網膜静脈閉塞症の治療方法は?症状や原因、検査方法も紹介!

網膜静脈閉塞症(もうまくじょうみゃくへいそくしょう)とは、その名の通り、眼の中にある網膜の静脈血管が詰まって血液が流れなくなるといった「閉塞」した状態になる病気です。状態によっては、失明することがある非常に危険な病気です。

この疾患の原因や、発症率、症状、これらに対する検査や治療に関して説明をしていきます。

眼の構造について

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ここで述べられる眼の部位について、どこに位置し、何の働きをしているのか、簡単に説明をします。

眼の働き

眼に入る光の情報は、眼球の表面側にある角膜・瞳孔・水晶体・硝子体を通り、眼球の内側に薄く張る網膜の上に像を結びます。

カメラで例えると、水晶体はレンズの役割を、網膜はフィルムの役割を担っています。これらの情報は、眼球の裏側にある視神経を通過して脳に入力され、最終的に映像として認知されます。

網膜静脈とは

まず、眼球の内側に張っている膜のことを網膜と言い、瞳孔(どうこう)から入る光が焦点を結ぶ部位です。

網膜の静脈は、眼球の後方に存在する視神経乳頭(にゅうとう)にいくと1本になります。そこに集合するように網膜全体に静脈が枝分かれして広がっています。

黄斑(おうはん)とは

カメラのフィルムの働きをしている網膜の中で、視力を司る、最も重要となる細胞が集中している中心部が黄斑と呼ばれ、中心窩(ちゅうしんか)とも呼ばれます。

黄斑部は、物質の形・大きさ・色・奥行・距離など、眼に入る光の情報の大半を識別する働きがあり、物質を見る上でとても重要な役割を担っています。もし、黄斑部に障害が生じると、視力が低下するだけではなく失明する恐れがあります。

網膜静脈閉塞症の原因

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高血圧や慢性腎臓病、糖尿病、緑内障といった疾患を有している方は発症のリスクが高いです。では、発症率や原因について簡単に説明をします。

発症率

罹患率は、男性が40歳代以降、女性が50歳代以降と、加齢するにつれて発症率リスクが高くなります。

日本人では、40歳以上の内、約50人に1人、つまり約2.1%の確率で発症します。有病率は、他国のアジア人や欧米人といった白人よりも高いです。

高血圧

後から述べる動脈硬化の原因の一つでもあります。網膜静脈閉塞症を発症した約80%の症例に高血圧がみられており、原因として最も多いとされています。

高血圧を有していることにより、網膜の血管に動脈硬化が生じることがあります。すると、血流が悪くなり、血管が徐々に詰まっていき静脈が閉塞されて発症する可能性があります。

眼の動脈硬化

網膜動脈と網膜静脈が視神経の中で並行して走行しています。その並行して走っている部分と、網膜内で交叉している部分は血管の膜(脈絡膜)を共有して接しています。この部位で動脈硬化が生じると網膜動脈が網膜静脈を圧迫し、網膜静脈内の血流を悪くして、血液が凝固して血栓が生じ、網膜静脈を閉塞するといった虚血状態に陥らせてしまいます。

高血圧を有していなくとも、動脈硬化が重度な方がいます。こういった場合、発症リスクは高くなります。

その他の原因

血管自体に炎症が生じることや、糖尿病などの血液の粘性が増すような疾患によって、静脈が閉塞されて発症することがあります。

注意点

網膜静脈閉塞症の症状には、糖尿病黄斑浮腫や糖尿病が原因となって引き起こされる緑内障もありますが、いずれの症状も、糖尿病とは関係なく「黄斑浮腫」、「血管新生緑内障」を発症する場合もあります。

高血圧や腎臓病、糖尿病等を有していると、発症のリスクが高くなるとされており、必ず発症するというわけではないです。

網膜静脈閉塞症の症状

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網膜静脈閉塞症には、網膜静脈分岐閉塞症と網膜中心静脈閉塞症の2種類があります。違いは、静脈が閉塞する部位にあります。

前者は、網膜内で静脈が閉塞し、後者は、視神経内で静脈の閉塞が生じます。まず、網膜と網膜静脈、神経について説明し、発症率やそれぞれの症状について説明をします。

発症は片眼のみ

網膜静脈閉塞症は、片方の眼に発症することが多いです。通常は両眼を同時に使っているため、症状が気にならないということが多いようです。また、発症の時期がずれて両眼に発症するケースもあります。

網膜静脈分岐(ぶんし)閉塞症(BRVO:Branch Retinal Vein Occlusion)

網膜静脈閉塞症の約8割以上を占めます。

これは、網膜内にある、枝分かれしている静脈が閉塞する場合、網膜静脈分枝閉塞症となります。静脈が閉塞する部位によって、自覚症状は無症状~重篤な視力障害まで様々な症状が見られます。

・主症状

症状としては、急な眼のかすみ、視野欠損、出血した部位に写る視界が黒く見えるといったものが見られます。

・初期症状

初期症状は、静脈の閉塞した部位より上部で、血液や水分が漏れて眼底出血や網膜浮腫を生じます。黄斑部にまで、この眼底出血や網膜浮腫が進行すると、黄斑浮腫を引き起こします。黄斑浮腫を生じることで、視力低下や視界が歪んで物が明瞭に見えなくなるといった症状が出現していきます。

・症状の経過

網膜の動脈と静脈は網膜内で枝分かれしながら交叉しており、交叉部では動脈と静脈の外膜は共有しています。よって、動脈硬化を生じると、動脈壁が厚く、硬くなり、静脈が交叉部で圧迫されます。その静脈は血液の流れが阻害され、血液の塊である血栓を生じます。この血栓により、静脈の血管が閉塞されて血液が流れなくなるといった虚血(きょけつ)状態になります。

以上の流れで黄斑浮腫が長期化した場合、視力が回復し難くなります。時間が経過すると、閉塞部位の血液循環が悪くなり、虚血します。虚血した網膜には、新生血管が生じます。新生血管とは、毛細血管の代替として生じるもろい血管であり、本来の血管ではなく、新しく形成される普通ではない異常な血管のことを言います。

更に、硝子体へ新生血管が伸びて破れると、硝子体出血や網膜剥離を生じます。硝子体出血を生じると、光が網膜へ届かなくなり、「失明」します。失明とは、全く何も見えず視界が奪われる、即ち、視覚が失われるということです。

網膜中心静脈閉塞症(CRVO:Central Retinal Vein Occlusion)

視神経乳頭部内で静脈の根本(網膜の静脈の幹)が閉塞する場合、網膜中心静脈閉塞症となります。視神経は、静脈の根本に存在しています。網膜静脈分岐閉塞症と比較すると発症率は低いです。

・主症状

高血圧や動脈硬化、炎症といったものが原因となり、急激な視力の低下や、網膜の出血した部位が視界上で黒く見え、視野欠損や失明をも引き起こします。

・初期症状

静脈の根本が閉塞することにより、網膜全体に出血が生じます。また、水分も漏れていき、浮腫が広がりやすいです。これにより、眼底出血や黄斑浮腫といった症状を引き起こします。その他、急激な視力の低下や、虚血が生じます。虚血とは、静脈が閉塞して網膜の血液循環が悪くなることを言います。虚血の面積が広ければ広いほど、黄斑浮腫が生じやすくなり、視力低下が顕著となります。

・網膜中心静脈閉塞症には、2種類ある

網膜中心静脈閉塞症は、更に「非虚血型」と「虚血型」の2つに分類されます。前者は、網膜中心静脈の閉塞が不完全、且つ、網膜の出血が軽度です。後者は、網膜中心静脈が完全に閉塞し、出血が多く、前者よりも重度のものになります。非虚血型であっても、時間が経過すると虚血型へ移行する可能性があります。

・症状の経過

黄斑浮腫が改善されると、視力は回復する可能性がありますが、視力が回復しないことも少なくはなく、視力予後は不良です。

時間が経過すると、網膜静脈分岐閉塞症と同様、閉塞して血管の血流が悪くなった静脈の部位に、新生血管が生じます。そして、網膜静脈分岐閉塞症と同じように硝子体出血や網膜剥離を引き起こす可能性があります。更に、新生血管が虹彩(こうさい)まで伸びると血管新生緑内障を生じます。

類似疾患

黄斑部に生じる病気として、網膜静脈閉塞症以外にも、加齢黄斑変性、病的近視、糖尿病性網膜症といった病気、それ以外にもあります。糖尿病性網膜症では、糖尿病黄斑浮腫が生じ、こちらも鑑別が必要です。初期症状は類似しているため、眼科医による正しい鑑別が必要です。

合併症

症状が軽減した後、発症後3ヶ月~1年以上を経過すると慢性期に入り、合併症を生じることがあります。

合併症により、症状が急激に重篤となる場合もあるため、眼科・内科を定期的に受診し、日常的にも血圧の管理には気を付けていきましょう。

・硝子体出血

静脈閉塞した部位(眼球裏側)から末梢側(眼球表面側)にかけて毛細血管が破綻し、消失することで無血管野(むけっかんや)となります。無血管野とは、血管が存在しない部位のことです。無血管野の新生血管の生成を促す作用をもつVEGFを放出します。無血管野が広ければ広いほど新生血管の発生リスクは高くなります。

VEGFにより生成される新生血管は、硝子体を利用して伸びていきます。新生血管の血管壁は非常に虚弱であり、脆くて破れやすく、出血を起こしやすいです。眼球腔内、つまり硝子体内に新生血管からの出血が広がって充満していきます。この状態を「硝子体出血」と言います。

硝子体が黒く濁り、眼底が見えにくくなります。この濁った部位から視界が奪われるため、視力が著明に低下します。

詳しくは、硝子体出血の手術の方法について!原因となる病気や症状は?検査方法も紹介!を読んでおきましょう。

・血管新生緑内障(りょくないしょう)

まず、「緑内障」ついて説明します。緑内障という眼病は、房水(ぼうすい)の産生と流出のバランスが崩れ、房水が過剰に増えることで眼圧が高くなり、視神経乳頭部も圧迫されて生じます。房水は、眼球内(硝子体)を満たしている水です。この緑内障では、視野狭窄や失明といった症状が生じます。緑内障は単体で生じる場合もあれば、糖尿病等の何らかの疾患の合併症として発症するケースがあります。

「血管新生緑内障」は、高度且つ広範な無血管野を生じる網膜中心静脈閉塞症にて見られる合併症です。VEGFによって生成される新生血管は、網膜・硝子体・眼球と、前方表面側の組織に伸びていき、広がっていきます。すると、房水の流出口の隅角がくっついて蓄積し、房水の排出を阻害し、眼圧が上昇します。これが、血管新生緑内障です。

・網膜剥離(もうまくはくり)

網膜剥離とは、眼底から網膜が剥がれて、その部位の視覚が障害される眼病です。網膜が剥離するまでの流れを説明します。新生血管が硝子体へ伸びると、網膜と硝子体に癒着した状態になります。無血管野で新生血管の存在する網膜は通常よりも薄く、もろく、網膜は虚弱化しています。

その網膜に硝子体の収縮の力が加わることで、網膜が硝子体に引っ張られて網膜が剥がれたり、裂孔(れっこう/あな)が生じます。これが網膜剥離の流れです。こういった事が生じると、硝子体にある水分が網膜の裏側へ流れ込み、剥離した部分は急速に拡大していきます。これにより、牽引性(けんいんせい)または、裂孔原性網膜剥離が発症しやすくなります。

詳しくは、網膜剥離の原因は?症状や治し方を知っておこう!を読んでおきましょう。

網膜静脈閉塞症の検査

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検査は、問診・視診に加えて、以下のような検査があります。

原因に、内科系疾患が関与する可能性がある場合、そちらの検査を行う必要になります。ここでは、眼の検査のみについて紹介します。

眼底検査

眼底写真を視て、病変の部位・範囲、静脈血管の閉塞の程度を確認する検査です。この検査を行うと直ぐに結果がわかります。

眼底検査については、眼底検査でわかることは?検査方法や注意点を知っておこう!を読んでおきましょう。

蛍光眼底造影検査

眼底検査に加えて、この検査にて更に病態を細部まで調べます。

光干渉断層計

近年、使用されることが増えている検査方法です。これは、黄斑浮腫の程度を確認する方法になります。

網膜静脈閉塞症の治療

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自然治癒する場合もありますが、急性期に早期に治療を施行しなければ、症状が進行し、失明に陥る可能性もあります。

治療では、主に薬物療法を行うことで血栓を溶かして血液の循環を促進する物を適応し、血流の改善を図ります。その他、様々な治療法が施行されます。

経過観察

網膜静脈分岐症で、視力が低下していない場合や、視界の見え方に異常がみられない場合は、経過観察をします。

経過観察中に、こられに関して異常が見られた場合は、自己判断をせずに直ぐに眼科へ受診しましょう。

黄斑浮腫の治療

視力が低下している場合に、黄斑浮腫を改善するために用いる治療法を施行します。治療法は以下の方法があります。眼の症状や進行具合をみて治療法が選ばれます。

・硝子体注射(薬物療法)

眼球の中(硝子体)に注射をする方法です。注射する薬剤は、ステロイド剤(副腎皮質ホルモン剤)や、抗VEGF剤(抗血管新生薬)、血管内皮増殖因子が用いられます。抗VEFG薬には、ラニビズマブ、アフリペルセプトがあります。ストロイド剤には、トリアムシノロンがあります。トリアムシノロンの使用は、網膜静脈閉塞症に対する扱いの場合、健康保険は適応されず、患者が全額負担となります。

期待される効果は、炎症を抑制する、閉塞した静脈の血管から血液や水分が漏れるのを抑制する効果です。つまり、浮腫の発生や新生血管が生成されることを抑制します。

特に、抗VEGF薬は浮腫をとる効果が高く、施術対象者の身体的・精神的ストレスを軽くすることができる治療法になります。但し、薬の効果が消失すると浮腫は高頻度で再発するため、緻密は経過観察が必要です。

なお、近年では抗VEGF薬の利用と手術の併用により、治癒が困難とされている血管新生緑内障による失明が減少傾向にあります。また、抗VEGF薬は、主に加齢黄斑変性の治療に使用されていますが、2013年より、黄斑浮腫にも適応されるようになっています。

・レーザー治療(網膜光凝固術)

浮腫や出血を引き起こしている部位に、瞳孔からレーザーを照射し、網膜を焼いて固め(光凝固)、水分を溜めないようにする方法です。網膜静脈閉塞症によって網膜に蓄積される房水や出血した血液を、網膜の外側の脈絡膜に吸収させることで、浮腫を改善します。

黄斑浮腫の治療以外にも、硝子体出血、血管新生緑内障といった合併症の予防や治療のためにも施行されます。

・硝子体手術

硝子体を切除するという方法です。硝子体出血などの合併症の治療及び予防としても用いられます。視力が著明に低下している場合に施行されますが、近年ではほとんど行われていない手術方法です。

急性期治療の予後

浮腫は自然にひき、自然治癒する可能性がある場合と、黄斑浮腫を引き起こして薬物療法などが必要な場合があります。以前は、経過観察に約3ヶ月間の期間が必要でしたが、現在では、薬物療法により、早期の改善が見込まれています。

しかし、病前の様な血流を完全に取り戻す事や、完全に視力回復をすることは困難です。治癒したとしても視力予後は不良と言えます。網膜動脈閉塞症の場合は、基本的に、発症から90分以内に治療を受けないと視力の回復は望めませんが、網膜静脈閉塞症の場合は、早期発見・早期治療を施せば望みは多少なりあります。

新生血管の予防

レーザー治療を用いて網膜を焼いて固め、新生血管が生じないようにする方法があります。

しかし、眼の状態によっては行えない場合もあります。医師とよく相談しましょう。

慢性期の合併症の予防

慢性期は、症状が軽快して落ち着く時期です。この時期に入ると、メインとなる治療目的は合併症の予防となります。

定期的な検査を受けて、網膜の浮腫や新生血管の出現の有無を確認していきます。また、網膜静脈閉塞症の元々の原因となる高血圧や糖尿病、緑内障などの有無・悪化予防・治療・再発予防も併せて行います。

まとめ

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網膜静脈閉鎖症は網膜に生じる病気であり、放置しておくと失明など、治癒しようのない状態になります。最初は自覚症状が見られないものの、少しでも異常を察知した際には、早急に眼科へ行きましょう。

また、定期検診を受けるというのも一つの予防法です。目安3ヶ月に1度は受診すると良いでしょう。視界を失っては、生活に大きな支障が出ます。特に、原因となる疾患を有している方は気を付けましょう。

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これらを読んでおきましょう。

  
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