「平成」の元号を発表した首相の小渕恵三さんや、「笑点」で有名になった落語家の三遊亭円楽さんが命を落としたことで知られる脳梗塞は、脳卒中の1つで、日本人の死因の第3位に挙げられています。
脳梗塞は、なってしまうと脳が傷ついてしまい回復しなくなってしまう恐ろしい病気ですから、とくに予防が大事になってきます。ここでは、脳梗塞についての正しい知識を身につけ、適切な予防を行うにはどうすればいいのか、紹介したいと思います。
この記事の目次
◆脳梗塞とは?
よく、テレビなどで「脳卒中」「脳梗塞」「脳出血」というよく似た言葉を耳にすることが多くありますが、それぞれの違いをご存じでしょうか?
「大体似たようなものでしょ?」と思いがちですが、これらには違いがあり、対処法も変わってきます。そこで、まず、これらの言葉の意味をよく知っておきましょう。
まず、脳卒中は、正しい呼び名を脳血管障害といい、脳の血管が何らかの形で不具合を起こした状態を言います。
脳卒中には大きく分けて、脳梗塞と脳出血の2つがあります。つまり、「脳卒中=脳梗塞+脳出血」です。
脳梗塞とは、脳の血管が詰まり、その血管の先にある脳細胞に酸素や栄養分が行き届かなくなって、ダメージを受ける病気です。
それに対して脳出血は、脳の血管が破れ、脳内に出血した状態を言います。
多くの場合、手足が麻痺して動かなくなったり、ろれつが回らなくなったりします。また、激しいめまいや吐き気を覚えたり、意識障害を起こしたりします。ほとんどの場合は短時間で悪化して、救急車で病院に運ばれるケースが多いようです。
ちなみに、脳出血の一つであるくも膜下出血は、脳の表面を包んでいる膜の一種、「くも膜」の下に出血した状態で、バットで殴られたような激しい頭痛が突然襲ってくるのが特徴です。
◆ダメージを受けた部位ごとに症状が変わる
脳梗塞を起こした場合、脳のどの部位がダメージを受けたのかによって、症状が変わってきます。
そこで、それぞれの部位ごとに、どのような症状となって現れるか、主なものを示しましょう。
○前頭葉のダメージによる症状
前頭葉とは、大脳の前方にある脳の領域です。
この部分に傷を負った人は、今、自分が置かれている状況を的確に把握して、その中からより良い答えを選択したり、計画的に行動したりすることが難しくなります。
たとえば、手元にある材料を見ながら献立を立てて、足りない食材を買いに行き、その後、調理する、などができなくなったり、車やバイクが次々にやって来る道路を、タイミングを見ながら横断する、などが苦手になります。
また、前頭葉の後ろ側は、歩く、走る、泳ぐなど、自己の意思に基づいた運動をコントロールしているため、ここが損傷してしまうと、体の力が入らなくなってしまったり、麻痺したりします。
前頭葉の中央は、見たいものを見るために眼球を動かしたり、言葉を話すなどの働きをつかさどる部位のため、この部分が損傷してしまうと、これらの機能が阻害されます。
さらに、前頭葉の前側にダメージがあると、注意力の不足や言葉を話す力の問題を生じたり、人から尋ねられることに関心がなくなってしまい応答がスムーズにできなくなったりします。
自制が効かなくなることも多く、躁うつの程度が激しくなったり、人と言い争いがちになったり、下品な言動が増えたりする場合もあるようです。
○頭頂葉のダメージによる症状
頭頂葉は、ちょうどつむじのあたりにある脳の部位で、特に空間の把握能力を扱っています。
頭頂葉の前側は、左右の脳部位のそれぞれが、反対側の体とつながっています。そのため、この部分にダメージがあると、脳の部位に対応する側に、しびれが出てきます。
頭頂葉の後ろ側の傷は、左右の方向感覚や、計算能力、絵を描くイメージ再現能力の欠如をもたらします。
そのため、髪の毛をブラシでといたり、服を着たりといった、一見簡単に思える動作が難しくなってしまいます。
また、左右の感覚が分からなくなるため、体の反対側のけがの存在に気づかないこともあります。
○側頭葉のダメージによる症状
側頭葉は、私達が五感で感知した様々な情報を記憶する部位で、脳の左右にあります。
脳に入った情報は、いったん、側頭葉のそばにある「海馬」という場所に送られ、集中管理されます。
ここで、「すでに知っていることか否か」「忘れていることか否か」などを、前頭葉と連携しながら選別し、記録されていない情報を、海馬から側頭葉に移して保存していくのです。
その側頭葉にダメージを負うと、記憶障害が生じることが多いようです。
右の側頭葉は、音や形の記憶をつかさどるため、音や形を思い出せなくなりがちです。
それに対して、左の側頭葉は、言葉の記憶や理解をつかさどるため、言葉の運用能力が低下する傾向にあります。
○後頭葉のダメージによる症状
大脳の後ろ側にある後頭葉には、目から入ってきた情報を処理するための機能が集中しています。
そのため、ここにダメージを負うと、眼球の機能には問題がないのに、眼が見えなくなることがあります。
また、よく目にしているものや人の顔が分からなくなったり、見えたものが何なのか、判断できなくなったりすることもあるようです。
◆脳梗塞はなぜ起きる?3つの発生メカニズム
現在分かっている範囲では、脳梗塞発生のメカニズムには、主に、3つの種類があります。この項では、それらを見ていきましょう。
血管内にできる血栓
血栓とは、血管内にできる、血の塊のことです。主にコレステロールや中性脂肪などでできており、粘り気があります。
コレステロールなどが動脈にたまって、弾力を失ってしまっていることを動脈硬化といい、動脈硬化になると、
血管の壁にできはじめたものがだんだん大きくなって、やがて血管をふさいでしまいます。これが脳内の血管で起きると、脳梗塞になるのです。
血栓が血流で流される
例えば心臓など、体内の別の場所で作られた血栓が、血液の流れに流されて脳まで運ばれ、脳の血管を詰まらせて脳梗塞になってしまうことがあります。これを、「塞栓性の脳梗塞」といいます。
塞栓性の脳梗塞は、突然発生するだけでなく、重症になったり、死亡につながってしまう点が恐ろしい症状です。
脳の血流低下
血圧が下がったり、脱水症状などを起こすと、脳内の血管を流れる血流の量が少なくなってしまいます。
動脈硬化で血管が狭くなっていると、血液の流れが悪くなることで血管がつまり、脳梗塞を起こすことがあるのです。
◆脳梗塞のリスクを高める危険因子は?
この脳梗塞について、大規模な研究が行われ、脳梗塞のリスクを高めてしまう危険因子には、どのようなものがあるのかを突き止めることができました。
例えば、以下のような因子のうち、6つから7つ以上だと、脳梗塞を引き起こす危険性が高いと言われています。
・70歳以上の高齢
血管の老化によって詰まりやすくなります
・血圧が高い
血圧が高いと、血管に負荷がかかり、破裂しやすくなります。
・糖尿病
血中のコレステロールが多くなり、血管が詰まりやすくなります
・タバコを吸う
血をドロドロにしてしまうため、脳梗塞につながります
・心臓の疾患
心臓内で血栓ができ、脳まで運ばれて脳梗塞が発生します
・慢性の腎臓病
腎臓の働きが悪いと、血流内にコレステロールが多くなり、脳梗塞につながります
・以前、脳梗塞を発症したことがある
◆脳梗塞の症状は?
それでは、脳梗塞になると、どのような症状が出るのでしょうか。異常がある場合、速やかに病院を受診して、適切な処置や投薬を受ければ、重い事態を避けることもできます。
以下のような症状があった場合は、気をつけましょう。
<麻痺、しびれ>
手足が麻痺して動かなくなったり、しびれが出たりします。特に、脳は、左右の部位が、それぞれ反対側の体の感覚をつかさどるため、右の脳が損傷すると体の左側が具合が悪くなり、左側の脳なら体の右側にしびれなどが起きます。
必ずしも手や足にだけしびれが起きるとは限らず、顔の頬が麻痺する、ということもあります。
<ろれつが回らなくなる>
何を言っているのか分からない状態になる、言葉が理解できなくなる、などの言語障害に陥る場合があります。
<視覚に問題が生じる>
視野の半分だけ見えなくなったり、ブレたり、ぼやけて見えたりします。
<バランス障害、めまい>
バランス感覚に問題が生じ、ふらつきやめまい、転倒や吐き気を催すことがあります。
<食べ物がうまく飲み込めない>
くちやのど、食道などの食べるための器官の筋肉が上手く動かせなくなり、飲み込みにくさを感じることがあります。
◆脳梗塞を予防するには?
脳梗塞を予防するには、血管が詰まるリスクを高める因子を取り除くように心がけることです。
先に述べましたとおり、危険因子には、高血圧や糖尿病、肥満、高脂血症などの生活習慣病や、タバコを吸ったり、お酒を飲んだりといった悪弊があります。
禁煙したり、休館日を設ける、食生活や運動に気をつけるなど、脳梗塞を引き起こす因子を極力少なくするよう意識することが大切です。
◆まとめ
いかがでしたか?
金銭的にも時間的にもゆとりができ始めて、第二の人生を謳歌しようと、せっかく準備していたのに、脳梗塞が原因で麻痺が回復せず、旅行にも行けず、美味しいものも食べられない、という例を耳にします。
どんなに経済的に豊かでも、健康を害してしまっては元も子もありません。脳梗塞は、一度起きてしまったらもとに戻すことが困難な場合が多く、予防が重要です。
また、脳梗塞が発生しても数時間以内ならば、血栓を溶解する薬を使うことができる場合があります。速やかな対処が、その後の人生を大きく分けることがありますので、万が一脳梗塞が疑われるような事態になった場合には、一刻も早く病院を受診するようにしましょう。