手は、私たちが何かをする上でとても重要な役割を担いますし、否が応にも視界に入ってきます。そのときに手のひらが赤いと、とても気になりますよね?
その手のひらの赤みは、手掌紅斑(しゅしょうこうはん)という病気かもしれません。
そこで手掌紅斑には、どのような症状や特徴があるのか?その原因は何なのか?診断方法や検査方法、さらには治療方法について、似たような病気との違いを踏まえながら順を追ってお伝えします。
手掌紅斑の症状・特徴
手掌紅斑は、手のひらが何らかの原因により赤くなる病気ですが、どのような症状・特徴があるのでしょうか?手掌紅斑では、手のひらの中でも母指球や子指球といった部分に紅斑がかたよって存在することが多いようです。
ちなみに母指球とは、親指の付け根の膨らんだ部分を言います。同じように子指球とは、小指の付け根の膨らんだ部分を言います。
このように紅斑が手のひらの外周部分に発症することが多いため、その紅斑発症部分との比較で手のひらの中心部分が白っぽく見えるというのが手掌紅斑における大きな特徴といえます。
また手掌紅斑では、痛みやかゆみを伴わないのが通常です。痛みやかゆみを伴う場合は、手掌紅斑ではなく他の病気を疑ったほうがよいでしょう。
手掌紅斑の発症の仕組み
手掌紅斑の直接的な発症の仕組みは、手のひらの外周部分に集まっている毛細血管に流れる込む血流が大幅に増えることで毛細血管が拡張してしまうことによるものです。
では、なぜ毛細血管に流れる血流量が増えてしまうのでしょうか?その要因とされているのが、血液中のエストロゲンの量のバランスが崩れたことによる血中エストロゲン値の上昇です。
エストロゲンとは、一般に卵胞ホルモンまたは女性ホルモンと呼ばれるホルモンの一種です。ホルモンは、生物の正常な状態を維持するために、血液や体液を通じて体内を循環する生理活性物質です。
このエストロゲンは、主に女性らしい身体を形成するため、女性の成長期には乳腺や骨盤を発達させます。そして重要な点が、エストロゲンには血管を拡張する働き(血管の収縮を抑制する働き)があるという点です。
ここで手掌紅斑の発症の仕組みをまとめます。
まず、何らかの理由により体内のホルモンバランスが崩れ、血中エストロゲン値が上昇してしまいます。すると、エストロゲンの血管拡張作用により、手のひらの毛細血管が拡張されてしまい、手掌紅斑が発症してしまうのです。
手掌紅斑の原因
ホルモンバランスを乱す原因、すなわち血中エストロゲン値を上昇させる原因とは何でしょうか。それこそが、手掌紅斑を引き起こす原因といえます。
原因の種類
現在、原因と考えられているものは、大きく分けて次のような3つが挙げられます。
- 肝臓機能の障害
- 女性の妊娠
- その他
そして、手掌紅斑の原因の大部分は①肝臓機能の障害か、②女性の妊娠によるものとされています。まれに、上記2つ以外の原因によって手掌紅斑が発症することもあるようです。
以下、手掌紅斑を引き起こす原因をそれぞれみていきたいと思います。
肝臓機能の障害
肝臓には、体内のホルモンバランスを保つ役割があります。すなわち、余分なホルモンを分解・代謝することで、血中のホルモン濃度(血中のエストロゲン値)を過不足なく正常な状態に保つのです。
したがって、肝臓に異常をきたすと余分なホルモン(エストロゲン)が分解されないわけですから、血中のホルモン濃度(血中のエストロゲン値)が高くなってしまいます。とすれば、手掌紅斑の第一の原因は肝臓の異常、つまり肝臓機能の障害であるといえます。
肝臓機能の障害の代表格は、肝硬変や肝炎です。肝硬変は、肝炎が慢性化することによって肝機能障害が進行した末期症状です。肝細胞が壊死し、肝臓が縮小して硬くなります。
肝炎は、ウイルスやアルコール多飲などによって肝臓が炎症を起こす症状です。ウイルス感染によるウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎など)、アルコール多飲によるアルコール性脂肪肝が進行したアルコール性肝炎が代表的です。
肝硬変や肝炎のいずれにしても、肝臓の機能が低下することにより、肝臓のもつ体内の余分なホルモンを分解・代謝する力も弱まります。すると、血中のホルモン濃度(血中のエストロゲン値)が上昇します。その結果、エストロゲンの血管拡張作用によって、手のひらの毛細血管が拡張され手掌紅斑が発症します。
肝機能障害における手掌紅斑の意義
今まで見てきたように、手掌紅斑は肝臓機能の障害が原因となって発症します。これを逆からみれば、手掌紅斑は肝臓機能が低下していることを教えてくれる徴候といえますね。
肝臓は沈黙の臓器と呼ばれ、悪くなってもちょっとやそっとじゃ症状が表れません。肝臓が沈黙の臓器と呼ばれる理由を簡単にまとめると、次の通りです。
肝臓は3000億個以上の肝細胞で構成され、余分なホルモンの分解・代謝だけでなく、栄養の代謝作用や解毒作用など様々な役割を担っています。だからこそ、肝臓が全く機能しなくなると、人間の生命維持に大きな影響を及ぼしかねません。そのため肝臓には、一部の肝細胞が傷ついても再生させる再生能力があり、再生中にはその他の肝細胞が頑張って役割を補います。このその他の肝細胞の頑張りが、肝臓の機能悪化の症状を表に表れにくくしているのです。
ちなみに肝炎になると、肝細胞の壊死と再生を繰り返すことになり、慢性化すると次第に再生が困難となり肝硬変へ進行していきます。肝細胞の再生が困難になれば、いくら他の肝細胞が頑張っても肝臓として役割の遂行に限界が生じてくるのは当然ですね。
手掌紅斑の発症は、このような沈黙の臓器たる肝臓の機能低下を疑う端緒となる可能性があるのです。
女性の妊娠
女性は、妊娠するとエストロゲンの分泌量が増え始めます。この分泌量の増加は、妊娠を継続し出産に備えるために子宮を大きくさせたり、出産後に母乳を出すための乳房・乳腺を発達させるためです。エストロゲンの分泌量増大は出産が終わるまで続きますが、産後2日目には急減して、その後は徐々に通常の分泌量に戻っていきます。
ですから、女性は妊娠~出産期に血中のエストロゲン値が上昇してしまいます。その結果として、エストロゲンの血管拡張作用によって、手のひらの毛細血管が拡張され手掌紅斑が発症することがあります。
ただし、妊娠中の場合の血中エストロゲン値の上昇が妊娠によるものなのか、肝臓機能障害によるものなのかの区別は困難なのです。あくまでも、妊娠していることによるエストロゲン値の上昇の可能性が高いと推定されるにすぎません。安易に自己判断せずに、お医者さんに相談しましょう。
ちなみに、女性は40才を過ぎたあたりからエストロゲンの分泌量が減っていきます。いわゆる更年期という時期ですね。卵巣内の卵胞の数が減少していくことで、妊娠の可能性も低くなりエストロゲンの分泌の必要性が薄れるからという理由のようです。
その他の原因
先に述べたように、手掌紅斑の大部分は肝臓機能障害か妊娠によるものですが、まれに、下記を原因として発症する場合があります。
- 遺伝性によるもの
- 感染症(感染性心内膜炎)
- 血液疾患(白血病、赤血球増多症)
- 自己免疫疾患(慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど)
本筋とは離れますが、自己免疫疾患は女性に多く発症する事実から、女性ホルモンとの関連が疑われていますので、少し説明をしたいと思います。
関節リウマチは、自己免疫疾患の一つで、人体を守る免疫システムの異常により関節に炎症が生じて関節の軟骨や骨が壊れ、やがて関節の機能障害に至る病気です。関節リウマチが長期間続いて慢性化すると、関節の機能障害によって関節が変形してしまいます。
特に30才から50才あたりまでの女性に多いとされます。免疫システムが異常を起こす理由はまだわかっていません。男性よりも女性に多いことから女性ホルモンとの関連が疑われています。
全身性エリテマトーデスは、自己免疫疾患の一つで、体内に自己抗体ができてしまい、この抗体がさまざまな臓器に障害を引き起こす病気です。特に20才から40才あたりまでの女性に多いとされます。自己抗体ができる理由は解明されていませんが、男性よりも女性に多いことから女性ホルモンの関与が疑われています。
手掌紅斑の判別方法
手のひらが赤くなる病気は、手掌紅斑だけではありません。
そこで、手掌紅斑と他の病気との判別方法を探っていきたいと思います。
手のひらの赤みに痛みやかゆみを伴うか否か
痛み・かゆみを伴う場合は、多型滲出性紅斑、手湿疹(主婦湿疹)、寒冷蕁麻疹、温熱蕁麻疹のいずれかである可能性があります。痛み・かゆみを伴わない場合は、手掌紅斑か手足口病のいずれかである可能性があります。
手掌紅斑と似たような病気ですので、多型滲出性紅斑、手湿疹(主婦湿疹)、寒冷蕁麻疹、温熱蕁麻疹それぞれについて、簡単に説明をします。
多型滲出性紅斑は、赤い紅斑が手のひらをはじめ足などにも左右対称性で発症するのが特徴です。多少のかゆみが伴い、10代から30才前後までの女性に多く表われます。
手湿疹(主婦湿疹)は、手にだけ表われる赤い紅斑で、手に触れる物質の刺激やアレルギーによる皮膚炎です。女性、とりわけ主婦に多く発症する事実から別名で主婦湿疹とも呼ばれます。水仕事などにより皮脂や角質層などの天然保湿因子が落ちてしまうことが原因だといわれます。個人差はありますが、激しいかゆみを伴うことが多いようです。
寒冷蕁麻疹は、皮膚が急速に冷却されることが契機となって発症する蕁麻疹です。蕁麻疹は紅斑を伴った皮膚の盛り上がり・むくみ(浮腫)で、このむくみを膨疹(ぼうしん)といいます。皮膚の下に存在する肥満細胞が、急速な温度変化による刺激で免疫反応としてヒスタミンを放出することが原因となります。そして、ヒスタミンが神経に作用して強いかゆみを引き起こします。
温熱蕁麻疹は、寒冷蕁麻疹の逆で、皮膚が急速に温められることが契機となって発症する蕁麻疹です。仕組みも、症状も同じです。
手掌紅斑と手足口病の判別
ポイントは、前述した手掌紅斑の症状および特徴にあります。
手掌紅斑は、手のひらの中でも母指球や子指球といった部分に紅斑がかたよって存在することが多いと説明しました。そして、紅斑が手のひらの外周部分に発症することが多いため、その紅斑発症部分との比較で手のひらの中心部分が白っぽく見えるというのが手掌紅斑の大きな特徴でした。
したがって、手のひらに紅斑の発症した部分と未発症の部分を比較して、手のひらの中心部分が相対的に白く見える場合は、手掌紅斑の可能性が高くなります。
これに対して手足口病の場合は、手のひら全体に赤い水泡性の発疹が表われるのに加えて、足や口にも発疹が生じるときがあります。
手掌紅斑と手足口病は、手のひらに赤い紅斑が発症するという点で共通点があることから、簡単に手足口病について説明します。
手足口病は、コクサッキーウイルスやエンテロウイルスに感染して起こるウイルス性疾患です。手足口病患者の約9割は5才以下のこどもです。症状の特徴は、手のひら、足のうら・足の甲、口の中を中心に水泡性の発疹が表われます。水泡性発疹については、痛み・かゆみを伴わないのがほとんどです。しかし、個人差が大きく、人によっては激しいかゆみを伴う場合もあります。また、発熱が生じる場合もあるようですが、それほど高くはならないようです。そして、水泡性発疹も1週間程度で消えてしまいます。
ただし、まれに大人が感染すると、手のひら、足のうら・足の甲、口の中を中心にした水泡性発疹に加え、高熱の発生とかゆみが伴うことが多くなるようですので注意が必要です。
手掌紅斑の治療方法・検査方法
手掌紅斑が発症している場合、どのように治療していくのでしょうか。
手掌紅斑の治療について
先述したように手掌紅斑の発症仕組みは、血中のエストロゲン値の上昇により、手のひらの毛細血管が拡張してしまうものでした。となると、血中のエストロゲン値を高くしている原因である病変を治療しないと手掌紅斑の根治は望めません。
また、ここまで説明してきたように、手掌紅斑の原因の大部分は肝臓機能障害か妊娠によるものでした。ですから、手掌紅斑を発症した方が妊娠していなければ、まず肝臓機能障害が原因であるとの可能性を考えることになるでしょう。
そこで、肝臓機能に障害が発生しているのか検査する必要がでてきます。
肝臓の検査方法
肝臓の検査方法としては、血液検査、腹部超音波検査(腹部エコー検査)が一般的です。そして、肝臓機能障害が進行している際には、病理学的検査、肝弾性度測定といった検査が行われます。
血液検査による肝臓機能の検査で、最も使われている指標がALT(アラニン・アミノトランスフェラーゼ)とAST(アスパレート・アミノトランスフェラーゼ)です。
どちらも細胞の中で作られる酵素のことで、ALTは主に肝細胞に存在し、ASTは肝細胞のほかに心臓や腎臓といった臓器にも存在しています。肝炎などにより肝細胞が壊死すると、これらの酵素(ALT・AST)は血液中に漏れ出します。ですから、血液検査でALT・ASTの値が正常値より高いということは、肝細胞が傷ついているということであり、すなわち肝臓機能障害の可能性が高いということになります。その他にも複数の指標がありますので、気になる方は一度調べてみるとよいでしょう。
腹部超音波検査は、被験者に苦痛がないので実施が簡単です。腹部に超音波を当てて、跳ね返ってくる反射波(エコー)を受信し、コンピュータで画像化します。この画像をもとに医師が判断するのです。
肝臓機能障害の治療と手掌紅斑の根治
このような検査の結果、肝臓機能障害であれば、その治療をすることになります。
例えば、アルコール性肝炎であれば、禁酒や生活習慣の改善が必要になります。一方、ウイルス性肝炎であれば、抗ウイルス剤の投与といった投薬治療が必要になります。
繰り返しますが、血中のエストロゲン値を高くしている原因である病変を治療しないと手掌紅斑の根治は望めません。
まとめ
いかがでしたか。
手は、私たちが何かをする上でとても重要な役割を担いますが、そのときに手のひらが赤いと、とても気になりますよね。
もし手のひらに赤い紅斑があったら、それは何かのメッセージなのかもしれません。
特に血中エストロゲン値の上昇傾向がない人(男性や更年期を迎えた女性など)で、肝機能の検査を受けていない場合に手掌紅斑が見られたら肝機能障害の徴候かもしれません。
早めに医療機関に相談しましょう。