バセドウ病の手術は、甲状腺をごく一部だけ残して切除する「亜全摘術」という温存型が従来行われてきました。新しい手術は、完全に切除する方法が取り入れられてきています。バセドウ病のことをよく知り、手術のメリットやデメリットを考えて治療方法を選びましょう。
ここではバセドウ病の原因や症状、手術、日常生活で気をつけることなどをまとめました。
バセドウ病とは
バセドウ病は、自己免疫疾患の一つで、甲状腺のホルモンを過剰に作りすぎてしまう病気です。喉にある甲状腺が腫れたり、疲れやすい、息切れ、体重が増える、または減るなどの症状があらわれます。甲状腺機能亢進症ともいわれます。20~30代の青年期から、40~50代の壮年期に発病することが多いです。
バセドウ病の原因は?
甲状腺ホルモンは、身体のエネルギーや活力を作り出すホルモンです。全身の新陳代謝を高める機能を持っていて、「元気」の源ともいえます。しかし、甲状腺が働きすぎて、甲状腺ホルモンを余るほど分泌してしまうのがバセドウ病です。
代謝が活発になりすぎて、心臓がドキドキして息切れをしたり、消化が活発すぎてすぐにお腹が空いたりとさまざまな症状がおこります。
もう少し詳しくいうと、甲状腺を刺激する抗体(TSHレセプター抗体・TRAb)が作り出され、甲状腺ホルモンが無制限に分泌されてしまう病気です。なぜこのような自分を攻撃するような抗体ができてしまうのかは、未だに明らかになっていません。
バセドウ病の症状
甲状腺の異常によって起きる症状は非常に多岐にわたります。また、全くの無症状や無自覚の人もいて、個人差が大きいのも特徴です。
日常生活で感じる症状
・動悸、息切れ、疲れやすい、脈拍が上がる、むくみ
バセドウ病の症状でよくあるのが、動悸や息切れです。何もしていなくても代謝が活発で常に走っているような状態なので、たくさんの酸素を必要とします。
・多汗、暑がる、微熱が続く
身体の活動が活発になると、常に火照ったような、暑くて全身汗ばむような症状があります。
・空腹、体重増加・減少
内臓の機能も活発になります。消化が促進され、食事をしてもすぐにお腹がすくので、食べ過ぎてしまったり、カロリーの摂取が追いつかずに痩せてしまったりします。理由もなく急激に体重が減ったり増えたりした場合は、甲状腺の異常によるものかもしれません。
・手の震え
手が震えて字を書くことや細かい作業が困難になります。重症化した場合は足や全身に及びます。
甲状腺腫
バセドウ症の特徴として、甲状腺の腫れがあげられます。首の全面が腫れて太くなったように見えます。「びまん性甲状腺腫」といいます。
眼球突出
バセドウ病の症状としてよくいわれるのが眼球の突出です。バセドウ眼症(甲状腺眼症)といわれ、上まぶたの腫れ(眼瞼腫張)や、まぶたが上に引っ張られる(眼瞼後退)ことがあります。必ずしもなるわけではありません。
バセドウ病による病気
バセドウ病そのものは、薬などでコントロールできるので、命に関わるような病気ではありませんが、合併症には注意が必要です。
・甲状腺クリーゼ
大きな手術や強いストレスなどがきっかけで、頻脈や意識障害、異常なほどの高熱、大量に汗をかくなどの症状が起きることがあります。バセドウ病の治療が進んでいるため、ここまで重症化することはなくなってきています。
・心臓の疾患
寝ている間も走っているときのような負荷が心臓にかかり続けます。そのため、不整脈や心不全といった心臓のトラブルも多くみられます。
・甲状腺中毒性周期性四肢マヒ
特に朝、目が覚めたときに足が動かないことがあります。男性に多い症状です。
・その他
高血糖、高血圧、抜け毛、落ち着きがない、筋力低下などがあります。
バセドウ病と妊娠
甲状腺ホルモンが過剰の状態は、流産や早産のリスクが上がります。妊娠や出産を希望する場合は、甲状腺ホルモンの値が適正であることが望ましいです。ただし、妊娠中でも抗甲状腺薬を服用して甲状腺ホルモンをコントロールすることができます。バセドウ病だから妊娠しにくいということはありません。
また、赤ちゃんにも甲状腺機能亢進症があらわれることがあります。赤ちゃんが自分の身体の抗体を作っているわけではないので、通常は生後1か月程度で身体から消失します。
バセドウ病の手術
バセドウ病の手術は、甲状腺を切除して過剰にホルモンを作られないようにすることが目的です。
従来の方法は「甲状腺亜全摘術」といって、甲状腺の一部を温存して、残りを切除するものでした。この方法のメリットは甲状腺を一部でも残すことで、機能が保たれることです。デメリットは残しすぎると再発し、切りすぎると甲状腺の機能低下症になってしまうことです。
甲状腺の適正な量は個人差が大きく、その見極めが難しいのです。治る人もいれば、再発する人も少なくありません。そのため定期検診で数値を確認し続ける必要が有ります。
こうした長年の治療結果を踏まえて、甲状腺を全摘出も行われるようになってきました。メリットは再発がないことと、甲状腺を攻撃してしまう抗体を早期に減らせることです。デメリットは甲状腺機能が低下するので、必要であれば甲状腺ホルモンを薬で補わなければなりません。術後数ヶ月~1年ほどで甲状腺ホルモンの数値が安定してきます。甲状腺機能低下症になってしまった場合は薬の服用を続けます。
ホルモン値が高すぎると手術はできないので、まずは薬を服用して値を下げます。
手術後は嗄声といって声がかすれることもあります。半年ほどで回復するといわれていますが、高音が出せなくなることもあります。
どちらの手術法を選ぶかは、医師とよく相談をしてみましょう。症状がよくなったとしても、手術の跡が気になるようなら、いつか後悔することがあるかもしれません。自分が納得できる治療法を選ぶためにも、医者任せにせず、どのような手術なのか理解しておくことが大切です。
その他の治療方法
バセドウ病は手術以外に、2つの治療方法があります。
薬を服用する
バセドウ病の治療は、まずは抗甲状腺薬の服用から始まります。薬の服用と同時に、甲状腺ホルモンの量を測定して、一人一人の体質に合った薬の量を見つけます。
抗甲状腺薬の副作用として、肌のかゆみや、肝機能の異常、白血球の減少、まれに関節痛や肺の炎症がみられます。
アイソトープ(放射性ヨウ素)
放射性ヨウ素を服用して、甲状腺ホルモンを分泌する甲状腺の細胞を減らすことを目指します。2か月~半年ほどで甲状腺ホルモンの数値は減少してきます。
長期間服用していると細胞が減りすぎてしまうことがあります。眼症がある人は、悪化しないように注意する必要があります。また、妊娠中や授乳中、妊娠を希望する女性には適用されません。
手術よりは負担が軽く、薬の服用よりも早い期間で症状の変化がみられます。
バセドウ病の対策
バセドウ病になったときの対策について見ていきましょう。
生活の中で気をつけること
動悸や息切れを感じたら、すぐに安静にしましょう。階段の上り下りで息苦しくなったり、電車の中で足が震えて立っていられなくなることがあります。もし倒れて、顔や頭などをぶつけると危険なので、しゃがんだり、座るようにしましょう。
バランスの良い食事
代謝が早いので、十分な栄養と不足しがちなエネルギーを補給するようにしましょう。タンパク質、ビタミンA、B類、Cなど、ミネラル、亜鉛などを普段の食事に取り入れます。亜鉛は牡蠣や牛肉、豚レバー、煮干しなどに多く含まれます。特別な食事制限などは必要ありません。
甲状腺ホルモンの材料となるヨードを制限するといったメニューが紹介されていることもありますが、あまり神経質になる必要はありません。ヨードを多く含む昆布を毎日大量に食べるといった、極端なことはしないでください。薬を服用している場合は医師の指示に従いましょう。
飲酒
薬を服用しているときはアルコールを控えましょう。作用や副作用に影響することがあります。適量を守るか、気になる症状があればすぐに医師と相談しましょう。
禁煙
喫煙はバセドウ眼症に影響するといわれています。タバコを吸わない人よりも、吸う人の方が眼球突出の度合いが高くなる傾向にあります。
温泉
お風呂や温泉、サウナなどは心臓に負担がかかります。医師の許可が出るまでは控えてください。
予防法はわかっていない
バセドウ病は、遺伝的な要因やストレスなどによって免疫に異常があらわれることがありますが、明らかな原因はまだわかっていません。そのため、明確な予防法もないのが現状です。
まとめ
バセドウ病やその手術について、もう一度振り返っておきましょう。
バセドウ病は免疫の疾患によって、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまう病気です。
バセドウ病は身体の代謝が活発になりすぎで、心肺や消化機能に負担がかかります。
バセドウ病の治療は、まずは薬で甲状腺ホルモンを抑え、経過をみます。
体質的に薬が合わない人や、妊娠を希望する女性には手術が適用されます。
バセドウ病の手術は、一部を残して切除する「亜全摘術」と完全に摘出してしまう手術があります。
バセドウ病の手術は全身麻酔を必要とするので、医師とよく相談することが大切です。手術に耐えられるだけの体力や心肺機能なども必要です。入院期間は術前の検査なども合わせると、1週間~10日前後が目安です。症状や術後の経過によって変わります。症状がよくなったあとも、定期的な検査を欠かさないことが大切です。ストレスをためないように心がけて、健康で元気な毎日を過ごしてください。
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