中皮腫とは、あまり聞き慣れない病気ですが、みなさんはいかがでしょうか?
体内の中皮細胞がガンになった状態ですが、そもそも、中皮細胞とは何か、どこにあるのか、知らない人が多いかもしれません。
ここでは、中皮腫の特徴や、その症状、検査方法や治療法について紹介していきます。
◆中皮腫とは?
中皮腫とは、体内の中皮細胞がガンになった状態です。中皮細胞とは、心臓や肺、肝臓など、体内の重要な臓器を包む膜を作っている細胞のことで、この中皮細胞がガンの状態になり、悪性腫瘍となったことを、中皮腫といいます。
中皮腫には、大きく分けると、肺を包んでいる胸膜の中皮腫、心臓を包んでいる心膜の中皮腫、肝臓や胃腸を包んでいる腹膜の中皮腫に分類されます。
アスベストやタルクなどが原因で発症することから、それらを体内に取り込むような職業に就いていた人や、それらを扱う工場の付近に住んでいたことが証明された時には、労災が認められている病気の一つです。
○中皮腫の主な原因はアスベスト
中皮腫を引き起こす大きな原因は、アスベストであるといわれています。アスベストは、別名「石綿」とも言われます。
アスベストは、引っ張り強度がピアノ線よりも強く、燃えず、高温にも強いという優れた性質を持った、極めて細い繊維状の鉱物です。
ほぐせば糸や布に織り込むことができたり、ほぐしたままで丸めれば、「綿」のようにもなります。
人類がアスベストを利用し始めた歴史は古く、古代エジプトではすでに、紀元前2500年頃には、王のミイラを包む布に利用していたと考えられています。また、紀元前4~5世紀頃のギリシアでも、神殿を照らすランプの芯にアスベストを使用した記録も残っています。
加工が簡単で保温性もよい「奇跡の鉱物」は、今も、私達の身の回りで、建築用の資材など、3,000種以上のものに使用されています。
しかし、第二次世界大戦後の高度経済成長に伴い、アスベストの生産と消費量は爆発的に増え、合わせて石綿鉱山での労働者や、石綿を扱う工場の労働者に肺ガン患者が多く現れてきたため、アスベストに疑惑の目が向けられ始めました。
その後の研究で、アスベストは肺ガンや中皮腫等のガンを引き起こすことが明らかになったのです。アスベストは、太さが0.02~0.2ミクロンという、大変細かい繊維となって空気中を浮遊し、呼吸によって肺に吸い込まれてつきささります。
これが原因で、20~40年という時間をかけて、肺ガンや中皮腫を発生させるため、アスベストは、「静かな時限爆弾」と呼ばれています。
今では、アスベストの含まれた建築材を使うことは禁止となっています。ただ、アスベストを吸い込んでから発症するまでの期間が平均40年ほどで、日本でアスベストを使用するピークとなった時期が、高度経済成長の1970年中旬の時期だったため、これからさらに、中皮腫の患者が増加するといわれています。
○タルクもまた中皮腫の原因である可能性が!
また、手袋用の手袋に使うタルクが原因で、中皮腫にかかったという例もあるようです。
タルクとは、滑石とも呼ばれる、鉱物を細かく砕いてできた粉末で、白色もしくは灰色をしており、滑らかな肌触りをしています。
このタルクには、天然タルクと人工タルクの2種類があり、人工タルクの組成が、アスベストとよく似ていることから、中皮腫の原因になる可能性があります。
主に看護師さんなどが、手術用のゴム手袋を再利用するために使っていたタルクが原因だったと言われます。タルクが原因であったと証明できると、労災の対象となるとのことです。
○生存率はまだ低いが、ガイドラインの整備がカギに
中皮腫は、一般のガンと同じように4つのステージに分けられます。1期、2期、3期、4期に分類され、1期が俗に言われる早期、4期は末期とも言われます。
手術するのは1期と2期で、3期と4期の場合には、化学療法や放射線による治療が中心になります。
1期ならば、5年間生存する率は2割超といわれますが、早期発見を逃すと、生存率が1割を切る場合もあるようです。
それだけ、中皮腫は他のガンに比べて検査で発見しにくく、治療が難しいガンともいえると思います。手術や抗がん剤、放射線による治療を施すことで、どのくらい病気の進行を遅らせることができるかによって、残りの寿命や治療後の体調は変わります。
そもそも、アスベストによってガンが引き起こされるまでに、おおよそ40年が経過していることが多いですので、年齢的にも、治療が難しいことが少なくないようです。
ただ、胸膜にできた悪性の中皮腫に関しては、治療ガイドラインが整備されてきましたから、このガイドラインにしたがうことで、治療が向上してくると期待されています。
◆中皮腫の症状は?
中皮腫の主な原因はアスベストといわれますが、ガンになるまでには長期間が経っているため、症状が認められるまでにも時間がかかるようです。ここでは、中皮腫の主な症状を紹介していきます。
○呼吸時や体を動かすときに、胸の痛みを感じる
中皮腫とは、胸膜などを構成している中皮細胞がガンになった状態です。胸膜とは、肺を包んでいる膜で、病状が進むと、胸膜が動きづらくなったり、肺と癒着することで、息をしたり体を動かした時に、胸の痛みを感じたりするようになります。
痛みがあると、患者さんが体力を消耗したり、体を動かすことを苦痛に感じたりするため、痛みを和らげるために放射線による治療を施したり、医療用の麻薬を使う場合があります。
○病状が進むと咳が出るようになる
ガンが進行すると、胸膜が炎症を起こしたりして、咳が出るようになります。膜からガンが発症する場合には、咳はいつも出る症状とは必ずしもいえないようです。
○呼吸困難を感じる
中皮腫になった時の最も多い自覚症状は、呼吸困難のようです。なぜなら、胸水が溜まると、胸膜の動きが制限されてしまい、肺の広がる余地がなくなるからのようです。
胸膜には肋骨の内面を覆う側壁胸膜と、肺を覆う臓側胸膜があります。ちょうど、箱の中に風船の袋が入っているようなものです。
息をすると肺が伸び縮みするので、肺の広がる余地があり、その隙間のことを胸膜腔と呼びます。
この胸膜腔には健康な人でも液体が分泌されており、潤滑液の役割をしています。ところが、中皮腫になるとこの隙間に液体が溜まりすぎて、肺が広がらなくなってしまうのです。そのため、仕事をしているときに呼吸困難を感じて病院を受診し、検査で中皮腫が見つかるというパターンが多いようです。
○発熱したり、体重が急激に減ったりする
中皮腫が進行すると、胸水が溜まることで発熱や炎症が起こったり、呼吸困難で体力が消耗し、体重が急激に減ったりします。ガンが進行する場合、ガン細胞から炎症を引き起こす物質が分泌されることがあり、それによって熱や疲労が引き起こされ、痩せていくといわれます。
○胸水や腹水がたくさん貯まることもある
中皮腫になると、胸膜の中皮腫であれば胸水が、腹膜の中皮腫であれば腹水が、たくさん溜まってしまうことが多いようです。
そこで、利尿剤を投与したり、管を入れたりして、それらの水を抜く処置を取ったり、胸膜をくっつけてしまう手術や、抗がん剤を胸腔内に注入する治療を行う場合もあります。
腹水も腹膜の中に管を入れて、水を抜く処置を取りますが、胸水と違って腹水の場合には、体にとって大事な栄養成分であるアルブミンなどが含まれているため、栄養状態を見ながら適切な量を抜くことも重要といわれます。
◆中皮腫の検査と診断方法は?
ここまで述べてきたことで、中皮腫にかかってしまう原因や中皮腫の症状はお分かりいただけたと思います。
それでは、中皮腫と診断するための検査には、どんなものがあるのでしょうか?
○アスベストに触れる環境にいたかどうか、聞き取りをする
中皮腫は、そのほとんどがアスベストによって引き起こされますので、診断には、アスベストを体内に取り込むような環境にいたかどうかの聞き取りが重要視されます。
例えば、アスベストが使用されていた時期に、建築資材の製造工場で働いていた、また、その周辺に家があった、建築業に就いていたなどが分かると、アスベストによる中皮腫の可能性が疑われます。
また、労災申請にも有効です。
○胸膜中皮腫では胸部の画像検査が不可欠
胸膜にかたまりがあるかどうか、胸水が溜まっているかどうかは、胸部X線検査を行うことで調べることが可能です。
次に、細かい情報を調べるために、胸部CTやMRI検査が行われます。この画像検査で、病気の進行具合や位置をおおよそ把握して、さらに診断を確定させる検査を行います。
○生検による検査
中皮腫の診断は、外からの画像検査だけでは判断が大変難しいため、胸膜の細胞の一部を採取し、顕微鏡で調べることが必要です。
そのために、胸腔鏡・腹腔鏡・気管支鏡などで検査をしたり、胸水や腹水内のがん細胞の有無を調べたりします。
◆中皮腫に行われる治療方法について
中皮腫の場合には、早期の場合には、外側の胸膜や、片方の肺、横隔膜や心膜の一部を摘出する手術が行われるようです。
病状が進んだ人や、手術前に病巣を小さくするために、抗癌剤による治療がとられることがあります。
これによって、生存率の上昇が期待できるようです。また、中皮腫が原因の胸膜の痛みには、放射線治療が効果的ともいわれています。
◆まとめ
いかがでしたか?
アスベストは、体内に取り込まれてから中皮腫の症状が現れるまで、40年程度と言われ、最もアスベストが使われていた時期から考えると、これから患者さんが増えることが予想されています。
中皮腫は、早期発見が重要ですので、昔、アスベストを扱う工場の近くに住んでいたり、建築業や廃材業に就いていた人は、定期的に胸部レントゲン検査を受けたり、胸の痛みや咳などをきっかけに検査を受けるようしてくださいね。