スプーン爪というのは世界でも症例の多い爪の異常であり、かつ症状が微小な場合は見逃しやすい疾患です。しかし、爪の異常を早期に発見することができれば、症状が進行する前の比較的早いステージでスプーン爪を治療してしまうことが可能です。
今回の記事では、スプーン爪とは何か、スプーン爪はどうやって起きるのか、またどうやって治療することができるのかについてご紹介します。
スプーン爪とは何か
スプーン爪について知っておきましょう。
「爪は健康の窓」
スプーン爪というのは爪の甲の部分のうち、爪の先端に近い部分が窪んだり、もしくは爪の甲全体がスプーン状にへこむ状態のことです。無理なダイエットなどにより鉄分が欠乏しているときなどに起りやすい疾患です。
「爪は健康の窓」という言葉がありますが、これはつまり、身体の不調は爪のような細部に症状として現れて、私たちに自分達の体が危険な状態にあることを警告するという意味です。注意深く爪を観察することで、身体に何らかの不調が生じていないか、またはその前兆をある程度知ることができるという言い換えもできるかもしれません。
もちろん、専門家や医師を除いて、一般的には病気を鑑別したりするような技術や知識を持っている人はそう多くありませんが、それでも自分の体になにか異常がないか習慣的にチェックすることで、疾患を未然に防いだり、症状の進行を食い止めることができます。医師と相談するときにも重要な情報を得られるかもしれません。
この良い例がスプーン爪です。匙状爪やコイラニキアとよばれる疾患なのです。通常の爪の場合、爪と指が平衡に伸びていて、爪はかなりの部分が指の甲とくっついています。しかし、スプーン爪の場合、その平衡が崩れて傾斜がついていたり、爪のさきがスプーンのように反り返っているのです。
ただ、爪がそのような状態になっても患者さんは多くの場合、スプーン爪だけで痛みを感じることはまずありません。しかし、これはもっと深刻な健康被害を被る前触れなのです。
たとえば、スプーン爪の症状が出ていることに気付かず、生活習慣を改めようとしなかった場合、一般的にスプーン爪の原因は鉄分の不足にありますから、重度の鉄欠乏性の貧血や消化器官の疾患などというより深刻、場合によっては命にかかわるような症状として、時としては痛みを伴って、無視された体からの警告が帰ってきます。ですので、痛みはなくともスプーン爪になってしまっていたら、それを改善する努力をしなければならないのです。
スプーン爪の程度
貧血や消化器疾患などの合併症を除いて、スプーン爪自体の症状を大きく分けると、軽度のスプーン爪と重度のスプーン爪があります。軽度のものですと、爪の表面が、波打っているようにぐにゃぐにゃ曲がっているケースや、単に爪が指の甲からゆるやかに反り返っているだけの場合があります。
この程度の症状であれば、体の調子が戻ってくれば、自然と指が爪を引き付けておく力も強まり、爪はまた元のように指と並行にまっすぐ生えるようになります。しかし、重度の場合はなかなかそうもいきません。なぜなら、爪や皮膚にダメージを受けていることが多いからです。
重度のスプーン爪の場合、たとえば、爪が中心からスプーン状にへこんでしまったり、爪が途中から急激にへこんでしまって、そこに水が数滴溜まるほどになってしまったりします。
さらには、重度のスプーン爪の例では、反り返った爪が垂直に中心へ向かって裂ける、時としては爪の側部がすべて指の甲から剥がれてしまって、爪の下の皮膚が露出し、乾燥し、さらには指がひび割れするというようなこともおきます。
スプーン爪の原因
スプーン爪は名前の通り爪がくぼんだり反り返ったりしてスプーン状に曲がってしまった状態を指すということがわかりました。では、なぜスプーン爪が起きるのでしょうか?
生活習慣に起因する鉄分の欠乏については前章で少し解説したので、ここからはその他の要因を確認しておきましょう。
遺伝的要因
スプーン爪の原因は先述した鉄分の欠乏によるものも重要ですが、その他にも別の要因も考えられます。たとえば、遺伝的な原因です。なんらかの遺伝子異常によって、爪がへこんでしまったり、爪がカーリーしてしまう場合があります。
この場合の原因は生活習慣にはありません。したがって、異常をきたした遺伝子が発現し、スプーン爪の問題が顕在化してしまった場合は、生活習慣の改善によっては症状の進行はおさまりません。対症療法的にくぼんでしまった爪の部分を除去した場合でも、また爪の根元から同じようなくぼみを持ったスプーン爪が生えてくるだけです。
自傷的要因
また、時として、患者さんが爪に対して過剰なダメージを与えているケースというのもスプーン爪の原因として挙げられます。たとえば、継続的に爪を引きちぎったり、爪を噛んだり、過剰に爪を擦ったりすることが原因で、爪が指の甲から剥がれて反り返ったり、爪がくぼんでしまったりすることがあります。
このような場合も、生活習慣を改善しても症状はよくなりません。もちろん、爪と指が自分達への非道な扱いに困っているという体からの信号は見受けることができます。ただし、この場合は生活習慣というよりも爪をいじらずに済むようにすること、精神的な面でのアプローチと問題解決が必要です。
それさえ解決すれば、もとは健康な爪ですから、新しい爪が生えてくるとともに爪も元通りの健康な姿に戻ります。ただし、それは爪の根元を傷つけていない場合に限ります。もし新しい爪が生えてくる爪の根元に大きなダメージがある場合、放っておくだけでは問題は解決しません。医師のもとで自分にあった治療法を選択することが重要です。
事故的要因
爪の付け根へのダメージという点では、重大な外傷が爪の付け根に生じた場合もスプーン爪の原因になります。これはおそらく、基本的に症状として痛みが出ることの少ないスプーン爪の中でも例外的に患部に痛みを感じる場合が多く、さらに外傷を受けた部位とスプーン爪が生じる部位のうちかなりの部分が重なっているため、症状の発見も比較的容易なパターンです。
それと同時に、最もスプーン爪が容易に生じやすいパターンでもあります。患者の側としても実際に怪我をしている部位であるため、出来事の記憶と痛みとあわせて患部を特定・記憶しやすいです。このケースも、基本的には怪我の治りとともにスプーン爪は消滅し、元通りの爪が生えてきます。
ただし、もしも回復の途中で爪が裂けてしまった場合は医師の診察を受け、生えてくる爪を保護するカバーを装着する必要があるでしょう。なぜなら、裂けた爪からはバクテリアや菌類が侵入・繁殖し、そこから感染症を引き起こす可能性があるからです。
スプーン爪の治療法
ここまではスプーン爪がどのようなものであって、どのような症状が具体的にスプーン爪とよばれるのか確認してきました。では、そのようなスプーン爪をどのように治療・予防していくことができるのか見ていきましょう。
過度なダイエットは控える
厳しい食事制限を課すような過度なダイエットはそもそも体に悪いです。今回のスプーン爪の例にしても、行き過ぎたダイエットが原因となることが多いです。たとえば、食事制限をかけることによって貧血になることがよく知られているかと思いますが、特に鉄分が不足することによる貧血はスプーン爪とも強い関わりがあります。
ダイエットによって体内の鉄分が足りなくなると、貧血になるわけですが、それによって体に十分な栄養が行きわたらなくなり、結果として体の末端である爪でスプーン爪のような症状が出ることが知られています。
たとえば、冬の寒い日は手がかじかんでしまいますが、それは寒さのあまり指先まで血液が十分に行き届いていないからです。だから、それが行き過ぎると凍傷や指先の壊死といった現象にまで発展してしまうのです。体の機能を維持するために必要なエネルギーや養分が届かなくなるんですね。貧血とスプーン爪の関係もそれと似たようなものです。
スプーン爪という実際の症状として鉄分の不足を体が訴えてきている場合、それを無視していると、鉄欠乏性の貧血で急に倒れてしまうのは時間の問題です。
おそらく、スプーン爪が目に見える症状として発現しているときは、患者さん自身も、すでに疲れやすくなっていたり、慢性的な疲労感・倦怠感などの自覚症状が出てきていると思われます。そのような場合は、一度自分の食習慣・生活習慣をもう一度見直したり、医療機関に相談に行くなどして、体の声に耳を傾ける必要があるでしょう。
病院ではスプーン爪に対してどういう治療をするのか?
スプーン爪の原因が鉄分の欠乏だけでなく複数存在したように、スプーン爪のでき方も患者さんによって多様であるため、その治療方法・治療方針もそれぞれ異なっています。医師は患者さんの爪を診察し、また、患者さんの不調の原因が何か探ります。
つまり、それが遺伝的なものが原因なのか、それとも無理のあるダイエットか、はたまた外傷によるものなのかどうかを見極めるのです。そのうえで、医師は具体的にどんな治療が必要か、もしくは必要ないのかを判断します。そのままにしておいてもじきに爪が元に戻るであろう場合は特別な処置は必要ありません。
ダイエットによって鉄分が不足しているのなら、サプリメントによってそれを補うという治療方針もあり得ます。爪や爪の下の皮膚が裂けたり、割れたりしている場合は、爪や皮膚の軟化剤を処方して、症状が悪化しないようにして、爪の回復が促進するように仕向けます。