大動脈弁狭窄症とは?症状や原因、手術の方法を知ろう!

私たちの命の要とも言える心臓は、身体の隅々に血液を送り出すポンプのような働きをしており、栄養や酸素を全身に届けてくれています。

しかし、このように重要な臓器である心臓にも、様々な疾患があり、高齢化が進む現代社会で増加傾向にある疾患の一つとしてあげられているのが、「大動脈弁狭窄症」と呼ばれる病気です。

これは、心疾患における弁膜症と呼ばれる病気の一種で、血液の流れを一定方向に保つための弁が正常に機能しなくなることで、心不全などを引き起こします。高齢化が進む日本では、今後も増加するであろう病の一つとして考えられています。

そこで、ここでは、大動脈弁狭窄症の原因や、症状、治療法についてご紹介いたします。

大動脈弁狭窄症とは?

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心臓の内部がどのように構成されているのかをご存知でしょうか?生物学の授業などで一度は学んだはずなのですが、普段の生活では心臓のつくりについて考える機会など滅多にないので、ここで少しおさらいしておきましょう。

心臓は、心臓上部にある右心房・左心房、そして心臓下部にある右心室・左心室の4つの部屋によって構成されており、これらの部屋と部屋の間に「弁」があることで、血液が逆流するのを防いでいます。

そして、これらのうち、血液を全身に送り出す役割をしている「左心室」と「上行大動脈」の間にあるのが、今回のテーマになっている『大動脈弁』です。

大動脈弁狭窄症を発症した心臓内部の状態

大動脈弁は、半月型をした3枚の膜で構成されています。大動脈弁狭窄症は、何らかの原因によって弁が硬化し、これらの開放が制限されるため、血液が通る幅(=大動脈弁口面積)が狭くなることによって起こります。

健康な成人の大動脈弁口面積は、約3cmと言われていますが、大動脈弁が硬化することで1.5cm以下になると、血液が流れるのに必要以上に抵抗がかかってきます。しかし、それでも左心室は全身に血液を送ろうと動くため、左心室壁が分厚くなり、求心性肥大と呼ばれる心肥大を起こします。

心肥大が進行すると、心筋が拡張しにくくなるため、十分な血液量を送り出すことができず、相対的な虚血状態になり、心機能が低下します。このように左心室への無理な負荷が続くことで結果的に心不全を引き起こすのです。

また、大動脈弁狭窄症は、僧帽弁などの2つ以上の弁に異常が見られる「連合弁膜症」を併発することがあります。

大動脈弁狭窄症の原因は?

大動脈弁狭窄症の原因として、以下の3つが考えられます。

<リウマチ熱>

リウマチ熱は、A群β溶血性連鎖球菌感染症(溶連菌感染症)の後遺症として見られる病気ですが、現在、先進国では希な疾患になってきました。症例数がゼロではないものの、日本でもリウマチ熱の罹患率は減少傾向にあるようです。

<大動脈二尖弁>

二尖弁とは、本来3枚あるはずの弁が2枚しかないことを示し、そのほとんどが先天性のものです。希なケースのように思えますが、実は100人に1~2人が二尖弁だと言われており、比較的若い30代~40代の人にも大動脈弁狭窄症を引き起こす原因になっています。

本来ならば、3枚の弁で弁口を塞ぐはずが、2枚の弁でその働きをしなくてはならないため、必要以上に負荷がかかり、硬化・肥厚・石灰化しやすくなるのです。大動脈弁狭窄症のほかに、弁口が上手く塞がらないことによる大動脈逆流も併発する可能性があります。

二尖弁の人は、これら以外にも大動脈縮窄、心室中隔欠損などの先天性心疾患を合併して起こすこともあるようです。

<加齢変性>

年齢を重ねるということは、それだけ心臓の弁も使われているということになります。すると、弁の一部に石灰組織が沈着する「弁の石灰化」が起こり、柔軟性がなくなるため大動脈弁狭窄症を引き起こします。

現在手術を必要とする大動脈弁狭窄症のうち、約80%以上がこのような加齢変性によるものだと言われています。

また、高血圧や高コレステロール、糖尿病なども原因として考えられていましたが、日本人を対象とした大動脈弁狭窄症の増悪因子の研究によると、これらの生活習慣病が大動脈弁の変性リスクにはならないという研究結果が報告されているようです。

症状について

大動脈弁狭窄症になると、以下のような症状が見られます。

<心雑音>

これは痛みなどの症状が出る前の初期段階で、疾患を発見できる手がかりになります。大動脈弁が狭窄すると、左心室から送り出された血液が動脈の方へ流れる際、弁口が狭くなっているため血流が乱流します。この乱流音が、聴診器を当てたときに、心雑音として聞こえます。

<狭心痛>

狭心痛とは、胸が締めつけられるような痛みを言います。これは、心肥大によって、心筋が虚血状態になっていることや、送り出されなかった血液量が増え、左心室の拡張期圧が高くなるため、冠動脈内へ送られる血液量が減ることで、このような痛みが生じると考えられています。

とくに、身体を動かすなどして、心拍数の上がったときに、このような症状が見られることがあるようです。

<失神・めまい>

全身に送り出される血液量が減るということは、脳に届く血液量も低下するということになります。脳は酸素不足に非常に弱い器官のため、血液量の低下によって酸素が十分に届かなくなると、失神やめまいといった症状が見られるのです。

<心不全>

心臓から送り出される血液量の低下や、心肥大による左心室の拡張機能が低下することで、軽く身体を動かしただけでも息苦しくなったり、朝方に呼吸が苦しくなる、両足が浮腫むなどの心不全の症状が出てきます。

これらの症状が悪化すると、肺動脈の血流が悪くなり、肺の血液量が増加する肺うっ血という症状を引き起こします。ひどい場合には、肺に溜まった血液の水分が、肺血管の外へ漏れ、肺胞に水分が溜まる肺水腫になってしまいます。

心不全を発症したら、最悪の場合は、突然死に至る可能性もあります。

詳しくは、心不全とは?症状や治療方法、予防方法を知っておこう!を参考にしてください。

<感染性心内膜炎>

これは希なケースですが、大動脈弁狭窄症が引き起こす血液の乱流によって弁が傷つけられると、血液内にある細菌がその傷口に感染する場合があります。これを「感染性心内膜炎」と言い、頻度は高くないものの、大動脈弁狭窄症の合併症として見られる疾患の一つです。

細菌が傷口に感染すると、少しずつ大動脈弁を破壊し、菌の塊が動脈を詰まらせることで脳梗塞などを引き起こします。

大動脈弁狭窄症の治療方法

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大動脈弁狭窄症は、ほとんどが長期間無症状の状態で経過することが多く、早期発見は困難ですが、尿の量が減る、体重が増える、咳や淡いピンク色の痰がでる、疲れやすいといった心不全の初期症状が見られたら、すぐに病院で検査を受けることが大切です。

病院では、心電図やエコー検査、胸のレントゲン、血液検査、場合によってはカテーテル検査などによって、心臓にかかっている圧力や心臓の大きさ、動脈の状態や、心拍量(血液を送り出す量)などの心機能の状態を調べます。

これらの検査で、大動脈弁狭窄症が発見された場合、以下のような治療が行われます。

薬物療法

大動脈弁狭窄症は、薬物療法のみでは根本的な治療は不可能ですが、まだ無症状の場合や、軽度の場合は、糖尿病や高脂血症などを治療することで、症状が進行するのを防ぐといった方法が選択されることがあります。

しかし、心不全を発症している場合には、その治療が最優先ですので、利尿剤や心保護作用のある薬を投与しながら、手術に向けて検査などを行います。

いずれの場合においても、定期的な通院、あるいは入院が必要です。

大動脈弁置換術(手術療法)

この病気を根本的に治すためには、手術が必要です。しかし、症状が発症している場合においては、突然死するリスクも高いため、速やかに手術を行う必要があります。

また、無症状の場合においても、身体の状態や手術のリスク、年齢などを踏まえたうえで、手術のタイミングを見極めることが大切です。

大動脈弁狭窄症の手術治療で代表的なものとして、「大動脈弁置換術」という方法があげられます。胸を切開し、硬化した大動脈弁を取り出して、人工弁に置き換えるのです。人工弁は大きく分けると「機械弁」と「生体弁」に分けられます。

<機械弁>

機械弁は文字通り、全て人工の素材(主にパイロライトカーボンという素材)でできており、耐久性に優れ、生涯使用することができます。しかし、機械弁の場合、ワーファリンという血液凝固を防ぐ薬を一生飲み続けなければなりません。

また、妊娠する可能性のある女性は、ワーファリン服用によって出産時に大量出血する可能性があるため、原則では使用できないことになっています。

<生体弁>

生体弁には、自分の肺動脈弁を移植する「自己生体弁」と、人間の死体や脳死体から摘出し、冷凍処理された「同種生体弁」(※日本では保険適応外です)、そして、ウシやブタの心膜を利用した「異種生体弁」の3種類があります。

これらの最大の利点は、柔軟性・耐容性に優れ、機械弁よりも抗血栓性が勝るという点です。いずれにせよ、機械弁と同じようにワーファリンの服用は必要ですが、生涯服用する必要はなく、術後3ヶ月ほど服用すれば良いというのもメリットの一つと言えるでしょう。

しかし、機械弁ほど耐久性がなく、長期使用によって劣化するので再手術が必要になる場合があります。

その人の生活スタイルや身体の状態に合わせて、これらの機械弁と人工弁を使い分けて手術が行われます。

経カテーテル大動脈弁留意術

これは2005年頃から行われている新しい治療法です。足の大動脈や心臓の先端からカテーテル弁を挿入し、留意させるというものです。新しい治療法のため、すべての患者に適応できるわけではありませんが、高齢の患者や、手術リスクの高い患者に効果的な治療法として行われています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。大動脈弁狭窄症は、命にも関わる病気ですが、適切なタイミングで治療を受けることで症状の進行を防ぐことができます。

また、治療後は日常生活を過ごす分には問題ありませんが、激しい運動は避け、塩分や過度な水分摂取も控える必要があります。

ほかにも、感染性心内膜炎を防ぐため、歯科治療や風邪、怪我などには気をつけなければなりません。抗生物質を服用することで感染を防ぐこともできるので、それも選択肢の一つでしょう。

進行する病気ではありますが、難病ではなく、新しい技術もどんどん進歩しています。注意すべき点は気をつけて、身体に必要以上に負担をかけなければ、日常生活を楽しむことができる病気です。

医師と相談しながら、病気と上手く付き合う方法を探すことが、何より大切であると言えるのではないでしょうか。

  
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