腫瘍マーカーという言葉を耳にしたことがありますか?癌家系の方や癌治療をされている方には親しみのある言葉かもしれません。腫瘍マーカーとは癌を検査する為の血液検査です。この検査方法を用いて癌検査をした結果、腫瘍マーカーが上昇していて癌の疑いがあると言われたにも関らず、精密検査では癌が見つからなかったという話も多くあります。
しかし、疑いをかけられた後に、やっぱり癌ではないですよといわれたとしても、気分はスッキリせずに、不安な気持ちになる方も多いと思います。そんな風に長い間気分が落ち込んだ状態にならない為にも、この腫瘍マーカーがどのような役割をしているのか、どの程度の信憑性なのか、きちんとした認識が必要です。
今回、この腫瘍マーカーの役割や検査方法について詳しくご紹介します。
腫瘍マーカーについて
ここでは腫瘍マーカーの概要と役割についてご紹介します。
腫瘍マーカーとは?
腫瘍マーカーとは、血液検査の1つの項目であり、悪性腫瘍(癌)を発見するのに補助的な役割として、利用されています。まず、腫瘍は体の中で突然、細胞が異常な数に分裂を起こし、固まってしまうことで出来ます。そしてこの腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍と呼ばれる2つの種類が存在します。
大きな違いとしては、悪性腫瘍の場合は他の場所に転移する可能性があるということです。体内にこれらの腫瘍が出来始めると、たんぱくや酵素、ホルモンが異常に増えたり、健康なときには見られないような特殊な物質を腫瘍が作り出し、これらが血液中に流れます。この特殊な物質を腫瘍マーカーと呼び、採血してこれらの数値の異常や種類によって、癌発見の手がかりにすることが出来ます。
この数値が上昇していると聞くと、不安になる方も多いと思いますが、医療内ではこの数値はあくまでも参考程度にしか捉えていません。この数値は、健康な状態でも基準値を超えることや良性の腫瘍でも反応を示す可能性があるということは認識しておく必要があります。
この検査方法での結果は、完璧に癌が発見されたということは言えずに、あくまで手がかりとなる補助的な検査方法の1つです。実際にこの検査を通して疑いがかかったとしても、精密検査をしてみると癌が見当たらない、異常がみられないということもあります。
また、その逆で陰性の結果がでたとしても、その他の検査から癌が発見されたということも起きます。その為、あくまで補助的な役割として検査に用いられていたり、癌を治療されている方の経過観察の役割として位置しています。
腫瘍マーカーの主な役割
現在、主な役割としては3つあります。しかし、腫瘍マーカーは早期発見や再発発見時のような新しい癌にはあまり有効でなく、進行している癌に対して有効と言われています。その為、進行している癌の治療の経過観察に使われているのが現時点では一番有効な役割だと考えられています。
1、癌の早期発見
多くの腫瘍マーカーは、早期の段階では基準を上昇させるような特殊な物質を作り出さず、血液中にあらわれないことから、早期発見することは難しいです。その為、現状は補助的な検査として位置づけられていて、数値は参考程度に捉えられています。
多くの腫瘍マーカーは早期発見が難しいと言われている中、PSAと呼ばれている腫瘍マーカーは、前立腺がんの早期発見に役立っていると考えられています。
2、再発時の発見に利用する
悪性癌の治療を終えて、再発していないどうかを検査する際、再発時の発見方法の1つとして用いられています。このような時に腫瘍マーカーが異常値をきたすことはよく起こり、実際に精密検査を受けてみると、癌が見当たらないということがよく発生しているといわれています。
その為、この場合にもあくまで疑いと手ががりをさぐる検査の補助的なものとして位置づいており、正確さに関しては欠けます。一度癌を患ったことのある方は、このような結果に関して神経質になりやすいと思いますが、健康な状態でも腫瘍マーカーの数値や種類が増加する場合があることは覚えておきましょう。
3、抗がん剤治療や放射線治療の効果を確認する為
既に癌が発見されている方で、抗がん剤治療や放射線治療を受けられている方は、治療の経過観察の為に腫瘍マーカーは用いられています。抗がん剤や放射線治療が効果を示しているかどうかを確認する為、腫瘍マーカーの種類や数値が下がっているかなどを確認します。
腫瘍マーカーの検査方法と基準値
腫瘍マーカーの検査方法と代表的な腫瘍マーカーの12種類の基準値と特徴をご紹介します。
腫瘍マーカーの検査方法
採血することで簡単に腫瘍マーカーを確認することが出来ます。まずは、採取した血液にモノクロール抗体という薬品を加えます。この薬品が血液中にある腫瘍マーカーと結合するので、その量がどのくらいあるかを検査します。また、血液だけでなく、尿や膣分泌液などからも採取する場合もあります。
この腫瘍マーカーのみの結果で癌かどうかを判断することは出来ません。この数値を参考にしながら、超音波検査やCT、MRI、PET、血管造影などの様々な検査を通して総合的に癌検査の確定が行われます。
腫瘍マーカーの検査方法と基準値
代表的な12種類の腫瘍マーカーの基準値と特徴をご紹介します。この基準値は、健康者と癌患者の多くの被験者での平均値をもって基準が決められています。しかし、癌がないのにも関らず、健康の方でも数値が増える場合や、癌があるにも関らず増えない方もいるので、数値はあくまでも参考程度に見ています。
■AFP(基準値10.0ng/ml以下)
主に、肝細胞の癌と関連が高い腫瘍マーカーです。肝臓がん以外にも、卵巣や精巣の胚細胞がんで数値が上昇傾向に向かいます。また、一部の方ではAFPが高くなる胃がんや慢性肝炎や肝硬変、妊娠などでもこの数値が増える可能性があります。
■CA15-3(基準値25.0U/ml以下)
乳がんと関連の高い腫瘍マーカーです。その為、乳がんの治療の経過観察や治療効果の確認として取り入れられています。
■CA19-9(基準値37.0U/ml以下)
消化器官のがんと関連の高い腫瘍マーカーです。特に、膵臓がん、胆道、胃、大腸のがんなどが数値を上昇させる傾向にあります。
■CA125(基準値35.0U/ml以下)
卵巣がん、子宮がんと関連の高い腫瘍マーカーです。また、子宮がん以外にも、膵臓、胃、大腸などのがんでも数値を上昇させる傾向にあります。一部の方では子宮内膜症、月経、妊娠、肝硬変、膵炎などでも増える可能性があります。
■CEA(基準値5.0ng/ml以下)
大腸がんや消化器官のがんと関連の高い腫瘍マーカーです。また、大腸がんや消化器官のがん以外にも、肺、卵巣、乳がんなどで増える傾向があります。一部の方では喫煙や炎症性疾患、肝硬変、糖尿病などでもこの数値を上昇させる可能性があります。
■CYFRA(基準値3.5ng/ml以下)
扁平上皮がんと関連の高い腫瘍マーカーです。肺の扁平上皮がんや頭頚部腫瘍の治療の経過観察や治療効果の確認として利用されています。
■NSE(基準値10.0ng/ml以下)
肺の小細胞がんや神経芽細胞腫と関連の高い腫瘍マーカーです。この腫瘍マーカーは神経組織や神経内分泌細胞に現れる物質です。
■PIVKA-Ⅱ(基準値40.0mAU/ml以下)
主に、肝細胞の癌と関連が高い腫瘍マーカーです。先ほど紹介した、AFPの数値も肝細胞の癌と関連が高い為、2つの数値を確認して、肝臓がんの疑いを持ったり、治療の経過観察や治療効果の確認として利用しています。
■ProGRP(基準値 46.0pg/ml未満)
肺の小細胞がんと関連が高い腫瘍マーカーです。癌の治療の経過観察や治療効果の確認として利用されています。
■PSA(基準値4.0ng/ml未満)
前立腺のがんと関連が高い腫瘍マーカーです。癌の治療の経過観察や治療効果の確認として利用されています。その他にも、前立腺炎や前立腺肥大でも増える可能性があります。
■SCC(基準値1.5mg/ml以下)
肺、食道、子宮頚部の扁平上皮がんと関連が高い腫瘍マーカーです。一部の方で皮膚の病気でこの物質が増える可能性があります。
■SLX(基準値38.0U/ml以下)
肺がんと関連が高い腫瘍マーカーです。この腫瘍マーカーは比較的に信憑性が高いもので、誤って陽性と判断されることは少ないといわれています。
■I-CTP(基準値4.5ng/ml未満)
癌が骨に転移する転移性骨腫瘍と関連が高い腫瘍マーカーです。骨の成分を分解する際に、作られる特殊な物質で、治療の経過観察や治療効果の確認として利用されています。
癌の検査方法
腫瘍マーカーだけでは癌の早期発見は難しいということをお伝えしました。特に癌の患者数が家系に多い方などは、将来癌になるのではと心配されている方も多いと思います。
癌の早期発見をするには、癌検診を定期的に行い、様々な角度から検査を行い総合的に判断されることをおススメします。ここでは癌の検診方法についてご紹介します。
癌検診は、住民検診、職場での検診、人間ドッグなどで行うことが出来ます。
住民検診
住民検診では、胃、肺、大腸、乳房、子宮など比較的に癌が発生しやすいような場所に絞って、癌検査を行っています。
職場での検診
職場での健診でも住民検診同様に比較的に癌が発生しやすいような場所に絞って、癌検診を行っています。尿検査、便検査、血液検査、触診、喀痰、膣分泌液の細胞診、各臓器のX線検査、超音波検査などを通して癌の検査を行っています。
人間ドッグ
人間ドッグでも同様に、比較的に癌が発生しやすいような場所に絞って、癌検診を行っています。職場での検診と同様の検査方法に加えて、内視鏡、マンモグラフィー(乳房X線)、注腸X線、腫瘍マーカーなどを取り入れて様々な角度から検査を行っています。また、肝臓や腎臓、前立腺といった項目も癌検査に含まれている場合もあります。
上記でご紹介したような、これらの癌検査を通して早期発見することは可能ですが、検査項目からも分かるように、全ての箇所を検診しているわけではありません。その為、癌にかかったことのある患者さんが多い家系の方は、どこの部分の癌が多かったか確認して、必要であれば検査する項目を追加するといいと思います。
このような検診を受けた後に、がんが疑われるようであれば、再検査やCT、MRI、PETなどを使って癌を発見する為の精密検査を受ける流れになります。
まとめ
癌の早期発見や癌の治療の経過観察の為に利用されている、腫瘍マーカーですが、検査での数値が比較的に高いからといって、過度に不安になる必要はありません。
この腫瘍マーカーは検査の1つの手段として用いられておりますが、癌かどうかを判断するには他にも様々な検査を受けて総合的に判断する必要があります。
この検査では健康な方でも数値が上昇したり、また初期の癌では数値がでないことも頻繁に起こることを念頭におき、癌の疑いがある場合は精密検査を受けましょう。