「お陰様で○○できました」など「お陰様で」という言葉をよく耳にします。「お陰様」は人に何かしてもらったことに感謝する気持ちを込めた言葉です。とても丁寧な敬語です。
でも、「お陰で」というと、良い意味にも悪い意味にもなります。また、ビジネス文書やビジネスメールでは漢字で書くか、ひらがなで書くか、迷いますよね。
「お陰様で」と「お陰で」の意味と使い方、「お陰様で」と同じ意味の言葉の使い方を例文付きでお伝えしますね。
「お陰様で」とはどういう意味?
「お陰様で無事に帰国いたしました」「お陰様で創立十周年を迎えることができました」などは、よく聞くフレーズですね。「御忠告いただいたお陰で助かりました」「田中さんのお陰で酷い目に遭った」などとも、よく言います。
「お陰様で」と「お陰で」は、微妙に意味が違います。使い方も少し異なります。
[「お陰様で」は感謝の気持ちを込めた言葉]
「お陰様で」は、「他の人から受けた親切や厚意や助力に対して感謝と尊敬を込めた言葉」です。他人から親切にしてもらったり助けてもらったりしたことを感謝する時に使います。
「おかげ」は神仏から受ける恩恵
「おかげ」は「お陰」「お蔭」「御陰」「御蔭」と書きます。元来「陰・蔭」には「神仏など偉大なものの庇護を受ける」という意味があります。「陰・蔭」に丁寧さを添える接頭語「お・御」つけて、神仏から受ける恩恵を意味する「御蔭(お蔭)・御陰(お陰)」という言葉にします。
現在では、「お陰・お蔭」は「神仏から受ける恩恵」だけでなく「神仏や善意の人から受ける恩恵」という意味です。また、「偶然のできごとによってもたらされた幸運」という意味もあります。(新明解国語辞典)
「お陰様」はとても丁寧な敬語表現
「お陰様」は「お(丁寧の接頭語)+陰+様(敬意を表す接尾語)」という成り立ちですから、とても丁寧な敬語表現です。そのまま上司や年長者や地位の高い人など目上の相手に使うことができます。
「お陰様で」は相手に対して尊敬と感謝を表す言葉です。特定の人だけではなく、不特定多数の人たち・社会や世の中・神仏や大自然など偉大な存在に対する感謝と敬意を込めています。
仕事は1人ではできない。周りの人のサポートに感謝する
「お陰様で」は、自分をヘリ下り相手を敬う気持ちをてい込めた敬語表現です。社会人ならば、自分1人の力では仕事が巧くできないことを知っています。上司・先輩・同僚など周りの人たちや取引先や仕事の関係者など多くの人たちのサポートがなければ、仕事の成果を得ることができません。
「お陰様で」という敬語表現で、周りの人たちに感謝と尊敬の気持ちを伝えることができます。それによって、良好な人間関係・信頼関係を築くことができます。
[「お陰で」は原因を表す言葉]
「お陰で」は、本来「幸運をもたらした原因」を表す言葉です。「晴天が続いたお陰で、今年のブドウは甘い」などと使います。それが、江戸時代頃から皮肉をこめた使い方をするようになりました。
「お陰で」は善悪に関わらず、原因となったことを表す
現在では、「お陰で」は、善悪に関わらず原因を表す時に使います。親切にされて良い結果になった時にも、他人に何かされて悪い結果になった時にも「○○のお陰で」と使います。「あなたがいてくれたお陰で、恥をかかずに済みました」とも「君のお陰で大恥かいたよ」とも言います。
「お陰で」は目上の人にも使える
「お陰で」は「陰」に「お・御」という丁寧の接頭語がついた敬意表現です。他の言葉も敬語表現にすれば、敬語として目上の人にも使えます。
例文
- 部長にアドバイスいただいたお陰で、無事にプレゼンを終えることができました。
- 一人前の社会人になれましたのは、ひとえに先輩のお陰です。
[「お陰様」はどう書く?]
ビジネス文書やビジネスメールでは、「おかげさま」を漢字で書けばいいのか、ひらがなで書けばいいのか、迷いますよね。また、漢字で書く時には「御蔭様」か「お陰様」か迷います。
ビジネスでは漢字を交えて書く
ビジネス文書やビジネスメールでは、漢字を交えて書くようにします。「御陰様・御蔭様」と全部漢字では少し堅苦しい重い感じがしますので、「お陰様・お蔭様」と書くようにします。少なくとも「かげ」だけは漢字「陰・蔭」を使って、「お陰さま・お蔭さま」と書きます。
「おかげさま」と全部ひらがなにすると、「漢字を知らないのか?」と疑われる可能性があります。「お蔭様」か「お陰様」がオススメです。ちょっと雰囲気を柔らかくしたい時は、「お蔭さま」「お陰さま」にします。
「お陰様」か「お蔭様」か?
「かげ」の漢字には「陰」と「蔭」があります。「蔭」には「おかげ・助け・かばう」という意味がありますから、本来ならば「お蔭様」と書くのが正しいと言えます。でも、「蔭」は常用漢字ではありません。ビジネス関係では常用漢字を使うのが一般的なので、「お陰様」と書きます。
ビジネス関係では「お陰様」が無難
字の意味を大事にして「お蔭様」と書いても、常用漢字を使うようにして「お陰様」と書いても、どちらも正しいと言えます。でも、ビジネス文書やビジネスメールでは、「お陰様」と常用漢字を書く方が無難です。
[「お陰様で」の英語は?]
「お陰様で」は日本語独特の言い回しです。でも、英語にも似た意味の表現があります。
英語では、「thank you」「thank Heaven」「fortunately」と言います。
英語例文
- Thank you very much for your help.(お陰様で助かりました)
- Thank Heaven, I am quite well now.(お陰様で全快しました)
- Fortunately we were not affected by the flood.(お陰様で水害から逃れました)
「お陰様で」の使い方は?
「お陰様で」は、特定の個人だけでなく会社の人たちや地域の人たちなどの厚意や親切に感謝する言葉です。世の中全体など不特定多数の人に対する感謝や、神仏や大自然など大きな存在の恩恵に対する感謝を表す時にも使います。相手に対する尊敬の気持ちを込めて、「ありがとうございます」「御礼申し上げます」など感謝の言葉と一緒に使うことが多くなります。
「お陰様で」を適切に使うことで、相手に尊敬と感謝を伝えて良好な人間関係を築くことができます。職場全体やプロジェクトチームの士気を高めることもできます。
[「お陰様で」は文頭、「お陰で」は文中]
「お陰様で」も「お陰で」も周りの人のサポートに対して尊敬と感謝を伝える言葉ですが、使い方が少し違います。
「お陰様で」は文頭に使う。次に感謝の文を続ける。
「お陰様で」は文頭に使い、後に続く文章全体にかかります。また、次の文章で相手に感謝と尊敬の気持ちを伝えるようにします。
例文
- お陰様で事業も軌道に乗り、順調に進んでおります。これもひとえに貴社のご支援の賜物と心より感謝申し上げます。
- 入院中は御心配をおかけいたしました。お陰様で無事退院することができました。度々お見舞いいただきまして、誠にありがとうございました。
- お陰様で第一志望の会社に就職できました。御指導いただいた田中教授に感謝いたします。
「お陰様で」はビジネス枕言葉
「お陰様で」はビジネス会話・ビジネス文書・ビジネスメールなどビジネスシーンの文頭でよく使われます。文頭に使うので「ビジネス枕言葉」と呼ばれることがあります。
「お陰様で」を文頭に置き、まず相手に対する感謝と尊敬の気持ちを伝えます。
「お陰で」は文中で使う。
「お陰で」は文中で使うことが多くなります。感謝のフレーズと一緒に使うと、相手に尊敬と感謝の気持ちをよく伝えることができます。
例文
- この資格のお陰で、不動産会社に就職することができました。
- 部長のお陰でトラブルを解決することができました。ありがとうございました。
- ここまで業績を伸ばすことができたのは、田中さんのお陰です。感謝します。
[「お陰様で」の文末は「できました」がいい?]
「お陰様で」を使う時は、会話でも文書・メールでも文末に気を配ります。「○○しました」より「○○できました」の方が、周りの人たちの力添えに感謝する気持ちが強く伝わります。もちろん、文章全体から見ると「○○しました」の方が良い場合もあります。
「お陰で」も文末を「○○できました」にする方が謙虚で、相手に対する感謝をよく伝えられます。
例文
- お陰様でプロジェクトを成功させることができました。ご協力に感謝します。(お陰様でプロジェクトが成功しました。ご協力に感謝します)
- お陰様で南北産業に就職できました。御心配をおかけしました。(お陰様で南北産業に就職しました。御心配おかけしました)
- 田中先生のご指導のお陰で、第一志望校に合格することができました。(田中先生のご指導のお陰で、第一志望校に合格しました)
- お陰様で、今年は稲がよく実りました。
[「お陰様で」は不特定多数の人に感謝を伝える]
「お陰様で」は、特定の人・物・事柄を指し示して感謝と尊敬を伝えることもできますが、直接何かしてくれたことのない人々や社会や神仏・大自然などに感謝をする時にも使えます。でも、「お陰で」は、特定の人・物・事柄を指し示して感謝を伝えます。
「お陰様で」は日頃のご愛顧やご支援に対する感謝を表す
ビジネスシーンで、社内の多くの人たちのサポートに感謝したり、取引先や不特定多数のお客様の日頃のご愛顧・ご支援に感謝したりする時に、「お陰様で」を使います。日常生活では、神仏や社会や周りの人たちに感謝する時に使います。
例文
- お陰様で弊社も創立三十周年を迎えることができました。日頃よりご愛顧ご支援いただきました皆様に、心から感謝申し上げます。
- お陰様で完売いたしました。ありがとうございました。
- お陰様で台風被害もたいしたことはなく、親子四人元気に過ごしております。
- お陰様で山で遭難した娘が無事に救出されました。皆様に心から御礼申し上げますとともに、御迷惑御心配をおかけいたしましたことを深くお詫び申し上げます。
「お陰で」は特定の人・物・事柄を指し示す
「お陰で」は、特定の人・物・事柄を指し示して感謝します。神仏や大自然に関する事柄も、感謝する対象がはっきりしています。
例文
- 東西産業様のお陰で、弊社もここまで業績を伸ばすことができました。
- 電車が遅れたお陰で、あの大事故に遭わないで済んだ。全く運が良かったよ。
- 湯島天神にお参りしたお陰で、第一志望の大学に合格できました。
- 夏の暑さのお陰で、今年は豊作です。
[「お陰様です」はNG]
「お陰です」と言いますが、「お陰様です」はNGです。「お陰様」は文章全体にかかる言葉なので、「○○のお陰様です」とは言いません。「○○のお陰です」をもっと丁寧な高い敬意表現にしたい時は、「○○のお陰でございます」「○○のお陰と存じます」とします。
NG例文
- チームリーダーに昇格できましたのも、鈴木部長のお陰様です。
- 弊社が創立三十周年を迎えることができましたのは、南北工業様にご愛顧いただいたお陰様でございます。
正しい例文
- チームリーダーに昇格できましたのも、鈴木部長に御指導いただいたお陰です。
- 弊社が創立三十周年を迎えることができましたのは、南北工業様に御愛顧いただいたお陰でございます。
[皮肉に聞こえないように気をつける]
「お陰様で」は相手の親切・厚意・励まし・指導・助力などに感謝する言葉です。日頃から支援してくれたり贔屓にしてくれたりする取引先や多くの顧客に対して感謝する時にも使います。でも、直接的にも間接的にも何もしてくれない相手に「お陰様で」と言うと、皮肉や嫌味に聞こえる可能性があります。
日頃から足を引っ張る同僚・部下・後輩や対立することの多い上司・先輩には、「お陰様で」と言う時には皮肉に聞こえないように注意します。
「お陰様で」は周囲の人たちに謙虚な印象を与える
でも、たいていの場合、「お陰様で」という言葉を使うと、相手や周囲の人たちに「謙虚な人」という好印象を与えます。「今の自分があるのは周りの人たちのサポートがあるからだ」という感謝と敬意を伝えることができるからです。
ビジネスの世界では、周囲のサポートが何よりも重要です。ビジネスパーソンは「お陰様で」の気持ちを常に忘れないようにします。
「お陰様で」を他の言葉に置き換えると?
「お陰様で」は「お陰をもちまして」「ご支援」「お力添え」に置き換えることができます。どの言葉も、「自分独りでできることは限られています。周りの人たちのサポートに感謝します」という尊敬と感謝の気持ちが込められています。
①「お陰をもちまして」
「お陰をもちまして」は「お陰様で」よりも、少し改まった丁寧な言い方です。会話よりもビジネス文書やビジネスメールで使うことが多くなります。
例文
- お陰をもちまして、弊社の新商品の売り上げはうなぎ上りに伸びております。南北産業様にご尽力いただきましたこと、心より御礼申し上げます。
- お陰をもちまして、弊社も創立二十周年を迎えることができました。これもひとえに貴社の御指導御鞭撻の賜物と、深く感謝申し上げます。
- お陰をもちまして、本日退院することができました。入院中は御心配をおかけいたしまして、誠に申し訳ございませんでした。
②お力添え
「お力添え」は、相手から親切・厚意・指導・励まし・手助けなどを受けることに総合的な感謝と尊敬の気持ちを表す言葉です。「お力添えをいただき」「お力添えを賜り」「お力添えにより」などと使って、「お陰様で」と置き換えます。
例文
- 貴社にお力添えをいただき、新プロジェクトを成功させることができました。誠にありがとうございました。
- お客様から多大なお力添えを賜り、弊社も創立十周年を迎えることができました。深く感謝申し上げますとともに、倍旧のご愛顧お引き立てのほどをお願い申し上げます。
- 皆様のお力添えにより、新商品の売り上げをここまで伸ばすことができました。
③ご支援
「ご支援」も、「ご支援いただき」「ご支援を賜り」「ご支援により」という言い回しで「お陰様で」と置き換えます。
例文
- 皆様より多大なご支援をいただき、町を復興させることができました。
- 多くの方々からご支援を賜り、ようやく事業を立て直すことができました。
- 皆様の御支援により、交通安全運動を推し進めることができます。
④「お陰」は「せい」に置き換えられる?
「お陰で」は「善悪に関わらず原因となることを示す」言葉です。「~のせいで」も原因を指し示す言葉ですが、意味が少し異なります。
「~のせいで」は悪い結果を引き起こす原因を示す
「~のせいで」は、どちらかというと好ましくない結果・悪い結果が引き起こされた原因を指し示します。好ましい結果・良い結果が起きた時は、「お陰で」を使います。
例文
- 異常な暑さのせいで、熱中症患者が急増した。
- プレゼンで大恥かいたのは、あなたの準備不足のせいだ。
- 徹夜したせいで、頭が良く働かない。
- 事故渋滞のせいで、お約束の時間に間に合いません。申し訳ございません。
- プロジェクトの失敗は、田中君1人のせいではない。
NG例文
- 田中さんのせいで、プレゼンを成功させることができました。(田中さんのお陰で、プレゼンを成功させることができました)
- 新事業を立ち上げることができたのは、鈴木さんの尽力のせいです。(新事業を立ち上げることができたのは、鈴木さんが尽力してくれたお陰です)
まとめ 「お陰様で」は相手のサポートに感謝する言葉
「お陰様で」は「他の人から受けた親切・厚意・励まし・指導・助力に対して尊敬と感謝を込めた」言葉です。とても丁寧な敬語表現なので、そのまま目上の人に使うことができます。
「お陰」は元来「神仏や大自然など偉大な存在から受ける恩恵」を意味しています。現在では、神仏や大自然など偉大な存在だけでなく善意の人たちから受ける恩恵も含みます。「お陰様で」は、神仏など偉大な存在から受ける恩恵や特定の個人や事柄・取引先や職場の上司同僚など周りの人たち・多くの顧客や社会の人々など不特定多数の人たちから受けるサポートに対して、尊敬と感謝の気持ちを表す言葉です。
仕事は自分独りではできません。「今日の自分があるのは、周囲の人たちの親切や助力があったからだ」という謙虚な気持ちが、ビジネスを成功に導きます。ビジネスシーンでは「お陰様で」を適切に使い、良好な人間関係・信頼関係を築きます。
「お陰で」は好ましい結果をもたらす原因を示す言葉です。「お陰様で」同様にビジネスでも使われます。「お陰様で」も「お陰で」も、他から受けるサポートに感謝する場面でよく使われます。「ありがとうございます」「感謝申し上げます」などの感謝のフレーズと一緒に使うと、相手に対する尊敬と感謝の気持ちをはっきりと伝えることができます。