「大人になりたくない」──本人が意識していなくても、潜在的にそのような思いがあることによって、日常生活での言動や、人との関わりの中で、様々な問題が生じる『ピーターパン症候群』。心の問題が多く取りあげられる現代社会で、誰しも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
ピーターパン症候群は、思春期からその兆候が現れ始めますが、社会人になって、“責任”を伴うことを余儀なくされる環境で生きていかなければならなくなったとき、徐々に「生きづらさ」が明確に問題として出始めます。
そこで、ここでは、ピーターパン症候群とはどういった問題点があるのか、どのように改善していけば良いのかなどを、ご紹介いたします。
ピーターパン症候群について
研究による独自の心理学を論じたことによって、メディアの注目を浴びた、アメリカの心理学者であるダン・カイリー博士によって提唱された、ピーターパン症候群。これは、医学的な正式用語ではなく、精神疾患における概念の一つと言ったほうが良いかもしれません。
その名を聞くと、あの有名なディズニー映画を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、原作は、映画の内容とは異なり、20世紀始めのイギリス中産階級に生じた問題を描きながら、“子供だった大人たち”へ、大人になることの意味を考えさせる、重たい内容になっています。
では、ピーターパン症候群とは、どのような場合を示すのか、早速見ていきましょう。
ピーターパン症候群とは?
ピーターパン症候群とは、年齢・肉体ともに成熟しているにも関わらず、精神的に未熟であるため、まるで子供のような言動をとる人のことを示します。
精神疾患の一つと言われていますが、うつ病やパニック障害などとは異なり、明確な症状が存在せず、成人として社会で生きていくのが困難になるといった、非常に曖昧な定義が元になるため、検査などでは判断することができません。
主に男性に多く見られると言われており、社会に出て働いたり、恋人ができるような年齢になると、まず周囲の人が本人に対しての理解に苦しむといった形で、その兆候に気づくようです。
しかし、時を経るにつれて、本人自身も「生きづらさ」を感じるようになり、その生きづらさから、うつ病になってしまうというケースも珍しくありません。
また、パーソナリティ障害の一つであるという考えもありますが、これは、精神的に成熟していないことが、周囲との関係構築を困難にさせ、社会の中での自己存在意義を不明にさせることなどから、このように言われていると考えられます。
原因
ピーターパン症候群の明確な原因は、現段階ではわかっていません。両親の不仲、あるいは過保護、幼少期によるいじめや、成長過程で無自覚のうちに本人に刷り込まれている劣等感や孤独感などが、考えられる原因としてあげられていますが、一方では脳の成長障害であるという説もあるようです。
しかし、脳の成長障害であるという可能性を除けば、「少なくとも子供以上には判断能力があり、物事を考える思考を持ち合わせていること」、「わずかでも本人が社会の中における自分の存在に違和感を抱いていること」から見ても、やはり直接的な原因としては、諸々の葛藤や違和感を自分自身で消化できない「精神的な未熟さ」と言えるでしょう。
精神的に成長することができなかった背景として、両親の不仲や過保護などの説があげられるかもしれませんが、今後社会の中で生活していくことを考えると、過去に起きた様々な要因に思いを巡らせるよりも、今できることを考える方が、前向きな判断であると言えるでしょう。
ピーターパン症候群の人の傾向
先にも述べたように、ピーターパン症候群は思春期からその兆候が現れ始めます。18歳~22歳あたりになると、ナルシズムと男尊女卑思考が強く現れ始め、23歳~25歳頃になると、急激に危機感や不安感を抱くようになります。
しかし、この時期に“成長すること”を断念してしまうと、慢性的なピーターパン症候群と化し、中年以降になって、社会へのいらだちを募らせるといったパターンが多いようです。
そのほかにも、ピーターパン症候群の人には以下のような傾向が見られます。
<感情表現が上手くできない>
ピーターパン症候群の人は、感情表現力が乏しいと言われています。例えば、怒りを表現しようとしても、感情以上に激怒してしまったり、ヒステリックに笑うことで怒りを表わすことがあります。
また、言葉と行動が伴わず、好きだよと口では言うものの、それを行動で上手く示すことができません。このような傾向がエスカレートすると、自己中心的な考えに拍車が掛かり、思っていることを口にしなくなったり、ひどい場合には、自分が本当はどのような感情を抱いているのかが、自分でもわからなくなるのです。
故に、孤独を感じやすく、幼少期から常に不安を感じていた人の場合は、さらに、どんな物事に対しても不安を抱きやすくなります。
<無責任>
これは、ピーターパン症候群の人に最も多く見られる傾向と言っても良いかもしれません。ある説によっては、裕福な家庭に育ったことや、両親の過保護が原因であるという説もありますが、「自分だけは、ほかの人と違う。特別だ。」という考えが深く根付いているため、何事においても、無責任に終わらせてしまう傾向があります。
例えば、“出したものはしまう”といった片付けなど、日常生活の些細な行動の中でもそのような傾向が見られます。
基本的にピーターパン症候群の人は、自己愛が強く、アダルトチルドレンなどによく見られる自己卑下や自己否定の傾向はあまり見られないのですが、それでもそこからエスカレートすると、「自分には何もできない」という思い込みが強くなり、自信喪失につながる場合もあるのです。
また、「そのうちどうにかなる」と考える癖がある人も多く、上手くいかないことは責任転嫁したり、場合によってはアルコールや薬物に依存してしまう人もいるようです。
これらに依存すると、何一つ解決していないにも関わらず、気分が高揚するため、問題が解決したような気持ちになり、状況は何も進展しないまま、同じことの繰り返しになってしまいます。
<怠惰>
これは、「無責任」とも通ずるかもしれません。「わからない」「どうでもいい」という言葉を口にする癖があり、とくに若い人の場合においては、追い詰められるまでやらなければならない物事に手を付けようとしない傾向があります。
そのため、「これを目標にしよう」という目標設定もできずにいることも多々あるようです。若いときにこのように過ごした人がそのまま年齢を重ねると、そのように過ごしたことを悔み、罪悪感を抱くようになるため、それまでとは打って変わり「常に何かしていないと落ち着かない」といった気持ちになってしまします。
すると次は、心身を休めることができなくなるため、自分でもどうしたらいいのかわからなくなってしまうこともあるのです。
<社会的不能症>
このような様々な傾向が合わさると、当然ながら友人関係も上手く築くことができなくなってきます。
また、プライド、あるいは自己愛の高さ故に自分の実力の限界を認めることができず、できないことがあったり、自分に非がある場合でも「ごめんなさい」という言葉を口にすることができないため、余計に周囲から嫌悪感を抱かれてしまうこともあるようです。
しかし、根底に眠る強い孤独感から、さみしがり屋でもあるので、自分が友人関係を築くことができない点を、金品で歓心を買い、カバーしようとする傾向も多々見られます。
<性に対するコンプレックス>
20歳を過ぎても、童貞である場合が多いのも、ピーターパン症候群の人によく見られる傾向の一つです。これには、強い男尊女卑の思考が大きく関係していると言えるでしょう。
自分を誇示するための方法を常に考える癖があるため、恋人ができても必要以上に束縛し、「男はこうあるべき」「女はこうあるべき」という固定概念から抜け出せずにいます。そのため、女性に男女平等を主張されると、正常に振舞うことができなくなるといったケースも見られます。
ピーターパン症候群の改善方法について
言うなれば、「病気」と言うよりも「深く、根強く培われた、限定的な考え方」がこのような症状を引き起こしていると考えられます。改善が困難であると言われているのは、そういった考え方が、生きづらさを招いていることをどこかで感じながらも、『その考え方が本人を守っている』という点にあるのではないでしょうか。
しかし、本人が「成長しよう」という一歩を踏み出すことができれば、ピーターパン症候群は必ず改善できます。その際に大切なのは、『新たな価値』を知り、それらを積み重ねていくということです。
子供にピーターパン症候群の兆候が見られた場合
前項目での「ピーターパン症候群の人の傾向」には含めませんでしたが、ピーターパン症候群になる人の多くに、『両親に対するコンプレックスやこだわり』が深くあるという傾向も見られます。
両親が不仲である場合においては、常に不安を抱える原因にもなります。夫婦間の不満を子供にぶつけている場合は、子供が両親を信頼できなくなり、大人になることへの嫌悪感を抱くこともあるのです。
夫婦間の問題は、夫婦間で解決し、子供が安心して「“子供”でいられる=自然に成長しようという気持ちが沸いてくる」環境を整えてあげることが大切です。
また、子供の気持ちを、一つ一つ汲み取りながら、コミュニケーションを怠らないことも必要不可欠と言えるでしょう。「自分の気持ちを、言葉に変える」ということを子供が実践できる環境を作ることが大切です。
感情を爆発させることも、もちろん大切なことですが、爆発させても、冷静になって「人と話す、伝える」ということをすれば、もっと人間関係が円滑になるという“新たな価値”を、少しずつ子供に伝えていくことが、改善においてのカギと言えるでしょう。
恋人や夫にピーターパン症候群の傾向がある場合
基本的に、男尊女卑の考えが根深くあるため、母親のような立場になって、上から物事を伝えるようなコミュニケーションでは、改善は見込みにくいでしょう。
しかし、恋人や夫といった密接な関係になると、ふとした瞬間に弱い部分を見せる機会があることも確かです。このとき、お説教をしたり、「こうしたらいいんじゃないの?」というアドバイスをするというよりも、相手がなぜそのように感じているのかといった部分を、根気よく聞き出していく時間を積み重ねることが大切です。
そして、最終的に、「あなたがそう思うのなら、賛成するよ」というように、「本人の意思で判断・決断すること=責任感を持たせる」ような言葉をそっと付け加えておきます。
それらが達成できたときは、“褒める”のではなく“一緒に喜ぶ”ことで、常にフェア、あるいはすこし引いたポジションで喜びを分かち合うのです。
それらの積み重ねによって、「責任を持つこと=嫌だ」から「責任を持つこと=自由になる」といった“新たな価値”を本人が見出す機会を増やすことできれば、自らピーターパン症候群から自然と抜け出していた、といったケースも見られます。
年齢を重ねた分、時間を要するかもしれませんが、支える人自身も、一緒に成長するような気持ちでサポートすると、負担を軽減できると言えるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。病名をつけてしまえば、どのような精神状態も「精神疾患」になりうると言えます。その定義が「社会生活を送りにくいこと」であると考えれば、ピーターパン症候群においての改善は、本人がいろいろな気づきを得ながら、心を成長させていくほかありません。
いかなる精神疾患においても、常に柔軟な視点で、本人の中に眠る根本的な問題が何なのかを、丁寧に紐解くことで、心の問題はゆっくりと、しかし着実に改善していくことでしょう。