巨乳症を発症した女性が、手術によって健康を取り戻したという海外のニュースをインターネットなどで見たことがありませんか?日本では、プライバシー保護の観点からこのような報道はあまりされません。
しかし、日本にも巨乳症で苦しんでいる人は多く実在するといわれています。正式な病名を含めて、この病気の特徴や対処法について詳しく解説します。
巨乳症について
海外ニュースでは、センセーショナルに「巨乳症」という言葉が使われますが、これは正式な病名ではありません。また、巨乳症には多くの種類があります。
正式名は乳腺肥大症
巨乳症の正式な病名は、乳腺肥大症(にゅうせんひだいしょう)といいます。この乳腺肥大症には、さらに発症する年齢や症状ごとに、細かな分類があります。それぞれに病名もついています。
乳腺肥大症は大きく分けて、自然治癒するものと、放置していると治らないものがあります。さまざまな種類があり、発症時期や症状も異なります。
発症時期
乳腺肥大症を発症する時期は、主に次の3つに分けられます。
- 生まれて間もない頃~1、2歳頃まで
- 幼児期~小学校中学年頃まで
- 思春期
この原因発症の時期によって、さらに病名が分かれます。また、症状も若干ちがいます。一般的には、片側または両側の乳腺が年齢や性別不相当に肥大した状態になります。どの年代でも、男女問わず発症します。
自然治癒するケースも?
一口に乳腺肥大症といっても、その種類はさまざまです。大きく分類すると、生理的な乳腺肥大で自然治癒するものと、異常に乳房が大きくなって治らないものがあります。
ここでは、圧倒的多数である、通常は心配のいらない自然治癒するタイプの乳腺肥大症を説明します。
新生児乳腺肥大症
生後間もない赤ちゃんから、2歳頃までの乳児の胸が膨らんできます。妊娠中の母体のホルモンの影響によって、発症すると考えられています。お腹の中にいる赤ちゃんは、胎盤を通して栄養をもらって大きくなります。
その際、何らかの原因でお母さんのエストロゲンも栄養と一緒に多く与えられてしまったというわけです。2歳半頃までには、自然治癒しますので心配はないようです。
小児乳房肥大症
幼少期に起こる乳腺肥大です。通常は乳房が大きくならないような年齢にもかかわらず、乳房が発達していきます。
通常は両胸が大きくなりますが、片側のみというケースもあります。卵巣腫瘍や副腎皮質の腫瘍により、異常ホルモンが生み出された結果とも考えられています。あるいは、病気の治療のために使った薬の副作用で起こるともいわれるなど、はっきりした原因は特定できないことが多いです。
男女どちらにも起こり得ます。明らかに乳房が膨らんでいると人目にわかるほどになり、少量の母乳が出てしまうこともあります。しかし、異常に大きくなるようなことはなく、2~3年で自然治癒するといわれています。
思春期乳腺肥大症
卵巣からのホルモンにより、乳腺の感受性が左右異なる場合があります。このために、起こると考えられています。男子で異常に乳房が発達するする人も、この病気に当てはまります。原因としては、大量の性ステロイドホルモンの分泌とされています。男性の精巣からも、エストロゲンという物質の分泌がなされるため、男子の乳腺でも反応が起こると考えられています。
男女どちらの場合も、自然治癒するといわれています。特に男子の場合は、半数程度の人が軽度の思春期乳腺肥大症を経験しているともいわれるほど、よくあることなのです。思春期は、男性ホルモンと女性ホルモンのバランスがまだ安定していないため、一時的に女性ホルモンが偏ってしまうとこういった症状が見られるのです。数週間のうちに自然治癒することが多いです。
病的な乳腺肥大症
次に説明するのは、深刻な乳腺肥大症のケースです。通常は自然治癒することの多い先述の乳腺肥大症が、数ヶ月経っても治らない場合も含みます。
早熟性乳腺肥大
厚生労働省の定義によると、7歳6ヶ月未満の小児に起きる症状とされていますが、実際には2~5歳の幼児に多く見られます。乳腺の肥大によって、乳房が膨らむという症状に留まりません。両側の乳房が大きくなることに続いて、陰毛も生えてきます。性器も年齢以上の発達を見せ、女子の場合には月経が始まることもあります。
原因は、卵巣のがん腫、副腎の線種、第三脳室の病気などが原因で起こるとされています。治療方法は、原因となるこれらの病気の治療が最優先されます。
真性びまん性乳腺肥大症
片側または両側の乳腺が、異常な大きさになるま成長する病気です。中・高校生、また妊婦にも見られます。原因は確定されていませんが、ホルモンに対して乳腺が過剰反応する体質と考えられています。いわゆる「巨乳症」と、世間的にいわれる状態です。
女性化乳房症
通常は自然治癒するはずの思春期乳腺肥大症が、治らない場合には、女性化乳房症と呼ばれます。正常な男性の胸は、胸筋の上に少量の皮下脂肪があるのみで、平らです。しかし、男性にも乳首の下には乳腺組織があります。
ただ、乳汁を作る機能はありません。ところが、この女性化乳房症では、まるで女性のバストのような大きさにまで成長することもあります。思春期の学生では非常に悩んでしまう人も多く、家族にも言えずに放置してコンプレックスを抱えている人もいます。
偽性女性化乳房
同じく男性がまるで女性のようなふくよかなバストになる状態です。しかし、女性化乳房症とちがって原因がはっきりしています。肥満によるものです。
太ったために、胸の皮下脂肪が増えることでこのような状態になることがあります。胸筋を鍛えていないと、脂肪がのってしまいがちです。体重を減らしても、一度胸についた脂肪はなかなかとれません。
巨乳症の症状と治療について
乳腺肥大症の種類によって、症状や治療方法は異なります。通常は自然治癒するはずのケースで、いつまで経っても治らない場合など、それぞれのケースごとにみていきましょう。
新生児・小児・思春期乳腺肥大症
乳腺の肥大によって胸のふくらみが生じるほかは、症状はほとんどありません。これらの乳腺肥大症は、時間と共に自然に軽快することが多いです。
ただ、まれに腫瘍が原因の場合もあります。しこりや痛みなど、腫瘍の疑いがあるケースでは、検査や特定原因の治療が行われます。
病気が原因のケース
早熟性乳腺肥大症では、男子の場合、胸のふくらみ以外にも次のような症状があります。9歳未満で精巣、陰茎の明らかな成長が見られたり、陰毛が生えてきます。女子の場合は、7歳未満で乳房が発達してきます。男児よりもさらに1~2年早く性器や陰毛の成長が著しく、10歳6ヶ月未満で生理が始まるといわれます。
胸のふくらみ以外の症状がなく自然治癒するケースと異なり、治療が必要です。ホルモン異常により、通常よりも早く身長の伸びが止まってしまうケースも多いのです。この場合は、ホルモン量を調整する治療が行われます。脳腫瘍や水頭症、卵巣刺激ホルモンなど内分泌系の異常によるものもあります。原因となっている病気の治療により、胸のふくらみも軽減することが多いです。
原因の特定が困難なケース
病気や薬の副作用など、乳腺異常の原因がはっきりしていれば、その原因を治療することで症状も緩和が期待できます。厄介なのが、原因が特定できないケースです。この場合は、手術が根本治癒の方法となります。特に男性の場合は発症率も比較的高いため、手術が行われることも少なくありません。
脂肪吸引手術で、まず余分な脂肪を吸引除去します。同時に、乳腺をくり抜く乳腺切除手術を行います。やせている人は胸に脂肪が少ないため、乳腺切除のみを行って治療します。
巨乳症の手術方法と予後
男性の乳腺肥大症による手術は、国内でもわりと多く行われています。気になる手術方法と、予後についてお伝えします。
一般的な手術方法について
脂肪吸引をしてから、乳腺を切除する手術の一般的な方法を説明します。
注射による静脈麻酔により、眠った状態の全身麻酔で、手術は行われます。痛みは感じませんので、心配いりません。わきの下とわき腹の皮膚に小さな穴をあけて、ここから数ミリの大きさの吸引管を挿入して、脂肪を吸引します。この脂肪吸引だけで、胸のふくらみが減少します。しかし、この方法では、乳腺は吸引できません。脂肪吸引後は、乳腺だけが残った状態になります。
次に、乳腺切除です。乳輪に沿うようにメスで皮膚を切開します。直接ハサミを挿入して、乳腺周囲をカットします。そして乳腺をくり抜いて取り出します。くり抜いた乳腺部に、ドレーンを入れて縫合します。ドレーンとは、傷にたまった不要な液などの排出に用いる医療器具でうす。
手術後の流れ
手術が終了したら、ドレーンからの血液や体液の吸収のためにガーゼを載せます。その上から、包帯を巻きます。 麻酔を覚ます薬を注射すると、すぐに目が覚めます。しばらくはベッドで休憩して、異常がなければ当日帰宅できます。包帯を巻いている間は、胸から下のみしかシャワーを浴びることができません。
状態により、1~3日後に来院して、包帯を外してドレーンを抜きます。その後は、サポーターで圧迫固定します。 ここまで来ると、全身シャワーができるようになります。サポーターは1ヶ月程度装着します。1週間後の通院で、抜糸をします。抜糸後は、入浴もできるようになります。
まとめ
「巨乳症」というと、海外のネットニュースの写真で見たような異常な大きさの乳房を想像する人もいるでしょう。日本では、あの状態まで放置せず適切な治療が行われているため、ニュースになるようなこともないのでしょう。
しかし、男女問わずこの病気によって悩んでいる人は意外と多いのです。特に男性の場合は、思春期に自分の胸がふくらんできている、という感覚を覚えた人は半数程度いるとされています。自然治癒するケースがほとんどです。すぐには治癒しなくても、数年間の間にいつの間にか解決していることも多いです。
ただ、見た目が気になったり、胸のふくらみが異常でつらいときは、手術を行うこともできます。