防方法を見ていきましょう。
- 鳥肉を十分に加熱して調理しましょう。(その際には、中心部が75℃以上になるようにして1分間以上加熱をしましょう)
- 未加熱又は、加熱不十分な鳥肉料理を食べるのは、出来るだけ控えるようにしましょう。
- 二次感染防止のためにも、鳥肉は調理器具や容器を他の食品等とは別に分けて、処理や保存を行いましょう。
- 鳥肉を調理した後は、丁寧に手を洗い消毒をしてから他の食品を取り扱うようにしましょう。
- 鳥肉に触れた調理器具等は使用後、洗浄・殺菌を行うようにしましょう。
より安全な方法としては、キッチンの近くに手指用の消毒液を置くなど、工夫が出来る事はたくさんあると思いますが、普段から食品衛生に気を付けると安心ですね。
では、カンピロバクターが原因で起こる食中毒以外の辛い病気についても、お伝えいたします。
ギランバレー症候群
鳥肉が原因で起こるカンピロバクター食中毒ですが、このカンピロバクターが原因で起こる可能性のある病気もあるのです。
急に立てなくなる等の力が入らなくなる病気として「ギランバレー症候群」があります。では、ギランバレー症候群について見ていきましょう。
症状
主に風邪のような症状や下痢を患ったあと、およそ1~3週間して比較的急速に四肢の筋力低下が現れます。
通常でしたら、2~4週間目でピークに達して、進行は停止します。進行が停止をすると、少しずつ快方に向かい、3~6カ月でだいたい治癒するのですが、残念ながら10~20%の患者さんには後遺症を残すことがあります。
後遺症が残ってしまうと車いすや杖を使わないと生活が出来ないようになるケースもあるのです。大切な知人もギランバレー症候群になり、後遺症を患っていますが車いすがないと外に出られず、実際に人生そのものを変えられてしまいました。
ギランバレー症候群になる確率が低いとしても安易に考えるのは控えた方が良いといえるでしょう。しかし、幸いなことは、運動障害に比べると感覚障害は軽いのが特徴なので、「人の体温である温かさが伝わる」ということかもしれませんね。
その他には、顔面の筋力低下も約50%の患者さんに現れることもあります。舌や嚥下筋を動かす神経に障害が出てしまったり、目の神経に異常が見られたりします。
どのような症状でも辛いものですが、一番怖いのは、呼吸筋の麻痺が10~20%の患者さんで起こることです。呼吸は、生きるために必要不可欠な自立系統なので、確率は低いとしても「命に関わることがある」ということは見逃してはいけない事実なのです。
検査
病院で、ギランバレーが疑われると、髄液検査を行います。発症から1週目を過ぎる頃には、蛋白量が上昇しますが、髄膜炎のように髄液の細胞の数が同様に増えることはありません。
この時に上昇した蛋白と、細胞の所見が解離することが、ギランバレー症候群の特徴です。また必要に応じて、筋電図検査や末梢神経伝導検査を行いますが、ギランバレー症候群の時には、神経伝導速度の遅延などが現れます。
治療
免疫グロブリンをたくさん静注する治療法、または血漿交換治療が有効な治療法とされています。
免疫グロブリン大量静注療法というのを体重1キロに対して400mgの用量で5日間ほど投与していきます。血漿交換の治療は症状の程度により変わりますが、5m以上歩ける軽症例でも隔日で2回することが多いようです。これらの治療をしながら、筋力回復のためリハビリテーションを行うことが必要になってきます。
長期的な治療となることも多いために、周りのご家族も大変な思いを強いられてしまうことを考えると、心の痛いことにならないようにしていきたいものです。
鳥刺し食中毒やカンピロバクター菌の感染は、特性を知ることで少し工夫をすれば防げるので、積極的に上記のことに留意していきましょうね。
詳しくは、ギランバレー症候群の原因は?ウイルスや細菌についてを参考にしてください!
まとめ
では今日のまとめです。
- 鳥肉での食中毒は、2日~5日ほどして腹痛や下痢などの症状が出てくる
- 高齢者や子どもなど、抵抗力の低い人は生で食べないようにする
- カンピロバクタ―は、鳥の腸管内にいる常駐菌なので感染しやすい
- 生の鳥肉は、カンピロバクター食中毒が非常に発生しやすい
- 鳥肉を中心部が75度になるよう1分間加熱する
- カンピロバクターが原因で、ギランバレー症候群になることもある
このように、鳥刺しによって起こる可能性のある病気を紹介しましたが、良くないことは、生の鳥肉で起こる食中毒への関心度が低いのが現状です。
そのために、「3カ月以内に鳥の刺し身などの生肉を食べた人は4割、20~30代になると約5割に上る」というデータがあるのです。
しかも、鳥肉がカンピロバクターで汚染されている可能性があることを初めて知ったという人がそのうち約7割もいたそうです。
家庭で、鳥肉を食べる時には、加熱の仕方と衛生面に気を付けて、安全に楽しく調理をして食事をしてくださいね。