テレビなどでも耳にする機会が多くなっている「肺高血圧症」という血管の病気があります。年間の発症数は2000人以上と、決して多い病気ではありません。国による難病指定の認定を受けています。
また、その内訳は男女比でおよそ「1:2.6」で女性が圧倒的に多く(原因は分かっていません)、年代別では20~60代と幅広く発症しているが中でも若年者に比較的多い疾患です。
かつては患者の半数が3年以内に死亡する予後不良な病気でしたが、最近では新たな治療薬の開発などで治療法が大きく進歩してきています。今回はそんな肺高血圧症としっかり向き合う為の情報をご紹介いたします。
肺高血圧症とは
血液は肺、心臓、体と全身を循環しています。この循環の中で何らかの原因により肺の部分で流れが悪くなる事があります。
肺は全ての血液が循環する為、全身の血流まで悪くなってしまいます。結果、心臓が高い圧力をかけて血液をお送りだそうとする為に高血圧に繋がり、この中で心臓から肺にかけての「肺動脈」において血圧が高くなっている事を肺高血圧症と呼ぶのです。これは肺動脈の末梢にある小動脈の内側が狭くなったり硬くなる事で引き起こされます。
一般的な高血圧は心臓から全身に血を液送る左心室側の血圧が上昇するが、肺高血圧症は肺へ血液を送る「右心室」側の血圧が上昇するのが特徴です。
肺高血圧症の症状
肺への血流が悪くなる事で、心臓への負荷が大きくなり身体への酸素の供給が上手くいかなくなります。初期の段階では自覚症状はありませんが体を動かす際、正常な時よりも酸素を多く必要とする状態にあります。
病気が更に進行すると息苦しさ、むくみ、胸痛、疲れやすい、体のだるさ、動悸、失神などの症状が現れてきます。そしてこれらの自覚症状が現れた時点で心機能はかなり弱っている状態になっています。
子供の場合、遊んでいる最中に気付いたら失神していて検査をしてみたら病気が発覚したという事もあります。
肺高血圧症の原因
肺小動脈が細くなるメカニズムとして、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞などが異常増殖し血管内が詰まる事で細くなる為とされています。この肺小動脈が狭くなる事による肺高血圧症を「肺動脈性肺高血圧症(PAH)」と呼び肺高血圧症の中心となっています。
PAHとは別に、血管中にできた血栓が肺動脈を慢性的に閉塞し肺高血圧症を併発させる場合があります。これを「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)」と呼びます。その他、別の心疾患や肺疾患に伴い肺高血圧症になる場合もあり、主にこの3つのタイプに分類されます。
肺動脈性肺高血圧症(PAH)の種類
肺高血圧症の中心である肺動脈性肺高血圧症(PAH)には、更にいくつかの種類がありそれぞれ原因が異なります。
①特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)
②遺伝性肺動脈性肺高血圧症(HPAH)
これらの二つは原因不明とされています。
③薬物及び毒物誘発性
やせ薬などの食欲抑制剤によるものです。
④他の疾患によるもの
先天性の心疾患、HIV感染などが原因と考えられています。
また、他の多くの疾患から併発する事も報告されています。肺高血圧症を併発させる疾患の一例として膠原病、肝臓疾患、慢性肺血栓塞栓症などがあります。
肺高血圧症の検査・診断
まずは問診によって症状の確認を行います。疲れや胸痛は多くの疾患で見られる症状ですのここから特定するのは難しいですが、息切れや失神は肺高血圧症を疑うには有効で、これらから疾患の発見へ繋がる場合があるようです。肺高血圧症の疑いが持たれるとX線検査や心電図検査、または心エコー検査などで心臓や肺の状態を確認し疾患の特定を行います。
ですが肺高血圧症は鑑別疾患(他の疾患の可能性があると疑うべき疾患の候補)として挙がりにくく、まず肺高血圧症と疑いを持つ事と、心エコー検査行う事が重要とされています。
心臓の中で肺動脈に血液を送る機能を持つのが右心室です。この右心室は高血圧の状態が続くと機能低下に繋がり右心不全を引き起こす事があります。この事から右心カテーテル検査を行う事が肺高血圧症と診断するには有効な手段となっています。また右心不全を併発していると、足のむくみや食欲の低下といった症状が現れる場合があります。
肺高血圧症は早期発見が重要です。それは発覚後の早期治療による生存率の上昇に大きく係わっているからです。
肺高血圧症の治療
これまでは決定的な治療薬が無く、従来の治療では大きな効果が得られない厄介な病気でした。最近になり新しい薬が開発されており、実際に大きな効果が現れています。そんな効果的な薬や治療法をご紹介したいと思います。
また、肺動脈性肺高血圧症は厚生労働省による難病指定に定められており、公費から治療代の一部について助成を受ける事ができます。お住まいの地域によって手続きの方法が異なりますので、役所や保健所に問い合わせてみましょう。
血管拡張療法
狭くなっている肺動脈を広げる方法として一般的です。新しい血管拡張薬の開発により効果的な治療ができるようになりました。
この薬の使用により血管が広げられ血流を改善させたり、血管壁を良い状態に戻す事で心臓への負担を軽減させる効果があります。方法としてはプロスタサイクリン製剤(エポプロステノールが広く使用されています)を持続点滴により血管内に薬を送り続ける方法が非常に効果的とされています。ですが効果が高い反面、点滴用のポンプを携帯し常に薬を投入し続けなければならず、日常生活において注意が必要となっています。
軽症から中等症の患者に対しては経口での治療法があります。同じプロスタサイクリン製剤でもベラプロスト、アンブリセンタン、ボセンタンなどの経口薬が使用されます。
これらの薬剤を組み合わせた併用療法という方法も考えられており、複数の臨床実験が行われています。
その他の薬物による治療
・抗凝固薬 ワルファリン、アスピリンなど
血の塊が細くなった血管や肺に流れ込まないよう、血液を固まりにくくします
・利尿薬 フロセミド、スピロノラクトンなど
利尿作用により体内の余分な水分を排出し、心臓の負担を低減させます
・強心薬 ドパミン、ドブタミンなど
心臓の筋肉収縮力を高め機能を回復させます。中には血管拡張作用を持つものもあります。
・カルシウム拮抗薬
急性肺血管反応性試験を行い、その結果が陽性となった場合に用いられます。この薬の持続効果が見られるのは患者の中で少数ですが、有効だった際にはその効果が大きい治療法です。この事から肺高血圧症の診断時に急性肺血管反応性試験も実施する医療機関は多いようです。
酸素吸入療法
心臓の働きが弱くなると、全身に酸素を送る力が低下する低酸素血症となります。酸素吸入で高濃度の酸素を吸う事で不足した酸素を補い症状の改善を図ります。
一部の患者には継続的な酸素の吸入が必要となり、ボンベを用いて在宅で吸入療法を行う場合があります。
手術
薬物療法で効果が得られない場合には手術による治療が行われます。主にカテーテルを用いて狭くなった血管を広げる方法がとられますが、症状が重篤な場合には肺移植手術を行う事もあります。日本では移植の為の待機時間が長く、医者から早期の移植を勧められる事があります。
日常生活における注意点
心臓へ負担を掛けないよう心掛ける事が重要です。激しい運動やストレスなど心拍数を上昇させるような行為は病状を悪化させる恐れがありますので、身体と心をリラックスさせる事が大切です。
飛行機の使用や高地への移動なども心肺への負担となってしまいますので控えた方が良いでしょう。寒い時期のトイレにも注意が必要です。特に和式トイレは血圧が上昇しやすく発作や失神の原因にもなりるとされています。
塩分、水分の摂りすぎにも注意が必要です。これは心不全から来る、むくみや腹水を抑える為です。
また症状から、仕事中や学校で「サボっている」など病気の辛さをなかなか理解してもらえないといった声も挙がっています。また場合によっては普段から酸素ボンベを常備する必要があったりと、周囲の理解を得る為にも身近な方や医療機関の日常的なサポートによる患者のケアが重要となっています。
まとめ
これまでご紹介した肺高血圧症についてポイントを簡潔まとめました。
【特徴】
・肺高血圧症とは肺動脈が狭くなるなどして血液が悪くなり、血圧が上昇し心臓の負担が増大する疾患である。
・女性に多い病気で、比較的若年者でも発症します。
【症状】
主に全身の疲れ、だるさ、息切れ、動悸、失神などが挙げられます。
【検査】
・症状から肺高血圧症と判別するのは難しく鑑別疾患として挙がりにい。
・肺高血圧症だと疑い、心エコー検査を実施する事が重要です。
・病気の早期発見が症状改善の大きなポイントになります。
【治療】
・血管拡張療法・・・血管を拡張し悪くなった血流を改善させ心臓の負担を減らすと共に全身に酸素を送り届けます。
・その他の薬剤による治療・・・主に血流の改善効果を持つものや、心臓の負担を低減する薬剤が使用されます。
・手術による治療・・・薬剤療法による効果が得られない場合や症状が重篤な患者に対して実施される事があります。
【最後に】
肺高血圧症だと診断されてからの平均の生存期間は3年間とされており、予後不良になる場合が多く生存率も低い疾患でした。ですが近年では医療技術の発達や新薬の開発により生存率は高くなってきています。そして、まだまだ研究段階でもあり今後更に効果的な治療法や新薬などが発見されるかもしれません。
また「病は気から」と言う言葉があるようにストレスや悲観的な気持ちは身体への悪影響にも繋がります。正しい知識を身に付け、しっかりと病気と向き合いましょう。