人は息をしないと死んでしまいます。それは、人が生きるためには酸素が必要だからです。しかし息の重要性はそれだけではありません。実は二酸化炭素を吐き出すことも、酸素を取り入れるのと同じくらい重要なのです。
本日、解説するのは「息をする」行動のうち「換気機能」についてです。空気中の酸素を肺の中に入れて、肺の中にたまっている二酸化炭素を空気中に吐き出す行動です。
換気と呼吸の違い
ちなみに「息をする」行動には、換気機能のほかに「呼吸機能」もあります。呼吸機能は、ガス交換ともいいます。肺の中に入ってきた酸素を血液に溶かし込み、血液に溶け込んでいる二酸化炭素を肺の中に吐き出します。
酸素というガスと、二酸化炭素というガスを交換するのです。換気と呼吸の「仕事」をまとめるとこうなります。
- 換気機能:肺の中の二酸化炭素→空気中へ、空気中の酸素→肺へ
- 呼吸機能:血液の中の二酸化炭素→肺へ、肺の中の酸素→血液へ
閉塞性換気障害の症状
換気機能の病気は2つあります。閉塞性換気障害と、拘束性換気障害といいます。まずは閉塞性換気障害からみてみましょう。
咳、痰
閉塞性換気障害は、肺が二酸化炭素を吐き出しにくくなる病気です。初期症状は咳と痰です。咳も痰も、のどに付着した異物を体の外に出すための反射運動ですが、閉塞性換気障害によって引き起こされる咳と痰はそうではありません。
肺の中の二酸化炭素を口に向かって送り出せないことから、苦しくなって咳や痰といった「吐き出す行動」を誘発してしまうのです。
呼吸困難から死
咳や痰の症状が出ても閉塞性換気障害の治療に取り掛からないと、必ず悪化します。次に現れる症状は、動悸と息切れです。それでも放置し続けると、最終的には呼吸困難になって死亡します。
息を吐かないと、肺の中には二酸化炭素が充満してきます。全身を巡ってきた血液は、次から次へと肺に到着し、血液中の二酸化炭素に吐き出します。それがどんどんたまっていくのです。肺の中が二酸化炭素でいっぱいになってしまったら、そこに酸素が入る余地がなくなります。体内に酸素を吸収できなくなるので、死んでしまうのです。
閉塞性換気障害の原因
閉塞性換気障害の主な原因は「慢性閉塞性肺疾患」「肺気腫」「気管支喘息」の3つの病気です。
慢性閉塞性肺疾患
慢性閉塞性肺疾患は、最近は「COPD」と呼ばれることが多いです。そしてCOPDの最大の原因は、喫煙です。タバコという有害物質が肺を炎症させてしまうのです。
COPDは肺の炎症にとどまらず、気管支や気道といった「肺と口をつなぐパイプ」を狭めてしまいます。パイプが狭くなるので、肺の中の二酸化炭素を吐き出しにくくなるのです。
肺気腫
肺気腫は、肺の重大な組織が壊れる病気です。重大な組織とは「肺胞(はいほう)」のことです。肺胞こそが、血液中の酸素と二酸化炭素を交換しているのです。この病気の主な原因もタバコです。
気管支喘息
気管支喘息は咳が止まらない病気です。大量の咳によって、肺の中の二酸化炭素の排出が邪魔されるのです。さきほど「COPDは気管支や気道が狭くなることで閉塞性換気障害が起きる」と説明しました。気管支や気道が狭くなると、喘息が起きやすくなるのです。つまりCOPDは気管支喘息を誘発するのです。
また気管支喘息はアレルギー症状としても現れます。
閉塞性換気障害の治療
閉塞性換気障害の治療は、原因となる病気を治療することになります。
慢性閉塞性肺疾患の治療
慢性閉塞性肺疾患、略称COPDの「治療」は、実は「ありません」。COPDによって壊された肺は、二度と元に戻りません。そこで治療の目標は悪化させない、または進行を遅らせることになります。
もしCOPDの患者がタバコを吸っていたら、治療は禁煙から始まります。ニコチンパッチやニコチンガムなどを使って治療します。
次に対処療法に取り掛かります。COPDは「治らない」ので、症状を緩和する治療を採用するのです。「抗コリン薬」や「β2刺激薬」は、気管支を広げる効果があります。気管支を広げることで、息のしにくさが改善されるのです。「メチルキサンチン」という薬は、気道の拡張に加えて、呼吸に必要な筋肉を増強する作用があります。
さらに、症状が重い患者には、ステロイドを使うこともあります。
肺気腫の治療
肺気腫もタバコが原因で発症することが大半なので、治療は禁煙からスタートします。また、肺気腫は肺胞が壊れる病気で、一度壊れた肺胞を元に戻す治療はありません。COPD同様、症状を軽くする治療しかなく、同じ薬が使われます。
また肺気腫の場合、痰の切れをよくする薬が使われることもあります。
気管支喘息の治療
気管支喘息では、気管支の炎症を抑えるステロイドを使います。炎症が治まることで、気道の狭まりが解消され、喘息が出にくくなります。
気管支喘息の治療で難しいのは、ステロイドの効果が出やすく、それでステロイドを止めてしまう患者が多いことです。しかしいったん「治った」と思っても、炎症を起こす原因が潜んでいることがあり、再び猛威をふるうことが分かっています。医師がOKというまで継続してステロイドを服用し続ける必要があります。
アレルギーによる気管支喘息の場合は、アレルギーの原因を突き止めることから治療が始まります。ダニ、カビ、花粉、ペットの毛などが原因であれば、それらを遠ざけることが必要になります。
また運動や別の病気の薬によって気管支喘息が起きることがあります。この場合も原因を遠ざける必要があります。しかし、別の病気の薬が気管支喘息を引き起こしている場合、対応はとても難しくなります。単純にその薬を止めるわけにはいかないからです。
そこで、その薬を処方している医師と、気管支喘息の治療を担当している医師が話し合って、最適な薬の選択をしなければなりません。また、運動好きな人に運動をやめさせることは大変気の毒ですが、やむえないときもあります。
拘束性換気障害の症状
これまで「換気機能」の病気のうち閉塞性換気障害についてみてみました。次に、もうひとつの換気機能の病気である「拘束性換気障害」をみてみましょう。
閉塞性換気障害が、肺の中の二酸化炭素を体の外に吐き出せない症状が出るのに対し、拘束性換気障害は、空気中の酸素を肺の中に取り込めない症状が出ます。
肺が広がらない
空気中の酸素を肺に取り込むには、肺を広げる必要があります。肺の中は「がらんどう」ですので、その空間が広がると口と鼻の周りの空気が肺の中に吸い寄せられるのです。肺を広げることができなくなるのが拘束性換気障害です。
拘束性換気障害の原因
なぜ肺が広がらないのでしょうか。風船で考えてみましょう。素材が厚くて硬い風船と、素材が薄くて柔軟な風船では、どちらの方が膨らませやすいでしょうか。当然薄くて柔軟な風船です。肺もこれと一緒で、肺自体が厚くなったり硬くなったりすると、膨らみにくくなるのです。
間質性肺炎
肺炎にはいくつも種類がありいずれも恐い病気ですが、最も恐いのは間質性肺炎です。拘束性換気障害を引き起こす代表的な病気でもあります。間質性肺炎は、肺気腫と同様に肺胞という肺の組織が壊れる病気です。ただ間質性肺炎の場合、肺胞が硬くなってから壊れるという特徴があります。
間質性肺炎を起こすのは、リウマチや大量の粉じんなどです。しかし間質性肺炎の中には原因が不明のものもあります。それを「突発性間質性肺炎」といい、国の難病に指定されています。
拘束性換気障害の治療
拘束性換気障害を引き起こす間質性肺炎も、突発性間質性肺炎も、根治する治療はなく、ステロイドで症状を出さないようにコントロールするしかありません。
突発性間質性肺炎の種類
突発性間質性肺炎は、6種類あります。そのうち死亡率が高い3つの病気を紹介します。
「特発性肺線維症」は60歳以上の男性に多く発生します。患者の喫煙率は60%ほどです。5年以内の死亡率は最大70%です。
「非特異的間質性肺炎」は女性に多く発症し、年代は40~60代に多いです。5年以内の死亡率は10%未満です。
「急性間質性肺炎」はどの年代でも起こる可能性があり、6カ月以内に60%が死亡します。発熱や咳が1~2週間続き、突然呼吸不全に陥ります。ステロイドも効くときと効かないときがあります。
まとめ
肺はとても繊細な臓器です。壊れやすく、一度壊れたら回復しません。よって、肺の病気は、予防がとても重要です。
しかし最も効果がある予防法はとても簡単です。禁煙です。とにかくタバコはすぐにやめましょう。