多発性外傷とは?危険な症状を知って命を守ろう!原因や治療法も紹介!

多発性外傷は、多発外傷ともいいます。

交通事故や高い所からの墜落事故、重量物の落下事故などにより、「頭部・胸部・腹部・骨盤・手足の2ヶ所以上に、生命に危険を及ぼす重い外傷が存在する状態」を、「多発性外傷」といいます。多発性外傷は、事故の他に、集団暴行や暴力行為を受けた場合にも発生します。

多発性外傷というと、「時津風部屋の暴行事件」や「新宿の集団暴行事件」そして、東北地方太平洋沖地震による「東電の社員2名の事故死」が思い浮かびます。その時、新聞などマスコミでよく使われた言葉が「多発性外傷によるショック死」でした。

「全身のあちこちに重傷を受けると、ショックで死ぬ?そんなことがあるの?」という疑問が湧いてきますよね。

多発性外傷とは何か?その症状と治療、そして「多発性外傷によるショック死」について、お伝えしますね。

多発性外傷とは?

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「頭部・胸部・腹部・骨盤・手足の2ヶ所以上に、生命の危険を及ぼす重い外傷が同時に存在する状態」を、「多発性外傷(多発外傷)」といいます。

複数の臓器に同時に損傷を受けると、損傷を受けた臓器は互いに悪影響を及ぼします。そのため、単独で損傷を受けた場合よりも、病態が重症化します。死亡率は20~30%と、高くなります。

[多発性外傷の原因]

多発性外傷の原因は、圧倒的に事故が多いようです。大震災による福島第一原子力発電所の津波に巻き込まれた事故をはじめ、自然災害が起きると、多発性外傷で事故死することがあります。

交通事故や高い所からの墜落事故、重量物の落下事故、重量物に挟まれる挟圧事故などで、多発性外傷を負うことが少なくありません。大型トラックに引きずられたために、多発性外傷を負い、亡くなった男性がいます。

事故の他には、集団暴行などの暴行障害事件が多発性外傷の原因となります。

時津風部屋で17歳の少年弟子が死亡した事件は、記憶に新しいと思います。厳しい稽古に耐え切れず逃げ出した少年の額を、親方がビール瓶で殴りつけ、兄弟子達にぶつかり稽古を命じました。兄弟子達は少年が倒れた後も、蹴りつけたり、金属バットで殴ったりしたそうです。

また、2014年5月に新宿で起きた集団暴行事件は、被害者も加害者も女性でした。4人の女性が1人の女性を鉄パイプで殴り、アイロンやタバコの火を押しつけました。被害者は、顔や背中、両腕に痣(あざ)、両腕と手、背中に真っ赤な火傷があったそうです。

2つの事件の被害者は、通報を受けて救急車が駆けつけた時には心肺停止状態で、2人とも搬送先の病院で死亡しました。

[多発性外傷の検査と診断]

たいていの場合、検査と診断は、救命救急センターで行われます。すでに心肺停止状態になっている患者さんがいるので、検査も診断も緊急を要します。

意識・呼吸・血圧・脈拍などのバイタルサイン(生命徴候)、血液検査・尿検査・Ⅹ線検査の結果、詳細な身体所見から、重症度や緊急度を判断します。より正確な損傷状況が必要な場合は、CTやMRIの検査を行います。また、「どのような事故・状況で負傷したのか?」を知ることで、重症度を判断します。

幼児や高齢者、妊婦、出血性疾患・心疾患・呼吸器系疾患・糖尿病・肝疾患・慢性腎臓疾患など持病のある場合、抗凝固薬を服用中の場合などは、重症化しやすくなります。特に注意して対応する必要があります。既往症や服用中の薬、妊娠の有無について、できるだけ詳しく伝えることが、治療効果を上げることになります。

[多発性外傷の治療]

多発性外傷の治療で最も難しいのは、外傷の全体像を把握することです。生命に危険を及ぼす複数の外傷が互いに影響し合って病態を重症化していますから、病状がとても複雑になっています。どの損傷部位から治療を始めるか、医師も大いに迷います。

優先順位(プライオリティー)

多発性外傷の治療は、優先順位に則して行われます。優先順位は、初期治療・緊急検査・根本的治療において、それぞれ決められます。

多発性外傷は、どの損傷も生命にかかわるものです。その中で、どの外傷部分が最も生命の危険をもたらすのか、どの損傷部分が最も重症か、どの損傷が最も緊急を要するかを、迅速かつ正確に判断して、的確な治療を行わねばなりません。

多くの場合、治療の優先順位は、胸部・頭部・腹部・骨盤・手足となります。しかし、外傷の部位・重症度・緊急度は、個々によって異なります。患者の体質・体型・健康状態・持病の有無・年齢などによっても、病態が変わります。医師は、その場の状況に応じて優先順位を決めて、滞りなく治療を行うようにします。

ダメージコントロール

多発性外傷の患者さんの治療には、しばしばダメージコントロールという方法を採ります。

生命の危険をもたらす大出血などがある場合は、まず大出血を止めるなど、危険に対処する簡単な手術を行います。集中治療室で、全身状態が改善するような治療を続けます。全身状態が落ち着いてきたところで、再び手術をして根本的に治療します。

簡便な手術で目前の危機を回避し、集中治療室で全身状態の改善を図り、再手術で根本治療を行うという3段階で、治療を行うのです。

少しでも早く生命の危機から脱するには、有用な治療法と言えます。

多発性外傷の症状

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多発性外傷の症状としては、損傷部の痛み(激痛)と出血が一般的です。頭部外傷・胸部外傷・腹部外傷・骨盤外傷・四肢(手足)外傷など複数の症状が、同時に現れます。損傷部位と症状の重度により、治療の優先順位や治療法が決まります。

[比較的軽度の症状]

鉄パイプや金属バット、重量物などの鈍体(どんたい)により、打撲や圧迫を受けたり、交通事故や墜落事故を起こしたりすると、挫創(ざそう)や挫傷(ざしょう)、挫滅創(ざめつそう)が生じます。打撲を受けた部分に疼痛、挫創部分に出血があります。

挫傷

挫傷とは、鈍体による打撃や圧迫、重量物との衝突などにより、打撲を受け、皮下組織や臓器が損傷することです。ただし、皮膚の表面に傷がありません。皮下出血や浮腫(むくみ)を生じます。

打撲による場合は、打撲傷ともいいます。

挫創

打撲によって生じることが多いので打撲創とも言います。「創」は傷のことです。

鈍体により打撲や圧迫を受けて、皮膚や筋肉に起きる損傷で、皮膚が断裂して傷口が開いています。出血・皮下出血・損傷部の腫れや疼痛があります。

挫滅創

交通事故など急速で動く物体と衝突して強い摩擦(あるいは圧力)を受けた場合、皮膚や皮下組織、筋肉などに受ける損傷を挫滅創といいます。

皮膚がめくり取られたり(デグロービング損傷)、腕や手足の指など身体の一部が切断されたりします。

[重度の症状]

外傷が重症です。大量出血や内臓脱出(傷口から内臓がはみ出る)、手足の切断が見られます。打撲痕も大きく広がり、数も多くなります。頭部・胸部・脊柱・骨盤・手足が変形することもあります。

意識障害・呼吸障害・循環障害・神経機能障害が同時に生じ、これらの障害による症状が、複雑にからみあって現れます。

多臓器不全を起こして、短時間で死に至ることもあります。

意識障害

呼びかけても反応がありません。反応しても、応答がトンチンカンで、会話が成り立ちません。話すことが意味不明です。すぐに眠り込んでしまったり、意識が混濁することがあります。昏睡状態に陥ることもあります。

呼吸障害

多発性外傷により呼吸機能が低下して、二酸化炭素と酸素のガス交換がうまくいかなくなります。血液中の酸素が不足して、全身の細胞に酸素が行き渡らなくなります。特に脳が酸素不足になると、大きなダメージを受けます。

呼吸が弱く、苦しそうになります。呼吸数が増加して1分間に30回以上になることも、逆に呼吸数が減って、1分間に10回未満になることもあります。

循環障害

血液とリンパ液は全身を循環して、酸素や栄養分を供給し、物質代謝により生じた二酸化炭素や乳酸などの老廃物を運び去っています。この血液やリンパ液の循環が妨げられて、いろいろな障害を生じることを、「循環障害」といいます。

多発性外傷により循環障害が起きると、脈拍が速くなり(頻脈)、1分間に120以上になります。チアノーゼが起き、唇や手足の指先が紫色になります。手足が汗ばんで冷たくなります。

循環障害は、意識障害や呼吸障害にも影響します。

神経機能障害

多発性外傷により神経系統に損傷を受けると、さまざまな機能障害を生じます。特に脳や脊髄など中枢神経に損傷を受けると、神経伝達機能が損なわれます。

運動機能や知覚感覚機能が失われると、「身体が動かせない。何も感じない」という状態になります。手足が麻痺したり、体外からの痛覚刺激に反応しなくなったりします。

また、精神的ダメージが大きく、身体が回復しても、ASD(急性ストレス障害)やPTSD(心的外傷後ストレス障害)が、生じることが多いようです。

多臓器不全

多臓器不全とは、生命を維持するのに必要な臓器が、同時に複数が連鎖的に機能低下を起こした状態です。

神経系・循環系(心臓血管系)・血液系・腎臓・呼吸器・肝臓・消化器のうちの2つ以上が、多発性外傷により、同時に、あるいは連続して機能不全に陥ると、致命的な状態になります。

[致死的3徴]

多発性外傷では、➀低体温 ②酸性血症(アシドーシス) ③凝結異常 という症状が、しばしば見られます。これを「致死的3徴」とか「致死的症状」と呼びます。これらの症状が現れると、短時間で死に至ることが多くなります。

➀低体温

多発性外傷において、体温が34℃以下になるのは、極めて危険な兆候です。頭部の損傷や広範囲の熱傷、大量出血などにより、体温が低下します。

体温が低下すると、いろいろな臓器の機能が低下します。不整脈や心室細動が起きやすくなります。

ヒトの体温は37℃前後が正常です。普通の状態では、身体の中心部の温度が35℃以下になると、低体温といいます。

②酸性血症(アシドーシス)

酸血症ともいいます。

ヒトの体液・血液は、酸と塩基(アルカリ性)が均衡して、やや酸性に傾いた状態に保たれています。正常な場合、体液・血液のPH(ペーハー)は7.4±0,05になっています。炭酸系(酸性)の緩衝作用、呼吸器や腎臓の働きにより、PHが安定しています。

血液・体液のPHが7.35以下になると、「酸性血症(アシドーシス)」といいます。PHが7になると、ヒトは長く生存することはできません。

多発性外傷により呼吸機能や腎機能が低下すると、血液中に二酸化炭素やその他の酸が蓄積されて、血液が酸性に傾きます。血液のPHが7.2未満になると、極めて危険な状態です。

③凝固異常

負傷した部分からの出血が止まらなくなります。「血液凝固障害」といいます。

多発性外傷により大量出血した場合にも起こります。大量出血すると、血液を固めるのに必要なタンパク質である凝固因子が大量に失われてしまうので、出血が止まらなくなるのです。

ヒトは全血液量の3分の1から2分の1を失うと、失血死します。また、多発性外傷などで大量出血すると、失血が致死量に達していなくても、出血性ショックを起こして死亡することがあります。

多発性外傷によるショック死とは?

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「時津風部屋の事件」「新宿の集団暴行事件」や「爆弾テロ」「大規模脱線事故」などで、「多発性外傷によるショック死」とか「多発外傷性ショックによる死亡」という言葉を、マスコミがよく使います。

「ショックで死ぬのか!?」と、驚いたり、不思議に思ったりしますよね。この「ショック」という言葉は、医学用語と一般的に使われる場合とでは、意味が違います。

一般的には、ショックとは、➀物理的な打撃や衝撃 ②予想外のことに出会った時の心の動揺や衝撃(三省堂国語辞典) ということになります。

医学用語では、ショックとは「循環性ショック」のことです。「急性循環不全」といます。

[急性循環不全(循環性ショック)]

「急性循環不全」「循環性ショック」とは、急激に循環機能が低下して血流が不足し、心臓をはじめ全身の組織に障害を生じることです。

交通事故・墜落事故・強圧事故や、集団暴行や暴力行為などで、大量出血が起きると、血流が低下して各臓器に必要な栄養分や酸素を輸送できなくなります。そのため、全身組織の機能不全が起こります。また、心臓を動かすのに必要な血液が不足しますから、心臓は空打ちするようになり、やがて止まってしまいます。大量出血による急性循環不全を「出血性ショック」ともいいます。

外傷を受けて、心臓の周囲に血液が溜まってしまうと、「心タンポナーデ」になり、血液の圧迫で心臓が動けなくなることがあります。外傷により心筋梗塞などを起こして心臓そのものが動かなくなることがあります。これも、「循環性ショック」に含まれます。野球のボールに心臓を直撃されて「心臓震盪」が起き、死亡したのも「循環性ショック死」の症例の1つです。

急性循環不全(ショック)を起こすと、生命が危険な状態になります。死亡することが少なくありません。

[大量出血がなくても、出血性ショックが起きる]

外傷が重症だと、普通は大量に出血するものです。しかし、出血量が少ないのに、循環性ショック・出血性ショックを起こす場合もあります。交通事故や挟圧事故にあい、擦りむき傷程度で、たいして出血もしていないのに、「急性循環不全」で死ぬことがあります。

内臓破裂や身体内部の大血管損傷を起こしていると、大量出血がなくても死に至る危険性が大きくなります。内臓破裂・内臓損傷により、臓器の毒素が他の臓器の機能不全を引き起こします。体内で大血管が損傷されると、血液循環が滞り、心臓の働きが悪くなるのは、大出血と同じです。

私の知人は、食事中のレストランに自動車が飛び込み、自動車と壁の間に挟まれました。擦り傷を受けた程度で、自力で車の屋根に這い上って脱出しました。しかし、念のため、救急車で病院に搬送されたところ、容体が急変しました。内臓破裂と大血管損傷を起こしていたのです。手術で一命を取り止めましたが、危ないところでした。

[多発性外傷による出血性ショックで死亡する]

「多発性外傷によるショック死」というのは、「多発性外傷により急性循環不全が起きて死亡した」という意味です。「多発性外傷による出血性ショック死」ということです。

多発性外傷により大出血が起きると、出血性ショックを起こします。血流が低下して心臓の動きが悪くなり、やがて止まってしまうこともあります。血液が酸素や栄養分を供給できないので、全身組織が機能不全を起こします。このため死に至るのが、「出血性ショック死」です。

まとめ 多発性外傷は死に至る危険が大きい

多発性外傷は、死に至る危険性が大きいと言えます。

毎年、交通事故で亡くなる人は減少していると言うものの、少なくありません。2014年には1日平均11.27人、2015年には1日11.3人が交通事故で死亡しています。多発性外傷で亡くなった人も多いようです。

事故は交通事故だけではありません。歩いていたら、上からビルの壁が落下して潰されたということもあります。電動式の折り畳み観客席に挟まれた人もいます。

また、世の中が悪くなっているせいでしょうか、集団リンチ・集団暴行の被害者が絶えません。

集団リンチや集団暴行は別問題として、私達は、いつ、どこで、事故に遭い、多発性外傷を負うか、わからないのです。多発性外傷は重症化しやすく、短時間で死に至ることが少なくありません。

事故などで大ケガした場合は、すぐに救急車を呼びます。遠慮したり、ためらったりすれば、それだけ生命が危険になると思ってください。意識のはっきりしているうちに、救命士に事故の状況や自分の状態をくわしく、正確に伝えるようにします。

ケガ人といっしょにいた人、事故の目撃者が、救急車を呼ぶ場合もあります。その時も、ケガを負った状況、ケガ人の訴えや様子を、できるだけくわしく伝えます。

多発性外傷の治療は、治療の優先順位を決めることが何より重要です。生命の危険が大きい損傷部から治療するのですから、ケガを負った状況やケガ人の状態を知ることが必要です。

外見は擦り傷程度で軽症に見えても、内臓破裂や大血管損傷を起こしている場合もあります。どんな事故でも、事故に遭ったら、重症でも軽症でも、すぐに救急車で病院に行くことです。それが、自分の生命を守ることになります。

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