不思議の国のアリス症候群というダークメルヘンチックな名前故にマイナーな症状であるにもかかわらず話題になっています。
脳神経の関係で起こる病で、目に異常はないのにものが大きく見えたり小さく見えたり遠のいたりとものに対する認知が正常でなくなるようです。原因は未だ不明です。
しかし、片頭痛、ウイルスの影響でこの症状が起こります。関係のある症状である「脳底型片頭痛」の知名度が低く、不思議の国のアリス症候群であるのにも関わらず「精神病」「神経質」などと誤診されることもあるようです。
これは脳幹、両側大脳半球の何らかの異常だと考えられています。血管の奇形で症状が起こるケースもあり、実際は脳に病巣があるサインかも知れないのです。
また薬で似た症状があります。うつ病などの服薬によって起こる場合もあるようです。他にはかつて合法ドラック、現在は違法のマジックマッシュルームというドラックを使用した症状にも似ているようです。いずれにしても脳に問題があるときに起こる不思議の国のアリス症候群についてご紹介します。
不思議の国のアリス症候群(AIWS)とは?
不思議の国のアリス症候群(Alice in Wonderland syndrome、略称 AIWS)とは自分や周囲の者の大きさや距離が異様に大きくなったり小さくなったり通常とは異なって感じられる症状で知覚に異常がでます。症状を表現すること自体が難しいからか報告例も少ない症状です。
ウイルス性の脳への異常、片頭痛に関連があるのではないかと指摘されていますが、はっきりした原因はまだ不明です。脳幹、両側大脳半球の異常ではないかと思われています。
名前の由来は皆さんご存知の英国の童話作家ルイス・キャロルの手掛けた1865年出版の不思議の国のアリスという童話です。
アリスが不思議の国に迷い込み、そこにある食べ物を食べてアリスの身体が大きくなったり小さくなったりするため1955年にイギリスの精神科医トッド(英語: John Todd)が症状にちなんで名づけました。
ルイス・キャロルは片頭痛を訴えていたことから、ルイス・キャロル自身が不思議の国のアリス症候群だったのではないか?とも言われています。
不思議の国のアリス症候群の定義
いろいろな俗説があって何が不思議の国のアリス症候群か混合しがちです。箇条書きでまとめると以下の特徴が不思議の国のアリス症候群です。
- 身体像がぐにゃぐにゃ変形しているように感じる
- 視覚的に物体の大きさや距離が変化する
- 空中浮揚するような錯覚的感覚がある
- 時間が遅く早く感じられるような時間的感覚の錯覚的変化がある。
症状にはバリエーションが複数あります。自分より大きいはずのものが自分より小さく見えたり、蚊や1円玉がものすごく大きいように感じたりするようです。視野の右半分だけが 2 倍の大きさになったように感じる、色覚についても異常が起こることもあり、例えば人の肌が緑色に見えたりします。
また認知の仕方が違うのか、人の顔を見たときにだけ現象が現れなかったりするようです。
大きさの認知が狂うのであって、人の顔は認識できるのかも知れませんね。
気のせい、精神病と誤診されがちな不思議の国のアリス症候群
明確な原因が不明であるためか、不思議の国のアリス症候群は誤診されやすい病気です。
特に関連性が注目されているのが脳底型片頭痛です。片頭痛、脳底型片頭痛と不思議の国のアリス症候群の関わりは脳神経センター長の山根清美さんによって講演されました。
この脳底型片頭痛は医師の間でも見逃されがちだった症状で、不安などの精神障害も併発することもあることから、「神経質」「精神病」「統合失調症」と誤診されてしまうこともあるようです。
不思議の国のアリス症候群の原因は?
私を飲んで!とか、私を食べて!と書かれたお菓子や小瓶でもあればはっきりするのですが、現実の不思議の国のアリス症候群はまだはっきりと原因がわかっていないのが現状です。ただ脳に関係して起きている症状と考えられます。
またEBウイルスによる中枢神経の炎症で報告されます。初期感染の場合なので、殆ど子供にかかる病気です。大人の場合は片頭痛の関連が指摘されているようです。
他には精神薬の副作用で不思議の国のアリス症候群のような状況になることもあるようです。薬の使用をやめたら症状が治まったという報告があります。
エプスタイン・バー(EB)ウイルス感染症による中枢神経の炎症
中枢神経系の炎症が初期感染で起こるとこの症状が報告されやすいようです。アメリカではメジャーなウイルスで95%近くの成人が一度は感染するといわれています。
感染すると白血球の中などにとどまり、唾液などに多く含まれます。このためキスによる感染が多いようです。
これ自体は全身倦怠感やリンパの腫れ、発熱と普通のウイルス性の症状がでてきます。
このウイルスが中枢神経に炎症を起こさせると不思議の国のアリス症候群を起こすようですが、殆どの場合一過性のようで、子どものころEBにかかってこの体験をする人が多いようです。
片頭痛とは
頭の片側もしくは両側が鼓動のようにズキン、ズキン、と痛むことです。ずっと痛むというよりは週に1、2度、月に1、2度と発作的に起こることが特徴です。
片頭痛自体が即命に関わることはありませんが、めまいや吐き気や光や音に過剰に敏感になったり視覚が欠けたりすることがあります。
特に脳底辺型片頭痛の症状が不思議の国のアリス症候群と関連があります。しかし知名度が低いため、見過ごされがちです。
片頭痛の原因
全ての原因はわかりませんが、わかっているのは血管の拡張、血管の奇形、血管の破裂など血管の異常で起こっているケースです。何故血管が拡張しすぎてしまうかということに関しては、神経伝達物質が関与しているのではないかと考えられています。
片頭痛の治療
発作を抑える、急性期治療と、片頭痛が起きにくい状態にする予防療法があります。
急性期治療とは、痛みがあるときにトリプタンのような鎮痛剤を飲むことを指します。トリプタンは血管収縮の副作用があるため使用を懸念するお医者さんもいます。あまり飲み過ぎず、痛いときにのみ飲むようにしましょう。
他には性新薬の処方をされることがあります。
見逃されがちな”脳底辺型片頭痛”とは
不思議の国のアリス症候群の症状も見られる脳の症状です。
脳底辺型片頭痛の定義は構音障害、耳鳴、難聴、複視、視覚症状、回転性のめまい、運動失調、意識レベルの低下、感覚障害(片麻痺ではなく両側に起こることが特徴)が起こることをさし、不思議の国のアリス症候群のみの症状ではありませんが、関連性を指摘されています。頭痛とは言うものの頭の痛みが感じられることはあったりなかったりするようです。
他には意識障害が起こる場合、失神、昏迷、昏睡、一過性全健忘があることがあります。
脳底型の場合は脳波異常も見られる場合があり、てんかんと区別が難しいようです。
「神経質」「精神病」「統合失調症」「アルコ―ル中毒」「薬物中毒」と誤診されがちですが、他の何らかの脳疾患の可能性があります。
奇形の血管が脳を圧迫して症状がでるケースもあるのでかつては脳底動脈片頭痛と呼ばれました。現在は動脈の疾患とは限らないという点でこの呼び方をしません。
また、片麻痺や片方の障害がでないことから脳底の異常だろうと言われていたので脳底片頭痛とも呼ばれていましたが、左右の両半球に起こった可能性を否定できないため脳底型片頭痛と呼ぶようになっています。
脳底型発作は若年成人に多く、20歳前までの女性に起こりやすい傾向があるようです。50代に見られるケースもあります。
脳に異常が見られないことが多く、稀に大脳脂質に浮腫性の変化がある場合があります。遺伝しやすい病気で、遺伝の場合は小脳萎縮が見られることがあります。
脳底辺型片頭痛の治療
はっきり確立したものがないのが現状です。痛み止めや精神薬が処方されます。
鎮痛剤にトリプタン製剤やエルゴタミンが使われることがありますが、血管収縮の副作用があるため脳梗塞を考えて処方を控えることもありますが、それほど危険性はないとするところもあります。他にはミグシス、ワソラン、デパケン、ラミクタール、ダイアモックスなどが処方されます。
抗精神薬の副作用が原因?
精神薬の副作用で不思議の国のアリス症候群のような状況になることもあるようです。薬の使用をやめたら症状が治まったという報告があります。精神科で薬をもらっている人が不思議の国のアリス症候群になったら医師に相談しましょう。
不思議のアリス症候群の俗説
名前が印象的だからかネットで様々なうわさが飛び交っている病気です。一部を紹介します。
ドラッグで体験できる?
他にはLSDやマジックマッシュルームの摂取で視覚症状に似たような歪みが現れることがあるようです。ドラッグでは不思議の国のアリス症候群だけではなく、色彩の変化や強い不安などに襲われ、人によっては精神科的な治療が必要になると言われています。
合法にしている国もありますが、下手をしたら命をうしないかねない危険な事故やアレルギーもあり得るので手は出さないようにしたほうが良いです。
優れた作家に多い病気?
作家の記述から、ルイス・キャロルや芥川龍之介は不思議の国のアリス症候群を持っていたのではないかといわれています。
片頭痛を持っていたことも指摘されているようです。
いずれも当時の常識を飛び越えたような鋭い観察力をもつ天才肌の小説家です。
芸術家には多いという俗説がありますが、サヴァン症候群のようなはっきりとした関連性があるか否かは定かではありません。
子供が不思議の国のアリス症候群のような症状を訴えたら?
EBウイルスによる不思議の国のアリス症候群は子供に起こりやすいようです。
「大人の気をひくために嘘をついている」と誤解すれば脳の病を見逃すかもしれませんし、子供なので本当にかまってもらいたくて嘘をついている可能性もあります。
こういう時大人はどう対応したらよいのでしょうか。
大人ならまだしも子どもが症状を訴えたときに周りに信じてもらえないという状況は後々の精神の発達にも悪影響を及ぼしかねないですし、あまり妄想屋さんになられても親としては不安を覚えてしまいますね。
頭ごなしに否定すると、そのあと親御さんに相談すると怖い目に合うというトラウマになって話をしてくれない子になってしまうかも知れません。対処法はまず聞くことだと思われます。
その為もし子供が不思議の国のアリス症候群のような病状を話したらまず否定も肯定もせずゆっくり話を聞いて、不思議の国のアリス症候群だと思われる場合は小児科、小児メンタルクリニックに相談し、もし子供の独創的な物語だったとしたら才能を喜んで見守りましょう。
誤診もある中で素人の「精神病は根性で直せ」という言葉は無視していい
「鬱は甘え」という人がいますが、日本人は特に「現実にありえないことを言っているからこいつは気が狂ってる!そんなの俺に起こったことがないからないに違いない!本物のキチガイか、かまってちゃんかなんかだろ?甘やかされようと思ってるんだ!精神病は甘え。病なんて気からだ。根性が足りない!」などという偏見を持ちやすいようですね。
そういう患者さんもいないとは言いませんが、知覚の異常や脳の病気である可能性も考えましょう。世の中にはまだ人類が知らないことがたくさんあり、精神病もその一部です。
もし本当に不思議の国のアリス症候群の方がこのように自分の脳神経の異常について誤解、差別、侮辱、された方は、差別者が「自分が正常なのは根性で頑張っているからである。故に俺はお前より偉い。」という歪んだ自慢話をしたがってるだけで貴方が何か悪いことをしたわけではない、と思いましょう。
そういった自己顕示欲の強いただの普通の人に巻き込まれたりすることなく、付き合わず、逆に「ああ、承認欲求が強くて「素直に僕を褒めて!」って言えないから他人を貶す可哀想な人間だなぁ」と思って無視しましょう。そして自分の努力とは無関係のところに何らかの医学的な疾患があることを確認し、専門家の指示を仰いで治療に専念しましょう。
またそのためにも周囲の病気に対する理解が必要です。不思議の国のアリス症候群という名前につられて検索した方々もこの機会にぜひ病状を覚えましょう。珍しい病人やマイノリティは死ねという価値観をお持ちの方はその限りではありませんが・・・
まとめ
不思議の国のアリス症候群は大きさや色覚などの知覚が正常に機能しなくなる症状です。
認知度が低く誤解されがちですが、脳の何らかの異常が考えられます。
EBウイルスによる中枢神経炎、片頭痛、脳底型片頭痛の疑いがあります。