顎口虫症とは?症状・原因・治療方法・予防方法を紹介!

「顎口虫(がくこうちゅう・がっこうちゅう)」は寄生虫の一種です。

現代の日本では、寄生虫症はあまり見かけなくなりましたが、寄生虫が絶滅したわけではありません。中国や東南アジアにはまだまだたくさんの寄生虫がいます。寄生虫はいろいろな動物の体内に潜み、いつの間にか人間の体内に侵入します。

寄生虫による病気が激減した現在、医師も寄生虫症と気づかず、重症になることが少なくありません。顎口虫に寄生されると、失明や脳症など重症になる危険性が大きいのです。

海外旅行の機会が多いので、再び寄生虫感染が増えています。顎口虫の感染経路と危険性、その予防法についてお伝えしますね。

顎口虫とはどんな寄生虫なの?

koi-1149582_960_720鯉

顎口虫は、糸状・ヒモ状の線虫で、淡水魚や爬虫類、哺乳類に寄生します。もちろん、人間にも寄生して、寄生虫症を引き起こします。

顎口虫がどこにいるのか、どのようにして人間に侵入するのか、知っておいてくださいね。

[顎口虫の種類と分布]

顎口虫には、日本顎口虫・有棘顎口虫・剛棘顎口虫・ドロレス顎口虫があります。

日本顎口虫の幼虫は体調2㎜、有棘顎口虫とドロレス顎口虫の幼虫は3~4㎜、剛棘顎口虫の幼虫はわずか0.6㎜です。

日本顎口虫は日本全土に棲息していますが、特に中部地方から南に多いようです。有棘顎口虫は中国・韓国から東南アジア全体に広がり、ドロレス顎口虫はインド・フィリピン・マレー半島などで多く見られます。剛棘顎口虫は東南アジアからヨーロッパに分布しています。

[顎口虫の成長過程]

顎口虫の卵は終宿主であるイヌやネコ、ブタなどから池や沼の水中に排泄されます。虫卵は水中で孵化して、第一中間宿主であるケンミジンコに食べられます。このケンミジンコを、ウグイ・ドジョウ・コイ・ライギョなどの淡水魚や、カエルのような両生類、ヘビなどの爬虫類が食べます。淡水魚・両生類・爬虫類を第二中間宿主と言います。虫卵は、第二中間宿主の体内で成長します。

イヌ・ネコ・ブタなどの哺乳類が、この第二中間宿主を食べて終宿主となります。終宿主の胃壁や食道で成虫となり、産卵します。

[顎口虫はどのようにして人間の体内に侵入するか?]

顎口虫は、人間(ヒト)の口から体内に侵入します。第二中間宿主である淡水魚、ドジョウやコイ、フナ、ブラックバス、ライギョなどを生で食べると、顎口虫の幼虫がヒトの体内に取り込まれます。東南アジアを旅行中にヘビを生食して、顎口虫に侵入された人もいます。

ヒトの体内に取り込まれた顎口虫は胃壁・腸壁に棲みつき、やがて胃壁・腸壁を食い破って肝臓に侵入します。ここから、体内を自由に移動して、いろいろな部位に侵入します。

顎口虫の幼虫はヒトの体内で長い間生き続けます。体内を自由に移動できるので、身体のあちこちに害を与えます。時には、死ぬこともあります。

では、何を生で食べると、顎口虫に感染するのでしょうか?

日本顎口虫

ドジョウ・ナマズ・コイ・フナ・ブラックバス・ヤマメ・シラウオなどの淡水魚の他にヤマカガシなどの爬虫類を、生で食べると感染します。② 有棘顎口虫

ライギョ・ドジョウなどを生食すると、感染します。

剛棘顎口虫

ドジョウや豚肉を生で食べると感染します。剛棘顎口虫の終宿主はブタです。

ドロレス顎口虫

マムシ・サンショウウオ・ブルーギルの生食で感染します。終宿主がブタやイノシシなので、豚肉やイノシシ肉を生で食べても感染します。

顎口虫症の症状

arm-141290_960_720f発疹

顎口虫がヒトの体内に侵入すると、体内を自由に移動して、さまざまな障害を起こします。これを顎口虫症と言います。

顎口虫症の症状とは、どのようなものでしょうか?

[初期症状]

顎口虫が体内に侵入すると、数時間から数日後に、激しい腹痛が起きることがあります。腰痛が起きる場合もあります。

顎口虫に感染して約1ヶ月も経つと、お腹や腰の辺りが痒くなり、赤みを帯びたミミズバレやコブのようなものができます。ミミズバレは蛇行して、現れたり消えたりします。コブも同じように、できたと思うと消えて、移動します。お腹や腰の辺りからでき始めることが多いのですが、他の部分にできることもあります。

顎口虫は胃壁や腸壁を食い破って肝臓に達した後、皮膚に寄生して、あちこち移動します。顎口虫が移動した後がミミズバレやコブになります。

[クリーピング・ディジーズ(皮膚爬行症)]

顎口虫に感染して生じる皮膚病です。顎口虫が体内に侵入して、1~3ヶ月後に症状が出ます。皮膚症状が出るまでに数ヶ月かかる人もいます。

顎口虫が皮膚の下を這い回るので、ミミズバレができます。ミミズバレを「線状爬行疹」といいます。赤く蛇行して、拡大していきます。痒みや疼痛があります。日本顎口虫・剛棘顎口虫・ドロレス顎口虫は線状爬行疹となることが多く、数ヶ月間、あちこちに現れたり消えたりします。顔にミミズバレができることもあります。

有棘顎口虫は皮膚の下深くを移動するので、コブのようになります。「移動性限局性皮膚腫脹」といいます。数年間も、移動しながら現れたり消えたりします。

赤く腫れた部分から白血球(好酸球)がジクジクにじみ出てくることもあります。

[顎口虫が腸に侵入する]

顎口虫が腸管壁に侵入することがあります。すると、腸管に炎症が起きて、腸閉塞とよく似た症状が現れます。

お腹が張って、激しい痛みがあります。吐き気がして、嘔吐します。腸管から出血することもあります。

[顎口虫が喉に侵入する]

顎口虫が喉に侵入すると、喉が腫れます。咽頭浮腫といいます。咽頭浮腫が喉を塞いでしまうと、呼吸困難になります。

[顎口虫が血管に侵入する]

顎口虫が血管に侵入すると、炎症を起こして血管が塞がれ、血流が悪くなります。酸素や栄養分、老廃物の運搬が妨げられるので、身体のあちこちの機能が低下することがあります。

最も怖いのは、冠動脈に侵入して塞いでしまう場合です。心筋梗塞を起こして死ぬ危険性があります。

[顎口虫はどこにでも入り込む]

顎口虫はヒトの体内を自由に動き回りますから、いろいろな臓器に侵入して障害となります。

目に侵入すると、失明します。脳に入り込むと、脳障害を起こします。

顎口虫はヒトの体内では成虫になりません。幼虫のまま長い間生き続け、移動し続けます。皮膚症状が出たり消えたりしているうちに、取り返しのつかない重大な病気になることが少なくありません。

顎口虫の治療法と予防方法

sushi-373585_960_720刺身

顎口虫に感染したら、できるだけ早く治療する必要があります。しかし、顎口虫の治療は決して簡単ではありません。感染しないように予防することが大事です。

[顎口虫の治療法]

皮膚に赤くてかゆいミミズバレができて、出たり消えたりするようなら、すぐに皮膚科か外科の診察を受けてください。

淡水魚や豚肉などを生食した後で、激しい腹痛が起きた時は、消化器外科を受診してください。できれば、総合病院へ行くことをオススメします。

顎口虫は、かなり長い期間、ヒトの体内で幼虫のまま生き続けます。皮膚症状も出没をくり返しながら長く続きます。放っておいて治ることは決してありません。

顎口虫の治療法は2つあります。外科的処置と投薬による殺虫です。

外科手術

顎口虫は皮膚の下に寄生して移動するので、手術して摘出します。検査法の1つとして手術することもあります。その場合は、摘出した寄生虫の形態から、顎口虫と診断します。

しかし、顎口虫が皮膚の下深くや、臓器や血管の中、脳や脊椎に侵入していると、簡単に手術することはできません。

投薬

手術で顎口虫を摘出できない場合は、薬で殺して排出するようにします。

メベンダゾールかアルベンダゾール、イベルメクチンなどの薬が処方されます。しかし、薬による除去は、摘出手術ほど確実ではありません。

[予防法]

生で食べない

顎口虫の予防法は、淡水魚や豚肉などを決して生で食べないことです。これしかありません。

ドジョウやフナ、ヤマメなどを刺身で食べることは、まずしないとは思いますが、過去には輸入したドジョウを生食して顎口虫症になった症例があります。

怖いのは、コイとナマズですね。コイの洗いは人気がありますが、顎口虫の他にも肝吸虫という寄生虫症にかかる危険があります。ナマズの刺身を売り物にする料亭もありますが、生食は避けた方が賢明です。

よく加熱する

豚肉を生で食べることもないでしょうが、加熱が不十分だと顎口虫に感染することがあります。肉も魚も、生焼けにならないように注意してください。

調理器具はよく洗う

調理器具はよく洗浄します。魚や豚肉を調理した包丁やまな板をよく洗わないと、野菜など他の食材を通して顎口虫に感染することがあります。

家庭では、肉や魚を調理する包丁やまな板を別にすることをオススメします。寄生虫だけでなく、O157など細菌感染も防ぐことができます。

海外旅行や民間療法に注意する

「日本人は刺身が好きだ」ということが、中国や東南アジアに知れ渡っています。そのため、現地では調理していた魚やヘビなどを刺身にして出してくれます。珍しさにつられて食べてしまうと、後で後悔することになります。東南アジア旅行でヘビを生食して顎口虫に感染した症例もあります。

また、中国や東南アジア、南アジアのレストランで「刺身」を出している時は、要注意です。調理器具(特に包丁とまな板)の洗浄が不十分なことがあります。そういうレストランでは十分加熱して調理した物だけを食べるようにしてください。

日本でも海外でも、民間療法は要注意です。「ヘビやコイの生き血を飲む」という民間療法があります。「鯉の生き血は肺結核に効く」などというものです。病気を治そうとして、顎口虫に感染しては、泣くこともできません。

お酢では顎口虫を殺せない

「お酢で〆たから生で食べられる」とか「酢のものにすれば大丈夫」とか、よく言われますが、半分ウソです。お酢は身体にいいし、殺菌作用があります。サルモネラ菌や腸炎ビブリオ、ブドウ球菌などを殺菌できます。でも、顎口虫など寄生虫を殺すことはできません。

淡水魚を酢〆にしても、顎口虫は生きています。

同じように、冷凍も効かないことがあります。肉や魚を冷凍しても、寄生虫は仮死状態になるだけで、生き続けていることがあるのです。

まとめ

顎口虫は恐ろしい寄生虫です。日本やアジアに広く生息しています。顎口虫は体内に侵入すると、胃壁や腸壁を食い破り、皮膚の下に棲みついて、身体中を移動します。ミミズバレやコブのような皮膚症状が現れたり消えたりしているうちに、腸管や脳、脊椎、血管などに侵入して危険な病気を引き起こします。目に侵入すれば、失明することもあります。

顎口虫は、淡水魚や豚肉、ヘビなどを生で食べると感染します。日本人は魚の生食が好きですが、顎口虫を避けるためには、生食は絶対にやめてください。

淡水魚や豚肉を調理する時は、十分に加熱することが大事です。また、調理器具をよく洗浄すると、顎口虫の感染を防ぐことができます。

  
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