インターネットを通じて簡単に情報収集が可能となったために、原因不明の高熱が出ると、「もしかしたら心筋炎では・・・?」と不安になってしまう人が増えています。
稀な病気とはいえ、40歳以下の突然死の2割は心筋炎によるものといわれるほど、実は身近にも起こり得る病気なのです。そうはいっても、風邪の度に心配になる必要はありません。心筋炎という病気の特徴や診断・治療方法について解説します。
心筋炎という病気
心という感じが入っていることから、心臓に関する病気だということは誰でも察しがつくでしょう。具体的にどんな病気なのかわかりやすく説明します。
心筋に炎症が起こる
心筋炎とは、心臓の筋肉に起こる炎症のことをいいます。さまざまなタイプがありますが、大まかに2つに分けると、急性と慢性のものがあります。発症期間もタイプによって異なります。初期症状から発症まで、数時間から1~2週間、あるいはさらに長期間となることもあります。
発症後の経過もタイプによりますが、40歳以下の突然死の約2割が心筋炎を原因とするともいわれます。タイプ別に程度もさまざまで診断が難しいため、見過ごされることも多い病気です。通常は心臓の病気や免疫力が低下するような基礎疾患がある場合にしか、心筋炎にはならないと考えられています。ただ、何らの疾患がなくても発症する人も稀にいます。
発症原因となる病気
急性心筋炎の場合は、ジフテリア・リウマチ熱・肺炎・しょうこう熱など細菌やウィルスによる熱誠感染症などにかかっているときや、回復期に発症することが多いといわれます。
ほかにも、毒素、薬、原虫やエイズなど全身性の病気も原因の一つといわれます。心筋炎を誘発するウィルスの種類は多く、これまでに発症したものとしては、A型インフルエンザ、B型インフルエンザ、風疹ウィルス、アデノウィルス、帯状疱疹ウィルスなど、多岐に渡ります。ウィルスに感染すると必ず心筋炎になるわけではなく、可能性としてはかなり低いです。ただ、基礎疾患を持っている場合は、体調不良のときの無理は禁物です。
慢性心筋症の場合は、臓器の実質的な機能をつかさどる部位以外で発症する間質炎として発病することが多いです。
国内での発症率と死亡率
心筋炎は軽症だと、医師でも診断で確定することが困難な病気です。そのため、日本における発症率や死亡率の詳細は不明です。一過性で軽症の心筋症は、現在考えられている以上に多いともいわれます。心筋炎のほとんどは、診察時に他の疾患に形を変えて診断されてしまうことが多いと指摘している専門家もいます。
ただ、循環器系の病気の中では心筋炎の発症率が低いことは間違いありません。病院にも行かない程度の軽症のものが多いということは診断もできないため、薬や治療方法を研究することも難しいのです。
心筋炎の症状と病気の兆候
心筋炎になったときの症状と、病気を見分ける特徴的な兆候をみていきましょう。医師によっても見過ごされてしまう病気であるのはなぜでしょうか。
最初はかぜと似た症状
多くの急性心筋炎の患者さんは、まず、寒気や頭痛、筋肉痛など風邪によく似た症状を訴えます。咳や発熱、全身倦怠感もみられます。食欲がなくなったり、吐き気を催す人もいます。そして、下痢などの消化器の症状も先行することが多いです。これらの風邪によく似た症状は、心筋炎の初期症状です。とはいえ、この時点では患者さん自身も「心筋炎」の可能性が頭に浮かぶことはないでしょう。
数時間~数日の経過後
風邪とよく似た初期症状のあと、数時間から数日の経過で、心臓の症状が出現します。心症状のうち、出現率7割と最も多いのは、心臓のポンプ機能が低下して、肺や全身に必要な量の血液を送ることができなくなる心不全の兆候です。
続いて多いのが、胸の痛みです。そして不整脈といった症状があります。これらの症状の程度は、病変の部位や炎症の程度、そして心筋炎の広がりによって決まります。
病気の兆候
着目すべき身体的な変化は、発熱と不整脈など脈の異常、そして低血圧です。肺うっ血の兆候や、下腿浮腫などの右心不全の兆候を認めることもあります。
軽症の例を含めると、心筋炎は決して発症頻度の低い疾患ではないであろうとする医学的予測もあります。でも、症状や兆候が他の病気にもよく見られるものなので、医学的に明白に心筋炎と診断できることが稀なのです。
劇症型心筋炎について
数あるタイプの心筋炎の中でも、死に至る確率が高いといわれて恐れられているのが、劇症型心筋炎です。特徴と症状を説明します。
劇症という名称の理由
致死的心筋炎とされる劇症型心筋炎ですが、現代の医学では必ずしも死に至るわけではありません。約100年前に、海外でこの病気は次のように定義されました。
「血行動態の破たんを急激に来たし、致死的経過をとる急性心筋炎」
血液が体を循環しなくなることで、死に至るという意味です。しかしながら、その後、対外補助循環装置が一般的に普及するようになると、適切な医療機器による救命が可能となりました。そのため、この「劇症」という名称はむやみに恐怖心を与えるものと批判する人もいます。
劇症型心筋炎の症状
初期症状から血行異常により心臓の機能が急激かつ極端に低下して、全身の循環機能を維持できなくなるケースがあります。一方で、軽度な初期のかぜ症状から急速に劇症型へ向かうケースもあるのです。最初は、風邪と診断されて、その後に劇症型心筋炎を起こした患者さんもいます。病状の変化は数時間~数日といわれ、初期の風邪症状から心筋炎を見極めることは極めて困難です。
初期症状としては通常の急性心筋炎と同様で、発熱を伴うかぜ症状が6割、おう吐・下痢などの消化器症状を伴う人は2割とされています。劇症型心筋炎特有の症状は、心不全症状によるショックや不整脈による動悸や失神、長時間続く胸の痛みが多くみられます。すぐに救急車を呼び、救急措置を受ける必要があります。
心筋炎の検査と診断
診断が難しく、見過ごされることも少なくない心筋炎の検査方法と診断法をご紹介します。こうした知識を持っておくことで、いざというときに落ち着いて対処することができます。
心電図でわかること
心電図検査において、心筋炎に特有の所見が出る場合があります。心電図検査は感度が高く、簡単に診断できる方法なのでよく用いられます。
初回の心電図変化は軽微なものでも、時間の経過とともに異常所見が明瞭になる場合があります。それは、ST-Tの上昇です。突然死の原因といわれる、期外収縮などの不整脈も確認できることがあります。心筋炎の疑いがある患者さんには、経過を追って心電図検査を繰り返すことが重要だとされています。
全身の倦怠感による来院で、当初はかぜ症状のみの状態で入院した患者さんの心電図を継続的に観察したところ、1週間後にST上昇がみられたケースもあります。
心エコー図検査
心エコー図による観察は、特に子供の場合には容易です。有効な診断材料になる可能性が高いので、心筋炎を疑ったら必ずエコー図検査を行う方がよいでしょう。心筋症の特徴の一つである、心膜液貯留や炎症部位に一致した一過性の壁肥厚と壁運動低下がみられることがあります。
超音波検査と血液検査
心臓の超音波検査では、心収縮力の低下や心筋の拡張・肥大を確認できることがあります。血液検査においては、白血球の上昇や、CPKの上昇が心筋症の患者さんの特徴的所見です。
ウィルス関連診断
保険適用がされない項目が多く、測定費用が高額になるため、一般的な検査法ではありません。また、2週間以上の感覚で採取された急性期の心筋炎を起こしているときの血清と寛解期の血清を用いて検査をするため、時間も要します。原因ウィルスの特定に寄与するなど、診断的価値は高いとされていますので、今後動物実験などによる研究が進むであろう診断方法です。
診断の確定
検査の結果、心筋症に特有の活動性の病変が確認されれば心筋症の診断が確定します。ただ、現在の日常的な診療レベルでは、直接的な原因となるウィルスや細菌、病気を特定することは困難です。多くは、「特発性心筋炎」と診断されるでしょう。でも、状況的な証拠や実験的な根拠から、日本での多くの心筋症はウィルス性だと想定されています。
治療方法と予後
心筋炎は、治療を行わないケースも多いのです。治療が必要なケースと治療方法について詳しくみていきましょう。
原因疾患の治療が優先
ウィルス性の心筋炎が多いものの、原因ウィルスの特定は困難とされています。また、一般的に使用可能な抗ウィルス薬はまだ開発されていないので、治療を行わず経過観察の場合が多いのです。
ただ、心筋炎の発病にもともと持ち合わせた自己免疫やアレルギー性の病気が関与している場合が多く、その場合には基礎疾患に対する薬を用いた治療が心筋炎にも有効だと考えられています。
炎症を緩和するための治療
心筋炎は、心臓の炎症を起こす病気です。そのため、炎症をおさえる薬の投与が行われます。原因ウィルスなどを特定できなくても、炎症さえおさえれば急性期症状を脱することができると考えられています。
炎症によって血行状態の改善が妨げられることもあるため、その場合にはステロイドの短期大量療法が試みられることもあります。顕著に症状の改善に結びついた例もありますが、ステロイドの適応そのものについては議論も多いです。
血液循環を維持するための措置
特に劇症型心筋炎では、全身の血液が正常に循環できなくなってしまうケースが多いため、生命に関わってくるのです。
この場合は、人口心肺装置を用いて治療を行います。あくまでも、自然軽快するまでの血行動態の維持になります。利尿薬やカテコラミン薬などを用いた、薬物による血行動態維持の治療法が用いられることもあります。
まとめ
心筋炎は、まだ解明されていないことも多い病気です。発症率は低いと言われる一方で、医学的見地からは、隠れた発症数が多いことが指摘されています。免疫性疾患など基礎疾患がある場合には、高熱を伴うインフルエンザや風邪症状がみられるとき、特に状態の急変に注意が必要です。
ただ、情報が錯そうする現代社会においては、子どもが熱を出すたびに、あるいは保育園入所などを控える時期に心筋症を心配する保護者も増えています。早期発見は大事なことですが、過度な心配をすると身が持ちません。日ごろから手洗いうがい、規則正しい食生活に心がけ、心配の元となる風邪をひかないよう心掛けることが一番です。