日本では百人に一人が心房細動を患っていると言われています。心房細動は日本でもっともありふれた不整脈です。
そして、今後もその患者の数は増加し続けるだろうと予想されています。今回の記事では心房細動の原因とその治療法についてまとめてみました。
心房細動の原因
心房細動について、心房細動がどんな病気で、どういう原因で発症する可能性があるのかご紹介します。
心房細動とは?
心房細動は洞房結節由来の心房波が消失し、複数の興奮波が迅速に心房内を旋回することによって成立する不整脈です。このような心房細動の引き金となるのは肺静脈内から生じる心房期外収縮が連発することだと考えられています。
肺静脈には左右、上下の四本の静脈がありますが、そのなかでも左上肺静脈が心房細動の発生にもっとも関係しているようです。肺静脈内から心房期外収縮が起きる理由は、心筋組織が心房と肺静脈の接合部を越えて迷入しており、この心房筋が他の心房筋と比べて心房期外収縮を起こしやすいためであると言われています。
また、肺静脈以外では上大静脈も心房細動の発言に関与しています。
心房細動の原因
心房細動は加齢によってその発症率が高くなる病気です。そのため、高齢者になるほど心房細動が起きるリスクは大きくなります。
80歳以上の人口では、だいたい20に1人が心房細動を患っているという説もあります。心房細動がもっとも発現しやすい時期は75歳ごろだと言われています。心房細動の患者さんの70%が65~80歳までの高齢者ということがわかっています。そのため、心房細動は老人病といっても差し支えないでしょう。
実際に、30歳以下の若い人の心房細動の患者さんはまれです。だいたい60歳が発症率が高まる年齢を分ける境界になっています。60歳を過ぎると急激に心房細動の発現率が高まり、それ以下の年齢では年齢が下がるほど発現率が低くなっています。
ただし、高血圧や糖尿病、あるいは虚血性心疾患の患者さんの場合、たとえ年齢が若かったとしても心房細動が発現する可能性がそうでない人よりも高いです。男女比では、男性のほうが心房細動になりやすいというデータがあります。さらに、心房細動と遺伝子異常との関連性も近年では史的されるようになってきています。
遺伝子異常が原因である心房細動はまれであり、遺伝形式についてもまだ明らかになってはいません。
超高齢社会と心房細動の関係
心房細動の発現に関わる要因をまとめると、心不全などの心疾患、高血圧や糖尿病といった全身疾患、交感神経の緊張、副交感神経の緊張、日常生活や仕事に関する環境因子、喫煙・飲酒などの生活習慣、加齢、遺伝子異常などが挙げられます。大多数は遺伝子異常とは無関係に発症します。これから日本が超高齢社会を迎えるにあたって、心房細動の患者数は増加していくと考えられます。
実際に2005年から2010年の間に患者数が10万人ほど増加しています。高血圧、糖尿病、虚血性心疾患などの疾患は心房細動の発現と関係があり、かつこれらの疾患は増加傾向にあります。そのようなこともあり、心房細動の患者数も増加していくと予想されます。
何らかの効果的な対策を打ち出さない限り、心房細動の発現率をの増加を防ぐことは難しいでしょう。
心房細動が引き起こす疾患
心房細動が引き起こす代表的な疾患としては、血栓や塞栓があります。特に、虚血性脳血管障害における心異常および心疾患のうち、脳塞栓の原因として心房細動が挙げられます。
心房細動が存在すると、存在しない場合に比べ、虚血性脳血管障害の発症頻度が5倍であり、さらに心臓弁膜症に心房細動が伴う場合は17倍だそうです。心房細動に伴う虚血性脳血管障害はより重篤であることが報告されているため、虚血性脳血管障害の予防にあたっては心房細動の有無について十分配慮する必要があります。
これは心疾患の種類によらず、心房細動が認められる患者すべてに共通して虚血性脳血管障害のリスクが高まるということで、特に高齢者で、心拍数が少なく、心胸郭係数が高い場合は要注意です。
また、近年では心房細動による脳卒中の発現が多く見られます。そのため、心房細動の発症後は、血栓・および塞栓を予防することが重要です。
心房細動の予防
ここまで心房細動がどのような疾患であるか見てきました。今度は「もし心房細動になってしまったら?「心房細動を予防するにはどうしたらいいの?」かについてご紹介します。
心房細動が起こったときは?
慢性的な心房細動の治療には薬剤の投与がメインです。しかし、心房細動はありふれた不整脈でありますから、あまり積極的に治療を行う必要はありません。
以前には、不整脈は消失・減少させることが重要だとされていました。そのため、多くの抗不整脈薬が使用されていました。しかし現在では一転し、自覚症状とQOL(クオリティオブライフ、生活の質)、そして生命予後を改善することに重点が置かれた医療が実施されるようになっています。近年の臨床研究では、余計な医療の介入は逆効果で、不整脈患者の病状や予後を悪化させてしまうリスクがあるとわかってきたからです。
そのため、仮に不整脈が見つかったとしても、自覚症状がなく、生活に支障がなく、生命に危険がないような状態であれば、積極的な治療は行わないというのが最近の傾向としてあります。これは心房細動についても同様で、心房細動それ自体はすぐに生命に危険を及ぼす不整脈ではありません。
検診でたまたま見つかったような心房細動や、血栓・塞栓症を発症する可能性が低いと判断された心房細動の場合、積極的な治療は必要ありません。
生活環境の改善
心房細動が見つかった場合、積極的に治療をしないケースであっても、放っておくと病状が悪化することも考えられるため、生活習慣の改善を行う必要があります。そのため、心房細動治療のファーストステップは生活環境の改善です。過度な飲酒、喫煙、不摂生な生活、ストレスなどは心房細動の重要な因子であるため、これらの改善を図ります。その上で、症状が続くようであれば薬物治療も視野に入れた何らかの治療を検討します。
心房細動の病状を改善するためには、アップストリーム療法とよばれる、不整脈の発生をもたらす病態の進行あるいは改善を行う治療法を用います。近年では脳卒中の原因として心原性脳塞栓症の割合が増加しています。心房細動はこの心原性脳塞栓症を引き起こす危険性があるため、心房細動による血栓・塞栓症の予防が治療においても大きなウェイトを占めます。実際に、心原性脳塞栓症の原因疾患でもっとも頻度が高いのが心房細動です。
心房細動は体からの警告
また、心房細動による心原性脳塞栓症患者の予後はがん患者よりも不良であるとも言われています。なぜなら、心房細動による心原性脳塞栓症は、左耳心内に形成された血栓が剥がれて遊離し、それが脳動脈を閉塞させることによって生じるのですが、多くの場合、それは中梗塞あるいは大梗塞となるため、いったん発症してしまうと、治療がうまくいったとしても回復までに大変時間がかかる、あるいは回復が難しいです。
一般に、心房細動による脳塞栓症患者の1年後の死亡率は50%です。すなわち、肺がんや大腸がんの患者よりも発症後の1年後生存率が低いのです。
心房細動の治療
薬物治療
脳塞栓を回避するために薬物投与が行われます。たとえば、抗凝固薬を使用した抗血栓凝固療法だとある程度脳卒中の発現を抑制することが可能です。
しかし、脳梗塞を発症した場合や、75歳以上の高齢、高血圧、糖尿病、心不全、低心機能のうち2つ以上を満たす場合、抗凝固薬とは別の、ワルファリンというお薬を処方することになります。日本人などアジア系の人びとは白人や黒人の方よりも一般的に心房細動患者の頭蓋内出血の発生頻度が高いと言われています。
実際に行われた調査でも、白人から順に、黒人、ヒスパニック、アジア人と心房細動による頭蓋内出血のリスクが高くなることが明らかになっています。日本人は欧米人よりも小柄な人が多いこともあり、さらに高齢者の割合も高いため、抗凝固薬の投与量は少なくすべきだという説もあります。
また、アスピリンをはじめとする抗血小板薬も心房細動による血栓予防の治療薬として使用されることがあります。しかし、今のところ血小板薬による治療効果はワルファリンによる抗血栓凝固療法に及ばないようです。アスピリンに併用して、クロピドグレルというお薬を使用する場合も同様です。
ただし、この場合は血栓・塞栓の予防効果がアスピリンのみ場合よりもよいとされています。また、クロピドグレルは抗血小板薬のなかでも副作用が少ないとされています。虚血性脳血管障害と冠動脈疾患に対して保険収載されているため、これらの疾患の治療については、クロピドグレルは必須の薬剤となっています。抗凝固薬も抗血小板薬も血液をサラサラにする薬物だと言われることがあります。
しかし、両薬物の用途は異なっています。抗凝固薬は静脈や心房のような血液の遅いところにできる赤色血栓の予防に有効です。一方、抗血小板薬は動脈にできる白色血栓に有効です。
カテーテルアブレーション
近年、専門病院ではカテーテルアブレーションという手法を使うことも増えています。心房細動の90%は肺静脈内から発生する複数の心房期外収縮が原因です。
そのため、カテーテルアブレーションでは肺静脈の内部あるいは入り口付近に電極カテーテルをセットし、その先端部から50度くらいの高周波熱で30~60秒間焼灼することを数十回繰り返します。これによってかなり高い確率で心房細動は根治します。
しかし、カテーテルアブレーションは現在も発展途上の技術であり、術式の成功率や再発率の高さなどが懸念されています。