「くも膜下出血」という病気について、最近はテレビなどでも、頻繁に取り上げられるようになりました。多くの場合ある日突然起こり、約50%は、病院に運ばれた時点で、既に亡くなっているか、運ばれても治療対象とならない段階にあると言われる、怖い病気です。
脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの、脳卒中と呼ばれる病気は、昔、日本の死因トップでもありました。医療の進歩した現代でこそ、早期発見・早期治療により、昔に比べると、亡くなる確率は少なくなりましたが、それでも、命を取り留めた人の約20%は後遺症を患うと言われています。
そこで、ここでは、くも膜下出血とはどのような病気なのか、そして、どのような後遺症があるのかをご紹介いたします。
くも膜下出血について
脳は、話したり、手足を動かしたり、私たちが何かを理解・判断するために、なくてはならない、とても重要な器官です。くも膜下出血によって、脳細胞が損傷を受けると、生命を維持することすら難しくなる場合もあるのです。
くも膜下出血と呼ばれる状態が起きるとき、脳がどのような状態にあるのか、まずは病気の概要について見ていきましょう。
くも膜下出血とは?
脳は、内側から順に、軟膜・くも膜・硬膜という3層の膜に包まれた状態で、頭蓋骨に収まっています。この3層の膜の、軟膜とくも膜の間に、出血を起こした状態のことを、くも膜下出血と呼んでいます。
50代から60代にかけて、発症しやすいと言われており、男性にくらべ、女性の発症率は約2倍になると言われています。
診断はCTで行いますが、ごく軽症の場合や、発症から時間が経っている場合、CTに映らないこともあるため、MRIや、腰から針を入れて脳の水に出血がないかどうか調べる「腰椎穿刺」と呼ばれる検査が必要になります。
くも膜下出血の原因
くも膜下出血の約80~90%は、脳動脈瘤破裂によるものだと言われています。脳動脈瘤とは、他の箇所よりも弾性の弱い、血管が分岐する箇所に発生する、血管壁の膨らみのことです。
通常は約1cm以内の大きさですが、まれに1cm以上になるものもあり、大きくなるほど、治療は困難になります。脳動脈瘤が破裂し、出血を起こすと、くも膜下出血と呼ばれる状態になるのです。
脳動脈瘤ができる明確な原因は明らかになっていませんが、もともと血管が弱いといった生まれつきのものや、遺伝、あるいは喫煙、飲酒などの生活習慣が原因となる場合もあると言われています。
また、脳動脈瘤の他に、「血管奇形」といって生まれつき脳に異常のある場合や、血液や内臓の病気によって、血が止まりにくい症状が出ている人にも、くも膜下出血が起こる可能性があります。
くも膜下出血の症状
くも膜下出血では、脳梗塞や脳出血のように、顔や手足が麻痺するなどの神経症状が滅多に見られず、突然、ハンマーで殴られたような激しい頭痛を感じるのが特徴です。この、あまりにも激しい頭痛によって、約50%の人が意識を失ってしまうとも言われています。
しかし、出血量が少ないと、ただの頭痛だと勘違いすることもあり、発見を遅らせてしまいます。このように出血量が少ない場合、頭痛が数日にわたって続き、吐き気や首の後ろの痛み・つっぱりといった症状も見られます。
血圧の乱れや、目の痛み、頭痛などが前兆として現れる場合もありますが、気づきにくく、見逃してしまうため、突然倒れて意識を失うというケースが多いようです。詳しくは、くも膜下出血の前兆をチェック!頭痛に要注意?を参考にしてください。
くも膜下出血の治療
出血量が多いと、死亡率が大変高くなるため、くも膜下出血の治療は早期発見、早期治療がカギとなります。比較的症状が軽い場合であれば、発見後、迅速に治療を受けることで、ほぼ命は助かると言われています。
しかし、一度出血してしまうと、再出血の可能性が高くなるので、再出血を防ぐ手術が必要です。手術は、頭を開く手術になるため、全身麻酔で行われ、術後は、経過を見ながらリハビリが必要になってきます。
くも膜下出血の後遺症
命が助かっても、後遺症が残る確率の高い、くも膜下出血。出血した場所によって、後遺症の症状も異なります。
くも膜下出血によって生じる後遺症には、どのようなものがあるのかを、見ていきましょう。
運動障害
くも膜下出血の後遺症で、最も多いのが運動障害です。半身不随や、片麻痺など、脳がダメージを受けた箇所と反対側の半身で麻痺が起きるケースです。
足に麻痺が起きると、歩行が困難になり、場合によっては車いすの使用を余儀なくされることもあります。また、手に麻痺が起きると、お箸や鉛筆を持つのが難しくなり、ご飯を食べたり、字を書くことができなくなる場合もあります。
しかし、軽度の後遺症であれば、リハビリで、日常生活を過ごせる程度にまで、回復することが可能です。
感覚障害
身体の脳から下は、同じような場所に感覚神経と運動神経が通っています。そのため、上であげた運動障害と合わせて、感覚障害が起こるケースが多く見られます。
身体を動かすことが困難になるのと同時に、身体の半身の感覚がなくなったり、痛み、しびれといった症状が突然現れます。
嚥下(えんげ)障害・発声障害
これらの後遺症は、喉を動かすために必要な筋肉が麻痺した場合に起こります。このような後遺症が残ると、食べ物を上手く飲み込むための、舌や喉の筋肉が動かせなく(嚥下障害)なります。
そのため、食事をすると、食べ物や唾液が気管支や肺に誤って入り、呼吸困難になったり、場合によっては命にも関わる重度の肺炎を起こす危険性もあります。
他にも、声帯が上手く機能しなくなり、声を出すことができなくなる、発声障害なども見られます。
言語障害
言語中枢がある左脳にくも膜下出血が起きると、「読み書き」や「聞く」「話す」といった言語に関する様々な障害が現れます。
【弛緩性構音障害】
舌が回らず、発音・発語が困難になる
【失調性構音障害】
話すときに、言葉がつっかえたり、繰り返す言葉が言いづらくなる
【運動性失語】
人が言っていることを理解することはできるけれど、自分が考えていることを上手く言葉に変えられなくなる。
【感覚性失語】
発語に関しては問題がないものの、相手の言っていることが理解できなくなり、自分の言葉も意味を成さなくなるといった、言葉そのものの理解が困難になる。
【全失語】
発語も、言葉の理解も難しくなる。
言語障害に関しては、リハビリをすることで回復することも多いと言われています。焦らず、諦めず、ゆっくりとリハビリに取り組むことが大切です。
排泄障害
脳と脊髄をつなぐ部分にある、「脳幹」と呼ばれる場所には、排泄をコントロールする神経があります。くも膜下出血によって、この部分を損傷すると、尿意を感じなくなったり、あるいは、頻尿、尿を漏らしてしまう尿失禁、といった症状が後遺症として残ることがあります。
視覚障害
例えば、くも膜下出血によって、左脳の視神経がある場所を損傷した場合、両目の視野の右側が半分、あるいは全部見えなくなる場合があります。
また、下垂体と呼ばれる部分に損傷が及ぶと、両目の視野の外側のみが見えなくなるといった症状が後遺症として現れることがあります。
人格の変化や精神不安定
脳の前頭葉や側頭葉と呼ばれる部分にダメージを受けた場合、くも膜下出血発症後、それまでの人格から全く異なる人格に変わったり、精神的に不安定になるなどの後遺症が現れる場合もあります。
集中力や注意力が低下し、やる気がなくなるといった活動性の低下や、急に怒り出す、泣き出すなど、感情の起伏が激しくなり、それらを自分でコントロールすることが困難になるのです。
このような後遺症は、うつ病や認知症を招く可能性が非常に高く、周りの人たちの対応も大変難しくなるので、注意が必要です。専門医のサポートを受けるなど、第三者の力を借りることも大切です。
後遺症のリハビリについて
リハビリを行うことによって改善する後遺症もあります。また、リハビリを行わずにいると、症状が悪化する場合もあるので、本人はもちろん、家族や友人など、周りの人たちも協力しながら、根気よくリハビリを行う必要があります。
くも膜下出血のリハビリについて、回復までの時期に沿って見ていきましょう。
発症、手術後すぐの急性期
出血の症状を抑えて、患部の状態が落ち着くまでは、何よりも安静にしておく必要があります。しかし、この急性期の静養は、筋肉を委縮させたり、関節を固くしてしまったり、床ずれが起きるといった大きなデメリットがあります。
また、精神的にも悪影響を及ぼし、何もできない自分を責め続け、自分を貶める行為をすることも少なくないのです。
医師に相談して、ベッドの上でもできるような、ごく軽い運動をしながら、周りのサポートとともに、まず、この時期を乗り越えることが、リハビリの第一歩と言えるでしょう。
回復期
身体を起こせるようになってきたら、急性期に衰えた身体機能を戻していくリハビリを行います。静養によって回復が早ければ、早い時期から行い、心身の機能を取り戻します。
症状の程度にもよりますが、基本的には、身体の軸をしっかり起こすための訓練を中心に、リハビリを進めていきます。
社会復帰前
自分で身体を起こせるようになってきたら、いよいよ歩くためのリハビリを行います。最初は補助を受け、人の手や、手すりにつかまりながら、徐々に一人でも左右違和感なく歩けるようになるための訓練を行います。
しかし、この時期は、くも膜下出血を発症する前の、スムーズに身体を動かせていた自分の動きと、リハビリ中のぎこちない動きを比べてしまい、精神的に一気にダメージを受ける場合も多々あるようです。
「一つでも、できることが増える」喜びを、本人や周りが忘れることなく、前向きに取り組む必要があります。歩けるようになると、日常生活でできることが格段に増えるのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。ある日突然発症するくも膜下出血。脳に影響を及ぼすので、大変危険な病気ではありますが、日頃から、その原因になりそうな生活習慣を改善するなどして、できるだけそういった病気になるのを防ぐ努力をすることはできます。
また、もしも、周囲にこのような病気になってしまった人がいたら、命を取り留めた喜びや、少しずつできることが増える喜びを一緒に感じ、精神面での支えになってあげられるよう、くも膜下出血などの、脳卒中に関する知識を、少しでも得ておくと良いかもしれません。
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