私たちの身体は、常に「健康な状態」を保とうと作用しています。たとえば、風邪をひいたら熱が出るのは、免疫機能が反応し、細菌と戦いやすい環境にするためです。
このように、「症状」として現れる様々な症状は、健康を取り戻すために起こっているのだということを改めて考えると、人間がいかに素晴らしい機能を持って生まれてきたのかがわかります。
そして、これらの機能の一つとしてあげられるのが「咳嗽(がいそう)」と呼ばれる症状です。あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、簡単に述べると咳の症状です。
咳嗽もまた、身体を守るための防御反応として見られ、症状としては比較的身近なものとも言えますが、実は、「咳」にも、いろいろな種類のものがあるようです。
そこで、ここでは、咳嗽がなぜ生じるのか、どのような種類があるのかなどを、ご紹介いたします。
咳嗽とは?
咳嗽(=咳)が身体の防御反応の一つであるということは、何となくイメージできても、実際どのようにして咳が出ているのかを詳細に述べられる人は少ないのではないでしょうか。
ここでは、咳がなぜ出るのか、どのようなときに出るのかなどの、咳嗽についての基本的な知識をご紹介いたします。
「咳反射」という防御反応
私たちの身体には、外敵から身を守るために、いろいろな反射機能が備わっていることをご存知でしょうか。そして、咳もまた、その反射機能が働くことによって、生じると考えられています。
咽頭や、気管、気管支などには粘膜があり、その粘膜の表面には「咳受容体」と呼ばれるセンサーがあります。ウイルスや細菌、ほこりなどの異物が侵入してくると、このセンサーが反応し、反応した刺激が脳に伝わります。
刺激を感じた脳の咳中枢は、身体を守るために呼吸筋や横隔膜などに指令を送り、異物を体外に出すための体制を整えるのです。そして、その指令通りに身体が反応することで、「ゴホンッ」といった咳が症状として現れます。
私たちの身体が正常に機能しているからこそ起こる、この一連の流れを「咳反射」と言います。
咳反射による排出
咳反射が生じるのは、異物が入り込んできたときだけではありません。防御したにも関わらず、体内に侵入してしまったウイルスや細菌を排出する際にも、咳反射は起こります。
それが、「痰」です。気道の粘膜は、粘膜を潤わせるための粘液と、繊毛という毛で覆われており、それらがすでに体内に入ってしまったウイルスや細菌を絡め取り、繊毛が体外へ排出しようと動くのです。
このように、繊毛の働きと咳反射によって、痰となってウイルスなどが体外へ排出されています。
咳反射の重要性
ウイルスや細菌が体内へ侵入しようとしたとき、あるいはすでにウイルスなどが入り込んでしまったとき以外にも、咳が出ることがあります。
それは、食べ物や唾液、飲み物などが誤って気管に入ってしまったときです。皆さんも一度は経験があるのではないでしょうか。一般的には「むせる」という言葉で表現されているのは、ご存知のとおりです。
身体に害を及ぼすものとは考えづらい食べ物や唾液でも、咳反射が生じるのには、理由があります。実は、こういった「誤嚥」は、気管や気管支に異物が溜まるため、肺炎を招く可能性があるのです。
咳反射が正常に機能する場合には問題ないのですが、高齢者などは嚥下機能が低下し、正常な咳反射ができないケースもあります。
とくに、高齢者によく見られる脳血管障害になると、約3割の確率でこのような嚥下機能の低下による誤嚥が起こると言われており、そこから肺炎などの感染症になるケースが非常に多いようです。
咳嗽は、体力を使うため、苦しい症状ではありますが、同時に私たちの生命維持には必要不可欠な反射運動であるとも言えるでしょう。その証拠に、嚥下機能および咳反射の低下が見られる場合には、それらを改善するための咳嗽訓練というのを取り入れることがあると言われています。
本来ならば、意識せずとも出てくる咳を、自発的に行う訓練をするのです。身体の防御反応を回復させるため、このような訓練を何度も繰り返し行うのは、それだけ咳反射が身体にとって大切なものだからだと言えるのではないでしょうか。
咳嗽の種類
風邪をひくと、コンコンと咳が出ます。呼吸がしづらくなるほど激しいこともあれば、時々出る程度というものもあるでしょう。
咳嗽にもいろいろな種類があり、大きく分けると「乾性咳嗽」と「湿性咳嗽」の二つに分けられます。前者の場合、空咳のような乾いた咳を示し、後者の場合においては、痰が絡まるような咳を示します。
そのほかにも、咳が出る期間や原因によって、咳嗽は以下のように分類されています。
急性咳嗽
これは、風邪やインフルエンザ、あるいは急性気管支炎などを発症したときに見られる咳のことを示します。私たちが一度は経験したことのあるタイプの咳嗽にあたるのではないでしょうか。
急性咳嗽の場合、咳が続くのは、約3週間未満だと言われています。しかし、こういった症状が、重症度の高い疾患の初期症状として現れることもあるので、普通の風邪とは違うと感じる場合には、病院で胸部レントゲンを撮って検査することをおすすめします。
危険度の高い咳嗽については、後ほどご紹介いたしますので、そちらをご覧下さい。
遷延性咳嗽
これは、アトピー咳嗽、咳喘息、慢性気管支炎、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症などで生じることの多いタイプの咳嗽です。咳が3週間以上継続して出る場合には、これらの可能性が考えられます。
また、そのほかにも、マイコプラズマや百日咳、肺炎クラミジアといった感染症を患った際にも、遷延性の咳嗽が見られるので要注意です。
慢性咳嗽
これも、遷延性咳嗽と同様の疾患が原因となって生じますが、咳が8週間以上継続して出るタイプの咳嗽です。しかし、ここまで長い期間に渡って咳が出る場合は、重たい病気のサインとなっている場合もあるので、自己判断で放置しておくのは危険です。
心因性咳嗽
病院で様々な検査を受け、どこにも異常が見られなかったにも関わらず、咳が長期に渡って出る場合は、心因性の可能性があります。何らかの精神的なストレスが原因となって、継続的に咳が出るケースです。
この場合は、何よりもまず、ストレスの原因を取り除くことが大切です。検査をしても異常が見られない場合は、最近のできごとや生活習慣を振り返り、精神的に苦痛を伴ったり、我慢をしている状態が続いていないかなどを確認してみましょう。
薬剤性咳嗽
これは、内服した薬の副作用として咳が出るケースです。高血圧の治療薬として知られている「ACE阻害薬」などが、副作用として咳が生じる代表的な薬としてあげられます。
この場合は、治療すべき疾患があるため、容易に薬を中断することは難しいですので、担当医に相談することをおすすめします。
危険な咳嗽
命に関わる危険な病気のサインとして、咳が出ることもあります。とくに、ストレスや慢性的な疲れによって免疫力が低下しているときや、高齢者の場合には注意が必要です。
ここでは、咳を症状として伴う、危険な疾患についてご紹介いたします。
肺炎
肺炎は高齢者によく見られる疾患として知られていますが、インフルエンザなどの合併症として発症することもあります。
先に述べたような誤嚥や、免疫力の低下によって体内に入り込んできた菌が、肺にまで到達し、感染することが原因となって生じます。一年中発症する可能性はありますが、なかでも空気が乾燥する冬は、ウイルスが活発になるので患者数も増えるようです。
症状としては、
- 発熱(発熱が長引く)
- 黄色や緑色の痰
- 息苦しさ
- 全身の倦怠感
などがあげられます。また、肺炎には、細菌が原因となって生じるほかに、アレルギー性のものや薬剤性のものもあげられます。いずれの場合においても、早急な治療が必要ですので、長引く咳に加えて、以上のような症状がある場合には、病院を受診しましょう。
結核
現代では結核にかかる人はそうそういないと思っている人も多いかもしれませんが、医療の発達した今でも、約2万人もの患者が存在し、結核による死亡者数は2千人にも昇ると言われています。
そして、何より厄介なのは、結核は人から人へ感染する可能性の高い病気であるということです。主に高齢者によく見られますが、肺炎同様、抵抗力の落ちている人にも感染する可能性は十分に考えられます。
結核菌に感染することによって生じる病気ですが、初期症状が風邪にも似ているため、判断が困難なこともあるようです。結核の症状としては、
- 全身の倦怠感
- 咳
- 発熱
- 痰、あるいは血痰
- 体重減少
- 食欲低下
- 寝汗
といった症状が見られます。とくに、肺炎の場合においても言えることですが、咳とともに痰を伴うときには、痰の色を確認するようにしておきましょう。そうすることで、危険な病気か否かという大凡の判断は可能です。
肺がん
現在、日本人の2人に1人はがんを患っていることに加え、国内での死因の1位ががんによるものだと言われています。
さらに、がんの中でも最も罹患率が高いのが、肺がんです。肺胞細胞が何らかの原因でがん化し、進行するとともに周囲の組織をも破壊する恐ろしい病気です。
症状としては、
- 咳
- 呼吸困難
- 胸部の痛み
- 痰、あるいは血痰
- 体重減少
- 全身の倦怠感
などがあげられます。しかし、初期の場合においては、痰を伴わない乾いた咳が出ることが多く、風邪などのほかの病気と見分けがつきにくいため、がんの発見を遅らせてしまうこともあるようです。
また、風邪やインフルエンザの場合は、細菌が体内から排出され、体力が回復すると、咳は自然に治まりますが、肺がんの場合は、一向に治まらないという特徴もあります。
とくに、1ヶ月以上咳が続いているという場合には、早急に病院を受診するようにしてください。
肺がんについては、肺がんの初期症状をチェック!咳や背中の痛みに要注意!を読んでおきましょう。
心疾患
がんに次いで多い死因としてあげられるのが、心不全や心筋梗塞などの心疾患です。
心筋症や弁膜症などの心不全を起こすと、心臓の働きが低下するため、全身へ十分な血液を送ることができなくなってしまいます。すると、血圧の上昇や肝臓肥大、静脈血栓などが生じ、身体にとっては非常に重大なトラブルを引き起こすのです。
一方、心筋梗塞は、冠動脈と呼ばれる太い血管が動脈硬化や血栓によって、閉塞あるいは狭まることで、血流を滞らせたり、止めたりしてしまう病気です。いずれの場合においても、心疾患は命に関わる病気であるため、一刻も速い治療が必要です。
これらの心疾患の症状は、
- 呼吸困難
- 胸の痛み
- 食欲低下
- 痰
- 咳
などの症状が見られます。また、心不全の場合には、痰に血液が交じることもあるため、ピンク色の痰が出ることがあるようです。
心筋梗塞については、心筋梗塞の前兆は?症状を知って適切な処置を!
心不全については、心不全の原因って?引き金となる病気を知っておこう!
それぞれ参考にしてください。
喘息
環境汚染やアレルゲン物質の増加に伴い、現在発症率が増加傾向にあると言われているのが、喘息です。そのまま放置しておくと、症状が悪化し、呼吸困難で死亡する可能性もあるので、適切な処置を行う必要があります。
喘息の症状は、人によって異なると言われていますが、代表的なものとして、以下のような症状があげられます。
- 「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という呼吸音が聞こえる(喘鳴)
- 咳
- 息苦しさ
- 運動後に呼吸が苦しくなる
以上のような症状のほかにも、
- 夜間あるいは早朝に症状が出やすい
- 気温差が激しいときに症状が出やすい
- 疲労時に症状が出やすい
- 風邪をひくと症状が悪化する
- タバコや線香などの煙や、強い香りを嗅ぐと症状が出やすい
などの特徴も見られます。とくに、喘鳴は喘息の最も特徴的な症状であるとも言えるので、喘鳴が見られる場合には、病院を受診することをおすすめします。
詳しくは、喘息が大人に現れた時の症状とは?対処法や原因を紹介!を読んでおきましょう。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)
これは、主に喫煙が原因となって生じる慢性気管支炎や肺気腫の総称として知られている病気です。
喫煙することで気道や肺に炎症が起こり、酸素を取り込みにくくなってしまうのです。症状としては、
- 咳
- 痰
- 息切れ
といった症状が特徴です。喫煙が原因と言うと、なぜかそのまま放置してしまう人が多くいるようですが、COPDは死亡する可能性もある病気で、年々増加傾向にあることが判明しています。
喫煙者で、これらの症状が見られる場合は、手遅れになる前に一度検査をしてもらいましょう。詳しくは、copdとは!症状や原因、進行具合を知ろう!治療法はあるの?を参考にしてください!
咳嗽を予防しよう
咳を一度することによって消費されるカロリーは、約2kcalとも言われるほど、体力を消耗します。私たちの身体を守ってくれるためのありがたい反応であることに間違いはありませんが、事前にこれらを予防することも大切です。
ここでは、つらい咳嗽を予防するための方法をご紹介いたします。
手洗い、うがいを習慣づける
どうしてもいい加減になりがちだという人も多いかもしれませんが、やはり、私たちが小さな頃から言われている「手洗い、うがい」は、風邪やインフルエンザなどの感染症の予防に効果的です。
手洗いはするけど、うがいはしないという人もいるようですが、直接喉粘膜にアプローチできる貴重で効果的な方法なので、ぜひ、おすすめします。
菌を洗い流すという効果のみではなく、喉を加湿したり、口臭や口内炎の予防にもつながります。
部屋を乾燥させない
ウイルスや細菌は、乾燥した空気を好みます。冬にインフルエンザや風邪が流行するのはこのためです。また、夏でも、エアコンによって部屋が乾燥する場合もありますので、加湿器やマスクを装着するなどして、喉粘膜を乾燥から守りましょう。
最近は、リーズナブルで可愛らしい加湿機もあるので、お気に入りのものを探してみるのも良いかもしれません。
掃除をこまめに行う
ほこりやハウスダストなども咳嗽の原因となるのは、ここまでご紹介してきたとおりです。定期的に換気をしたり、掃除をこまめに行って、部屋を清潔に保つよう心がけましょう。
また、それに加えて、空気清浄機などを併用するとより効果的です。
禁煙する
これは喫煙者に該当するものですが、タバコは肺や喉粘膜にも悪影響を及ぼします。さらに、自分だけではなく周りにいる人まで、受動喫煙の害に巻き込んでしまいます。
タバコの増税や、喫煙可の飲食店などが減少するに伴い、禁煙に関する本やグッズもたくさん出ているようです。
現在、咳嗽の症状が出ていない人も、すでに出てしまっている人も、今からすぐにでも禁煙する価値は大いにあります。自分一人で禁煙する勇気がないという人は、禁煙外来に行って専門医のアドバイスをもらいながら行うのも良いでしょう。
飲み物は温かいものを!
気温の上がる夏場には、どうしても冷たい飲み物をゴクゴク飲みたくなりますが、これは身体を冷やすだけではなく、喉粘膜も同時に冷やしてしまいます。
身体が冷えると、免疫力が低下するため、細菌やウイルスに感染しやすくなり、また、喉粘膜を冷やすことで、咳が出やすくなってしまいます。
飲み物は、常温か、温かいものを飲むように気をつけることで、身体の免疫力も向上します。お気に入りのお茶やハーブティーを探してみてはいかがでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか。通常、咳嗽は、身体が回復するにつれて自然と治まるものです。先にもお伝えしましたが、3週間以上、長くても1ヶ月以上咳が続く場合には、何らかの病気の症状として現れている可能性もありますので、早めに病院を受診してください。
また、風邪などで咳が出ているピーク時には、マスクをしたり、タートルネックやマフラーなどで首周りを温かくすると、少し楽になりますので、よろしければ、ぜひお試し下さい。