急性冠症候群とは?症状や原因、対処方法はなに?

医学が進んだ現代においても、急性心筋梗塞を起こした患者さんの10人に2人はどんなに治療を尽くしても死亡するといわれています。最初の痛みや異変を感じたときにはそれほど緊急だと思わず、救急車を使わずに家族の運転する車で病院に行ってしまい、結果的にそれが命取りになるケースも多いです。

冷や汗を伴うほどの強い胸の痛みを感じる不安定狭心症もまた、適切な処置が必要な病気です。こうした、死と隣り合わせの緊急性の高い冠状動脈の異変による病気を総称して、急性冠症候群(きゅうせいかんしょうこうぐん)といいます。

知識を持っておくことで、いざというときに迷わず救急車を呼び、大切な命を失わずに済むこともあります。

急性冠症候群の症状と対処法

救急車

急性冠症候群という、聞きなれない言葉が現す病気とはどのようなものでしょうか。それぞれのケースの症状と対処法について詳しくみていきましょう。

急性冠症候群とは何か

急性冠症候群(きゅうせいかんしょうこうぐん)とは、1992年に発表された比較的新しい医学用語です。

誤解されやすいのですが、病気の名前ではありません。心臓の周辺にある血管である冠状動脈がふさがり(=閉塞)、狭くなる(=狭窄)と、血液が心臓に送られなくなります。そのことによって引き起こされる、急性心筋梗塞や不安定狭心症、心臓発作による突然死などを総称して「急性冠症候群」と呼びます。

心臓の表面を走っていて、心臓に血液を与えている冠動脈が詰まることで急性冠症候群は起こります。心臓は、心筋という筋肉でできています。冠動脈が詰まることによって、その先に血液も酸素も行かなくなるので、その状態が長く続くと心筋が死んでしまい、胸が痛くなったり様々な病気を起こしてしまうのです。

初期症状はどれも似ている

冠状動脈が突然ふさがって、狭窄することで急性冠症候群は起こります。閉塞の位置と狭窄する量に応じて、心筋梗塞や不安定狭心症など異なる病気が引き起こされるのです。初期症状によって、どの病気なのかを素人が区別することはまずできません。急性冠症候群の症状はどの病気の場合でも似通っています。

冠状動脈は正常な状態においては、心室・心房の筋肉に血液を送る重要な役割を果たしています。その冠状動脈が閉塞すると、心臓は酸素不足になり、胸に圧迫感や痛みを感じます。締め付けられるような痛みが、心臓のある左胸を中心に背中、あご、左腕に広がります。気が遠くなって失神する人、激しい発汗がある人、息切れをする人も多いです。痛みの場所や程度には個人差があります。死を予期させるような激しい痛みが出る人もいれば、他の箇所は痛むのに胸が痛まない人もいるのです。

心臓が痛くないから急性冠症候群ではないだろう、という誤った認識をしないよう注意が必要です。

急性冠症候群に陥ったときの対処法

急性冠症候群の症状が出た場合、すぐに救急車を呼びます。心臓に酸素がいっていない状態というのは、大変危険です。一刻も早く専門医の診断による適切な処置をする必要があります。心臓には大きな冠動脈が3本あり、つまっている血管によっては死に至るケースも少なくありません。

最近は、「家族が付き添って連れていける場合はなるべく救急車を使わず、自家用車またはタクシーで」といった呼びかけもされており、重症ではないかもしれないと救急車を呼ぶのを躊躇してしまうケースもあります。明らかに悪意を持って救急車を呼んだのではない限り、非難されることも料金を請求されることもありません。

「もしかして、急性冠症候群かもしれない」そう感じたのであれば、迷うことなく救急車を呼んでください。一瞬の判断の誤りで死に至ってしまったり、予後を大きく左右することがある病気です。

急性冠症候群を招く原因とは

心臓の健康

突然起こる急性冠症候群に、本人も家族も「何が何だかわからなく」パニックになってしまいがちです。

家族が突然、「胸が苦しい」と訴えて救急車で運ばれ、入院してしまったら不安になって当然です。急性冠症候群がなぜ起こるのかについて、解説します。

直接原因:動脈硬化が進んだから

急性冠症候群の直接的な要因は、心臓に血液を送る冠動脈が詰まることです。なぜ詰まるかというと、動脈硬化が進んだからです。

動脈硬化とは、動脈の壁が硬くなって、弾力性を失う状態をいいます。動脈硬化が進行して、狭窄(せまくなっている状態)から閉塞(完全に閉じる)に至った場合、血流が止まり心筋梗塞を発症します。冠動脈の狭窄から閉塞までゆっくり進んだ場合には、体が防衛反応機能をはたらかせ、他の回路(側副血行路)から血流を流すようになることもあり、必ずしも心筋壊死には至りません。

高齢者に多くみられるので、年を取れば誰でもリスクがあります。しかし、最近は若い人にも動脈硬化が見られるようになりました。どのような要因によって動脈硬化が引き起こされるのか、みていきましょう。

喫煙

急性冠症候群を引き起こす動脈硬化との因果関係が比較的はっきりしているのが、喫煙です。各国の膨大なデータで、喫煙が動脈硬化に影響を及ぼしていることが明らかになっています。たばこを多く吸う人、若いころから吸い始めた人ほどリスクは高くなります。

最近では、自分ではたばこを吸わなくても、他人のたばこの煙による受動喫煙も動脈硬化の要因となることがわかっています。

高脂血症(こうしけっしょう)

高脂血症とは生活習慣病の一つで、血液の中のコレステロールや中性脂肪の量が異常に増える状態のことをいいます。脂質異常症とも呼ばれます。患者は男性では40~50代、女性は50~60代に多いです。

若いころから肉中心の欧米同様の食生活をしていると、脂っこいものを食べ続けたことによりコレステロール値が高くなります。甘いものが好きで、食事の代わりにおやつを食べているような人も、血液中のコレステロールや中性脂肪を増やしています。食生活だけでなく運動不足、喫煙、飲酒、ストレス、といった生活習慣が高脂血症を引き起こす要因です。

高脂血症は動脈硬化だけでなく、脂肪肝、胆石、急性膵炎など他の病気の引き金となることも多いです。健康診断で高脂血症であると診断されたら、深刻な病気に陥る前にすぐ治療を行いましょう。

高血圧

高血圧とは、血液が流れるときの動脈に加わる圧力が異常に高くなってしまう状態のことです。血液は心臓の動きにより、休むことなく動脈へ流れています。

血液が送られる度に異常な圧力が加わるので、動脈の内側の壁が傷ついて、どんどん硬くなり、弾力を失ってしまうのです。つまり、動脈硬化を引き起こすのです。高血圧のこわいところは、動脈硬化をどんどん悪化させてしまうことです。しかも、動脈硬化で血液の流れが悪くなることにより、さらに血圧が上がるという悪循環を招きます。

高血圧の原因は、生まれ持った遺伝因子もありますが、生活習慣による環境因子が強く影響しています。塩分の摂りすぎ、喫煙、運動不足、お酒、ストレスなどが挙げられます。中でも最も高血圧に影響を与えるのが、塩分です。食塩を多く取る人は年齢とともに高血圧になるリスクが高まります。

糖尿病

糖尿病とは、血液の中のブドウ糖の量が過剰な状態が続く病気です。血糖値が高い状態が慢性的に続くので、糖尿病という病名なのです。ブドウ糖は、食事をすることで糖質として体内に取り入れられて、活動したり生きていくためのエネルギーとなります。

しかし、過剰な量のブドウ糖はエネルギーとして使われずに余ってしまい、肝臓や筋肉でグリコーゲンという物質に変えられたり、中性脂肪としてたくわえられます。グリコーゲンは、ブドウ糖が足りなくなったときにエネルギーとして使われる蓄えですが、糖尿病の人はこの蓄えを使う機会もありません。

ブドウ糖の量が多すぎる状態の血液は、長い時間をかけて血管に障害をもたらし、動脈硬化を引き起こします。動脈硬化だけでなく、失明や一生透析が必要な腎不全のリスクも高まります。大人になってから糖尿病を発症するケースでは気づかずに進行しているケースもあるので、定期的に健康診断を受けるようにしましょう。

急性冠症候群の予後について

患者

急性冠症候群により救急車で家族が運ばれたら、これからどうなるのかと不安で一杯になるものです。

発症後の治療方法や経過など、気がかりなことにお答えします。

急性心筋梗塞のケース

急性心筋梗塞の場合は、発症後どれだけ早く冠動脈の詰まりを開通して血液を流せるようになるかが重要です。生命の危機を脱するか否か、回復して障害が残らないかといった予後を左右するのです。

心電図や超音波検査で急性心筋梗塞の疑いがあるときは、カテーテル検査を行います。造影剤を冠動脈に直接注入して、冠動脈に閉塞がないか調べます。閉塞があれば、カテーテル・インターベンション(PCI)へ移行し、閉塞を解消する治療を行います。発症してから少しでも早く血流を通す必要があるため、救急車を利用せず自家用車で病院まで送っていれば命取りになるのです。

不安定狭心症のケース

不安定狭心症は発作が起きていないときは、心電図や超音波、血液検査でも異常が見られないことがあります。病名が示すように病状は不安定で、心臓に負担がかかったときのみ胸の痛みが出現しますが、しばらく安静にすると落ち着きます。

そのため病気を見過ごしてしまうこともありますが、いつ冠動脈の完全な閉塞を起こすかわからない状態です。つまり、死と隣り合わせの心筋梗塞に移行する可能性が高いのです。

医師が慎重に病状を見極め、不安定狭心症の疑いがあれば、初期治療は急性心筋梗塞と同様に行います。心臓カテーテル検査を行った上、抗血小板薬や脂質異常症の薬などの点滴を行います。

治療後の経過

急性心筋梗塞の場合、発作後に3日間生き延びることができればヤマは越えたといえます。その後は順調に回復するものの、1年以内の死亡確率は10%です。発作後の3~4か月は特に注意が必要です。不安定狭心症の場合は、3ヶ月以内に心臓発作を起こす可能性が高いです。継続的な診察と治療が必要です。

毎日低用量のアスピリンを飲むことで、血栓を予防して再発リスクを減少させることができます。ベータ遮断薬も死亡リスクを減らす効果ががありますが、疲労や手足の冷えといった副作用もあり、誰でも服用できるわけではありません。

まとめ

急性冠症候群には、緊急な対処が必要です。心臓発作から3~4時間で死亡に至るケースが多く、治療開始が早ければ早いほど、死亡するリスクを減らすことができます。

疑いがあった時点で、すぐに救急車を呼びましょう。心臓だけでなく肩や背中、ときには全身に痛みが散ることもあり、心臓の痛みがそれほど感じられないケースもあります。素人判断は危険ですので、あまり痛くないから大丈夫と安易に思わないよう注意が必要です。

適切な処置をしたことで予後が順調で、通常通りの生活ができるようになる人も多いです。再度同じ原因を作らないよう、生活習慣の見直しも大切です。脂肪が少ない食品を選び、喫煙やアルコールは控えましょう。適度な運動とストレスフリーの生活を送ることが予防につながります。

  
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