胃酸過多とは、読んで字のごとく、胃酸が多く出てしまい、胃が荒れてしまうことです。なんとなく知っている方も多いと思いますが、ストレスと胃は大きく関係しています。
現代社会は、ストレス社会という言葉があるように、多くの人がストレスを抱え、胃の不調を訴える人が増えています。胃の痛みや吐き気がある方は胃酸過多かもしれません。ここでは、胃酸過多についての症状や原因や治療方法について詳しくご紹介します。
胃酸過多について
ここでは、胃酸過多の概要や胃酸の成分、原因についてご紹介します。
胃酸過多とは?
胃酸過多は胃酸が必要以上に出る病気です。胃酸は食べ物を消化したり、細菌やウイルスを死滅させるのに重要な役割をしています。通常、胃はネバネバした粘膜を覆うことで胃酸から胃を保護して消化できないような仕組みになっています。
しかし、この粘膜よりも胃酸が大量にでると、胃がダメージを受けて痛みを感じる現象を胃酸過多と呼びます。胃酸過多になると、食事以外にもずっと胃酸が出続ける状態になり、胸焼けやげっぷ、酸っぱい液体が口にあがってくる、空腹時に胃が痛む、違和感を感じる、胃もたれなどの症状が見られます。
この状況を改善しないと、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、食道がん、逆流性食道炎などの深刻な胃の病気に発展します。
胃液(胃酸)の成分
人は食べ物を食べると、食道を通って胃に運ばれます。この食べ物を消化するのに胃で分泌される液体のことを胃液と呼び、胃液は強酸性でできています。げっぷをした時に、胃酸が逆流して口の中がすっぱく感じたり、吐いた時に黄色いすっぱい液を吐いた経験がある方もいるのではないでしょうか。この黄色い酸性の液が胃液です。
胃液の主な成分は、細菌を殺菌したり、食べ物を消化する強い酸である「塩酸」と、たんぱく質を分解する「ペプシン」、塩酸を中和して胃を守るアルカリ性の「粘液」という成分から出来ています。
この胃液には、たんぱく質を分解して、小腸の吸収を助けたり、脂肪を分解する役割があります。その他に、感染症の原因となる細菌やウイルスを滅菌したり、有害物質を分解する働きもあります。このように食べ物を分解するだけでなく、生体の防御システムも担っています。コレラ菌などは胃酸によって、ほとんど死滅するといわれ、健康な人の場合、大量の菌を摂取しない限りは、感染は起きません。
しかし、赤痢菌のように胃酸に強い菌も存在したり、ヘリコバクター・ピロリ菌のように、胃酸を中和して胃の中で生息する菌もいる為、全ての菌が胃酸によって死滅するわけではありません。また、胃酸の分泌が少ない人は少ない菌でも感染症を発症します。
このような強い酸をもつ胃液があるのに、胃はどうして、胃液に消化されないのか疑問に思ったことはあるのではないでしょうか。胃液は1回の食事で500ml、1日に約1.5~2.5リットルも分泌されるといわれているので、胃を溶かしてもおかしくないように思えます。通常、胃は胃液による消化を逃れる為に、ネバネバした粘液を分泌して、胃液から胃を保護しています。
しかし、なんらかの刺激や原因を受けて血液の流れが悪くなると、粘膜を上回る大量の胃酸が分泌されて、胃にダメージをうけることがあります。
胃酸過多の原因
胃酸過多の原因は、様々あります。特に原因として多いのが、ストレス、寝不足、疲労、タバコの吸いすぎ、カフェインやアルコールなど刺激物の摂取のしすぎ、食べすぎ、鎮痛剤などの服用などが挙げられます。
健康的な人の胃液は、食べ物のにおいを嗅いだり、想像することで分泌したり、ホルモンやガストリンが原因となって分泌されたり、また胃に内容物が入ってきた刺激により胃液が出る仕組みになっています。この際に、普段胃酸を中和させるアルカリ性の粘液を分泌して胃を保護します。この胃酸と粘膜の分泌は、自律神経の交感神経と副交感神経が相互にバランスを取りながら、分泌量を調整しています。
自律神経とは、循環、呼吸、消化、発汗・体温調節、内分泌機能、生殖機能、代謝といった体の器官を、自分の意志に関係なく動かす神経です。そして自律神経の中には交感神経と副交感神経があり、24時間バランスを保って体調を整えています。
交感神経は、精神活動を活発にする神経で、主に昼に活動します。仕事や運動する際に心臓の鼓動を早めたり、血圧を高めるなどして体を動かしやすくします。副交感神経は、精神活動を休ませる神経で、主に夜に活動します。心臓の鼓動を安定させ、精神活動を休め、体を休息させたり、睡眠させたりします。また、胃に内容物が入ってくると、副交感神経が働き、胃酸を分泌します。更に、粘液を十分に分泌させる為に、血液の循環を良くして、胃酸から胃を守るように働きかけます。
このように、交感神経と副交感神経のバランスをうまく保つことで、私たちは生命活動を続けています。しかし、これらの自律神経はストレスに影響します。通常、胃酸や粘膜を調整しているのは、副交感神経ですが、精神的なストレスが長く続くと、交感神経が過剰に働き出し、胃の働きを強めて胃酸を多く分泌しだしたり、内容物が入っていない時にも、胃酸を分泌し出します。
ストレス以外にも、アイスクリームやビール、ジュースなど冷たい内容物が胃に入ると、血管が収縮して血液の流れが悪くなります。「冷えは万病のもと」と呼ばれるように体を冷やしてしまうことで、胃に刺激を与えます。このように、胃酸が多くでることにより、胃を保護する粘膜が追いつかないことを胃酸過多と呼び、放置すると胃に大きな障害をうける可能性があります。
胃酸過多の症状について
ここでは、胃酸過多の症状についてご紹介します。
胃もたれ
胃もたれとは、胃の中に食べ物が長い間残っているように感じる症状のことです。消化の悪い食べ物を食べたり、胃酸過多などにより胃の働きが低下している場合に起こります。この胃もたれが起きることで、吐き気が出たり胃が気持ち悪いと感じます。
胸焼け
胸やけとは、胸が焼けるように感じる痛みです。胃から何かがあがってくるような違和感を感じる場合もあります。胃酸が食道に逆流することで、食道の粘膜が胃酸で焼けてしまうことで起こります。胸焼けを放置して、 症状がひどくなると、逆流性食道炎(胃食道逆流症)と呼ばれる食道の炎症を引き起こします。
多くの場合は、食べすぎやアルコールの摂取のしすぎで起こりますが、稀に心臓病や睡眠障害、ぜんそく、がんなどの症状の1つとして現れる場合があるので、胸焼けが長引く場合は医師に必ず相談しましょう。
げっぷ
飲みすぎた時に、酸っぱいげっぷが出たこと、黄色い液体がでた経験をされた方もいるのではないでしょうか。これと同じ現象が、胃酸過多で起こります。
口臭
口から吐き出される息が臭いことを口臭と呼びます。胃があれている場合、口臭が非常に気になります。ものすごく緊張してストレスになっている人が、いきなり話をし出すと、吐き出した息がものすごく臭いと感じたことはありますか。
胃が原因となる口臭は口内環境とは全く別の非常に不快な臭いがします。その臭いは「生ごみの臭い」や「魚の臭い」など様々な例えで表現されていますが、周りが我慢できないほどの臭いになります。
口臭に関してはデリケートな問題なので、周りの人から指摘されることはあまりないと思います。その為、自分では気づきにくいですが、胃酸過多と診断された場合や、胃があれているなと気づいたら、エチケットとしてケアをされることをおススメします。
胃痛
胃痛は胃が痛くなる症状のことです。胃酸過多の場合は、食事前に胃が痛むことが特徴として挙げられます。上腹部に胃もたれの感じや不快な感じ、食事前や寝る前など内容物が胃にはいっていない時に、みぞおちのチクチクと痛んだりする場合はすぐに病院を受診しましょう。
胃酸過多の対処方法
胃酸過多になった場合、自分で出来る対処方法をご紹介します。
常温の水を飲む
胃酸過多は、胃酸が大量に出すぎている状態です。その為、胃酸を薄める為に、胃に負担をかけない常温の水をゆっくりと飲むことがいいと言われてます。
また、食べ物はおかゆや汁ものなど、水分が多く消化にいいものを選びましょう。
食生活・生活改善の見直し
胃酸過多の原因となるものを控える必要があります。アルコールやカフェイン、辛いもの、冷たい飲み物や柑橘系などの刺激物を控えたり、タバコも胃酸過多を招く為控えましょう。
睡眠不足やストレスが原因の場合は、原因となるストレスを解消することが重要です。胃酸過多の症状が緩和されない時は、我慢せずに薬の服用を考えましょう。
市販薬で様子を見る
胃酸過多になったと気づいても、病院に行く時間がない場合があります。そんな時は市販薬を使用して様子を見ましょう。薬局で簡単に手に入るので、症状がひどくなる前に使用しましょう。
市販の胃薬は、症状にあわせて何種類かあります。主には、胃酸の分泌抑える「H2ブロッカー」「M1ブロッカー」、胃粘膜を保護し、胃酸を中和する「制酸剤」、胃の緊張による痛みを抑える「鎮痛鎮痙剤」です。H2ブロッカーは、以前は医療用として販売されていたので、効果が高い一方で、制限されることが多く、使用上の注意を正しく守る必要があります。
これらの市販薬を症状によって使い分ける必要があります。
■H2ブロッカー・ガスター10(第一三共ヘルスケア)
ガスター10はH2ブロッカーに分類される胃腸薬で、過剰に分泌されている胃酸を抑え、胃粘膜の修復を促進し、痛みを和らげる市販薬です。薬局で正しい処方の仕方を確認し、使用上の注意を守ってお使いください。
3日服用して症状の改善が見られない場合は服用を中止して、病院を受診する必要があります。また、2週間以上継続しての服用はおススメしていません。特に、胃痛、胸やけ、もたれ、むかつきの症状に効果があります。
■M1ブロッカー+制酸剤・ガストール(エスエス製薬)
ガストールはM1ブロッカーと制酸剤に分類される胃腸薬で、過剰に分泌されている胃酸を抑えて、胃粘膜を保護して胃酸を中和し、痛みを柔らげる市販薬です。特に、胃痛・胃もたれ・胸やけといった症状に効果があります。
■健胃薬・セルベール(エーザイ)
胃酸の刺激から胃を守る粘液を増やし、弱った胃を回復し胃の運動を活発にします。「胃もたれ」「胸やけ」などの症状を繰り返す方や、少し胃に負担がかかるだけで不快な症状を感じる方におススメです。
胃酸過多が起こる代表的な病気
慢性的に胃酸過多が起こっている場合は、病気により引き起こされている可能性が考えられます。ここでは、胃酸過多を引き起こす代表的な病気についてご紹介します。
胃潰瘍
胃潰瘍とは、胃の粘膜が損傷し、粘膜や組織の一部がなくなる病気です。胃潰瘍が起こると、胃酸過多によりキリキリするような上腹部の痛みや胸やけ、膨満感などの様々な症状が起こります。症状がひどくなると、吐血したり下血したりします。
ストレス、ヘリコバクター・ピロリ菌に感染、非ステロイド性抗炎症薬などが胃の粘膜を保護する仕組みを壊すことで胃潰瘍を発症させます。
胃潰瘍については、胃潰瘍の症状をチェック!治療するための方法は?を読んでおきましょう。
十二指腸潰瘍
十二指腸潰瘍とは、十二指腸の粘膜が損傷し、粘膜や組織の一部がなくなる病気です。十二指腸潰瘍になると、空腹時や夜間にお腹の痛みを感じることが多いです。十二指腸の粘膜は薄いので、穴があいてしまうこともあります。穴があいた場合は、耐えられないほどの激痛が起こります。また、消化器官から食べ物が流れ出し炎症を引き起こす可能性があるので、すぐに手術が必要になります。
胃潰瘍と同様、ストレス、ヘリコバクター・ピロリ菌に感染、非ステロイド性抗炎症薬などが十二指腸の粘膜を保護する仕組みを壊し、胃酸過多が起こった場合に、胃酸が十二指腸に流れ出て十二指腸潰瘍を引き起こします。
詳しくは、十二指腸潰瘍の症状をチェック!原因や治療法は?を読んでおきましょう。
ゾリンジャー・エリソン症候群
すい臓腫瘍からガストリンと呼ばれる胃液分泌作用のある消化管ホルモンが過剰に出ることで、胃酸過多を起こす病気です。この病気になると根本的治療は困難になり、胃潰瘍や十二指腸潰瘍といった、消化性潰瘍を多発します。
高ガストリン血症、胃酸過多、消化性潰瘍を引き起こし、下痢や吐血、下血などの症状が見られます。
副甲状腺機能亢進症
副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺にがん等の腫瘍ができることで、副甲状腺ホルモンが過剰に分泌し、様々な症状を引き起こす病気です。
主な症状は、骨がもろくなり、骨折しやすくなり、症状がひどいと身長が縮む、尿路結石、高カルシウム血症により、のどが乾く、胸焼け、吐き気、食欲低下、便秘などの消化器症状、精神的にイライラする、疲れやすい、筋力低下などを引き起こします。
胃酸過多の治療方法
根本治療としては原因となるストレスや食生活、生活習慣を改善することです。
胃酸過多が起こり、胃痛に悩んでいる場合は、市販の薬を使用して効果が現れなかった場合は、病院から処方を受ける必要があります。ここでは病院で処方させる薬についてご紹介します。
粘膜修復・制酸薬
胃痛や胸焼け、げっぷなどの症状を緩和させたり、出すぎた胃酸を中和させる効果があります。主な薬品名は、マーロックスです。
プロトンポンプ阻害薬
ピロリ菌の除菌や胃潰瘍などの症状を緩和させます。胃の壁細胞のプロトンポンプに作用し、胃酸の分泌を抑制する薬です。プロトンポンプ阻害薬は、胃酸を分泌する働きを阻害し、H2ブロッカーよりも制酸作用があると言われています。主な薬品名は、パリエット・タケプロンです。
胃運動機能改善・胃粘膜保護薬
胃もたれ、胸焼け、食欲不振などの症状を緩和させます。胃の表面を覆う粘液を増やし、胃の運動を活発にします。主な薬品名は、マーズレン・アルサルミンです。
胃酸・潰瘍治療薬
胃炎・胃潰瘍などの症状を緩和させます。胃の粘液を増やしたり、血液の流れを良くする事で、胃酸から胃を保護する力を高めます。主な薬品名は、ノイエル・ムコスタ・セルベックスです。
H2受容体拮抗剤
胃酸過多・胃潰瘍などの症状を緩和させます。胃酸分泌をコントロールしているH2受容体に直接働きかけ、胃酸の分泌を抑えます。主な薬品名は、ガスター・アシノンです。
鎮痛鎮痙薬
胃がキリキリとさすように痛い症状を緩和させます。胃の働きをコントロールしている、副交感神経に働きかけ、胃の痛みを和らげます。主な薬品名は、ブスコパン・ストロカインです。
おわりに
胃酸過多は、ストレスや食べすぎや飲みすぎなど誰にでも起こる事です。しかし、根本的な問題を改善しないと慢性化し、様々な胃の病気を引き起こす原因になります。また、病院に行く時間がない方は、市販薬を使って症状を緩和させましょう。
効果の高い市販薬が販売されているので、薬剤師による説明を十分に受けて使用しましょう。効果がない場合や我慢できないほどの痛みがある場合、慢性化している場合は、他の原因が考えられるので、病院を受診しましょう。
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