ときどき、ズキンと胸が痛むことはありませんか?
心臓が鼓動するたびに、ズキンズキンと痛みを感じたりした経験をお持ちの方はいらっしゃいませんか?
でも、時間の経過とともに、痛みが治まって「結局、なんだったんだろう?」と、思われた方もいらっしゃるかもしれません。
そんな症状、実は、たこつぼ型心筋症かもしれません。胸にそんな痛みを抱えた方のために、これからたこつぼ型心筋症についてお話ししたいと思います。
たこつぼ型心筋症ってなに?
心筋梗塞や心不全といった病気は、きっとみなさんもよく耳にしていると思いますが、「たこつぼ型心筋症」という病気を聞いたことがある方は少ないかもしれません。
「どんな心臓病⁈」と、一笑に付される方もいらっしゃるかもしれませんね。
でも、この「たこつぼ型心筋症」、実は、笑ってすませることができる病気ではないのです。その背景には、患者さんのつらい経験を伴う身体的・精神的ストレスがあるのです。
ストレスなどの負荷が過度にかかると、心筋に異常をきたし、心臓の運動がたこつぼのような形で収縮します。
最近、とみに他人を平気であざけ笑う風潮が顕著ですが、このような他人のつらい症状をバカにしたり、蔑視していると、自らの身に「?倍返し」で返ってくることになります。
お心当たりのある方、お気をつけになった方がよろしくなくて・・・?ですよ。
たこつぼ型心筋症の症状
たこつぼ型心筋症は、突然、胸の痛みや圧迫感、呼吸困難などを感じて、心筋の運動に異常をきたし、その異常な心筋運動が、正常な心臓の鼓動運動を妨げてしまいます。極度の精神的ストレスの後に、心臓の筋肉が収縮しづらくなり、正常な血液を身体に送り出すことができなくなってしまいます。
診断が難しいようなのですが、急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome)に、酷似した発症事例なのです。たこつぼ型心筋症は、冠動脈に異常がみられずに、左室収縮不全を引き起こすことから、急性冠症候群とは明確に区別されているようです。
偏頭痛の場合、脈打つと、頭部にズキンズキンとした症状を感じますが、たこつぼ型心筋症では、心臓が鼓動するたびにズキンズキンと痛みを感じます。たこつぼ型心筋症では、ときに呼吸することすら、ままならなくなるときもあります。
このとき、心臓心基部の心筋は過剰に収縮し、逆に、心臓の心尖部は収縮しません。そのため、左室造影という心臓の鼓動を映し出す映像では、心臓の形が、まるでたこ漁で使う「たこつぼ」のような形で運動しているように見えるます。この心臓運動の形状が、この症状の名前の由来となっています。
ただ、通常胸の痛みや呼吸困難も、そんなに長い時間は続きません。「胸に痛みを覚えて、病院に行ってみたら、もう普通の心臓運動だった」ということも珍しくないのです。
その結果、病院では、症状を確認できなくて、症例を把握・診断することすらできないこともあります。日本では、この病気は1990年に初めて報告されたようですので、症例もさほど多くはありません。
たこつぼ型心筋症の原因と背景
は、このたこつぼ型心筋症は、どのようなときに発症するのでしょうか?
地震などの天災によるストレス
たこつぼ型心筋症は、先ほどお話ししたとおり、強烈な身体的・精神的ストレスによって発症すると言われています。
その原因の理由として、2004年の新潟中越地震のときの調査結果が挙げられているようです。
2004年10月23日に発生した新潟中越地震では、地震発生前の症例数と地震発生後の症例数を比較、地震発生後の症例数が明らかに増加していたからです。
「交感神経緊張などの自律神経系・多肢攣縮・微小血管攣縮などが、強烈な身体的・精神的ストレスによって引き起こされた」と考えられていますが、まだまだ詳細がはっきりしていないので、原因が明らかではないようです。
症状の内訳として、胸痛・胸部不快が6割強を占め、その他、心電図異常が約2割、呼吸困難が7%、血圧低下・ショックが5%という報告もあります。
ご参考までに、新潟中越地震のときの調査内容を簡単にご紹介します。
調査は、震源に近い8病院で実施、地震前4週間ではわずか1症例のみでしたが、地震後4週間では25症例が報告されています。単純計算でも、地震後では25倍の発症リスクがあります。
「地震による身体的・精神的ストレスが、たこつぼ型心筋症の発症と関連性がある」とされているは、この調査結果があるためなのです。
ちなみに、皆さんの記憶に新しい2011年3月11日の東日本大震災では、ここまで明らかな調査結果は見られなかったようです。
東日本大震災で、顕著な発症例が見られなかったことは、逆に、地震などの身体的・精神的ストレスが、必ずしもたこつぼ型心筋症の原因とは言い切れないという、逆の結論を指し示しており、この病気の解明を困難なものとしています。
このように、新潟中越地震と東日本大震災の矛盾した発症事例が、たこつぼ型心筋症の原因の解明をさらに難解にしているのです。
昨夜発生した九州の地震では、どのような症例結果となるのか、その結果を注視する必要があります。
この場をお借りして、昨夜発生した九州の地震についてお悔やみ申し上げますとともに、身体的・精神的苦痛によるたこつぼ型心筋症にかかる方が少ないことを願ってやみません。(2016年3月14日現在)
たこつぼ型心筋症の発症
たこつぼ型心筋症の発症は、圧倒的に女性が多いと言われています。
特に、閉経後の女性に多く発症しており、たこつぼ型心筋症発症の男女比率は、1:7と驚くべき調査が報告されています。
その内訳を見てみましょう。
強烈な精神的ストレスが30%の割合で女性に多くみられ、身内の死や虐待、喧嘩、大病の診断などの原因があるとされています。逆に、強烈な身体的ストレスや急性内科疾患などは4割近くを占め、男性に多く見受けられるようです。
そのほかには、感染、脳卒中、急性呼吸不全、急性腎障害、術後などが、その原因として挙げられますが、その一方で、明白な誘因が見受けられない症例も3割ほどあります。
このため、たこつぼ型心筋症の原因をなかなか特定できないのです。
たこつぼ型心筋症の診断
たこつぼ型心筋症の診断では、心電図で心筋虚血がみられ、心臓の超音波検査では、心臓の運動に異常がみられます。
つまり、心臓の心基部(中心部分)では過収縮がみられ、逆に、広範囲な心尖部(先端部分)では収縮運動が低下している様子が伺えます。そして、急性冠症候群(ACS)とは異なるのはこの症状なのです。
たこつぼ型心筋症の検査は、心電図や心エコーを使って、この病気に特有な症状を確認、心筋逸脱酵素を測定して診断を確定させます。
さらに、冠動脈検査を行って、心尖部に血液がきちんと行き届いていることを確認、すなわち虚血性心疾患ではないことを確認します。
そして、たこつぼの原因やきっかけとなった疾患を評価します。
ご参考までに、You Tubeにアップされているたこつぼ型心筋症の映像リンクをご紹介しますので、ご興味のある方は一度ご覧になってみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=bp9k73TCDgo
心臓がたこつぼのような形で収縮しているのが、お分りいただけますでしょうか?
これ、本当に心臓が痛いんです。本人にとっては、ホントに笑っている場合じゃないんですよ。
たこつぼ型心筋症の治療
たこつぼ型心筋症の心筋障害は、心尖部を中心に一過性として症状が現れますが、数週間の時間経過後にほぼ正常化することが多く、そのために原因不明とされることも珍しくありません。
全般的に、経過は良好で、自然治癒する症例が多いのですが、急性心不全や心原性ショック・心破裂・脳塞栓といった病気を誘発する場合もあるため、入院が必要となります。
冠動脈検査によって、たこつぼ型心筋症と診断されるまでは、原則的に、急性心筋梗塞に準じた初期治療が行われます。心基部が狭窄している場合は、強心薬の過剰な摂取の有無を確認し、脱水症状を補う必要があります。
したがって、たこつぼ型心筋症の治療は、基本的に経過観察であり、通常予後も良好なので、1ヶ月程度で心筋障害も自然治癒することが多いのです。でも、決して楽観視できない病気です。
心エコーや心電図、心筋逸脱酵素などの検査を通じて、順調に回復している容態を経過観察する必要があります。
また、手術に至ることは、一般的にないようですが、心室内に血栓が見つかると、手術して血栓を取り除くことを考慮する必要性があるとも言われています。
再発リスクは低く、発症より1年以内に限っても3%以下という報告があります。1年以上になると、さらに再発する可能性は低くなりますが、投薬例による差異はないようです。
そのため、外来で慎重に経過観察していることが多く、長期予後になると、良好な場合が多いようです。
予後となると、院内死亡は4.2%と低く、死因は、心臓によるものではなく発症の誘因となった基礎疾患による場合が多いようです。死亡の8割は、急性腎不全や呼吸不全、脳卒中、心臓ではない手術が占めています。
また、基礎疾患がない場合の死亡率が1.1%であるのに対して、重度の基礎疾患の場合は死亡率が12.1%と約10倍以上になります。
心臓死の場合は、心原性ショックと全身塞栓症がほとんどで、まれに心破裂に至る場合があるようです。
まとめ
このように、たこつぼ型心筋症は、決して笑ってすませることができる病気ではありません。主な治療方法が、経過観察ということは、現時点ではその他に治療する手立てがないことをあらわしています。
まずは、たこつぼ型心筋症の原因となっている身体的・精神的ストレスを取り除きましょう。そのために、なるべく、規則的な生活を心がけて、心にゆとりをもたせてリラックスしましょう。
仕事や勉強などでは、無理は禁物です。
試験前に、徹夜で勉強するのではなく、毎日少しずつ勉学に励むのです。仕事では、無理な納期やさばききれないほどの仕事量は避けるようにしましょう。これには、もちろん、上司のマネジメントとその資質が問われます。最近、よく耳にする「ブラック企業」に在籍しているような「無茶ぶり上司」には、自分自身で仕事をしてもらいましょう。
また、経過観察が良好とはいえ、この病気の原因と考えられている身体的・精神的ストレスには、本人にしかわからない、想像を絶するストレスや精神的不安が存在するのです。
そんな方の苦悩をあざ笑う方は、きっと報いを受けることになるでしょう。良い子の皆さんは、真似しないでくださいね。
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