病気によって体力が低下し、さらなる合併症を招くということはよくあります。食事量が減り、免疫力が低下してしまうと、体はどんどん弱っていってしまいますよね。
一方で治療中の環境そのものが体の機能を低下させることがあります。廃用症候群は病気の治療でやむなく寝たきりの生活をしているときに発症する症状の1つです。
私たちの体は当たり前ですが、動くようにできています。しかし、反対にずっと動かないような環境が続くと、体は病気になってしまうのです。では、この廃用症候群とはどんな状態なのでしょうか。詳しくみていくことにしましょう。
廃用症候群とは?
廃用症候群とは寝たきり生活といった、長期間体を動かさないことで起こる身体の様々な症状のことです。病気で入院を余儀なくされた高齢者によくみられます。
その他、骨折も寝たきりのきっかけになります。これが長期間続くと廃用症候群を招く可能性があるでしょう。誰でもこの状態になる可能性があるのです。
廃用症候群の症状とは?
寝たきりの状態が続くことで起こる体の異常。具体的には以下の症状が挙げられます。
筋力の低下
廃用症候群で最も好発するのが筋力の低下です。寝たきり生活では筋肉の使用量も極限まで下げられてしまいますから、自然と衰えていってしまうのです。これを廃用性筋萎縮といいます。
例えば絶対安静状態を1週間続けると、筋力は10%程度低下するといわれています。さらにその状態が2週間続けば、筋力は20%低下します。
筋力の低下はその後の日常生活にも影響を与えることがあります。単純な日常動作ができなくなる。それはベッドから起き上がることも難しいことがあります。
病気の治療のために絶対安静が必要になることもありますが、体を動かさなければ、さらなる病気を合併する可能性があります。治療中は十分な注意が必要でしょう。
関節が硬くなる
全く動かないということは、骨の関節の動きをも悪くしてしまいます。これを関節拘縮といいます。車で言えばまさに運転せず放置してしまった状態。各パーツが錆びついて動くことができません。
無理に動かそうとすると痛みを感じることもあります。これも筋力低下同様、日常生活に悪影響を与えてしまいます。ふとした日常動作で関節が動かないものですから、気分もかなり滅入ってしまうでしょう。
骨がもろくなる
どんなものでも、適度な刺激を与えることでその強度を保つことができます。しかし、全く動かず、なんの刺激もないとそれはただただもろくなっていってしまいます。
廃用症候群では骨がもろくなるといった症状がみられます。骨が折れやすくなり、ふとした動作で骨折してしまう、なんてこともあります。
心機能の低下
寝たきりの状態は心臓機能を低下させます。運動を全く行わなくなるため、寝ている以上に使われなくなるためですね。全身のポンプ機能が低下することは命に関わる症状です。
心機能が低下する、ということは四肢の末端から血液を回収できなくなるということ。血液量が減れば、心臓から送り出す血液量も減ります。結果として、血液循環が滞るようになります。
また、同時に足の筋力も低下しています。足の筋力は心臓へ血液を送り返すという働きもしていますから、衰えてしまえば、より血液が足に溜まってしまいます。
起立性低血圧
急に立ち上がったとき、重力によって脳へ血液量が少なくなると、ふらつきが起こります。このような症状を起立性低血圧と呼びます。
廃用症候群によって心機能の低下が起きているものですから、ちょっとした運動や立ち上がりでふらつくことがあるかもしれません。注意するようにしましょう。
廃用症候群の深刻な症状
筋力の低下や骨がもろくなるといったことは、身体的な症状です。しかし、廃用症候群はさらに進行すると命を脅かすほどの病気を招くことがあります。具体的には以下の病気があげられます。
誤嚥性肺炎
廃用症候群ではしばし、食べる機能に障害が起こることがあります。食べ物を当たり前に食べることができなくなったり、食事を自分の力で食べることができなくなってしまうのですね。
このとき、食べたものが誤って肺に入ってしまうことがあります。それが原因で炎症症状を起こしてしまうことを「誤嚥性肺炎」と呼びます。
日本人の死因の第4位は肺炎であり、高齢者に限って言えば第2位です。寝たきりに伴う、嚥下障害が誤嚥性肺炎を招いているともいわれています。
血栓の産生
血栓とは血の塊のこと。長時間、体を動かさず、また血管を圧迫してしまうと産生されることがあります。例えばエコノミークラス症候群もこの血栓症状によって起こる病気です。
廃用症候群でも同様のことが起こります。長時間、同じ姿勢でいるために血管内に血栓ができてしまうのですね。血栓は脳血管や心臓血管に詰まることがあり、重篤な病気を招く可能性があります。
逆流性食道炎
食べたものは通常、一方通行で胃に運ばれます。これは食道の蠕動運動や胃の括約筋によるもので、食べ物や胃酸の逆流を防いでいます。
しかし、加齢に伴ってこれら機能が低下すると、消化している食べ物が逆流し、食道に炎症を起こしてしまいます。これを逆流性食道炎と呼びます。
また、逆流した食べ物がそのまま肺に入り、炎症を起こしてしまうこともあります。寝たきりという状態はただでさえ、食べものが逆流しやすいですから注意が必要でしょう。
精神的な病気を招くことも
寝たきりの生活と体に現れる症状は精神的にとても辛く、心を蝕んでしまうことがあります。廃用症候群を発症する人の中にはうつ病を合併してしまうなんてこともあります。
体を動かしたり、趣味に没頭することが生きがいであった人から、それらを取り除いてしまうと、気分が落ち込んでしまいますよね。それが長ければ長いほど、精神を病んでいくのです。
精神的な不安は食欲不振、物事へのやる気の減衰、集中力の低下、睡眠不足へとつながっていきます。放置してしまえば症状はより悪くなっていくため、廃用症候群ではメンタルのケアも必要になるのです。
その他の症状
筋力の衰えや命に関わる深刻な症状のほか、以下の症状を呈することもあります。
圧迫性神経障害
長い時間横になっていると、体にある神経が圧迫されます。これにより神経麻痺を起こしてしまうことがあります。これは圧迫性神経障害と呼びます。
尿路・尿管の病気
廃用症候群ではカルシウムの補充を血液中から行うようになります。しかし、それがきっかけとなり、尿中のカルシウム濃度が上昇。尿路結石やそれにともなう尿路感染症を発症します。
尿路結石や感染症では、排尿障害を招きます。尿が出なくなる。頻尿になる。排尿時に痛みが起こる。これら症状が出ているときは泌尿器に異常がでているかもしれません。
廃用症候群の原因
廃用症候群の原因は長期間、体を動かさない状況にあります。それは病気の治療のための入院などがありますが、日常生活の中でも十分起こりうることがあります。
例えば、自宅で介護を受けている場合。体の節々が痛み、無理な運動をすることができない。このような状況では、なかなか自分で動くことはできませんよね。必然的に運動量が低下していきます。そして、廃用症候群を招いてしまうのです。
また、骨が弱ってきますと些細なことで骨折をしてしまうなんてこともありますよね。それがきっかけである日から突然寝たきりになる。そうなると廃用症候群の第一歩となってしまうことがあります。
病気に限らず、普段から運動をしないでいると、どんな人でも廃用症候群を発症する可能性があります。これは年齢を重ねるにつれて、そのリスクは上がっていくでしょう。
廃用症候群の治療とは?
廃用症候群での治療はリハビリが主です。体を動かしたり、関節をストレッチするなどをして、体の機能を落とさないことが治療のポイントといえるでしょう。
廃用症候群により一度体力が落ちてしまうと、回復するのは難しいです。病気になったとしても、なるべく体を動かすことが最も効果的な治療法なのです。
廃用症候群の悪循環から抜け出す
廃用症候群になってしまうと、しばし悪循環にはまってしまうことがあります。体が動かなくなる、病気になる、ますます体が動かなくなる。日常生活に戻るためには、この循環を断ち切る必要があります。
断ち切るためにまずできることは、早めに行動すること。今現在が最も体が良い状態です。何もしなければ悪くなっていく一方ですが、行動すれば良い方向へ向かっていきます。先延ばしにすることはしないほうがいいでしょう。
また習慣づけることも大切です。リハビリでも運動でも最初が最も負担がかかります。関節が動きにくくなったり、筋肉量が減っていますから、それは辛いかもしれません。ですが、続けていけば体力を取り戻すことができます。
病気で体が病んでいくとき、そこから抜け出すのはふとした心の持ちようと少しの行動だったりします。毎日行動していけば、1年後は大きな結果として返ってきます。健康を取り戻し、生活に戻るためにも続けていくようにしましょう。
廃用症候群の予防
廃用症候群の原因は長期間、体を動かさないことにありました。筋力の低下や骨がもろくなる症状が、ひいては生活全般に悪影響を与えてしまいます。
では、廃用症候群を予防するためにはどのようなことをすればいいのか。それは以下のことがあげられます。
治療中でも体を動かす
入院中はよく体を動かさないよう看護師に言われることがあるでしょう。体を無理に動かしたりすると、体力を使いますから、病気が悪くなるといいます。
ただ、この考え方は少々危険な部分もあります。あまりに安静にしすぎると、体の衰えが顕著に進みすぎてしまうからです。廃用症候群だけではなく、抵抗力が弱くなるなどして、合併症の危険性も高まるでしょう。
そのため、予防の第一歩は体を動かすということ。ベッドの上だけでもいいので、ストレッチをしてみるというのも十分効果が期待できることです。
もちろん、外に出られるのであれば出たほうがいいでしょう。気分転換にもなりますし、治療に前向きになることができるかと思います。
会話をする
廃用症候群ではしばし、心の病気にかかってしまうことがあります。24時間ベッドの上に居て、それが数週間〜数ヶ月と続くと、誰でも心が病んでしまいますよね。
そこで大切なのは、周囲の人ときちんと会話をすること。治療中の悩みや不安といったものを話してみることをオススメします。精神的な不安を解消することができると思います。
人は誰かと話すことで不安を解消することができます。反対に1人で抱え込んでしまうと、それだけ精神的な負担が大きくなってしまうでしょう。
自分のことを話す、ということに抵抗がある人もいるかもしれません。ですが、溜め込まずに1歩踏み出して、周囲の人と会話をしてみてくださいね。
予防のための観察項目
廃用症候群では以下の項目を観察・検査し、リハビリに反映させます。
寝返り
横になっている状態から寝返りをうてるかどうか。手すりなどをつかってもよいので、できるかどうかをみます。
起き上がり
仰向け状態から起き上がれるか。もしくは、横を向いた状態から手を使って起き上がれるかどうかをみます。
端座位保持
ベットの端に座ることができるかどうか。手すりがあってもできれば大丈夫です。
立ち上がり
浅く座った場所から自力であ立ち上がることができるかどうかをみます。
床からの立ち上がり
床に座った状態から立ち上がることができるかどうかをみます。
これらを総合的に判断し、その後のリハビリに生かします。自力で動くことが難しい場合は、長い時間をかけてリハビリをしていく必要があるでしょう。
社会との繋がりが大切
病気の治療はしばし孤独を感じることがあります。担当の医師はいるものの、24時間付き添ってくれるわけではありませんよね。何をするわけでもなく、基本的にベッドの上。そのような状況では、病気でなくとも病気になってしまうかもしれません。
病気というのは体だけではなく、心にストレスがかかっているときでも発病します。気分が晴れないようであれば、病気の治りは遅くなるでしょう。
病気治療を円滑に進め、回復を早くするシンプルな方法は社会とつながりを持つこと。それこそ、周囲の人と話すだけでも十分な効果が期待できます。
社会・人とのつながりというのはとても重要な意味があります。人は社会性を持った生き物ですから、孤独であるほど病気は進行してしまいます。
まずは気分が良くなることをしてみる。そして他者とつながりを持つ。忘れがちですが、当たり前で必要なことだと思います。
体は使わなければ錆びてしまう
廃用症候群を発病してしまうのはほとんどが高齢者の方です。病気や怪我をきっかけとして、運動をしなくなるとどんどん体が錆びついていってしまうのですね。
それは車と同じです。定期的なメンテナンスや運転をしなければ、エンジンやパイプは錆びついていきます。最終的には動かなくなるということもありますよね。
人の体も常日頃から使っていなければ、運動機能は低下していくでしょう。それは高齢者とも限らず、若い人にも言えることなのかもしれません。
運動習慣のある高齢者はとても少なく、約7割の人がほとんど運動をしないという調査結果もあります。家に閉じこもり、体を動かさなければ、病気になってしまったとき、一気にガタがきてしまうでしょう。
大切なのは日々体を使うということ。毎日運動をする必要はありません。週に2-3回程度、30分のウォーキングで体力の低下を予防することができます。
家に閉じこもって、運動習慣が全くない。そんな人は、まず近くの公園を歩くことから始めてみてください。身も心も清々しい気持ちになると思いますよ。
まとめ
廃用症候群は全く意図しない病気からドミノ倒しのように起こります。体を動かさなければ発症してしまうものですから、誰でも一様にリスクがあるのかもしれません。
一方で体を動かせばきちんと予防することができます。それは入院中だろうが治療中だろうが関係ありません。ゆっくり休むことも必要ですが、最低限体を動かすことも必要なのです。
高齢者に発病が多いですが、そうなるまでの過程に原因が隠されていることがあります。それは習慣的な運動不足や生活習慣の乱れといったものがあるでしょう。
運動不足であればそもそも骨がもろくなっていたり、筋肉量が低下しているなんてことがあります。これは注意すべきことの1つでしょう。生活習慣の乱れも同様です。
廃用症候群にならないためには、体を適切に使ってあげること。体力や免疫力を年を重ねても維持すること。これがのことが重要でしょう。
将来、寝たきりになってそのまま体調が悪くなっていく。そういったことにならないためにも、今から習慣を見直してみてくださいね。