白癬症ってご存知ですよね? そう、代表格が水虫の、かゆいアレです。では、体部白癬(たむし)のことはいかがでしょうか?
体部白癬は、足白癬(水虫)と同じように白癬菌が原因です。お父さんの足白癬が赤ちゃんの体に移って、赤ちゃんの体部白癬になってしまうこともあります。
体部白癬は大人でも子どもでも罹りますが、子どもの体部白癬は、家族からうつってしまったものがほとんどです。ここでは、体部白癬の症状や診断方法、見落とされない/誤診されないコツ、治療、うつさない/うつらないための工夫について詳しく解説します。
体部白癬とは?他の白癬は?
白癬は、皮膚に起こる真菌症の総称で、主な病原菌は皮膚糸状菌です。皮膚糸状菌には白癬菌属、小胞子菌属、表皮菌属がありますが、白癬菌属の感染でなくても皮膚糸状菌感染症のことを白癬または白癬症、皮膚糸状菌全体のことを習慣的に白癬菌と呼ぶことも多いです。
同じ白癬でも、部位によって名前が異なります。頭におこれば頭部白癬(しらくも)、爪におこれば爪白癬、足におこれば足白癬(水虫)、陰部におこれば股部白癬(いんきん)、そして、股以外の体におこれば体部白癬(たむし/ぜにたむし)となります。
皮膚糸状菌は、ケラチンを好み、ケラチンは皮膚の角質層他、爪、髪の毛、眉毛、など体表面のどこにでも存在します。このため、白癬は体のどこにでも発生します。
体部白癬(たむし/ぜにたむし)
白癬が股以外の体の皮膚におこれば体部白癬です。
どのような皮膚糸状菌でもおこりますが、Trichophyton rubrumによるものが最も多く、次にTrichophyton mentagrophytesが多いと言われています。
症状は、体部白癬のある部分のピンクのコイン型の皮疹です。正常に見える皮膚との辺縁は赤に近いピンクで少し盛り上がり、うろこ状だったり赤いポツポツがあったりします。苔のような落屑に覆われていることもあります。コイン状の中央部分は正常に見えることもあります。かゆみがあるのがほとんどですが、かゆみをあまり感じない人もいます。
体部白癬は、皮膚のどこにでもでき、自分自身の別の皮膚にも、他人の皮膚にも簡単に感染して広がります。もちろん、足白癬が体に感染して体部白癬になることもあります。
その他の白癬
頭部白癬(しらくも)
白癬が頭部におこると頭部白癬(しらくも)です。
頭部白癬のしらくも(頭部白癬)は、どんな皮膚糸状菌でもおこりますが、その中でも毛の多い動物に多い少し変わった種類のもの(Microsporum canisやTrichophyton verrucosum)によるものも多いのが特徴です。
症状は色々で、頭部の感染箇所に、体部白癬のようにピンク色のコイン形でうろこのような皮疹ができたり、もやもやの落屑が苔のように発生したり、やたらとフケがでたりなどします。禿げることもありますが、これは白癬菌の直接作用によって脱毛がおこっているわけではなく、白癬菌に対するアレルギー反応が主な原因です。
頭部白癬は、猫や犬などのペットを飼っている人や、酪農や畜産を行っている人には多く見られます。感染力が非常に強く、ペットや動物を多頭飼いしている場合は、一匹感染した動物がいると、全動物にうつり、それが飼い主にもうつります。柔道やレスリングなどの格闘技をする人や、ヘルメットや防具をつけるようなアメフトや剣道などのスポーツを行っている人にも多いです。部活などで発症者があると、どんなに清潔にしていても、部員全員に広がります。
しらくもについては、しらくもはどんな病?その症状や原因、似ている病気を知って対処しよう!を参考にしてください!
爪白癬
白癬が爪に起これば爪白癬です。
体部白癬と同じで Trichophyton rubrumが主な原因ですが、体部白癬の原因で2番目に多いTrichophyton mentagrophytesを原因とするものは少ないです。爪白癬に感染した爪は壊れやすく、ポロポロ崩れるため、新しく別の白癬の原因になりやすく、注意が必要です。爪白癬は、塗り薬では治らないため、治療には抗真菌剤内服を用います。
足白癬(水虫)
白癬が足に起これば足白癬(水虫)です。
体部白癬と同じで、最も多いのはTrichophyton ruburumによるもの、2番目に多いのはTrichophyton mentagrophytesによるものです。足白癬ではどの皮膚糸状菌に感染したかで、症状が変わることがあります。例えば、Trichophyton rubrumによる足白癬は、角化型の白癬で痒みは少なめのことが多いです。
また、角化型の白癬はポロポロと剥がれ落ちるので、他の人や本人の体部白癬の原因になりやすいです。Trichophyton mentagrophytesによる足白癬はは、小さな水泡ができるかゆみの強いものが多いです。
詳しくは、水虫にはお酢が有効?正しい使用法や効果、注意点を紹介!を読んでおきましょう。
股部白癬(いんきん/いんきんたむし)
白癬が陰部に起これば股部白癬(いんきん/いんきんたむし)です。
股部白癬も、体部白癬や足白癬と同じで、原因として最も多いのはTrichophyton ruburumによるもの、2番目に多いのはTrichophyton mentagrophytesによるものです。体部白癬と同じ白癬菌で起こりますが、股部白癬はとても治りにくく、抗真菌剤の内服治療が必要なこともあります。
詳しくは、いんきんたむしとは?症状や原因、治療方法を紹介!を読んでおきましょう。
体部白癬の診断
体部白癬の中には、貨幣状湿疹などの他の皮膚の病気と似ていて、見かけだけでは区別がつかないことがあります。したがって、体部白癬を体部白癬と正しく診断するためには、最初の診察の時に、KOH直接鏡検法で、菌があるかないか観察してもらう必要があります。
KOH直接鏡検法は、水疱の内容物、爪、皮膚の落屑、毛、痂皮などから真菌を検出するのに使う方法です。水疱以外の検体はケラチンが含まれおり、ケラチンは固く頑丈なため、KOH(苛性カリ)でケラチンを溶かしてから、顕微鏡で菌体みるという検査です。検査は数分で終わります。
KOH直接鏡検法は有用な検査ですが、水疱の内容物や皮膚の落屑などの検体に十分に菌体が含まれていなかった場合、たとえ本当は体部白癬であったとしても、菌体が検出されないことがあります。皮膚科医の間では、1回だけのKOH直接鏡検法で菌体が見つからない場合は、日を変えて何度か見る必要があると認識されているようです。
体部白癬を「見落とされない」コツ
できれば市販の抗真菌剤を使わない
体部白癬は市販の抗真菌剤で治ります。治りますが、市販の薬を塗ってしまうと、白癬がまだ治っていなくても、KOH直接鏡検法では菌が見えなくなってしまいます。ですから、体部白癬があって、市販の薬を塗ってしまった場合、皮膚科でKOH直接鏡検法をしてもらっても、菌が検出されません。菌が検出されないと、別の皮疹として診断されてしまうことがあります。
つまり、皮膚科にいらっしゃるのであれば、市販の抗真菌剤を使わずに行き、KOH直接鏡検法で菌を検出してもらうのが、体部白癬を「見落とされない」コツとなります。
市販の薬が体部白癬に効くのなら、皮膚科に行く必要はないではないかとお考えの方もいらっしゃると思います。それも事実ですが、市販の薬は、塗り心地を良くするために、抗真菌剤以外の成分がふくまれていることが多いです。これは相性が合えばとても有効ですが、かぶれ(接触性皮膚炎)の原因になることもあります。そうすると、抗真菌剤を塗っても塗っても、どんどん症状が悪くなります。皮膚科医を受診しても、抗真菌剤を使った後では、菌体はほとんどの場合見つからないので、正しい診断が困難になります。
別の病気として治療開始されても、何度かKOH直接鏡検法で見てもらう
体部白癬に見かけが似ている皮膚の病気に、貨幣状湿疹や脂漏性湿疹ががあります。
体部白癬ではピンクのコイン状にうろこ状の皮疹や小水疱を伴うことが多いのですが、これは貨幣状湿疹とそっくりですし、体部白癬がうろこ状の皮疹や苔のような皮疹に覆われていると、これは脂漏性湿疹にそっくりです。貨幣状湿疹にも脂漏性湿疹にもステロイド(副腎皮質ホルモン)を外用するのが基本の治療ですが、体部白癬にステロイドを使うと、体部白癬は異形白癬化し、ますます普通の湿疹のような形態になってしまいます。異形白癬が治らないまま、ステロイドを外用すると丘疹や苔癬化して、ますます湿疹にしかみえない姿になり、さらに湿疹という誤診を誘うことになります。
したがって、ステロイドを外用しても症状の改善が見られないときは、体部白癬が異形白癬になっている可能性がケースを想定して、何度かKOH直接鏡検法を繰り返してもらう必要があります。
他の皮膚疾患を「体部白癬と誤診されない」コツ
できれば市販の抗真菌剤を使わない
体部白癬は貨幣状湿疹や、脂漏性湿疹にとても良く似ているため、本当は貨幣状湿疹や脂漏性湿疹なのに、逆に体部白癬と誤診されてしまうこともあります。
「抗真菌剤で治らなかったから、別の皮膚病かな」と、皮膚科を受診しても、KOH直接鏡検法で菌体がみつからないのは、市販の抗真菌剤を使ったためなのか、別の病気だからそもそも菌体がないためなのか、医師にも鑑別が困難になってしまうのです。
「迷ったらステロイド」の基本方針を受け入れる
では、皮膚科をせっかく受診して、医師もKOH直接鏡検法をしてくれたのに、菌体が見つからないとき、一体どのような治療法を受けることになるのでしょうか?
体部白癬か湿疹か分からない場合は、ステロイドの外用が合理的です。湿疹ならステロイド外用で回復に向かいますし、白癬なら抗真菌剤をやめることで菌が増えるため、KOH直接鏡検法で菌体が見つけやすくなります。体部白癬にステロイドの外用を漫然と行うと異形白癬になってしまいますが、医師の管理下で異形白癬に2週間程度ステロイドの外用を続けても、大して悪化しません。
体部白癬を見落とされない、体部白癬と誤診されないために、ステロイドの外用を行うこともあることを理解しておく必要があるかと思います。
体部白癬の治療
体部白癬の治療方法を紹介します。
抗真菌剤の外用
体部白癬の治療には、抗真菌剤の外用がよく用いられます。抗真菌剤にはイミダゾール系、モルホリン系、ベンジルアミン系、チオカルバミン系など、いろいろな種類のものがありますが、どれも真菌の細胞膜成分であるエルゴステロールの生成を阻害し、細胞膜の機能を低下させることで、菌を死滅させます。エルゴステロールの生成過程のどの部分を阻害するかは、系統によって異なります。以下に主な系統に属する抗真菌剤を示します。
- イミダゾール系:アスタット、アデスタン、アトラント、エクセルダーム、エコナゾール、エンペシド、オキナゾール、クロトリマゾール、スルコナゾール、ニゾラール、ネチコナゾール、パラベール、ビホナゾール、フロリードD、マイコスポール、ミコナゾール など
- モルホリン系:アモロルフィン(2016年10月現在、1種類のみ)
- ベンジルアミン系:メンタックス、テルビナフィン(ラシミール)、ブテナフィン、ボレーなど
- チオカルバミン系:ハイアラージン、ゼフナートなど
体部白癬に対する抗真菌剤の外用のポイントは「広めに」「十分浸透させて」「使用回数を守って」使うことです。同じ系統の薬でも、浸透しやすさや留まりやすさは様々なので、使用方法をよく理解して使ってください。特に使用回数は守る必要があります。足りなければ効果が発揮されませんし、使いすぎると皮膚が荒れたりカブレの原因になったりします。
皮膚科医に診察してもらってから使用するのが理想ですが、市販の外用薬で済ませたい場合でも、2週間経って症状が改善しない時には、医師に相談してください。また、医師に相談する場合は、市販の抗真菌剤を使ったことを必ず伝えてください。抗真菌剤を使った後ですと、たとえ正しく検査を行っても、菌体は見つからないことの方が多いからです。
ステロイド外用の併用
炎症が強く、かゆみが強い場合に、ステロイドの外用薬を最初の数日間、抗真菌剤と併用します。ひどい炎症を起こしている場合は、抗真菌剤が患部まで浸透しないので、まずはステロイド外用を併用して、炎症をある程度治す必要があります。
抗生物質外用薬/内服薬の併用
白癬に抗生物質は効きませんが、白癬と細菌感染を合併して、患部がじゅくじゅくしている時には、抗生物質の外用薬や内服薬を、抗真菌薬と共に使います。
抗真菌剤の内服
全身が弱っている人や、免疫機能が落ちていて、体部白癬が全身に広がりそうな人、爪白癬のある人はイトラコナゾール(トリアゾール系)またはテルビナフィン(ベンジルアミン系)なを、2~3週間内服します。特に爪白癬も合併している場合は、外用薬だけでは治りませんので、抗真菌剤の内服が必要となります。また、一人暮らしで背中に体部白癬がある場合、自分では外用薬を塗ることができないので、内服薬の対象となります。
内服薬はすべての白癬に効果がありますが、細胞膜の生成を阻害するという作用機序の性質上、ある種の抗がん剤に似た副作用をもつため、この治療を受ける場合は、自覚症状や他覚症状に対してて、注意深くある必要があります。
体部白癬、うつさない/うつらないコツは?
家族の中に一人でも白癬の人がいると、皮膚から剥がれ落ちた白癬菌が、同居する家族の体に付着して、体部白癬として家庭内感染してしまう可能性があります。特に、日本の暮らしは、帰ってきたら靴を脱ぎ、床の上で寝転んでくつろぐというスタイルですので、体部白癬にとっては好都合です。
白癬にかかっている家族がいれば治療をする
体部白癬に限らず、どのタイプの白癬でも体の皮膚に感染すれば、他の人や自分自身の体部白癬原因になります。家族に白癬の人がいたら、しっかり治療しましょう。
猫や犬などの検査をする
犬や猫の白癬もうつります。毛が抜けるなどの症状があれば、白癬とわかりやすいですが、そうでないこともあります。家族に白癬がでたら、猫や犬などのペットの白癬も検査をしてもらいましょう。
清潔、そして乾燥、乾燥、乾燥
まずは、清潔を保つことが大切です。清潔を守るためには、お風呂は普通に入ればいいですし、プールの後は普通にシャワーを使えばいいです、洗濯も白癬のある人の洗濯物と一緒に洗って大丈夫です。清潔のための洗浄は普通で十分。しかし、大切なのは、その後で乾燥させることです。
白癬はお風呂や、プールの水の中、洗濯の水の中などではうつりません。しかし、お風呂の後の足拭きマットや、更衣室の床、使った後のタオルの共有、生乾きの衣類などは危険です。白癬菌はケラチンの含まれるものの中では1ヶ月は楽に生き延び、湿気の多いところでは元気いっぱいになるので、簡単に感染してしまうのです。
お風呂の後は、指と指の間までしっかり拭いて乾燥させましょう。プールの後、更衣室を出るときは、足をしっかり乾燥させてから靴を履きましょう。できれば、足が乾燥するまで、サンダルやクロックスなどで通気をよくしておくのが理想です。洗濯物を生乾きで着るのはやめましょう。太陽の光でも乾燥機でもなんでも構わないので、しっかり乾燥させる必要があります。
また、汗をかきやすい人や、太り気味の人は、皮膚が乾燥しにくいので、要注意です。こまめに汗をふき、可能なら着替えましょう。汗をふいた後のタオルや着替えた衣類などは、湿っていてケラチンもたっぷり付着しているので、できるだけ早めに洗って乾燥させてください。
乾燥、そして保湿、保湿、保湿
矛盾しているようですが、乾燥させる一方で皮膚の保湿も重要です。皮膚は乾燥するだけで細菌や真菌に対する抵抗力が落ち、感染しやすくなります。また、乾燥するだけで痒みが出ますので引っ掻き傷などを作りやすくなります。
皮膚は洗った後、水気をきれいに拭き取らないと、却って過剰に乾燥しますので、拭いて乾燥させることは不可欠ですが、その後はベビーオイルやワセリンで保護し、乾燥を防ぎましょう。
タオル/足拭きマットの使い回しはしない
体部白癬や足白癬の人の体をふいたタオルや足拭きマットには、菌体を含んだケラチンがたっぷりついています。タオルや足拭きマットは、一度使ったらその都度洗濯し、しっかり乾かしましょう。
まとめ
体部白癬について詳しく書いてみました。
白癬は家族から家族へ、自分から自分の他の場所に移ってしまう上に、湿疹と区別がつきにくいことが多いです。また、市販の薬は体部白癬にも有効ですが、市販の薬を先に使うと、診断がつきにくくなります。
体部白癬かなと思ったら、できれば先に皮膚科を受診して、KOH直接鏡検法で検査の後、治療を受けることをお勧めします。