昨日の夜までなんともなかったのに、朝起きたら顔がパンパンに腫れあがっていた。こんな経験をすることは多くないと思いますが、知識があればパニックにならずに冷静に対処できます。ほとんどの場合、腫れは2~3日で治まります。
しかし、その腫れの中には危険を知らせるものもあります。そんな場合には、直ぐに専門病院を受診してください。どんな腫れなら放置してもよく、どんな腫れなら直ぐに治療が必要なのでしょうか?
そもそも腫れって何?腫れの種類について
身体が腫れる原因は様々です。ケガや虫刺されなどの外傷、体内の水分が過剰になるむくみ(浮腫)、ホルモン異常、アレルギー反応などが代表的なものです。
今回は特に、「顔」に焦点を当てて、顔が腫れる可能性のある病気や症状についてみていきましょう。
むくみ(浮腫)とは?
何らかの原因で、体内の水分が皮下に留まってしまうことです。一時的なむくみは、健康な方でも起きることで病気ではありません。しかし、むくみ続けるのは、何かしら身体に異常が起きていると考えます。このような病的なむくみを、医学用語では「浮腫」と呼びます。
浮腫には、全身がむくむ「全身性浮腫」と特定の部分がむくむ「局所性浮腫」の2種類があります。その中で、特に顔がむくむ原因となる浮腫は2種類あります。
リンパ浮腫
リンパの流れが悪くなることで、水分やタンパク質などが排出されずに皮下に留まってしまいます。顔周辺にあるリンパの流れが悪くなると、顔がむくんでしまいます。リンパの流れを改善することでむくみは解消します。
クインケ浮腫(血管性浮腫)
突発的で部分的な血管性の浮腫です。数時間で明らかに腫れがわかる状態になり、長くても5日以内には完全に腫れが引きます。かゆみはなく、ヒリヒリとした痛みを感じることがあります。好発部位は、目の周り・口の周りです。
上気道に生じると、呼吸困難になる可能性もあるため注意が必要です。突発性の浮腫が皮膚上で発症すれば蕁麻疹、血管で発症すれば血管性浮腫となります。クインケ浮腫で代表的なものは以下の4種類です。
特発性血管性浮腫
全ての血管性浮腫の半数以上を占め、原因は不明です。再発も多く高い頻度で発症しますが、原因は分かっていませんので、治療はできません。
アレルギー性血管性浮腫
食品や薬剤などによって発症します。卵や乳製品、そばなどの食品アレルギーと抗生物質や解熱鎮痛剤などの薬による薬物アレルギーなどが原因となります。
物理的刺激による血管性浮腫
温熱、寒冷、日光、外傷、金属などの物理的な刺激によって発症します。皮膚上に発症する寒冷蕁麻疹などが有名ですが、血管にも発症します。
遺伝性血管性浮腫
免疫システムに生まれつき欠陥がある、非常にまれなケースです。近親者に同じ症状が見られる場合や高頻度で繰り返す場合に疑われます。国から難病指定されているので、医療費補助が受けられますので、かかりつけ医にご相談ください。
詳しくは、クインケ浮腫の症状とは?原因や治療法、予防法も紹介!を読んでおきましょう。
外傷による腫れ
外的要因による、体表組織の物理的な損傷によって炎症が起きます。損傷の程度や、どのような損傷かによって分類されます。
虫刺され(虫に噛みつかれた)
顔が虫に刺されている可能性もあります。蚊、虻、ダニ、蜂、ムカデなど虫の種類によって症状や腫れの度合いがかわります。典型的な症状としては、刺されて30分以内に患部が腫れあがり、がまんできない痛痒さを感じます。
特に顔周辺の皮膚は薄く、びっくりするくらい腫れ上がることがありますが、適切に処置をすれば痕も残らず、腫れも治まります。刺されたばかりであれば、流水で30分以上洗うことが効果的です。毒が水溶性でなくても、腫れを抑える効果があります。
かゆみが強い場合にかきむしってしまうと、そこから細菌が入り込んで蜂巣炎(後述参照)になることがあるので、症状がひどい場合は早めに受診することをお勧めします。
打撲
顔や頭を打撲した場合、重要になるのは脳がダメージを受けているかどうかを確認することです。ろれつがまわらない、顔の片方だけがゆがんでいる、痙攣している、まっすぐに歩けないなどの症状がある場合には脳に障害がある可能性がありますので、すぐに救急車を呼んでください。打撲後数時間後に症状がでる場合もありますので、注意してください。
顔に出来た打撲症は、放置をしていると腫れあがる可能性が高いため、即座に冷やす事が重要です。氷や冷たいタオルで冷やす事により、腫れの症状を抑える事ができます。腫れがひどい場合には、病院で治療を受けてください。
酔っぱらっていて頭を打った事を覚えておらず、翌朝目が覚めなかった事例などもありますので、お酒の飲み過ぎには注意しましょう。
感染症の可能性
顔が腫れる可能性のある感染症で、代表的なものは2つあります。
虫歯
虫歯は、虫歯菌(ストレプトコッカス・ミュータンス)による感染症です。虫歯を治療せずに放置しておくと、菌が歯を溶かして顎の骨にまで達することがあります。
菌が、歯茎や顎骨で増殖すると膿が溜まります。この膿によって顔が腫れる場合と、菌による炎症で腫れあがる場合があります。どちらも歯医者での早急な治療が必要になります。
蜂巣炎
細菌による化膿性の炎症です。皮膚上の小さな傷などから細菌が体内に侵入して、真皮から皮下組織に渡って広がっていきます。
そして細胞の周りにある細胞間質を広範囲に融解、壊死させていきます。この蜂巣炎の90%以上は下肢で発症しますので、顔の周辺で発症することはあまりありません。患部が固く赤く広範囲で腫れることが特徴ですので、同様の症状が確認できたら速やかに受診することをお勧めします。
症状が進行すると、患部の激しい痛み、血圧の高熱などのショック症状を起こし生命の危険があります。
アレルギー反応
アレルギーを持つ食品を食べたり、毒のある生物に刺されたり噛まれたりした後で、顔が腫れることがあります。
合併症として、気道の腫れ、呼吸困難、蕁麻疹、不安・混乱、咳、鼻詰まり、低血圧などの症状があったら、すぐに専門機関で治療を受けてください。アレルギー反応により、呼吸や心拍が早まるなどのショック状態(アナフィラキシーショック)に陥り、呼吸停止や心肺停止が起こる可能性があります。
そばやピーナッツなどのアレルギーを持っている方は重症化しやすく、命に関わるため、アナフィラキシーショックを緩和する「エピペン」という自己注射薬を持っている可能性が高いです。
自己注射用ですが、同行者がショック状態に陥ってしまった際には迷わずに使用してください。針を太ももに刺して薬液を注入するだけでOKです。
クッシング症候群
何かしらの原因によって、体内のステロイドが過剰になることで起こる症状です。1:4で女性に多く発症します。
胴体や、背中の上部に脂肪がつきやすくなる「中心性肥満」、顔は赤ら顔で丸くふくらんだ特徴的な「満月様相貌」となり、顔が腫れているように見えます。筋肉が衰えるため、腕や足は細くなり、皮膚も薄くなります。
皮膚が薄くなることで、毛細血管が透けて皮膚がピンク色のまだら模様になったり、ぶつけた自覚がなくても、あざが簡単にできやすくなります。副腎では男性ホルモンの産生も行っているため、女性では体毛が濃くなる、頭髪が薄くなるなどの症状も現れます。高血圧や糖尿病といったステロイド過剰による起こる症状も、この病気に特徴的な症状です。
症状が進行してくると、免疫力が低下することにより感染症にかかりやすくなり(易感染性)、多くの合併症も発症するため命に関わります。原因は主に下記の2つと言われています。
医原性クッシング症
ステロイドの長期投与や過剰投与によって発症する事が知られています。もし、ステロイドを長期に渡って服用していたり、大量に服用している場合には、副作用の疑いがあります。
下垂体や副腎の腫瘍によるもの
クッシング病
ステロイドは、下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(以下、ACTH)の作用によって生産されます。ところが、下垂体に腫瘍ができるとACTHが過剰に分泌されることにより、ステロイドが過剰に分泌されます。それによって症状が現れます。
副腎性クッシング症候群
副腎に腫瘍ができることで、コルチゾール(ステロイドの1種)の産生が増強されます。コルチゾールは、血糖値の上昇、血圧の上昇、タンパク質の分解、脂質の分解や合成、免疫の抑制などの作用があり、分泌が過剰になることで糖尿病、高血圧、脂質代謝異常などの症状が現れます。
腫瘍
腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍があります。良性腫瘍は、それ自体は悪さをしませんが、できる場所によっては腫れてしまうことがあります。顔にできれば、腫れているように見えます。
悪性腫瘍とは、いわゆるガンです。なぜ悪性かというと、周辺の臓器へ広がっていく「浸潤」や、がん細胞が血流に乗って遠くの臓器へと「遠隔転移」を起こすからです。
顔にも起こりやすい、皮膚ガンの「メラノーマ」や「舌がん」などは悪性度が高く、早急な治療を行わないと命に関わります。いつもと違う顔の腫れに気がついたら、早めに病院で診察を受けてください。
まとめ
様々な「腫れ」の原因を見てきましたが、原因不明のものも数多くあります。原因が不明だと対処療法しかできず、根治することはできません。よって再発を繰り返してしまいます。「むくみ」を取るためには利尿剤を使用しますが、病気そのものが治るわけではありません。あくまでも、病気によって発症した「むくみ」に対処しただけです。
顔が腫れている事に気づいた時、水分やアルコールを摂り過ぎていないか?しょっぱい、味の濃い食事をしていないか?まずは水分と塩分の過剰摂取を疑ってみてください。塩分は水分と結びついて、体内に水分を溜めやすくします。その結果として「むくみ」がおこります。
また、虫にさされた、顔を打ったなどの、明らかな原因があるかどうかも確認が必要です。そして女性に限っては、ホルモンバランスが崩れると、顔がむくみやすくなることがあります。生理前、妊娠中、閉経前は特にバランスが崩れやすくなる傾向があります。
以上のような原因に心当たりがない場合には、病気の可能性があります。なるべく早く、適切な専門機関で受診してください。大きな病気が隠れていることもあります。
原因不明の症状は、ストレス状態が改善すると症状も改善する傾向にあるそうです。腫れないように気をつけたり、腫れを早く収めようとするとストレスが過剰にかかります。「なるようになるさ」と気を楽にすることが、一番の治療かもしれません。