私たちが全身を休めている睡眠時、あるいは身体を動さずボーッとしているときも含め、どんなときでも、常に体内では心臓が脈を打ち、血液が流れ、呼吸をしています。人間が生きているのは、身体の様々な機能が、常に正常に働いている証なのです。
このように、「生命」=「Vital」が、正常に維持されていることを確認するための情報として、「バイタルサイン」というものがあります。病院で受診する際などに、「バイタルチェック」という医師の言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか?
また、看護学校でも、バイタルサインは医療の基礎として最初に学ぶものです。そこで、ここではバイタルサインとはどのようなものなのか、確認すべきサインの種類や測定方法などについて、ご紹介いたします。
バイタルサインからわかること
バイタルサインとは、冒頭で述べた「心臓が脈を打ち、血液が流れ、呼吸をしている」といった体内の環境を、『血圧』『脈拍』『呼吸』『体温』の4つに加え、必要に応じて『意識レベル』を合わせた、5つの測定値のことを示します。
バイタルサインが、基準値を著しく下回っていないか、あるいは上回っていないかなどを確認することで、その人の健康状態を把握することができます。
では、これらのバイタルサインを確認することで、体内のどのようなことを知ることができるのか、見ていきましょう。
血圧
血圧は、血液が血管内を流れるときに生じる圧力のことを示しますが、血管の種類によって、動脈圧、静脈圧、毛細血管圧の3種類に分類されます。バイタルサインとして確認するのは、このうちの動脈圧で、心臓から動脈へ血液が流れるときに、血管内に生じる圧力を測定します。
ご存知のように、血圧には「上が120で、下が90」などと言われるように、二つの値があります。
これは、血液を全身に送り出す際に、心臓が収縮したときの「最高血圧=収縮期血圧」(「上」と呼ばれる測定値)と、心臓が弛緩した状態に生じる「最低血圧=弛緩期血圧」(「下」と呼ばれる測定値)があるためです。
血圧は、自律神経やホルモン、体液のバランスや生活環境などに密接に関係しています。そのため、血圧値を確認することで、
- 血液量
- 血管の硬さ、柔軟性
- 自律神経の働き
- 内分泌液のバランス
- 心臓のポンプとしての力の強弱
などを知ることができます。何らかの原因によって体内の血液量が低下したり、血管が拡張されると血圧が低下します。血圧の急激な低下は、ショック状態を招き、命に関わります。
一方、緊張することによって自律神経が乱れたり、血管壁が硬くなる動脈硬化を起こすと、血圧は上昇し、ひどい場合には脳出血を招く危険性があるのです。
脈拍
脈拍とは、血液を全身に送り出すために、心臓が収縮した際に生じる、動脈内の圧力の変化(拍動の波)が、皮下に伝わったものを示します。手首に指をあてて脈拍を測定する姿は、小さな頃から健康診断などでも馴染みが深いため、多くの人が知っているのではないでしょうか。
脈拍数や、脈拍のリズム、拍動の強弱を確認することで、
- 甲状腺の異常、心不全などの有無(頻脈)
- 脳障害や重度の心疾患などの有無(徐脈)
- 不整脈の有無
- 血圧(最高血圧と拍動の強さが関係する)
- 大動脈疾患の有無(動脈派の立ち上がりの速さが関係する)
- 動脈硬化度(硬脈)
などを知ることができます。このように、正常な脈拍数、および自分の脈拍数を確認することで、様々な疾患の早期発見や健康維持にもつながるのです。
呼吸
呼吸は、私たちが生きていくためには欠かせない、酸素を体内に取り入れ、二酸化炭素を体外へ排出させる循環機能の一つです。胸式呼吸や腹式呼吸などの種類がありますが、いずれの場合においても、空気を肺に送り込んでいることに変わりはありません。
呼吸数や、呼吸の深さ、あるいは聴診器などを胸に当てて聞こえる「呼吸音」などを確認することで、
- 脳血管障害や脳炎などの脳疾患の有無や、心臓・肺疾患の重症度(呼吸パターンの異常)
- 喘息の有無や、糖尿性昏睡の状態(呼吸音が関係する)
- 自律神経の乱れや興奮度(呼吸数が関係する)
などを知ることができます。とくに、意識障害がある場合は、呼吸の有無のみではなく、呼吸音を調べることが大切です。
体温
生きているということは、「身体が温かい」ということです。体温が低すぎても、高すぎても体内の機能を正常に働かせることができません。体温は、
- 体内の機能を働かせるための基本的なエネルギーである「基礎代謝」
- 運動などをして筋肉を動かすことによって生じる「運動代謝」
- 古い細胞が新しく生まれ変わる「新陳代謝」
以上の3つが関係しています。また、体温が34℃以下、40℃以上で細胞が、41℃以上になると中枢神経細胞の働きに異常が生じるとも言われています。
体温を測定することで、
- 感染症の有無(高体温)
- 血圧上昇や不整脈の有無(高体温)
- 脳出血の有無(高体温)
- 血圧低下や不整脈の有無(低体温)
などを知ることができます。最近は、平熱が低い人も多いと言われています。普段から自分の平熱がどのくらいなのかを把握しておくと、体調が優れないときや、不調を感じた際に、体内で起きている変化を把握し、適切な判断をする助けになることでしょう。
意識
意識がはっきりとしている場合には必要ありませんが、意識が朦朧としていたり、完全に意識を失っているときには、「意識レベル」を確認する必要があります。
日本で用いられている意識レベルの段階には、JCS(ジャパン・コーマ・スケール)と呼ばれる評価を基準にして、調べます。
意識レベルによって、重症度や、生命の危険度などを判断することが可能です。
それぞれのバイタルサインの正常値を知ろう
それでは、バイタルサインの正常値はどのくらいなのでしょうか。ここでは、『意識』を除く、『血圧』『脈拍』『呼吸』『体温』の4つの正常値について、見ていきましょう。
血圧
日本高血圧学会というところが提唱している、血圧の正常値は、130(最高血圧)/85(最低血圧)mmHgとしていますが、これは年代・性別などを区別していない、一律の正常値として出されているものです。
しかし、血圧は、年齢や性別によって若干異なるようです。正常値は以下のとおりです。
<男性> <女性>
- 30代: 124/79 114/71
- 40代: 130/84 123/77
- 50代: 138/86 133/81
- 60代: 142/84 140/82
- 70代: 146/80 145/79
最高血圧が140mmHg以上、最低血圧が90mmHg以上で高血圧の対象となり、最高血圧が100mmHg以下、最低血圧が60mmHg以下で低血圧の対象となります。
脈拍
脈拍の正常値は、およそ50回~100回と言われており、それを下回る場合、あるいは上回る場合、何らかの疾患および異常があると考えらています。脈拍の正常値の詳細は、以下のとおりです。
- 新生児:130~140回/分
- 乳児:120~130回/分
- 学童児:80~90回/分
- 思春期:70~80回/分
- 成人:60~80回/分
- 老人:60~70回/分
スポーツをしている人などは、正常値を下回ることが多く、水泳選手などの場合、45回を下回ることもあるようです。これは普段のトレーニングから、心臓が鍛えられていることが関係しています。
呼吸
呼吸の正常値は、以下のとおりです。
- 新生児:40~50回/分
- 乳児:30~40回/分
- 幼児:20~35回/分
- 学童期:20~25回/分
- 成人:15~20回/分
体温
体温は個人差に加え、年齢やそのときの行動によって、それぞれ異なります。最も体温が低くなるのは、午前4時~6時、逆に体温が最も高くなるのは午後2時~7時頃だと言われています。
小さな子供は、大人に比べて体温が高い傾向がありますが、大体36℃~37℃間が、正常値だと言われています。
バイタルサインを確認する方法
それでは、実際にバイタルサインを測るには、どのように行うのでしょうか。それぞれのバイタルチェックの方法について、見ていきましょう。
血圧の測定法
医療でよく行われている血圧測定では、上腕部に「マンシェット」と呼ばれる帯を巻き、肘の動脈が触れる部分に聴診器をあてて空気ポンプで加圧後、血管音を聞く「悲観血的血圧測定法」と呼ばれる方法が用いられています。
マンシェットの圧力を下げ、血管音が聞こえ始めたときが最高血圧、血管音が消えたときのメモリを最低血圧として測定します。
しかし、最近では、正確さには欠けるものの、かなり高精度の電子血圧測定器が販売されているため、家庭でも手軽に血圧を測定することができます。
血圧を測定するときには、以下の点に注意しましょう。
- 測定器は水平な場所に置く
- 寒い部屋では測定しない
- 座位または仰臥位の状態で測定する
- 上腕部がしっかりと出ているか、衣服による腕の締めつけがないかを確認する
- 安静時に測定する
以上のような点に気をつけて測定しましょう。
脈拍の測定法
脈拍は、橈骨動脈と呼ばれる、手の人差し指と手首の関節を結んだあたりに触れる動脈に、反対側の人差し指と中指の二本指をあてて測定します。しかし、脈が触れにくい場合は、頚動脈や大腿動脈で測定することもあるようです。
また、測定中に以下のような脈拍が見られた場合には、何らかの疾患、あるいは異常がある可能性があります。
- 頻脈:100回/分以上の脈拍がある
- 徐脈:60回/分以下の脈拍である
- 速脈:突然大きく脈拍を打つ
- 遅脈:脈拍がゆっくりと打つ
- 硬脈:弾力がなく、拍動がこわばったように動く
- 軟脈:手応えがない感じの、柔らかな拍動
- 不整脈:脈拍のリズムが一定ではない
- 結代:脈拍が一定のリズムのうち、1拍あるいは2拍抜けている
このような異常が見られた場合には、精密検査を受ける必要があります。
呼吸の測定法
呼吸の有無や数、リズムに加え、聴診器を使用して呼吸音を調べます。病院では、これに加え、心電図やパルスオキシメーターと呼ばれるモニタリングを使用して測定します。このとき、以下のような呼吸が見られた場合は、何らかの疾患、あるいは異常がある可能性があります。
- 頻呼吸:25回/分以上呼吸があり、呼吸が浅い
- 除呼吸:12回/分以下しか呼吸がなく、呼吸が深い
- 小呼吸:呼吸数が少なく、呼吸が浅い
- 過呼吸:呼吸数が多く、換気が過剰に行われている
- チェーンストーク呼吸:呼吸のない状態と、速くて深い呼吸を繰り返す
- 努力性呼吸:肩を動かしたり、顎を突き出した状態で呼吸している
- 睡眠時無呼吸:睡眠時、一定の無呼吸の時間がある。いびきを併発している
胸の動きや、呼吸している姿勢にも注目して、測定しましょう。
体温の測定法
先にも述べたように、体温は時間によって上下しますので、自分の平熱を知るために測定する際には、いつも決まった時間に測定しましょう。
まず、体温を測るときは、運動直後や食後などを避け、安静な状態で測定します。
腋窩(えきか=脇の下)で測るときは、体温計の測定部を、脇のくぼみの中央にあたるようにあて、腕を降ろし、体温計をしっかりと挟んで測定します。
口腔で測定する場合には、舌下部中央に測定部が当たるようにして口を閉じます。
測定中は動かず、静かな状態で測定するのが基本です。
意識レベルの確認法
意識が朦朧としている場合や、意識がない場合は、意識レベルを確認します。
- 意識の有無を調べる(声を欠ける)
- 反応がない場合は、皮膚を強くつねって反応の有無を確かめる
- 名前や住所などを問いかける
あくまでも、安易に身体を起こしたり、揺さぶったりしないように注意しましょう。JCSによる意識レベルの基準は以下のとおりです。
<Ⅰ>
- 意識はあるものの、朦朧としている(1)
- 場所や人の名前などが不明になる(2)
- 自分の名前や生年月日が不明になる(3)
<Ⅱ>
- 呼びかけると目を開くが、言葉の間違いは多い(10)
- 大きな声で呼んだり、身体を刺激すると目を開く(20)
- つねったり、何度も呼ぶとやっと目を開く(30)
<Ⅲ>
- 強くつねると払いのけようとする(100)
- 強くつねっても顔をしかめたり、手足を動かすのみ(200)
- 強くつねっても反応しない(300)
以上の項目を見ながら、当てはまる項目の点数(上記カッコ内に記した数字)が大きいほど、重度の意識障害であると判断します。
まとめ
いかがでしたでしょうか。自分の身体が健康な状態のときのバイタルサインを把握しておくことで、いざというときに役立つことがあります。
また、正常値だけではなく、異常があるときにどのような値になるのかということを、頭に入れておくことも大切です。