学校や仕事に行けず家に引きこもるようになってしまうのは、本人にとって非常につらいことでしょう。
本人だけでなく、我が子が引きこもりになったら親としてもとてもつらいものです。なぜ引きこもりになってしまうのか、その原因と改善方法を考えてみましょう。
引きこもりの事例
引きこもりの始まるきっかけや原因ははその人その家庭によりさまざまですが、まずは事例を見ることによって、引きこもりという悩みにぶつかるのは自分だけではないということを知りましょう。
Aさん21歳男性の事例
Aさんはもともと中学生の頃から不登校気味でしたが、高校への進学を機に本格的な引きこもりになりました。合格した私立高校には1か月しか通わず、そのまま退学してしまいました。
その後中学浪人として予備校に通い、翌年には希望校を再受験して合格しました。しかし喜びもつかの間、夏休み明けにはまた不登校になってしまい、せっかくの希望校もそのまま退学してしまいました。その後引きこもりの行動は悪化し、家から外に出ることはなくなってしまい、徐々に家族とも口をきかないようになっていってしまいました。入浴もせず、着替えもせず、散髪もしなければ髭も剃らない状態です。トイレと食事以外のいっさいの時間は自室にこもる生活でした。Aさんには妹がいますが、Aさんを見かけると「虫がわく」といって殺虫剤をかけていたそうです。このような生活が5年間続きました。
Aさんの父親は教師。通常の授業だけでなく部活の顧問も引き受けていて、週末も部活動で忙しい人でした。穏やかで子どもを叱るようなことはほとんどしない人です。しかしAさんの母親は父親に対しもっと自分の子どものことを考えてほしいと不満に思っていたそうです。Aさんの母親は専業主婦で、子どもに対し過干渉な母親でした。子ども達を自分の思い通りに育てたいという気持ちが強く、子育てについての夫婦間の言い争いは絶えなかったようです。
Aさんの両親はカウンセリングを受けるようになりました。カウンセリングの中で夫婦間のすれ違いがなくなっていき、会話や笑顔が増えるようになりました。母親の過干渉な態度を見直し、また、Aさんを見かけると反応がなくても必ず話しかけることを続けました。手紙を通しての会話も続けました。
この両親の接し方によって、Aさんに少しずつ変化がみられるようになります。両親が居間でテレビを見ているときに、Aさんがビデオを持って居間に現れるようになりました。おそらくは、自分が見て面白かったビデオを両親にも見てほしかったということでしょう。このことをきっかけに、Aさんが居間に下りてくる回数は増えていきます。また、Aさんの母親はAさんの部屋の前に下着の着替えと手紙を置いておき、一旦片づけてはまた置いておくということも続けました。
続けるうちに、ある日置いてあった下着がなくなっており、洗濯機の中にはAさんの下着が出ていたのです。シャワーを浴びた形跡もありました。その後、Aさんは自らハサミを持って母親の前に現れ、髪を切ってくれと言ってきました。髪を切り、髭もそり、入浴しました。それ以降、Aさんは家族と会話をするようになったのです。
Bさん30歳男性の事例
Bさんが引きこもるようになったのは24歳の頃でした。専門学校卒業後、とくにやりたい仕事を見つけられないままバイトをするフリーターになりましたが、いろいろなバイトをするもどれも長続きしませんでした。Bさんは自分が何をやればいいのかわからなくなっていき、徐々に自室にこもり、ネット中毒状態となっていきました。
Bさんの精神状態は、自分で何かを考えることができず、すべてを放棄してしまいたいと考えるような状態でした。Bさんが両親との関わりも拒絶し、部屋に引きこもっているにも関わらず、Bさんの両親はBさんにお小遣いを与え続けました。働かずに家にいる状態で親から小遣いをもらって生活していることには恥ずかしさを感じましたが、そのお金があるために好きな本やゲームを購入することができました。
Bさんは引きこもりながらもその状況から脱出する方法を模索していました。いつしかメールでの相談を始め、将来のことを考えるようになっていきます。そしてその相談を通して、支援団体が同じような悩みをもつグループをつくっていることを知りました。Bさんはそのグループに参加し、気軽に話をすることのできる友達に出会うことができました。
このことをきっかけに、Bさんは自分と同じ悩みを持つ人を助ける仕事がしたいと考えるようになり、カウンセラーの勉強を始めます。こうしてBさんが外界に出ていけるようになりましたが、それまでには6年間という長い時間がかかりました。
引きこもりの原因
引きこもりの原因がわからなければ、改善の道も見えず不安になります。まずは引きこもりの原因を知ることから始めましょう。ここでは内閣府の調査の結果をもとに記述します。
内閣府の調査による引きこもりの現状
内閣府は「子ども・若者白書」を2013年6月に発表しました。その中では若年層の引きこもりについての分析が行われています。その調査の中では引きこもりを下記のように定義しています。
- ・15歳から39歳が対象
- ・下記状況のいずれかが半年以上継続している
- ・普段は自宅にいるが、近所のコンビニなどには出かける
- ・自室からは出るが、自宅からは出ない
- ・自室からほとんど出ない(準引きこもり)
- 普段は家に居るが、自分の趣味に関する用事の時だけ外出する(上記にあてはまる場合でも、「現在の状態のきっかけ」に統合失調症または身体的な病気と答えた人、自宅で仕事をしていると答えた人、「ふだん自宅にいるときによくしていること」で家事・育児をすると答えた人は除かれます。)
内閣府ではこの定義をもとに調査を行いました。その結果、引きこもりは約23万5000人存在し、準引きこもりはなんと46万人もいるという結果になりました。ふたつを合計すると約69万5000人が引きこもり状態にあるという結果となります。
内閣府の調査による引きこもりの原因
内閣府の調査では引きこもりの定義に該当する対象者に、そのような状況になった理由を複数回答で聞きました。その結果は以下のようになっています。
- 職場になじめなかった(23.7%)
- 病気(23.7%)
- 就職活動がうまくいかなかった(20.3%)
- 不登校(11.9%)
- 人間関係がうまくいかなかった(11.9%)
- 大学になじめなかった(6.8%)
- 受験に失敗した(高校・大学)(1.7%)
- その他(25.4%)
この結果をみると、学生時代のつまづきよりも、社会人になってからあるいは社会人にさしかかったときの問題によるものと病気が原因であることが多いということがわかります。とくに就業に関する問題では「職場になじめなかった」「就職活動がうまくいかなかった」を合わせると原因の4割を超えるという結果になります。
また、もっとも多いのは「その他」であることから、引きこもりに至る原因は多様であり、パターン化することは難しいということがわかります。
引きこもりの改善方法
引きこもりから脱却するためにできることとは何でしょうか。
親にできること
Aさんの事例でもあったように、親からの接し方によって引きこもりが改善されていくことがあります。我が子が引きこもり状態になったとき、親もノイローゼのようになってしまい、そのことがさらに子どもを追い詰めてしまう悪循環に陥ることがあります。
こういった場合には、本人でなく親がカウンセリングを受けることで改善への糸口が見つかるケースもあります。また、いきなり子どもの方をカウンセリングに連れていくと、精神科を受診したという事実が子どもにトラウマを与えてしまう結果にもなりかねません。まず親がカウンセリングを受け、専門家の適切なアドバイスをもらったり、あるいは子ども自身が精神科を受診した方がよい疾患を抱えている可能性があるかどうかを判断してもらったりすることから始めるのがよいでしょう。
また、学生時代の不登校であるのであれば、同じ世代から学業が遅れないように手を打ってあげることなどは、親でなければできないことです。
引きこもりを長期化させない
引きこもってしまった後、引きこもっていた事実自体が本人のトラウマとなり、社会復帰するときに足かせとなってしまうことは多いです。
引きこもりになってしまった人は、「周囲からの漠然とした嘲笑」を訴えることが多いのです。これは引きこもりになっている自分は社会的に恥ずかしい存在だと無意識のうちに感じてしまうからです。この嘲笑は、引きこもりから外に出るようになり、進学したり就職するなどして社会的な立場が安定していくと消滅していきます。
そうなるまでの道のりは簡単ではなく、いろいろな困難を克服していく必要がありますが、最後には嘲笑は感じなくなるものと知っておくことは、引きこもりからの脱却に必要なことでしょう。しかし、社会的立場を安定させることのできる機会というのは、年齢とともに少なくなっていってしまいます。
30歳を過ぎてからでは、面接すらさせてもらえないようなことも起き得ます。若いうちになんらかの行動を起こすことはとても重要です。
段階的な社会復帰
引きこもりから社会復帰しようとして失敗すると、さらに大きなトラウマを抱えて引きこもりに戻ってしまいます。失敗しない社会復帰はゆっくりと段階を踏んで行うことが大切です。
アルバイトから社会に復帰する場合、最初のアルバイトは簡単で作業的なもの(倉庫作業など)を選びましょう。いきなり他者とのコミュニケーションが必要な仕事(コンビニでの接客やスーパーのレジ打ちなど)を選ぶと挫折してしまい本人の精神状態をさらに悪化させることになりかねません。
また、体力を必要とする仕事も、引きこもり期間が長かった人には耐えられずに辞めてしまうこともあります。社会復帰の最初の一歩は、引きこもり脱却の道のりにとても重要なステップですので、そういったことを理解して選択することが大切です。
まとめ
引きこもりと一口に言っても、原因は多様であることと、意外と学生時代の不登校よりも社会人になってからの人間関係の方が深刻な原因になりうることがわかりました。
家族に引きこもりの人がいるのなら、本人の社会復帰を支えてあげられる最も重要な支援者は家族であることを忘れず、まずは本人の状態を受けれてあげ、ゆっくりと無理のない社会復帰を応援してあげましょう。