鼓膜は音を聞くのに大事であり、いったん破れると、もう元に戻らない、と思っていました。ところが、「カイジ」というマンガの中には、「鼓膜は一度破れても、また再生する」ということが書かれており、「えっ!そうだったの?」と驚いたことがあります。
実際、鼓膜が破れるとどうなるのでしょうか?どうすれば治るのでしょうか?ここでは、鼓膜についての知識と、破れた時の対処法を紹介しましょう。
◆鼓膜は耳のどこにある?耳の構造を知ろう
聴覚器官である耳は、そもそも、いったいどのような構造になっているのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
耳は、大きく分けると「外耳(がいじ)」「中耳(ちゅうじ)」「内耳(ないじ)」の3つからなっています。
○外耳
音とは「振動」です。声は、喉にある声帯を震わせて出す音であり、太鼓は、叩いて革を振動させます。それらの振動が、波となって空気を伝わり、私達の耳に届くわけです。
その、音の振動を集める働きをしているのが、まず、私たちが耳という言葉を聞いて一般的に思い浮かべる、あのプニプニした部分です。
耳介(じかい)と呼ばれる外耳の一部で、じょうごのような形をしています。ちなみに、あのプニプニは、皮膚と軟骨でできています。
集められた音は、外耳道という管で増幅されます。私たちが、耳かきで耳掃除をするときに、綿棒などでゴシゴシする部分ですね。あの耳垢には実は抗菌作用があり、ホコリや汚れから耳の内部を守る働きがあります。
その外耳道の奥にあるのが「鼓膜」で、外耳部分と、中耳部分を隔てている、半透明の薄い膜です。その厚さは、約0.1ミリ。この鼓膜で、音の振動の波を感じて、中耳、内耳に伝えるわけです。
○中耳
太鼓は、革を隔てて内側が空洞になっています。中が詰まっていたら、音は響きませんよね。ちょうどそのように、太鼓の中の空洞部分のように働くのが、中耳です。
中耳には「鼓室」と呼ばれる空洞があり、耳の外との空気圧を調整しています。電車や車、飛行機に乗っている時、トンネルの中に入ったり、高所に移動すると、耳がキーンとすることがありますね。あれは、耳の空気圧のバランスが崩れて、鼓膜が大きくへこんでいる状態です。
この状態だと、太鼓の革がピンと張りすぎているような状態ですから、音の振動が伝わりにくくなってしまいます。
普段は閉じている中耳の空間ですが、空気圧のバランスをとるために、中耳は管で鼻の奥とつながっており、つばを飲み込んだりすると、外気圧と同じになって元に戻るようにできているわけです。
さらに中耳には、鼓膜と、内側の内耳をつなぐ、3つの小さな骨があります。鼓膜が話から順番に「ツチ骨」「キヌタ骨」「アブミ骨」と呼ばれ、この3つの骨が連動することで、テコの原理が働き、鼓膜に伝わった音の振動をさらに3倍に増幅することができるのです。
余談ですが、この3つの骨の名前はその形からきており、
- ツチ・・・・・木槌のこと
- キヌタ・・・・布などを打って柔らかくする台のこと
- アブミ・・・・馬に騎乗する時に足をかける所のこと
なのだそうです。
○内耳
鼓膜から伝わってきた振動を、電気信号に変換する働きのあるのが、内耳です。かたつむりのような形をしているので、蝸牛(かぎゅう・かたつむりのこと)ともいわれます。
蝸牛の中にはリンパ液が入っていて、伝わってきた振動で液が揺れると、その揺れを感覚細胞がキャッチして電気信号に変え、神経を通じて脳に伝えます。
これが、「音が聞こえた」という状態です。ちなみに、かたつむりの角に当たる部分には、有名な三半規管があり、平衡感覚を司っています。
このような複雑な構造で、私たちは音を聞くことができるのですね。
◆鼓膜が破れる原因って何なの?
ここまでは、耳の構造から、鼓膜が音を聞くのにいかに重要かを見てきました。次に、この項では、鼓膜が破れる原因の主なものを、耳の外側に由来する原因と、耳の内側に由来するものに分けて紹介いたします。
○耳の外側に由来する原因
耳の外側に由来する原因には、いくつかあります。
例えば、ボクシングや空手、剣道などのスポーツをしている時に耳を強く叩かれたり、サッカーなどでボールが耳に当たったときの衝撃が原因として挙げられるでしょう。近くで爆発などが発生したり、音速を超えるジェット戦闘機での急激なスピードの変化によって、衝撃波で鼓膜が破れることもあるようです。
中でも多いのは、耳掃除による鼓膜の損傷です。耳かき棒を深く入れすぎたり、掃除中に周囲の人が当たったりして、鼓膜を傷つけてしまうことが多く、鼓膜損傷の30%は耳掃除が原因とされています。
○耳の内側に由来する原因
耳の内側に由来する原因で多いのが、中耳炎です。
中耳炎とは、その名の通り中耳部分が細菌などに感染して炎症を起こす病気であり、子供がかかることが多いのですが、大人でもかかることがあります。
鼻と中耳は、空気圧のバランスを保つために耳管という管でつながっています。そのため、鼻からウイルスが侵入してしまうことがあるのです。
中耳炎が慢性になると、膿が中耳に溜まって鼓膜を破り、出てくることがあります。
中耳炎については、中耳炎が大人に現れるとどんな症状?治療方法も紹介!を参考にしてください。
◆鼓膜が破れるとどうなるの?
それでは、鼓膜が破れるとどのような症状となって現れるのでしょうか?大きく鼓膜が破れると、まず強い痛みがあり、それから、周囲の音が聞きづらくなります。
全く音が聞こえなくなってしまう、ということはないようです。ちょうど、水中に潜っている状態で音を聞くと、こもって聞きづらいことがありますが、そのような状態になります。
それは、鼓膜が破れると、太鼓の革が破れたような状態になっているため、音の振動を受け止めにくくなってしまうからです。
また、中耳炎が原因の場合、耳垂れと言って、膿のような汁が耳から流れ出てきたり、耳から血が出てきたりしたりすることがあります。
他にも、鼓膜とつながっている小さな骨が骨折していると、平衡感覚をつかさどる三半規管にも影響して、めまいや耳鳴りが現れることもあります。
小さい鼓膜の破れの場合、痛みが弱く、気が付かないこともあるようです。テレビの音を大きくしないと聞こえにくい、などの異常があれば、耳鼻科を受診したほうがよいでしょう。
◆鼓膜が破れても、自然に治る?
それでは、鼓膜が破れたら、一生耳が聞こえなくなってしまうのでしょうか?
実は、破れた鼓膜は、皮膚と同じように、自然治癒で再生します。おおよそ、1週間から10日で元に戻り、音も以前と同じように聞こえるようになります。
耳鼻科を受診した場合でも、特に耳だれなどがなければ中耳炎の可能性も低いため、炎症を起こさないように外耳を掃除し、感染を防ぐための薬をのむ程度で経過を見ます。
きちんと治るまでは、耳かきで耳掃除をしたり、水泳などの耳に水が入るようなことはやめて様子を見ましょう。
ただし、裂け目が大きい場合には、自然には治りにくいので、再生するための手術を行う場合があります。
顕微鏡で見ながら鼓膜を元の位置に戻したり、硝酸銀などで鼓膜の穴のまわりに処置を施し、鼓膜の破れがふさがりやすいように、和紙などを張る、というもので、90%以上はこれらの処置で穴がふさがり、聴覚はほぼ元に戻ります。
手術時自体は短時間で終わり、外来でも可能です。
めまいや耳鳴りなどの症状がある場合、内耳に影響している可能性があるため、治療のために副腎皮質ステロイド薬などの強い薬を使用することがありますので、耳鼻科を受診してください。
◆正しい耳掃除の仕方
鼓膜が破れる大きな原因となっている耳掃除。正しい耳かきのコツを知っていれば、鼓膜が破れる危険性はグッと減るはずです。
そこでここでは、正しい耳掃除の方法を紹介いたします。
○使う道具を選ぶ
耳垢の種類は、遺伝によって、「乾いた耳垢」と「湿った耳垢」の2つに別れます。そこで、使う道具もそれぞれの体質に合ったものを選ぶようにしましょう。
一般的に、乾いた耳垢の人は耳かき、湿った耳垢の人は綿棒を選ぶとよいでしょう。また、最近では、耳掃除用の粘着性のある専用綿棒が、ドラッグストアなどで市販されています。価格も300円から400円程度のものですので、気になる人は一度お試しください。
また、耳掃除の道具は、清潔な場所に保管するようにしましょう。
○深く突っ込まなくてよい
実は、ほとんどの耳垢は耳の入口から1センチあたりまでの部分にあり、しかも、体の仕組みで、咀嚼などによって奥の耳垢も外に出てくるようになっています。
したがって、耳かきや綿棒を耳の奥に深く突っ込むと、せっかく出てきていた耳垢を奥に押しこむことになってしまい、逆効果になってしまいます。
月に1、2度、耳の入口から1センチまでの部分を軽くこすればよいのです。
○膝枕よりも座った状態で
膝枕で耳掃除をしてもらうと、取れた耳垢が、耳の奥に落ちてたまってしまいます。まっすぐ座った状態で耳かきをしたほうがきれいになります。
詳しくは、耳掃除のコツはある?頻度や正しいやり方について!を参考にしてください。
○プロに耳掃除を依頼する
耳管が経過して固くなった耳垢は、なかなか素人では取れなくなっています。耳鼻咽喉科に行くと、耳垢を柔らかくする薬や、専用の道具を使ってキレイにとってくれますので、一度、プロの耳掃除を試してみてはいかがでしょうか。
これらのコツに気をつけて、鼓膜を傷つけないよう正しく耳掃除をするようにしましょう。
◆まとめ
いかがでしたか。
鼓膜は自然に治る、とは言っても、鼓膜が破れるのは避けたいものです。鼓膜の破れの多くは外からの衝撃ですから、耳掃除の時には周囲に気を配るなど、気をつけましょう。
また、中耳炎は、風邪が元で発症することが多いため、手洗い、うがいなどを心がけ、日頃から風邪予防の対策を取ることが結果的に鼓膜が破れることを防ぐことにもなります。
いずれにしても、耳のトラブルは耳鼻科が専門ですので、不安な場合や痛みがある場合には、すみやかに耳鼻科を受診するようにしましょう。
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